コハク酸二ナトリウム六水和物のラットを用いる
反復経口投与毒性・生殖発生毒性併合試験

Combined Repeat Dose and Reproductive/Developmental Toxicity Screening Test
of Disodium succinate hexahydrate by Oral Administration in Rats

要約

コハク酸二ナトリウム六水和物は,酸味料,調味料あるいはpH調整剤の用途で食品添加物として用いられている化合物である.今回,OECDによる既存化学物質の安全性点検に係わる毒性調査事業の一環として,コハク酸二ナトリウム六水和物の0(溶媒対照群),100,300および1000 mg/kgを雌雄ラットの交配前14日から交配期間の14日間を通じ,さらに雄では交配期間終了後24日間,雌では妊娠期間および哺育4日まで連続経口投与し,親動物の反復投与毒性および生殖能ならびに児動物の発生・発育に及ぼす影響について検討した.

1. 反復投与毒性

死亡例は,投与期間を通じ雌雄いずれの群にも認められなかった.一般状態の観察では,軟便が雄の1000 mg/kg群で認められた.体重,摂餌量,血液学検査および血液凝固能検査には被験物質投与の影響は認められなかった.血液生化学検査では,雌の1000 mg/kg群で尿素窒素が高値を示した.雄の尿検査では300および1000 mg/kg群で蛋白高値,潜血陽性動物が少数例ながら認められた.

器官重量には被験物質投与の影響は認められず,病理学検査では剖検所見および組織所見ともに被験物質投与の影響を示唆する病変は認められなかった.また,1000 mg/kg群の精子形成サイクルにも異常は観察されなかった.

2. 生殖発生毒性

平均性周期,交尾能および受胎能に被験物質投与の影響は認められなかった.分娩時観察では妊娠動物の全例が正常に分娩し,妊娠期間,妊娠黄体数,着床痕数,出産児数,出産生児数,性比,着床率,出産率,出生率および分娩率に被験物質投与の影響は認められなかった.

雌雄の新生児の生存性および哺育0および4日の体重推移,新生児の外表,死亡児および哺育4日の剖検にも被験物質投与による影響は認められなかった.

以上の結果から,本試験条件下ではコハク酸二ナトリウム六水和物の反復投与により投与後の一般状態の変化として雄の1000 mg/kg群で軟便が観察された.また,雌では尿素窒素が1000 mg/kg群で高値を示し,雄の尿検査で300および1000 mg/kg群において300 mg/dL以上の蛋白を示す動物が少数例ながら認められた.したがって,無影響量は雄で100 mg/kg/day,雌で300 mg/kg/dayと判断された.雌雄の生殖能および児動物の発生・発育に及ぼす影響はともに1000 mg/kg投与でも認められず,いずれも無影響量は1000 mg/kg/dayと判断された.

方法

1. 被験物質

コハク酸二ナトリウム六水和物(日本触媒製造(株)(大阪),純度99.9 %,Lot No. 9P01B)は白色結晶性の粉末であり,使用時まで室温の被験物質保管庫に密閉容器で保管した.本ロットは投与期間中安定であったことを確認した.

被験物質は注射用水(Lot No. A005CS,光製薬(株))に溶解し,20,60および200 mg/mLの濃度になるよう各群の投与液を調製した.投与液の調製は6日に1回以上行い,投与まで冷暗所に保存した.被験物質の注射用水中での安定性は,3および200 mg/mLの濃度について室温(約25 ℃)保存下24時間および冷蔵(約4 ℃)保存下7日間安定であることを確認した.

投与液の濃度確認のため,調製開始時に調製した全ての試験群の投与液から無作為にサンプルを抽出し投与液中の被験物質濃度の分析を実施した.その結果,投与液は表示濃度に対し91.9〜98.3 %の範囲で調整されており,ほぼ所定量のコハク酸二ナトリウム六水和物が含有されていることを確認した.

2. 使用動物および飼育条件

試験には,日本チャールス・リバー(株)から購入した生後8週齢のSprague-Dawley(CD(SD)IGS, SPF)系雌雄ラットを使用した.購入した動物は7日間検疫・馴化飼育した後,8日間の予備飼育をし,10週齢で群分けして試験に用いた.群分け終了時の体重は,雄で343〜408 g,雌で209〜247 gの範囲であった.

動物は,温度24 ± 3 ℃(実測値:21.1〜25.6 ℃),湿度55 ± 20 %(実測値:42〜74 %),換気回数15回/時間,照度150〜300 lux,照明時間12時間(午前7時点灯,午後7時消灯)に設定されたバリアシステムの飼育室でアルミ製前面・床ステンレス網目飼育ケージに1匹ずつ収容し飼育した.妊娠18日以降の母動物は哺育4日までアルミ製前面・床ステンレス網目飼育ケージに哺育トレーおよび巣作り材料(サンフレーク,日本チャールス・リバー(株)製造)を入れて飼育した.

飼料は,オリエンタル酵母工業(株)製造のNMF固型飼料(放射線滅菌飼料)を使用し,飼育期間中自由に摂取させた.飲水は,水道水を給水ノズルより自由に摂取させた.

3. 群分け

動物は投与開始日の体重をもとに層別化し,無作為抽出法により1群当たり雌雄各12匹を振り分けた.なお,雌は群分け前に8日間の性周期観察を行い,正常な性周期を有する動物を群分けに用いた.

4. 投与量,群構成,投与期間および投与方法

本被験物質のラットを用いた急性経口毒性試験では,LD50値は雌雄ともに2000 mg/kg以上と推定された.この試験結果を参考にして,0,30,100,300および1000 mg/kgの用量で予備試験「コハク酸二ナトリウム六水和物のラットを用いる反復経口投与毒性・生殖発生毒性併合試験−2週間投与予備試験」を実施した.その結果,最高用量の1000 mg/kg投与によっても死亡例は認められず,雌雄の一般状態,体重,摂餌量,血液学検査,血液凝固能検査および血液生化学検査にも被験物質投与の影響は認められなかった.また,剖検所見および器官重量にも被験物質投与に起因すると考えられる変化は認められなかった.

以上のことから,本試験の用量はOECDガイドライン422で上限用量として指定されている1000 mg/kgを高用量とし,以下公比約3で除し,300および100 mg/kgを設定した.

投与液量は,体重100 g当たり0.5 mLとし,交配前および交配期間中の雌雄では最新体重に基づき算出した.また,妊娠期間および哺育期間中の雌は,妊娠0,7,14,20日および哺育0日に測定した個体別体重に基づいて算出した.投与液は胃ゾンデを用いて毎日1回(7日/週)強制経口投与した.対照群には溶媒である注射用水のみを投与した.

雄の投与期間は,交配前14日間と交配期間14日間および交配期間終了後24日間の連続52日間とした.雌は交配前14日間と交配期間中(最長4日間)および交尾成立雌は妊娠期間を通じて分娩後の哺育4日まで(42〜46日間)とした.

5. 観察および検査

1) 一般状態

雌雄とも,全例について試験期間中毎日観察した.

2) 体重

雄では投与1(投与開始日),8,15,22,29,36,43,50および53日(剖検日)に測定し,投与1から50日までの体重増加量を算出した.

雌では投与1(投与開始日),8および15日に測定し,投与1から15日までの体重増加量を算出した.また,交尾成立後の雌は,妊娠0,7,14および20日に,分娩した雌は哺育0,4および5日(剖検日)に測定し,それぞれ妊娠0から20日および哺育0から4日までの体重増加量を算出した.

3) 摂餌量

雄では投与1(投与開始日),8,15,22,29,36,43,50および52日(剖検前日)に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの摂餌量を求め平均1日摂餌量を算出するとともに投与1から15日および投与22から52日までの累積摂餌量を算出した.

雌では投与1(投与開始日),8および15日に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの摂餌量を求め平均1日摂餌量を算出するとともに投与1から15日までの累積摂餌量を算出した.また,交尾が成立した雌は妊娠0,7,14および20日に,分娩した雌は哺育0および4日に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの摂餌量を求め平均1日摂餌量を算出するとともに妊娠0から20日までの累積摂餌量を算出した.なお,交配期間中の同居動物は摂餌量を測定しなかった.

4) 交配

交配前14日間の性周期観察を行った雌を同群内の雄のケージに入れ1対1で最長4日間毎晩同居させた.翌朝,腟栓または腟垢中の精子確認をもって交尾が成立したと判断し,その日を妊娠0日とした.性周期観察は交尾成立日まで行い,発情期から次の発情期までの間の日数を性周期日数として平均性周期を算出した.また,性周期観察期間中の異常性周期(4または5日以外の性周期)発現率[(異常性周期を示す雌動物数/観察雌動物数)× 100]を算出した.交配結果から各群について交尾率[(交尾動物数/同居動物数)× 100]を算出した.

5) 自然分娩時および新生児の観察

妊娠動物は全て自然分娩させた.自然分娩時に分娩状態の観察を行った.分娩の確認を妊娠20から25日の午前9〜10時の間に行い,この時間帯に分娩が完了していることを確認した動物および分娩を開始した動物は分娩完了まで待ち,その日を哺育0日とした.午前10時を過ぎて分娩を開始した場合は翌日を哺育0日とした.妊娠期間(哺育0日の年月日から妊娠0日の年月日を減じた日数),受胎率[(受胎動物数/交尾動物数)× 100],出産率[(生児出産雌数/妊娠雌数)× 100],着床率[(着床痕数/妊娠黄体数)× 100],分娩率[(総出産児数/着床痕数)× 100],出生率[(出産生児数/総出産児数)× 100]を算出した.哺育5日に母動物は病理解剖し,黄体数および着床痕数を調べ肉眼的に異常の有無を調べた.

出産後,出産児数(生存児+死亡児)を調べ,新生児の性別を判定し,性比(雄/雌)を算出した.また,外表異常の有無を調べた.新生児の体重は,哺育0および4日に雌雄個体別に測定し,1腹の雌雄別平均体重を算出した.

新生児は哺育4日に体重を測定後,全例をエーテル麻酔下で放血安楽死させ,器官・組織の肉眼的観察を行った.死産児および哺育期間中の死亡児はブアン氏液に固定し,器官・組織の肉眼的観察を実施した.また,新生児の4日の生存率[(哺育4日生児数/出産生児数)× 100]を算出した.

6) 臨床検査

血液学検査および血液生化学検査は雄および自然分娩した雌の剖検時(雄:投与53日,雌:哺育5日)に各群の全例について実施した.採血するに当たり,絶食のために前日の午後5時に餌箱を取り除いた.動物をエーテルで麻酔後開腹し,腹部大動脈から採血した.

a) 血液学検査

抗凝固剤(EDTA-2K)入り採血管インセパック-E(積水化学工業(株))に新鮮血を採取し,総合血液学検査装置ADVIA120(バイエル社)を用いて白血球数(WBC:フローサイトメトリー法),赤血球数(RBC:暗視野板法),ヘモグロビン量(HGB:シアンメトヘモグロビン法),ヘマトクリット値(HCT:RBC,MCVより算出),平均赤血球容積(MCV:暗視野板法),平均赤血球血色素量(MCH:HGB,RBCより算出),平均赤血球色素濃度(MCHC:HGB,HCTより算出),血小板数(PLT:暗視野板法),白血球百分率(フローサイトメトリー法)および網赤血球率(Reticulocyte:RNA染色法)を測定した.

白血球百分率は前述の機器で測定したが,別途血液塗抹標本を作製し,メイ・グリュンワルド・ギムザ染色して保管した.

b) 血液凝固能検査

抗凝固剤(3.13 w/v%クエン酸ナトリウム水溶液)入り採血管ベノジェクト(テルモ(株))に血液を採取した後,3000 r.p.m.で13分間遠心分離して得た血漿を検査に用いた.血液凝固測定装置KC-40(アメルング社)を用いてプロトロンビン時間(PT:Quick一段法)および活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT:クロット法)を測定した.

c) 血液生化学検査

インセパック-SQ(積水化学工業(株))に血液を採取した後,3000 r.p.m.で7分間遠心分離して得た血清を検査に用いた.多項目生化学自動分析装置日立7170((株)日立製作所)を用いて総蛋白(T. protein:Biuret法),アルブミン(Albumin:BCG法),A/G(計算値),血糖(Glucose:HK-G-6-PDH法),中性脂肪(Triglyceride:GK-GPO遊離グリセロール消去法),総コレステロール(T. cholesterol:コレステロールオキシダーゼ・HDAOS法),尿素窒素(BUN:ウレアーゼ・GLDH法),クレアチニン(Creatinine:酵素法),総ビリルビン(T. bilirubin:バナジン酸酸化法),アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST:酵素-UV法),アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT:酵素-UV法),アルカリホスファターゼ(ALP:P-ニトロフェニルリン酸基質法),カルシウム(Calcium:MXB法),無機リン(I. phosphorus:PNP-XDH法)および総胆汁酸(T. bile acid:酵素サイクリング法)を,電解質測定装置EA06R((株)エイ アンド ティー)を用いてナトリウム(Sodium:イオン選択電極法),カリウム(Potassium:イオン選択電極法)および塩素(Chloride:イオン選択電極法)を測定した.

d) 尿検査

投与期間終了週に,各群それぞれ5例の雄動物について検査を行った.給餌・給水の条件下で採尿ケージを用いて3時間尿(午前10時から午後1時まで)および24時間尿(午前10時から翌日午前10時まで)を採取した.

3時間尿を用いてpH,潜血,糖および蛋白を検査した.検査にはN-マルティスティックスSG(バイエル・三共(株))を用い,判定は尿分析装置CLINITEK500(バイエル社)で行った.24時間尿を用いて尿量(計量)および色調(目視)を検査した後,尿を室温,1500 r.p.m.で5分間遠心し,上清および残渣に分離した.上清を用いてAuto&stat OM-6030((株)アークレイファクトリー)で尿浸透圧(氷点降下法)を測定した.

7) 病理学検査

a) 剖検および器官重量

 雄動物

52日間投与後,午後5時から絶食させ,翌日エーテル麻酔下で採血安楽死させ,器官・組織の肉眼的観察を行った後,脳,胸腺,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,精巣および精巣上体重量を測定し器官重量・体重比を得られた体重および器官重量から算出した.また,全動物について皮膚,乳腺,リンパ節(腸間膜リンパ節,下顎リンパ節),胸骨,大腿骨,骨髄(胸骨,大腿骨),胸腺,気管,肺および気管支,心臓,甲状腺,上皮小体,舌,食道,胃および十二指腸,小腸(パイエル板を含む),大腸(パイエル板を含む),肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,精嚢,前立腺,眼球,ハーダー腺,脳(大脳,小脳,橋を含む),下垂体,脊髄(頸部,胸部,腰部),坐骨神経(筋肉近位端を含む)を10 vol%中性緩衝ホルマリン液に,精巣および精巣上体をブアン氏液で1日固定した後,10 vol%中性緩衝ホルマリン液に固定した.

 自然分娩した雌動物

哺育4日の投与後,午後5時から絶食させ,翌日エーテル麻酔下で採血安楽死させ,器官・組織の肉眼的観察を行った後,脳,胸腺,肝臓,腎臓,脾臓,副腎および卵巣重量を測定し器官重量・体重比を得られた体重および器官重量から算出した.また,全動物について皮膚,乳腺,リンパ節(腸間膜リンパ節,下顎リンパ節),胸骨,大腿骨,骨髄(胸骨,大腿骨),胸腺,気管,肺および気管支,心臓,甲状腺,上皮小体,舌,食道,胃および十二指腸,小腸(パイエル板を含む),大腸(パイエル板を含む),肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,卵巣,子宮,腟,眼球,ハーダー腺,脳(大脳,小脳,橋を含む),下垂体,脊髄(頸部,胸部,腰部),坐骨神経(筋肉近位端を含む)を10 vol%中性緩衝ホルマリン液に固定した.なお,剖検時に黄体数および着床痕数を調べた.

b) 病理組織学検査

 妊娠を成立させた雄

対照群と高用量群の各5例の全固定器官およびそれ以外の異常病変部組織(精巣上体).

 自然分娩した雌

対照群と高用量群の各5例の全固定器官およびそれ以外の異常病変部組織(脾臓,胃,下垂体).

なお,妊娠を成立させた雄の1000 mg/kg群で精細管の拡張が1例,精巣上体の精子肉芽腫が2例に観察されたこと,また,自然分娩をした1000 mg/kg群の雌で肝臓の巣状壊死が1例,胃の壊死が1例観察されたことから,精巣,精巣上体,肝臓,胃については他の投与群においても組織学検査を行った.また,精巣についてはPAS・ヘマトキシリン染色およびヘマトキシリン・エオジン染色した後,ヘマトキシリン・エオジン染色標本で一般的病変を検査し,PAS・ヘマトキシリン染色標本で高橋ら1)の鑑別法に従い精子形成サイクル(または)を検査した.

6. 統計解析

体重,体重増加量,摂餌量,累積摂餌量,平均性周期,黄体数,着床痕数,妊娠期間,出産児数,死産児数,性比,着床率,出生率,分娩率,外表異常発現率,新生児の4日の生存率,血液学検査値,血液生化学検査値,尿検査値(尿量および浸透圧),器官重量および器官重量・体重比については自動判別方式2)に従い,最初にBartlettの等分散検定を実施した.等分散の場合はDunnettの多重比較検定3)で対照群と各投与群間の有意差を検定した.Bartlettの等分散検定で不等分散の場合はSteelの検定4)で対照群と各投与群間の有意差を検定した.

出産率,交尾率および受胎率についてはχ2検定を用いた.異常性周期発現率,剖検所見および病理組織所見の発生率についてはFisherの直接確率検定法で検定した.

有意水準はBartlettの等分散検定については5 %,その他の検定は5 %および1 %の両側検定で実施した.なお,哺育期間中の出生児に関する成績は1母体当たりの平均を1標本として集計した.

結果

1. 反復投与毒性

1) 死亡および一般状態

投与期間を通じて雌雄いずれの群にも死亡例は認められなかった.

一般状態の変化として,軟便が雄では100および1000 mg/kg群でそれぞれ1および4例に,雌では1000 mg/kg群で1例に観察された.この所見は,いずれの群も被毛の汚れを伴わない軽度なものであり,雄の100 mg/kg群および雌の1000 mg/kg群の各1例では1日のみの発現であったが,雄の1000 mg/kg群では1例を除き3〜4日の発現であった.その他,雄では脱毛が300および1000 mg/kg群でそれぞれ2および3例,痂皮が300および1000 mg/kg群でそれぞれ1および2例,眼分泌物が300および1000 mg/kg群で各1例,鼻分泌物が300および1000 mg/kg群で各2例,流涎が1000 mg/kg群で1例に観察され,雌では脱毛が対照群,100,300および1000 mg/kg群でそれぞれ1,2,3および1例,痂皮が100および1000 mg/kg群で各1例,流涎が1000 mg/kg群で1例に観察された.

2) 体重(Fig. 1, 2)

雌雄ともに投与期間を通じて対照群と被験物質投与群との間に有意な差は認められなかった.

3) 摂餌量(Fig. 3, 4)

雌雄ともに投与期間を通じて対照群と被験物質投与群との間に有意な差は認められなかった.

4) 血液学検査(Table 1)

血液学検査および血液凝固能検査では,雌雄ともに全ての検査項目について対照群と被験物質投与群との間に有意な差は認められなかった.

5) 血液生化学検査(Table 2)

雄では,対照群に比べ300および1000 mg/kg群でナトリウムが高値を示した.その他,300 mg/kg群で塩素が高値を示したが軽微で意義のない変化であった.また,総胆汁酸が1000 mg/kg群で低値を示したが,対照群のバラツキが大きく,1000 mg/kg群のほとんどの動物の値が対照群のバラツキの範囲内にあった.

雌では,300 mg/kg群でクレアチニンが高値を示したが,用量には対応しない変化であった.1000 mg/kg群で尿素窒素が高値を示した.

6) 尿検査(Table 3)

潜血において300 mg/kg群で中等度が,1000 mg/kg群で重度がそれぞれ5例中1例に認められた.また,300 mg/dL以上の蛋白を示す動物が300 mg/kg群で5例中1例,1000 mg/kg群で5例中2例に認められた.その他,色調が黄褐色を示した動物が1000 mg/kg群で5例中2例に認められたが,変化としては正常の範囲内であった.また,24時間尿の尿量が異常高値を示す動物が100および300 mg/kg群で各1例に認められたが,これらの動物を除いた尿量および尿浸透圧の集計結果においても群間に差は認められなかった.

7) 器官重量(Table 4)

雄では対照群に比べ1000 mg/kg群で副腎の絶対重量が有意な高値を示した.

雌ではいずれの測定器官にも対照群と被験物質投与群との間に有意な差は認められなかった.

8) 剖検所見

雄では,肝臓の赤色斑点が300 mg/kg群で単発性に,肝臓の白色斑/区域,小腸の憩室,精巣の肥大が1000 mg/kg群で単発性に,精巣上体の結節が1000 mg/kg群で2例に観察された.

雌では,脾臓の癒着が対照群で単発性に,腺胃の黒色斑点が300および1000 mg/kg群でそれぞれ2および1例に,肝臓の白色斑点が300 mg/kg群で単発性に,肝臓の黄色斑点,下垂体の嚢胞および脱毛が1000 mg/kg群でそれぞれ単発性に観察された.

9) 病理組織学検査(Table 5)

雌雄ともに対照群と比較し,被験物質投与群で有意な発生数の増加を示す所見は観察されなかった.

雄では,精細管の萎縮が300 mg/kg群で1例,精細管の拡張は1000 mg/kg群で1例に認められた.精細管の拡張は片側性であり,精上皮を構成する細胞に異常は観察されなかった.精巣上体の精子肉芽腫は1000 mg/kg群で2例に観察されたが,他の投与群では観察されなかった.肝臓の壊死が100 mg/kg群で1例に観察された.胃の所見は対照群を含め観察されなかった.前立腺のリンパ球浸潤が対照群および1000 mg/kg群でそれぞれ4および1例に観察され,前立腺炎が1000 mg/kg群で1例に観察された.前立腺炎が観察された動物では,腎盂炎やそれに伴う移行上皮の増生などの所見,膀胱においてもリンパ球浸潤や移行上皮の増生の所見が観察された.その他の所見は対照群にも観察されたものか単発性の発生であった.

雌では,腺胃の粘膜壊死が300 mg/kg群で2例および1000 mg/kg群で1例に,肝臓の巣状壊死が1000 mg/kg群で1例,壊死が300 mg/kg群で1例に認められた.また,小腸のリンパ組織増生が対照群および1000 mg/kg群でそれぞれ1および4例に認められた.その他の所見は対照群を含めて観察されたものか少数例の発生であった.

対照群および1000 mg/kg群の精巣についてステージの精細管の精上皮細胞数を測定した.その結果,精祖細胞(type A),プレレプトテン期精母細胞,パキテン期精母細胞,円形精子細胞およびセルトリ細胞数は対照群と比較して差は認められなかった.

2. 生殖発生毒性

1) 交尾および受胎能(Table 6)

交尾および受胎は全て成立し,交尾率および受胎率はともに全ての群で100 %であった.

性周期観察では,平均性周期に群間差は認められなかった.異常性周期を示す動物が100および1000 mg/kg群で各1例に認められたが,異常性周期発現率に群間差は認められなかった.

2) 分娩および哺育(Table 7)

100および1000 mg/kg群で対照群に比べ妊娠期間が有意な短縮を示した.その他,分娩状態に異常は観察されず,各群の黄体数,着床痕数,出産児数および出産生児数はほぼ同様な値を示し,出産率,着床率,分娩率,出生率,性比および新生児の4日の生存率に群間差は認められなかった.

3) 新生児の形態,体重および剖検所見

新生児の外表検査では,300 mg/kg群で無眼球および多指が各1例に認められた.

哺育期間の体重では,対照群に比べ100 mg/kg群で雄の哺育0および4日,雌の哺育4日に,300 mg/kg群で雄の哺育4日にそれぞれ有意な低値を示したが,用量に関連しない変化であった.

哺育期間中の死亡児の剖検では,腎盂拡張が100 mg/kg群で1例に認められた.

哺育4日の剖検では,足底の赤色斑点が100 mg/kg群で雄の15例および雌の13例に観察され,雌雄ともに対照群に比べ発生数が有意な増加を示した.しかし,雌雄ともに2腹の同腹児における発生であった.また,尿管拡張が100,300および1000 mg/kg群で雄ではそれぞれ3,4および3例,雌ではそれぞれ5,1および2例に観察され,雌の100 mg/kg群で発生数が有意な増加を示した.しかし,雌の100 mg/kg群での尿管拡張は5例中4例が同腹児に認められたものであった.その他,胸腺頸部残留が雄では対照群,100,300および1000 mg/kg群でそれぞれ3,1,2および3例,雌では対照群,100および300 mg/kg群でそれぞれ1,2および2例,肝臓の結節が雌雄の1000 mg/kg群で各1例,肝臓の白色斑点が雄の100 mg/kg群で1例,腎臓の腎盂拡張が雄の100,300および1000 mg/kg群で各3例,雌の300および1000 mg/kg群でそれぞれ2および1例,無眼球が雌の300 mg/kg群で1例,後肢の嚢胞が雌の100 mg/kg群で1例,後肢の多指が雌の300 mg/kg群で1例に観察された.

考察

1. 反復投与毒性

死亡例は,投与期間を通じ雌雄いずれの群にも認められなかった.

一般状態の観察では,軟便が雄の1000 mg/kg群で12例中4例に認められた.被毛の汚れが伴わない軽度なものであったが,4例中3例が3〜4日の発現であり被験物質投与に関連した変化と考えられた.雄の100 mg/kg群および雌の1000 mg/kg群の各1例にもこの所見が認められたが,いずれも単発性の発現であり,毒性学的には意義のない変化と考えられた.その他,認められた所見はしばしば対照群でも認められるものであり,被験物質投与の影響とは考えなかった.

体重,摂餌量,血液学検査および血液凝固能検査には被験物質投与の影響は認められなかった.血液生化学検査では,ナトリウムが雄の300および1000 mg/kg群で高値を示したが,被験物質がナトリウムを含んでおり,容易にイオン化することから被験物質由来の可能性が示唆され,変化も軽微なことから影響とは考えられなかった.一方,雌の1000 mg/kg群では尿素窒素が高値を示した.尿検査では雄の300および1000 mg/kg群で300 mg/dL以上の蛋白を示す動物が少数例ながら認められ,被験物質投与による腎臓への影響が示唆された.しかし,雌雄の1000 mg/kg群において被験物質投与の影響を示唆する腎臓の組織学的変化は認められなかったことから毒性的意義は低いものと判断された.また,雄の尿検査において潜血を示す動物が300および1000 mg/kg群で認められたが,いずれも1例のみの変化であり,色調の変化や蛋白高値との関連も乏しく被験物質投与との関連は明らかではなかった.尿量が異常高値を示した動物が100および300 mg/kg群で各1例に認められたが,原因は不明であった.しかし,1000 mg/kg群では同様の動物が認められず,いずれも単発性の変化であることから,被験物質投与の影響との関連はないものと考えられた.

器官重量では副腎の絶対重量が雄の1000 mg/kg群で高値を示したが,相対重量には有意な変化はみられず,個体で特に高値を示した動物の副腎に組織学的変化が認められなかったことから被験物質投与の影響とは判断しなかった.

病理学検査の結果,肉眼所見では妊娠を成立させた雄および自然分娩した雌ともに,被験物質投与の影響と考えられる所見は観察されなかった.観察された所見はいずれも単発性または少数例に観察されたことから自然発生性の所見と考えられた.組織学検査では,妊娠を成立させた雄の1000 mg/kg群の1例で精細管の拡張が認められ,他の投与群を観察したところ,精細管の萎縮が300 mg/kg群で1例に観察された.精細管の拡張は,片側性であり,精上皮を構成する細胞にも,精子形成サイクルのカウントの結果からも,異常は観察されなかったことから自然発生性の病変と考えられた.同様に,300 mg/kg群で観察された精細管の萎縮は1000 mg/kg群では認められず,単発性の発生であることから自然発生性の病変と考えられた.自然分娩した雌で腺胃粘膜の壊死が被験物質投与群で観察されたが,雄では観察されていないこと,壊死周囲に細胞反応が認められないことから,妊娠・分娩による全身性の負荷が一要因として発生した自然発生性病変と考えられた.雌雄の被験物質投与群に観察された肝臓の壊死もしくは巣状壊死の所見は,自然発生的にも起こり得る所見であること,また用量に関連した発生数の増加は観察されなかったことから,被験物質投与の影響と断定するには至らなかった.雄の前立腺は,リンパ球浸潤など対照群でも炎症性病変が観察され易い器官であるため,1000 mg/kg群で観察された前立腺炎とそれに伴う腎臓および膀胱の所見は,単発性の発生でもあり,自然発生性の所見であると考えられた.

2. 生殖発生毒性

性周期,交尾能および受胎能に被験物質投与の影響は認められなかった.100および1000 mg/kg群で妊娠期間の短縮が認められたが,軽微な変化であり,いずれの群も個体別には22もしくは23日の正常な妊娠期間を示していることから,被験物質投与の影響とは判断しなかった.その他,妊娠黄体数,着床痕数,出産児数,出産生児数,性比,哺育4日生児数,出産率,着床率,分娩率,出生率および新生児の4日の生存率に被験物質投与の影響は認められなかった.

300 mg/kg群で認められた新生児の外表異常はいずれも1例ずつのみの発現であり,自然発生性の変化であると考えられた.

雌雄新生児の哺育0および4日の体重には被験物質投与に起因すると考えられる変化は認められなかった.

哺育期間中の死亡児の剖検では,被験物質投与によると考えられる異常所見は観察されなかった.哺育4日の剖検では,足底の赤色斑点が100 mg/kg群の雌雄で,尿管拡張が同群の雌でそれぞれ発生数の増加を示したが,腹に偏った発生であること,また,用量に応じた発生数の増加がみられないことから被験物質投与の影響とは考えなかった.その他,被験物質投与によると考えられる異常所見は観察されなかった.

以上のことから,コハク酸二ナトリウム六水和物の反復投与により投与後の一般状態の変化として,雄の1000 mg/kg群で軟便が観察された.また,雌では尿素窒素が1000 mg/kg群で高値を示し,雄の尿検査で300および1000 mg/kg群において300 mg/dL以上の蛋白を示す動物が少数例ながら認められ,被験物質投与による腎臓への影響が示唆された.したがって,親動物に対する無影響量は雄で100 mg/kg/day,雌で300 mg/kg/dayと判断された.

雌雄の生殖能および児動物の発生・発育に及ぼす影響はともに1000 mg/kg投与でも認められず,いずれも無影響量は 1000 mg/kg/dayと判断された.

文献

1)高橋道人編,"精巣毒性評価のための精細管アトラス,"ソフトサイエンス社,東京,1994, pp15-20.
2)K, Kobayashi, et al., 産業衛生学雑誌,42(4), 125(2000).
3)M, Yoshida, J. Japanese Soc. Comp. Statist., 1, 111(1988).
4)R. G. D. Steel, Biometrics, 15, 560(1959).

連絡先
試験責任者:田中亮太
試験担当者:森山知通,田代 淳,向井大輔,山川誠己,宮島留美子
(財)食品農医薬品安全性評価センター
〒437-1213 静岡県磐田郡福田町塩新田字荒浜582-2
Tel 0538-58-1266Fax 0538-58-1393

Correspondence
Authors:Ryota Tanaka(Study director)
Tomomichi Moriyama, Jun Tashiro, Daisuke Mukai, Seiki Yamakawa, Rumiko Miyajima
Biosafety Research Center, Foods, Drugs and Pesticides(An-pyo Center)
582-2 Shioshinden Arahama, Fukude-cho, Iwata-gun, Shizuoka, 437-1213, Japan
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