3-アミノフェノールのラットを用いる28日間反復経口投与毒性試験

Twenty-eight-day Repeat Dose Oral Toxicity Test of 3-Aminophenol in Rats

要約

3-アミノフェノールは染料あるいは医薬品PASの原料として使用されている.1 % CMC-Naに懸濁した3-アミノフェノールの0,80,240および720 mg/kgを,1群あたり雌雄各7あるいは14匹のCrj:CD(SD)IGS系ラットに28日間反復経口投与してその毒性と,また0および720 mg/kg投与終了後の14日間の回復性も併せて検討した.その結果,以下の成績を得た.

一般状態では,720 mg/kg群で投与期間中に雌雄とも振戦および流涎が認められ,投与2日に体重減少が認められた.投与期間中は雌雄とも低体重が継続したが,回復期間中は順調に体重が増加した.摂餌量では,240 mg/kg群の雄に投与2日のみに低値がみられ,720 mg/kg群の雌雄ともに投与期間中に低値が散見されたが,回復期間中は変化は認められなかった.尿検査では,雌雄ともに80 mg/kg以上の投与群に褐黒色尿が認められ,720 mg/kg群の雌雄に飲水量および尿量の高値,雌に尿比重の低下がみられたが,回復2週には変化は認められなかった.血液学検査では,720 mg/kg群の雌で投与期間終了時に,雄で回復期間終了時に貧血が認められた.血液生化学検査では,投与期間終了時に720 mg/kg群の雌雄ともにGPTおよび総ビリルビンの高値,雄に総コレステロールの高値およびトリグリセリドの低値が認められた.これらの変化は回復期間終了時には認められなかった.剖検では,720 mg/kg群の雌雄ともに肝臓の暗褐色化,脾臓の暗赤色化,雌に腎臓の暗褐色化が認められ,回復期間終了時にも雌雄の脾臓に暗赤色化が認められた.器官重量では,720 mg/kg群の雌雄の甲状腺および雌の脾臓で絶対重量および相対重量が高値,雌雄の肝臓および腎臓で相対重量が高値を示したが,回復期間終了時には雌雄の甲状腺で相対重量が高値を示した.病理組織学検査では,240 mg/kg群の雌および720 mg/kg群の雌雄で腎臓の近位尿細管上皮の褐色色素沈着および脾臓のヘモジデリン沈着が認められた.720 mg/kg群の雌雄に肝臓のクッパー細胞の褐色色素の沈着および甲状腺の濾胞細胞の肥大も認められたが,回復期間終了時にはこれら色素沈着の発現例数の減少あるいは程度の軽減がみられた.720 mg/kg群の雄に腎臓の近位尿細管上皮の硝子滴および肝細胞の単細胞壊死も認められたが,いずれも可逆性の変化であった.

以上のことから,本試験条件下における3-アミノフェノールの無影響量(NOEL)は雌雄とも80 mg/kg/day未満と考えられた.

方法

1. 被験物質および投与液の調製

3-アミノフェノール(純度:99.70 %,Lot No. 720208,三井化学(株),東京)は,淡灰色の結晶である.入手後の被験物質は遮光気密容器に入れ,4〜10 ℃の冷暗所で保存し,残余被験物質を製造業者が分析し,投与期間中の被験物質の安定性を確認した.媒体はカルメロースナトリウム(丸石製薬(株)を,日本薬局方精製水(ヤクハン製薬(株)に溶解して調製した1 %水溶液(1 % CMC-Na)を用い,これに被験物質を所定の濃度となるように懸濁させた.調製液は,遮光・冷蔵保存条件下で8日間均一かつ安定であることから,調製後速やかに遮光気密容器に入れ,使用時まで冷蔵保存し,室温に戻してから投与に使用した.また,これらの調製液について濃度を確認し,設定値の±5 %以内にあることを確認した.

2. 試験動物および飼育条件

日本チャールス・リバー(株)より受け入れた4週齢のSprague-Dawley系ラット(Crj:CD(SD)IGS)の雌雄を6または7日間の検疫・馴化を行った後,雌雄各42匹を選択して5週齢で試験に供した.投与開始日の体重は雄が146〜166 g,雌が126〜146 gであった.動物は,温度19〜24 ℃,湿度35〜63 %,換気回数10〜15回/時間および照明時間12時間(8時から20時まで点灯)に制御されたバリアシステムの飼育室で,ブラケット式金属製金網床ケージに群分け前は1ケージあたり2または5匹を収容し,群分け後は個別飼育した.飼料は,g線照射固型飼料(CRF-1,オリエンタル酵母工業(株)を金属製給餌器を用いて,飲料水は札幌市水道水を自動給水装置を用いてそれぞれ自由に摂取させた.

3. 投与量および投与方法

投与量設定試験では雌雄のラットに0(1 % CMC-Na),80,200および500 mg/kgの4用量を1群5匹に14日間反復投与した.500 mg/kg群で,投与開始日に雌で振戦および流涎がみられ,14日間投与後に雄で肝臓の相対重量の増加がみられた.その他の投与群には雌雄いずれも被験物質投与の影響は認められなかった.以上のことから雌雄のラットに明らかな毒性の発現が予測される投与量として500 mg/kgを超える投与量が必要と考えられた.そこで,投与期間の延長も考慮し,雌雄いずれも最低用量に80 mg/kgを設定し,公比3を乗じて240および720 mg/kgとし,これに1 % CMC-Naのみを投与する対照群を設けた.1群の動物数は雌雄とも7匹とし,対照群および720 mg/kg投与群には,14日間の回復群として2群を割り付け,投与前々日の体重に基づいて層化無作為抽出法により群分けを行った.

各個体の投与液量は投与日に最も近い測定日の体重に基づき,5 mL/kgの容量でラット用胃ゾンデを用いて強制的に胃内に投与した.

4. 検査項目

1) 一般状態観察

投与期間および回復期間中,全例について1日1回以上の頻度で観察した.

2) 体重および摂餌量測定

体重は全例について,投与1日(投与前),投与2,7,14,21および28日(投与終了日),回復1,7および14日ならびに剖検日に測定し,投与1日から28日,回復1日から14日の体重増加量および体重増加率を算出した.また,摂餌量は剖検日を除いて体重と同じ日に測定した.

3) 尿検査および飲水量測定

投与4週および回復2週に全例を代謝ケージに収容して非絶食下で採尿を行い,同時に採尿中の飲水量(重量)も測定した.約3時間の蓄尿についてpH,蛋白,糖,ケトン体,ウロビリノーゲン,ビリルビン,潜血反応(以上,マルティスティックス,バイエル・三共)および色調(肉眼観察)ならびに沈渣(鏡検)を検査し,21時間蓄尿について尿量(容量),比重(屈折計法,アタゴ)を測定した.

4) 血液学検査

全例について剖検時に16〜21時間絶食させた後,エーテル麻酔下で腹部大動脈より採血し,EDTA・2Kで処理した血液を用いて赤血球数,ヘマトクリット値,血小板数,白血球数(以上,電気抵抗法),ヘモグロビン量(シアンメトヘモグロビン法),平均赤血球容積(赤血球数,ヘマトクリット値より算出),平均赤血球ヘモグロビン量(赤血球数,ヘモグロビン量より算出),平均赤血球ヘモグロビン濃度(ヘマトクリット値,ヘモグロビン量より算出)(以上,自動血球計数装置F-820,シスメックス),網赤血球数(Brecher法)および白血球百分比(May-Grnwald-Giemsa染色)を測定した.また,3.8 %クエン酸ナトリウムで処理した後,3000回転/分で10分間遠心分離して得られた血漿を用いて,プロトロンビン時間(トロンボプラスチン法)および活性化部分トロンボプラスチン時間(エラジン酸法)(以上,血液凝固自動測定装置アメルングKC-10A,バクスター)を測定した.

5) 血液生化学検査

血液学検査と同時に,全例について腹部大動脈より採血し,ヘパリン処理した後,3000回転/分で10分間遠心分離して得られた血漿を用いてGOT(IFCC法),乳酸脱水素酵素(Wrblewski & La Due法)およびグルコース(ヘキソキナーゼ法)を測定し,無処理血液を3000回転/分で10分間遠心分離して得られた血清を用いてGPT(IFCC法),アルカリホスファターゼ(Bessey-Lowry法),γ-GTP(包接L-γ-グルタミル-ρ-ニトロアニリド基質法),総コレステロール(酵素法),トリグリセリド(遊離グリセロール消去法),総ビリルビン(アゾビリルビン法),尿素窒素(ウレアーゼ・インドフェノール法),クレアチニン(Jaff法),カルシウム(OCPC法),無機リン(Fiske-SubbaRow法),総蛋白(ビウレット法)(以上,自動分析装置7150形,日立製作所),ナトリウム,カリウム(以上,炎光光度法,自動炎光光度計480型,コーニング),クロール(電量滴定法,クロライドカウンターCL-6M,平沼産業),蛋白分画およびA/G比(以上,セルロースアセテート膜電気泳動法,全自動電気泳動装置CTE-150,常光)を測定した.

6) 剖検および器官重量測定

投与28日および回復14日の翌日に全例について,体外表を観察し,エーテル麻酔下で採血後放血致死させ剖検した.また,脳,肺,心臓,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,下垂体,胸腺,甲状腺(上皮小体含む),精巣,精巣上体および卵巣の重量を測定するとともに,絶対重量を剖検当日の体重で除し100を乗じて相対重量を算出した.

7) 病理組織学検査

全例について脳(大脳および小脳),下垂体,胸腺,甲状腺,上皮小体,副腎,脾臓,心臓,胸部大動脈,舌,食道,胃(前胃および腺胃),肝臓,膵臓,十二指腸,空腸,回腸(パイエル板含む),盲腸,結腸,直腸,喉頭,気管,肺(気管支含む),腎臓,膀胱,前立腺,精嚢(凝固腺含む),卵巣,子宮(角部および頸部),膣,乳腺(原則として右腹部,雌のみ),皮膚(腹部),胸骨(骨髄含む),大腿骨(骨髄含む),脊髄(頸部),骨格筋(大腿部),腸間膜リンパ節,下顎リンパ節,顎下腺,舌下腺,耳下腺,坐骨神経,眼球,ハーダー腺,精巣および精巣上体を常法に従ってパラフィン包埋後,薄切してヘマトキシリン・エオジン染色標本,肝臓,腎臓および脾臓のベルリン青染色標本,肝臓および腎臓のシュモール反応標本ならびに下垂体のPAS染色標本を作製して鏡検した.

5. 統計解析

体重,体重増加量および増加率,摂餌量,尿検査の定量的項目,血液学検査,血液生化学検査,器官の絶対重量および相対重量の成績について,Bartlettの検定法によって等分散性を解析し,等分散の場合は,一元配置分散分析法で解析し,有意差がみられた場合は,Dunnettの検定法により解析した.不等分散の場合は,Kruskal-Wallis法で解析し,有意差がみられた場合は,Mann-WhitneyのU-検定法を用いて解析した.

尿比重および尿検査の定性的項目の成績については,Kruskal-Wallisの検定法で解析し,有意差がみられた場合はMann-WhitneyのU-検定法を用いて解析した.

これら対照群と被験物質投与群との間の検定においては,いずれも有意水準を5 %とした.

結果

1. 一般状態

720 mg/kg群の雌雄ともに流涎,振戦が散見されたが,投与後の数時間継続後に回復した.他に,雌で外尿道口周囲の被毛の汚れが投与開始日に2例で認められた.これらの症状は回復期間中には認められなかった.

2. 体重(Fig. 1)

720 mg/kg群の雌雄ともに投与2日に体重減少が認められ,その後も増加抑制が継続して認められた.この低体重は回復期間中にもみられたが,回復傾向も認められた.

3. 摂餌量(Fig. 2)

240 mg/kg群の雄に投与2日に低値がみられ,720 mg/kg群の雌雄ともに投与期間中に低値が散見された.しかし,これらの低値は回復期間中には認められなかった.

4. 尿検査および飲水量

80 mg/kg以上の投与群の雌雄ともに褐黒色の尿がみられた.720 mg/kg群の雌雄に尿量および飲水量の高値または高値傾向が認められ,雌には尿比重の低下も認められた.しかし,これらの変化は回復2週の検査では認められなかった.

5. 血液学検査(Table 1, 2)

80および240 mg/kg群の雌にリンパ球の高値が認められ,240 mg/kg群の雌に平均赤血球容積の低値が認められた.しかし,これらの変化は投与量依存的なものではなかった.720 mg/kg群の雌に赤血球数およびヘモグロビン量の低値ならびに網赤血球数の高値が認められた.回復期間終了時にも720 mg/kg群の雌雄ともに平均赤血球容積の高値および平均赤血球ヘモグロビン濃度の低値,雄に赤血球数およびヘモグロビン量の低値ならびに網赤血球数の高値,雌にヘマトクリット値および平均赤血球ヘモグロビン量の高値が認められた.

6. 血液生化学検査(Table 3, 4)

240 mg/kg群の雄にグルコースの低値が認められたが,投与量依存的なものではなかった.720 mg/kg群の雌雄ともにGPTおよび総ビリルビンの高値,雄に総コレステロールの高値およびトリグリセリドの低値,雌にγ-GTP,尿素窒素およびナトリウムの高値が認められた.回復期間終了時にも720 mg/kg群の雌雄ともに総蛋白の低値,雄にA/G比および蛋白分画中でアルブミンの高値,雌にクロールの高値が認められた.

7. 剖検

720 mg/kg群の雌雄に肝臓の暗褐色化および脾臓の暗赤色化,雌に腎臓の暗褐色化が認められた.回復期間終了時にも,720 mg/kg群の雌雄ともに脾臓の暗赤色化が認められた.

8. 器官重量(Table 5, 6)

720 mg/kg群の雌雄は剖検当日の体重が低値または低値傾向であり,これに付随して雄で肺と副腎の絶対重量の低値,脳と精巣にも相対重量の高値が認められた.一方,雌雄の甲状腺および雌の脾臓の絶対重量は体重の低値にもかかわらず高値を示し,相対重量も高値を示した.雌雄の肝臓と腎臓の相対重量に高値がみられた.回復期間終了時にも720 mg/kg群の雌雄に甲状腺の相対重量に高値が認められた.雄に精巣の相対重量の高値がみられたが,偶発的な変化と考えられた.

9. 病理組織学検査(Table 7, 8)

240 mg/kg群の雌に腎臓の近位尿細管上皮の褐色色素沈着が認められ,シュモール反応陽性,ベルリン青染色陰性であった.脾臓にはヘモジデリン沈着が1例でみられ,ベルリン青染色陽性であった.

720 mg/kg群の雌雄に肝臓のクッパー細胞の褐色色素沈着がみられ,シュモール反応陽性で,ベルリン青染色にも陽性であった.腎臓は近位尿細管上皮の褐色色素沈着がみられ,シュモール反応陽性,ベルリン青染色陰性であった.脾臓はヘモジデリン沈着がみられ,ベルリン青染色陽性であった.甲状腺の濾胞細胞の肥大もみられた.雄に腎臓の近位尿細管上皮の硝子滴が,240 mg/kg以下の投与群よりも多数例に認められた.また雌雄とも各1例ではあるが,肝臓の肝細胞の単細胞壊死または限局性壊死が認められた.雄の2例に下垂体の好塩基性細胞の肥大が認められた.回復期間終了時にも,720 mg/kg群の雌雄に肝臓のクッパー細胞の褐色色素沈着,脾臓のヘモジデリン沈着がみられ,雌に腎臓の近位尿細管上皮の褐色色素沈着が認められた.

考察

一般状態では,720 mg/kg投与群の雌雄で投与期間中に流涎および振戦が散見されたが,回復期間中には認められなかった.この症状はLloydら1)および急性経口投与毒性試験2)でも観察されたことから,3-アミノフェノール投与により発現した急性症状と考えられた.

体重では,720 mg/kg投与群の雌雄で投与2日に体重減少が認められ,投与期間中は雌雄とも有意な低値が継続した.この有意差は回復期間中にも継続したが,体重増加量および体重増加率では対照群を上回り,回復14日には有意差がなかったことから,3-アミノフェノール投与による体重変化は可逆性の変化と考えられた.

摂餌量では,240 mg/kg投与群の雄で投与2日に低値が認められ,720 mg/kg投与群の雌雄でも投与期間中に低値が散見された.しかし回復期間中には変化が認められなかった.

尿検査では,80 mg/kg以上の投与群に雌雄とも褐黒色尿がみられた.褐黒色尿は尿色調の異常の一つで,その原因としてヘマチン,メトヘモグロビン,メラニン,アルカプトン,フェノール類の服用等があげられている3).またアミノフェノール類を大量に吸入するとメトヘモグロビン血症を生じることがあること4)から,この尿色の変化は3-アミノフェノール投与により生成したメトヘモグロビンが尿中に出現した可能性が考えられた.その他の変化として,720 mg/kg投与群では雌雄に飲水量および尿量の増加,雌に尿比重の有意な低下がみられた.飲水量および尿量の増加は,3-エチルフェノール,4-エチルフェノールあるいはm-クレゾールの28日間反復経口投与毒性試験の高用量群で認められていることから,フェノール類の共通の変化と考えられた.投与4週にみられたこれらの変化は回復2週には認められず,可逆性の変化と考えられた.

血液学検査では,投与期間終了時に720 mg/kg投与群の雌で赤血球数およびヘモグロビン量の低値ならびに網赤血球数の高値がみられた.この貧血は雌雄の720 mg/kg投与群で総ビリルビンの上昇が認められていることから溶血性貧血と考えられた.3-アミノフェノール等のアミノ基,水酸基を持つ芳香族化合物は溶血を起こすことが知られており5),類縁化合物である4-アミノフェノールにおいても溶血の可能性が示唆されている6).このことは雌雄の720 mg/kg投与群において赤血球由来と考えられる褐色色素あるいはヘモジデリンの肝臓,腎臓および脾臓への沈着が認められていることからも,3-アミノフェノール投与により雌雄ともに溶血が生じていると考えられた.雄では投与期間終了時に認められなかった貧血所見が回復期間終了時に出現していることから,雌と比較して貧血が遅れて出現した可能性が考えられた.一方,雌ではヘマトクリット値および平均赤血球ヘモグロビン量の増加も認められていることから,回復期間においてこの貧血は改善傾向にあると考えられた.病理組織学検査における褐色色素あるいはヘモジデリンの沈着については雌雄ともにその発現例数の減少あるいは程度が軽減していることから,溶血により生じた変化は可逆性の変化と考えられた.

血液生化学検査では,720 mg/kg投与群で雌雄ともGPTの高値が認められ,肝臓の相対重量の高値,ならびに病理組織学検査で雄1例に肝細胞の単細胞壊死が認められたことから,3-アミノフェノールの肝機能に及ぼす影響が示唆された.この変化は回復期間終了時には認められないことから,可逆性の変化と考えられた.また,この変化は720 mg/kg投与群の雄で総コレステロールの高値およびトリグリセリドの低値が認められたこと,甲状腺の絶対重量および相対重量が雌雄とも高値であることから,後述の甲状腺機能との関連が考えられた.720 mg/kg投与群の雌に認められた尿素窒素およびナトリウムの高値については,尿量の高値および尿比重の低下との関連が考えられ,腎臓に病理組織学的な変化は認められなかったが,被験物質投与の影響と考えられた.720 mg/kg投与群の雌でγ-GTPの高値が認められたが,アルカリホスファターゼに変化はみられないこと,また病理組織学検査においても胆道系に変化はないこと,さらに1例を除いて対照群の変動範囲内の数値であることから,毒性学的意義は少ないと考えられた.回復期間終了時の雌雄にみられた総蛋白の低値,雄にみられたA/G比およびアルブミンの高値,および雌のクロールの高値については,いずれも投与期間終了時にみられない変化であることときわめて軽度であることから毒性学的意義は少ないと考えられた.

剖検では,720 mg/kg投与群の雌雄で肝臓の暗褐色化および脾臓の暗赤色化が認められ,雌では腎臓の暗褐色化も認められた.これらの変化は急性経口投与後7日の剖検例にも認められ7),前述の褐色色素あるいはヘモジデリンの肝臓,腎臓および脾臓への沈着に起因した変化と考えられた.回復期間終了時には,雌雄とも脾臓の暗赤色化のみが認められ,褐色色素あるいはヘモジデリン沈着の軽減を反映したものと考えられた.

器官重量では,720 mg/kg投与群で雌雄とも甲状腺の絶対重量および相対重量に高値がみられ,病理組織学検査で甲状腺の濾胞細胞の肥大が認められた.Reら8)も甲状腺重量の変化と甲状腺の濾胞上皮の肥厚および濾胞の小型化を報告している.濾胞細胞の肥大と濾胞上皮の肥厚および濾胞の小型化は同質の変化と考えられ,甲状腺ホルモン合成抑制作用を有する化合物の投与で発現することが知られている.この変化は肝臓における酵素誘導に伴って発現する場合もあるとされている9)が,本試験では肝臓に酵素誘導を示唆する所見は認められていないことから,甲状腺の濾胞細胞の肥大は3-アミノフェノールの直接作用と考えられた.雄の2例の下垂体に好塩基性細胞の肥大がみられたことから,甲状腺刺激ホルモンの産生が示唆され,甲状腺の濾胞細胞の肥大との関連性が考えられた.甲状腺機能の変化に伴い変動するとされている9)総コレステロール,トリグリセリド等の高値あるいは低値が本試験においても認められていることから,甲状腺機能に対する影響も示唆された.同群の雌雄で腎臓の相対重量の高値が認められたが,これらの変化は病理組織学検査における褐色色素の腎臓への沈着に対応した変化と考えられた.この重量変化は回復期間終了時には軽減ないしは回復していることから可逆性の変化であると考えられた.

病理組織学検査では,前述の肝臓,腎臓および脾臓の色素沈着および甲状腺の濾胞細胞の肥大の他に,720 mg/kg投与群の雄で腎臓に近位尿細管上皮の硝子滴沈着が認められ,240 mg/kg以下の投与群では散見される程度であるのと比較して発現例数の増加が認められた.この変化は通常ラットの雄に特有の変化10)であるが,今回の発現状況が全例であることから3-アミノフェノール投与に関連した変化と考えられた.この変化も回復期間終了時には認められず可逆性の変化と考えられた.

以上のことから,本試験条件下における3-アミノフェノールの無影響量(NOEL)は雌雄とも80 mg/kg/day未満と考えられた.

文献

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10)J. R. Glaister, “Principles of Toxicological Pathology : 毒性病理学の基礎,”ソフトサイエンス社,東京,1992, pp. 160-161.

連絡先
試験責任者:須永昌男
試験担当者:堀川裕尚,咲間正志,山本美代子,平田真理子,古川正敏
(株)化合物安全性研究所
〒004-0839 札幌市清田区真栄363番24
Tel 011-885-5031Fax 011-885-5313

Correspondence
Authors:Masao Sunaga(Study director)
Hironao Horikawa, Masashi Sakuma, Miyoko Yamamoto, Mariko Hirata, Masatoshi Furukawa
Safety Research Institute for Chemical Compounds Co., Ltd.
363-24 Shin-ei, Kiyota-ku, Sapporo, Hokkaido, 004-0839, Japan
Tel +81-11-885-5031Fax +81-11-885-5313