ベンジルトリメチルアンモニウムクロリドのラットを用いる
28日間反復経口投与毒性試験

Twenty-eight-day Repeat Dose Oral Toxicity Test of
Benzyltrimethylanmonium chloride in Rats

要約

ベンジルトリメチルアンモニウムクロリドは,有機合成反応の触媒として使用されている化合物である.本化合物の毒性については,ほとんど報告がないため,今回,既存化学物質の安全点検に関わる毒性調査事業の一環として, SD系ラットを用いる強制経口投与による28日間反復投与毒性試験を実施した.

ラットは 1群雌雄各5匹で4試験群,対照群および高用量群には雌雄各5匹の回復群を設け,計60匹を使用した.

ベンジルトリメチルアンモニウムクロリドは,超純水に溶解し, 0,30,60および120 mg/kgを毎日1回,4週間連続経口投与し,一般状態の観察,体重測定,摂餌量測定,血液学検査,血液凝固能検査,血液生化学検査,尿検査,器官重量測定および病理学的検査を行った.なお,回復期間は2週間とし,投与終了時と同様な検査を実施した.

その結果は,次のとおりである.

雌の 120 mg/kg群で1例が投与4週に死亡した.病理学検査の結果には死因に結びつく変化は認められなかった.

一般状態の観察では,雄の 60 mg/kg群で流涎,雌雄の120 mg/kg群で流涎,流涙および被毛の汚れが,さらに雌の120 mg/kg群で立毛が認められた.雌雄の120 mg/kg群で観察された症状は回復試験では観察されず回復を示した.

体重は雄の 120 mg/kg群で増加が抑制され,投与3週以降有意であった.摂餌量は,雄の120 mg/kg群で投与期間を通して減少が認められた.飼料効率は雄の120 mg/kg群で投与4週のみ低値であった.回復期間中は,体重変化を除き回復が認められた.

血液学検査の結果,雄の 120 mg/kg群で,ヘモグロビン量,MCVおよびMCHの高値が認められた.回復期間終了時には,被験物質の投与と関連づけられる変化は認められなかった.

血液生化学検査の結果,雌雄とも被験物質投与と関連づけられる変化は認められなかった.

尿検査の結果,雌雄とも被験物質投与と関連づけられる変化は認められなかった.

器官重量測定の結果,雌雄とも被験物質投与と関連づけられる変化は認められなかった.

病理学的検査の結果,計画屠殺動物において剖検所見および組織所見では被験物質の影響が示唆される所見は認められなかった.投与期間中に, 120 mg/kg群の雌で1例死亡動物が観察され,組織学的検査の結果,肝細胞腫脹と好酸性小体の出現が認められた.

以上の結果,無影響量は雄で 30 mg/kg/day,雌で60 mg/kg/dayと判断された.

材料および方法

1. 被験物質

ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド (CAS No.56-93-9,和光純薬工業(株)提供)は白色の固体(常温)で,水溶性,分子式C10H16ClN,分子量185.70の化合物である.本試験に用いたロットRSL9083の純度は98%であった.

2. 供試動物

供試したラット[ Crj:CD(SD)系,SPF]は日本チャールス・リバー(株)(神奈川県)から4週齢で購入した.動物を検収後,試験環境に9日間馴化させた後,6週齢で投与を開始した.動物はあらかじめ体重によって層別化し,無作為抽出法により各試験群を構成するように群分けした.動物の識別は,個別飼育ケージに動物標識番号(Animal ID-No.)を付すことにより行った.投与開始時の体重は雄で137〜156 g,雌で117〜131 gであった.

3. 飼育条件

動物はバリアシステムの飼育室で飼育し,環境調節の目標値は温度 23±2℃,相対湿度55±10%,換気回数20回/時,照明150〜300 lux,12時間(午前7時点灯,午後7時消灯)とした.(株)東京技研サービスの水洗式飼育機を使用し,金属製前面・床網目飼育ケージに動物を1匹ずつ収容し,オリエンタル酵母工業(株)製造の放射線滅菌改良NIH公開ラット・マウス飼料および水道水を自由に摂取させた.飼育ケージは隔週1回,給餌器は週1回取り換えた.

なお,動物の馴化期間を含め,投与および回復期間中,データの信頼性に影響を及ぼしたと思われる環境要因の変化はなかった.

4. 試験群の構成

試験群は 0,30,60および120 mg/kgの4群とし,1群雌雄各5匹を用い,0および120 mg/kg群に雌雄各5匹の回復群を設け,計60匹を使用した.

〔用量設定理由〕

本試験に先立ち,投与量設定のための 2週間投与試験を0,10,30,90および180 mg/kgの5用量で実施した.その結果,雌雄とも180 mg/kg群で死亡が認められ,死亡率は雄で60%,雌で80%であった.90 mg/kg群では,雌雄とも器官重量に軽微な変化が認められたのみであった.従って,28日間反復投与毒性試験の最高用量は120 mg/kgとし,以下公比2で除した中用量を60 mg/kg,低用量を30 mg/kgに設定した.

5. 投与方法

被験物質の投与経路は経口とした.被験物質は超純水に溶解し,胃ゾンデを用いて経口投与した.投与容量は体重 100 g当り0.5 mlとした.対照群には溶媒のみ投与した.

6. 投与液の調製,分析

被験物質は,各用量 (30,60および120 mg/kg)ごとに所定量を精秤し,超純水(NANO pureシステム,米国SYBRON社)に溶解した.投与液は調製後,冷蔵庫保存で1週間安定であることが確認されているので,本試験においては毎週1回調製を行い,1日分毎に小分けをし使用時まで冷蔵庫に保管した.投与液の濃度分析をすべての群に関し投与1および4週の調製液について実施した結果,設定濃度の104〜107%の範囲であり,適切に調製されていた.

7. 投与期間

投与期間は 28日間とし,投与終了後0および120 mg/kg群について2週間の回復試験を実施した.

8. 観察,測定および検査

1) 一般状態の観察

全動物を毎日午前,午後の 2回観察し,中毒症状の有無,行動異常,死期の迫った動物および死亡動物の有無等を記録した.

2) 体  重

投与開始から回復試験終了時まで,毎週 1回測定した.

3) 摂 餌 量

毎週 1回給餌した残量を測定し,飼料摂取量(g/week)を算出した.

4) 臨床検査

投与終了時および回復期間終了時の計 2回実施した.

採血するに当り,動物は約 16時間絶食させた.動物をエーテルで麻酔後開腹し,腹部大動脈から採血した.

a. 血液学検査

EDTA-3Kを添加した初血を用い,白血球数(WBC:暗視野板法),赤血球数(RBC:暗視野板法),ヘモグロビン量(HGB:シアンメトヘモグロビン法),ヘマトクリット値(HCT:RBC,MCVより算出),平均赤血球容積(MCV:暗視野板法),平均赤血球血色素量(MCH:HGB, RBCより算出),平均赤血球血色素濃度(MCHC:HGB, HCTより算出),血小板数(PLT:暗視野板法)および白血球百分率(フローサイトケミストリー法)を血液自動分析装置THMS H・1E(米国マイルス社)を用いて測定した.

網赤血球 (RC)率算定用に,全血をキャピロット(テルモ株式会社)で染色後,血液塗抹標本を作製し鏡検した.

また,クエン酸ソーダ添加血液の血漿について,プロトロンビン時間 (Quick 1段法),活性化部分トロンボプラスチン時間(クロット法)およびフィブリノーゲン量(トロンビン時間法)を血液凝固自動測定装置KC-40(独国 Amelung社)を用いて測定した.

b. 血液生化学検査

血清を用いて,総蛋白 (ビューレット法),アルブミン(B.C.G.法),A/G比(計算値),血糖(グルコースオキシダーゼ法),中性脂肪(酵素法),総コレステロール(酵素法),尿素窒素(BUN:ウレアーゼ改良法),総ビリルビン(ジアゾ色素法),カルシウム(アルセナゾ型Я破),無機リン(モリブデン酸ブルー法),ナトリウム(電極法),カリウム(電極法)および塩素(電極法)をEKTACHEM 700N(米国コダック社)で,クレアチニン(アルカリ性ピクリン酸比色法),グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT:Karmen改良法),グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT:Karmen改良法),γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP:Szasz改法)およびアルカリホスファターゼ(ALP:Bessey-Lowry-Brock改良法)をCentrifiChem ENCORE(米国ベーカー社)で測定した.

c. 尿 検 査

血液学検査に先立ち,採尿器を用いて 24時間(午前10時から翌日午前10時まで)尿を採取し,尿量,色調および濁度を検査後,尿比重計UR-S((株)アタゴ)を用いて尿比重を測定した.また,尿を遠心分離後Sternheimer変法により沈渣を染色し,鏡検した.pH,潜血,ケトン体,糖,蛋白,ビリルビンおよびウロビリノーゲンについて,N-マルティスティックスSG試験紙(マイルス・三共(株))およびCLINITEK 200(米国マイルス社)を用いて測定した.

5) 病理学検査

病理解剖は投与終了時および回復期間終了時に動物をエーテル麻酔し,放血致死させ実施した.肉眼的異常を病理解剖所見記録シートに記録した.また,脳,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,胸腺,精巣および卵巣について重量を測定し,器官重量・体重比を算出した.上記重量測定器官と下垂体,眼球,唾液腺,甲状腺 (上皮小体を含む),心臓,肺,胃,膀胱,骨髄(大腿骨)および肉眼所見で変化が認められた器官・組織は10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.

病理組織学検査は固定した器官・組織のうち,対照群と高用量群の唾液腺,肝臓,心臓,脾臓,腎臓,副腎および骨髄 (大腿骨)について実施した.常法に従って薄切標本を作製し,ヘマトキシリン・エオジン染色し鏡検した.

6) データの記録および統計分析

各試験群の体重,摂餌量,血液学検査値,血液生化学検査値,尿検査値 (尿量および尿比重のみ),器官重量および器官重量・体重比は,下記に示した自動判別方式に従い,最初にBartlettの等分散検定を実施した.等分散の場合は一元配置の分散分析を行い,分散が有意で各群の標本数が同数の場合はDunnettの多重比較検定,各群の標本数が異なる場合はDuncanの多重範囲検定で対照群と各投薬群間の有意差を検定した.Bartlettの等分散検定で不等分散の場合はKruskal-Wallisの順位検定を実施し,有意の場合はノンパラメトリックのDunnettの多重比較検定で対照群と各投薬群間の有意差を検定した.また,病理学的検査結果については,Fisherの直接確率検定を実施した.

有意水準は 5および1%の片側検定で実施した.

試験結果

1. 死 亡 率

投与 4週に,雌の120 mg/kg群で1例(動物番号2309)が死亡した.これを除き投与期間中,雌雄とも死亡例は認められなかった.

回復期間中には,雌雄とも対照群および 120 mg/kg群で死亡例は認められなかった.

2. 一般状態の観察

雄では, 120 mg/kg群で投与2週から流涎が観察され始め,投与2週は6例に,投与3週以降は9例に観察された.流涎は投与後1時間から発現し,3時間程度継続した後消失する繰り返しであり,程度は下顎がかなり濡れる程度であった.また,流涎は60 mg/kg群でも投与4週の5〜7日に2例に発現したが,120 mg/kg群に比較し症状の程度は軽度で下顎が濡れる程度であった.その他の変化として,120 mg/kg群では,投与4週に5例に流涙が,また2例に被毛の汚れが認められた.これらはいずれも回復期間に入ると認められなかった.また,被毛の汚れについては,観察された2例がいずれも投与4週の計画屠殺動物であったため,回復性は明らかでなかった.

雌では, 120 mg/kg群で投与2週から流涎が全例に,また,流涙および被毛の汚れが8例に,立毛が3例に観察され,投与4週には流涙および被毛の汚れが10例に,立毛が4例に増加し,このうち1例が投与4週に死亡したが,死亡例では流涎,流涙および被毛の汚れが投与2週から観察された以外,特記すべき変化は認められなかった.いずれの症状も回復期間に入ると認められなかった.なお,流涎の程度や発現時間は雄とほぼ同じであった.流涙についても発現時間は流涎と同様であったが,程度は軽度で眼瞼が濡れる程度であった.

3. 体  重(Figure 1)

雄では, 120 mg/kg群で投与1週から増加抑制傾向が認められ,投与3および4週で対照群に比較して低値を示した.投与終了時の対照群と120 mg/kg群の体重差は,回復期間終了時でも大差がなかった.

雌では,投与期間中は 120 mg/kg群で僅かに体重増加抑制傾向にあったもののいずれの被験物質投与群も対照群と有意な差は認められなかった.回復1週では,対照群に比較して120 mg/kg群で僅かに低値であったが,2週には有意な差は認められなかった.

4. 摂 餌 量

雄では,対照群に比較して 120 mg/kg群で投与期間を通じて減少が認められた.回復期間に入ると対照群と120 mg/kg群で明確な差は認められなかった.

雌では,投与期間および回復期間を通じて,対照群と被験物質投与群とで差が認められなかった.

5. 血液学検査(Table 1)

〔投与終了時の検査結果〕

雄では,対照群に比較して 120 mg/kg群でヘモグロビン量,MCVおよびMCHの高値が認められた.また,MCVおよびMCHは,30および60 mg/kg群でも高値が認められたが,ヘマトクリット値,ヘモグロビン量および赤血球数は対照群と差がなく,意義のある変化ではなかった.

雌では,いずれの検査項目も対照群と被験物質投与群とで差が認められなかった.

〔回復期間終了時の検査結果〕

雄では,対照群に比較して 120 mg/kg群で赤血球数の低値,MCHの高値が認められた.

雌では,対照群に比較して 120 mg/kg群で血小板数が高値を示したが,背景値の範囲内の変化であった(背景値 1103±124×10^3/mm^3,n=50).

6. 血液凝固検査(Table 1)

投与終了時および回復試験終了時のいずれにおいても,雌雄ともに対照群と被験物質投与群とで検査を行った 3項目に差は認められなかった.

7. 血液生化学検査(Table 2)

〔投与終了時の検査結果〕

雄では,対照群に比較して 30および120 mg/kg群でGOTが高値を示したが,背景値の正常範囲内の値であった.

雌では,すべての検査項目について,対照群と被験物質投与群とで差が認められなかった.

〔回復期間終了時の検査結果〕

雄では,すべての検査項目について,対照群と 120 mg/kg群とで差が認められなかった.

 雌では,対照群に比較して 120 mg/kg群で総蛋白の低値が認められたが,対照群が僅かに高値傾向にあり,120 mg/kg群の値は正常範囲(背景値:5.66±0.20 g/dl, n=50)内の値であった.

8. 尿 検 査(Table 3)

投与終了時および回復試験終了時のいずれにおいても,雌雄ともに対照群と被験物質投与群とですべての検査項目について明らかな差は認められなかった.

9. 器官重量(Table 4)

〔投与終了時の結果〕

雄では,対照群に比較して 30および60 mg/kg群で脳,腎臓および脾臓重量が高値,さらに60 mg/kg群で胸腺重量が高値を示した.

雌では,重量測定を行ったすべての器官について,対照群と被験物質投与群とで差は認められなかった.

〔回復期間終了時の結果〕

雌雄とも重量測定を行ったすべての器官について,対照群と被験物質投与群とで差は認められなかった.

10. 器官重量・体重比(相対重量)(Table 4)

〔投与終了時の結果〕

雄では,対照群に比較して 60 mg/kg群で胸腺相対重量の高値が認められた.

雌では,重量測定を実施したすべての器官について,対照群と被験物質投与群とで差が認められなかった.

〔回復期間終了時の結果〕

雄では,対照群に比較して 120 mg/kg群で脳相対重量の高値が認められた.

雌では,重量測定を実施したすべての器官について,対照群と被験物質投与群とで差が認められなかった.

11. 病理学検査

a) 剖検所見(Table 5)

雌の 120 mg/kg群の死亡例については,肉眼的には特筆すべき所見は観察されなかった.

投与終了時の計画屠殺された動物の剖検所見で被験物質による影響と考えられる所見は雌雄いずれの投与群にも認められなかった.

対照群を含め観察された所見としては,肺の赤色斑/区域と有色斑/区域が,それぞれ雌雄で少数例,胸腺の赤色斑/区域は雌で少数例認められた.その他観察された所見はごく僅かか、単発性の発生に止まった.

回復期間終了時の所見は,いずれも単発性の発生に止まり,被験物質による影響と考えられる所見は認められなかった.

b) 組織所見(Table 6)

雌の 120 mg/kg群の死亡例については,肝臓において,好酸性小体の出現と肝細胞腫脹が認められ,また,副腎皮質の増生が認められた.その他,肝臓の肉芽巣,骨髄の血管拡張や自己融解が観察された.

投与終了時の組織学的検査の結果,被験物質による影響と考えられる所見は認められなかった.対照群を含め観察された所見として,肝臓の周辺性脂肪化あるいは脂肪化,肉芽巣,腎臓の尿細管の好塩基化,繊維化や管腔拡張などの変化が認められた.

考察および結論

雌の 120 mg/kg群で死亡が1例認められ,この動物では,同群の他の動物でも観察された流涎,流涙および被毛の汚れが死亡の3週間前から観察された.病理学的検査の結果,肝臓に肝細胞腫脹と好酸性小体の出現等が認められたが,死因に結びつけられる変化ではなかった.しかしながら,予備試験での死亡例の状況等から,被験物質投与により死亡したものと考えられた.

一般状態の観察では,雌雄の 120 mg/kg群で流涎,流涙および被毛の汚れが,さらに雌の120 mg/kg群で立毛が認められ,これらの症状のうち,流涎については雄の60 mg/kg群の1部の例でも観察された.投与中止により消失が認められいずれも被験物質投与による変化と考えられた.

体重,摂餌量および飼料効率は,雄の 120 mg/kg群のみ低値または減少が認められ,摂餌量および飼料効率は投与の中止により回復した.体重については投与終了時の差が縮まらず,回復は認められなかった.

血液学検査の結果,雄の 120 mg/kg群で認められたヘモグロビン量,MCVおよびMCHの高値のみが被験物質投与と関連づけられる変化であったが,変化の程度は僅かであり,被験物質の血液に対する影響は弱いものと考えられた.回復試験終了時に雌雄の120 mg/kg群で認められた変化も,軽微または投与終了時に認めれなかった変化であり,被験物質投与との関連は示唆されない.血液凝固能検査に関しては,雌雄とも変化が認められなかった.

血液生化学検査および尿検査の結果,被験物質投与によると考えられる変化は,雌雄いずれの群にも認められなかった.

器官重量測定の結果,明確に被験物質投与の影響を示唆する変化では認められなかった.雄の 30および60 mg/kg群で認められた脳,腎臓および脾臓の実重量の変化は,相対重量に有意な差が認められず,この両群の体重が高値傾向にあることから,体重による影響と考えられた.また,雄の60 mg/kg群で認められた胸腺の実重量および相対重量の高値についても,投与用量との関連性がなく,被験物質投与による変化とは考えられなかった.回復試験終了時に認められた雄の120 mg/kgの脳相対重量の高値も,この群の体重が低いことによるものと推察された.

病理学的検査の結果,剖検所見では計画屠殺動物,死亡動物ともに特筆すべき所見は観察されなかった.

組織所見では,計画屠殺動物においては,被験物質の影響を示唆する所見は観察されなかったが,死亡した1例の動物では肝細胞腫脹と好酸性小体の出現が観察された.しかし,いずれも軽度の変化であり,死に至らしめるほどの肝細胞腫脹,好酸性小体の出現とは考えがたく死因は不明であった.なお,予備試験において,計画屠殺動物の 180 mg/kg群では肝臓の肥大は観察されなかったが,投与期間中に死亡した180 mg/kg群の雌雄の大部分の例で肝臓の肥大が肉眼的に観察されている.本試験の死亡動物の肝臓では肥大が認められなかったが,組織学的に観察された肝細胞腫脹と好酸性小体の出現は被験物質投与による影響が考えられた.

以上のことから,本試験では雌雄で認められた一般状態の変化および雄の 120 mg/kg群で認められた血液学検査値の変化が被験物質投与と関連づけられるものであり,無影響量は一般状態に変化が認められなかった,雄で30 mg/kg/day,雌で60 mg/kg/dayと判断された.

連絡先
試験責任者:井上博之
試験担当者:各務 進,庄子明徳,渡 修明,小林和雄,高木留美子
(財)食品農医薬品安全性評価センター
〒437-12 静岡県磐田郡福田町塩新田字荒浜 582-2
Tel 0538-58-1266 Fax 0538-58-1393

Correspondence
Authors:Hiroyuki Inoue(Study director),
Susumu Kakamu,
Akinori Shoji,
Nobuaki Watari,
Kazuo Kobayashi,
Rumiko Takagi
Biosafety Research Center, Foods, Drugs and Pesticides(An-pyo Center)
582-2 Shioshinden Aza Arahama, Fukude-cho, Iwata-gun, Shizuoka, 437-12, Japan
Tel 81-538-58-1266Fax 81-538-58-1393