n−ヘキサデカンのラットにおける
単回経口投与毒性試験

Single Dose Toxicity Study of n-Hexadecane by Oral Administration to Rats

要約

n−ヘキサデカンを雌雄ラットに1回経口投与し、その毒性について検討した。投与量は、OECD化学品テストガイドラインにより限界用量とされている2000 mg/kgを高用量とし、以下1000および500 mg/kgとした。対照として、媒体のコーンオイル投与群を設けた。

1. 一般状態および死亡状況:死亡例はなく、異常症状は観察されなかった。

2. 体重推移:各投与群とも対照群とほぼ同様の推移を示した。

3. 剖検所見:いずれの例とも著変はみられなかった。

以上により、n−ヘキサデカンのLD50値は2000 mg/kg以上と考えられた。

緒言

既存化学物質の毒性学的性質を評価するために、OECD化学品テストガイドラインに従ってn−ヘキサデカン(CAS No.544763)を雌雄ラットに1回経口投与し、その毒性について検討した。

方法

1. 被験物質および媒体

被験物質のn−ヘキサデカン(CAS No. 544-76-3)は、凝固点18.3℃、沸点287℃、比重0.7750の無色透明な液体である(Lot No.FAZ02、東京化成工業株式会社、純度99.8%)。なお、投与終了後に残余被験物質の一部を販売元に送付して分析した結果、純度は規格値に適合しており、保管期間中の安定性が確認された。

媒体として、コーンオイルを用いた。

2. 投与検体および濃度確認

被験物質を秤取し、コーンオイルに溶解して必要濃度の投与検体液を用時調製した。なお、被験物質は純度換算しないで、投与量は原体重量で表示した。

投与日に、調製した各投与検体液の一部を財団法人日本食品分析センター名古屋支所に送付し、ガスクロマトグラフィーにより被験物質濃度を測定した。その結果、被験物質濃度は適正範囲内の値を示した。

3. 使用動物および飼育条件

(1) 動物種、系統

試験には、毒性試験に一般的に用いられている動物種で、その系統維持が明らかであり、集積データも揃っているSprague-Dawley系雌雄ラット[Crj:CD (SD)]を用いた。動物は、日本チャールス・リバー株式会社から4週齢で雌雄各42匹ずつを購入した。入手後2日の体重範囲は、雄が90〜101 g、雌が85〜98 gであった。

(2) 検疫および馴化ならびに群分け法

入手した動物は、5日間の検疫期間およびその後3日間の馴化期間を設け、一般状態および体重推移に異常の認められない動物を群分けして試験に用いた。

群分けは、コンピュータを用いて体重を層別に分けた後に、無作為抽出法により各群の平均体重および分散がほぼ等しくなるように投与日に行った。なお、動物の体重の変動幅は平均体重から±20%を越えないことを確認した。

(3) 環境条件および飼育管理

動物は、室温20〜24℃、湿度40〜70%、明暗各12時間、換気回数12回/時に設定した飼育室で飼育した。

検疫・馴化期間中および絶食期間中はステンレス製懸垂式ケージ(W:240×D:380×H:200 mm)を用いて1ケージあたり5匹までの群飼育とし、群分け後はステンレス製五連ケージ(W:755×D:210×H:170 mm)を用いて個別飼育した。ケージの受け皿および給水瓶の交換は1週間に2回以上、ケージおよび給餌器の交換は2週間に1回以上行った。

(4) 飼料および飲料水

飼料は固型飼料(CRF-1、オリエンタル酵母工業株式会社)を給餌器に入れ、自由に摂取させた。ただし、投与前日の夕刻から投与までの約18時間と、投与後約6時間まで絶食させ、その後に飼料を与えた。

飲料水は、水道水を給水瓶を用いて自由に摂取させた。ただし、群分け時から投与後約6時間までは絶水させ、その後に飲料水を与えた。

飼料中の微量金属および汚染物質の分析ならびに飲料水の水質検査の結果、いずれも検査結果は試験施設で定めた基準値の範囲内であった。

4. 投与経路、投与方法、群構成および投与量

(1) 投与経路および投与方法

n−ヘキサデカンは、経口的に人に摂取される可能性が考えられるため、投与経路として経口投与を選択した。

投与に際しては、金属製経口胃ゾンデを取り付けたプラスチック製ディスポーザブル注射筒を用いて、強制経口投与した。投与液量は、投与直前に測定した体重を基準として10 ml/kg体重で算出した。投与回数は1回とした。

投与時の体重範囲は、雄が128〜132 g、雌が112〜118 gであった。

(2) 群構成および投与量

群構成は、以下の如くとした。一群の動物数は、雌雄各5匹とした。

投与量設定の理由:雄ラットを用いた予備試験の結果、OECD化学品テストガイドラインで限界用量とされている2000 mg/kgでも死亡例はみられなかった。したがって、当試験では2000 mg/kgを最高用量とし、以下公比2により1000および500 mg/kg群を設定した。なお、対照として被験物質と同一液量の媒体(コーンオイル)を投与する群を設けた。

5. 観察および検査項目

(1) 観察期間

観察期間は、投与後14日間とした。

(2) 一般状態

投与日は投与前および投与後6時間(投与後30分まで、投与後2、4および6時間)まで、投与翌日からの観察期間中は1日1回、一般状態および死亡の有無を観察した。

(3) 体重測定

投与日(投与直前)および投与後1、3、7、10および14日の午前中に測定した。

(4) 剖検

動物は観察期間終了時にエーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後に剖検し、所見を記録した。

6. 統計学的方法

(1) LD50値は、概略の範囲を推定した。

(2) 体重は、各群で平均値および標準偏差を算出した。
有意差検定は対照群と被験物質投与各群の間で多重比較検定を用いて行い、危険率5%未満を有意とし、5%未満(p<0.05)と1%未満(p<0.01)とに分けて表示した。

すなわち、Bartlett法による等分散性の検定を行い、等分散の場合には一元配置法による分散分析を行い、有意ならば対照群との群間比較をDunnett法により行った。一方、等分散と認められなかった場合は順位を利用した一元配置法による分析(Kruskal-Wallisの検定)を行い、有意ならば対照群との群間比較は順位を利用したDunnett法を用いて行った。

結果および考察

1. 一般状態および死亡状況

観察期間を通じて、いずれの例とも異常症状はみられなかった。雌雄とも、高用量の2000 mg/kg群でも死亡発現はなかった。

2. 体重推移

雌雄の各投与群とも対照群とほぼ同様の推移を示し、有意差は認められなかった。

3. 剖検所見

雌雄各群とも、剖検で著変はみられなかった。

以上の如く、n−ヘキサデカンはOECD化学品テストガイドラインで限界用量とされている2000 mg/kgの投与によっても死亡発現はなく、一般状態の観察でも異常症状はみられなかった。また、体重推移に異常はなく、剖検でも著変はみられなかった。

したがって、n−ヘキサデカンのLD50値は2000 mg/kg以上と考えられた。

連絡先:
試験責任者和田浩
(株)日本バイオリサーチセンター羽島研究所
〒501-64 岐阜県羽島市福寿町間島 6-104
Tel 0583-92-6222Fax 0583-92-1284

Correspondence:
Wada, Hiroshi
Nihon Bioresearch Inc., Hashima Laboratory, Japan
6-104 Majima, Fukuju-cho, Hashima, Gifu, 501-62,
Japan
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