シトラールのラットを用いる経口投与簡易生殖毒性試験

Preliminary Reproduction Toxicity Screening Test of Citral
by Oral Administration in Rats

要約

シトラールはレモングラス油,バックホウシア油など多種類の精油中に存在し,精油から単離あるいは化学合成によって得られ,1900年代以降,石鹸・洗剤・化粧品などの香料として,1960年代には食品添加物としても一般に使用されている物質である1, 2).トウモロコシ油に溶解したシトラールの0,40,200および1000 mg/kgを,1群あたり雌雄各12匹のCrj:CD(SD)系ラットに雄は交配前および交配期間を含む46日間,雌は交配前,交配および妊娠期間,哺育3日までの期間に経口反復投与し,雌雄動物への反復投与による影響,雌雄動物の生殖および次世代の発生に及ぼす影響についてスクリーニング試験を行った.その結果,以下の成績を得た.

1. 雌雄動物の反復投与毒性

一般状態では,被験物質投与による影響は認められなかったが,体重および摂餌量の低値が1000 mg/kg投与群の雌雄で認められた.剖検では前胃粘膜の一部肥厚が1000 mg/kg投与群の雌で認められ,病理組織学検査では前胃に扁平上皮過形成,潰瘍および粘膜固有層の肉芽形成が1000 mg/kg投与群の雌雄または雌で認められた.以上より,シトラールの反復投与により,1000 mg/kg投与群で雌雄の体重,摂餌量および剖検あるいは病理組織学検査に影響が認められたことから,本スクリーニング試験におけるシトラールの反復投与による無影響量(NOEL)は雌雄共に200 mg/kg/dayであることが示唆された.

2. 雌雄動物の生殖毒性および次世代の発生毒性

生殖能検査,親動物の生殖器の重量および病理組織学検査,分娩観察および母性行動観察に,シトラール投与による影響は認められなかった.新生児の体重推移では,1000 mg/kg投与群の雌雄の体重の低値が認められた.新生児の生存性,一般状態および剖検では,シトラール投与による影響は認められなかった.以上より,1000 mg/kg投与群で新生児の体重の低値が認められたことから,本スクリーニング試験におけるシトラールの親世代の生殖に対する無影響量(NOEL)は1000 mg/kg/day,次世代の発生に対する無影響量(NOEL)は200 mg/kg/dayであることが示唆された.

方法

1. 被験物質および投与液の調製

シトラール(純度:98.20 %,Lot No. 62938,(株)クラレ,東京)は,レモンの香りを有する水に不溶な淡黄色透明の液体(比重0.889)で,アルデヒドであり,酸化されやすいなど反応性に富む.被験物質は常温で直射日光を遮断し,密閉して保管し,投与終了後の被験物質の純度を製造業者が分析し,安定性を確認した.被験物質の媒体はトウモロコシ油(片山化学工業(株))を用い,これに被験物質を所定の濃度となるように溶解させた.この調製方法による調製液は規定の濃度であり,調製後5時間安定であることから,調製は用時に毎日行った.

2. 試験動物および飼育条件

日本チャールス・リバー(株)より受け入れた8週齢のSprague-Dawley系ラット(Crj:CD(SD))の雌雄を14日間の検疫・馴化を行った後,雌雄各48匹を選択して10週齢で試験に供した.動物は,温度23±3 ℃,湿度55±10 %,換気回数10〜15回/時間および照明時間12時間(8時から20時まで点灯)に制御されたバリアシステムの飼育室で,ブラケット式金属製金網床ケージに群分け前は1ケージあたり2匹を収容し,群分け後は1匹,交配中は雌雄各1匹,妊娠期間中は1母動物,哺育期間中は1腹で飼育した.雌では妊娠17日から金属網床のかわりに実験動物用床敷(ホワイトフレーク,日本チャールス・リバー(株))を敷いたステンレス製受皿を使用した.飼料は,固型飼料(CRF-1,オリエンタル酵母工業(株))を金属製給餌器を用いて,飲料水は札幌市水道水を自動給水装置を用いてそれぞれ自由に摂取させた.

3. 投与量および投与方法

投与量設定試験では雌雄のラットにトウモロコシ油を溶媒として10,30,100,300および1000 mg/kgの5用量を1群3匹に14日間投与した.1000 mg/kg投与群では,雄2例,雌3例で前胃粘膜の一部肥厚が認められた.雌ラットに交配前2週間から哺育21日まで50, 160, 500 mg/kgを投与した試験3)では,160および500 mg/kg投与群で母動物の体重増加量および摂餌量の減少が認められ,500 mg/kg投与群で出生児および胎児の体重の低値あるいは低値傾向が認められている.50 mg/kg投与群では母動物ならびに出生児および胎児に影響は認められていない.また,ラットの胎児の器官形成期に60, 125, 250, 500, 1000 mg/kgを投与した試験4)では,60および 125 mg/kg投与群で吸収胚率の増加,250 mg/kg以上の投与群で受胎率の減少,125, 250および1000 mg/kg投与群で生存胎児数の減少,125 mg/kg以上の投与群で胎児体重の低値が認められた.これらのことから,最高用量は親動物に対して毒性を与えるが死亡させない量として 1000 mg/kgとし,上記の文献から次世代への無影響量を考慮し,公比5で,200および40 mg/kgを設定した.さらに媒体であるトウモロコシ油を投与する対照群を設け,計4群とし,動物数は1群当たり雌雄各12匹とした.群分けは馴化14日の体重に基づいて層化無作為抽出法により行った.各個体の投与液量は投与日に最も近い測定日の体重に基づき,5 mL/kgの容量でラット用胃ゾンデを用いて強制的に胃内に投与した.投与期間は,雄については交配前14日間および交尾成立までの交配期間,さらに交尾成立例については投与46日まで,雌については交配前14日間および交尾成立までの交配期間,さらに交尾成立例は妊娠期間および哺育3日までの期間とした.なお,交尾不成立例については雌雄共に交配期間終了までとした.

4. 検査項目

1) 一般状態観察

投与期間中,雌雄とも全例について1日1回以上の頻度で観察した.

2) 体重および摂餌量測定

体重は全例について,投与開始日の投与前,投与2,5,7,10,14日,雄ではこれ以降7日毎に,雌では妊娠0,1,3,5,7,10,14,17,20日,哺育0,1および4日に,また交配期間中は相手雄と同日に測定した.雄については投与1から46日,雌については投与1から14日,妊娠0から20日,哺育0から4日の体重増加量および体重増加率を算出した.また,摂餌量は妊娠0日および哺育0日を除いて体重と同じ日に測定した.

3) 剖検および器官重量測定

交尾成立例は雄を投与46日の翌日に,雌を哺育4日,または妊娠25日まで分娩の認められない例を妊娠26日に,全哺育児死亡例を発見後速やかに,交尾不成立例は雌雄とも交配期間終了の翌日に,エーテル麻酔下で放血により安楽死させ剖検した.また,精巣,精巣上体および卵巣の重量を測定するとともに,絶対重量を剖検当日の体重で除し100を乗じて相対重量を算出した.また,妊娠雌動物については子宮の着床痕および妊娠黄体を計数した.

4) 病理組織学検査

全例について主要器官・組織を摘出後,胃(腺胃・前胃・境界縁),精巣,精巣上体および卵巣を常法に従ってパラフィン包埋後,薄切してヘマトキシリン・エオジン染色標本を作製して鏡検した.

5) 性周期検査

雌全例について,投与前10日から交尾成立までの連日,ギムザ染色による腟垢塗抹標本を作製し,光学顕微鏡下で性周期段階(発情前期,発情期前期,発情期後期,発情後期および発情休止期)の判定を行い,性周期の異常の有無(正常または発情休止期継続,不規則発情)を検索した.

6) 生殖能検査

投与14日に同試験群内の雌雄を夕方から1対1(無作為組み合わせ)で最長14日間同居させた.雌の腟垢中に精子が確認された場合を交尾とし,交尾日を妊娠0日とした.雌の子宮に着床痕が確認された場合を妊娠とした.交尾率[(交尾した雌ラット数/同居ラット数)×100]および受胎率[(受胎した雌ラット数/交尾した雌ラット数)×100]を算出した.

7) 分娩および母性行動観察

交尾した雌全例について,妊娠21日から分娩終了日まで毎朝9時に分娩状態,母性行動,総出産児数,生存児数および死亡児数,出産児の性別および外表を観察した.また,着床率[(着床痕数/妊娠黄体数)×100],出産率[(生児を出産した雌ラット数/妊娠雌ラット数)×100],分娩率[(総出産児数/着床痕数)×100],出生率[(出産確認時生存児数/総出産児数)×100],哺育4日時哺育率[(哺育児の認められる雌ラット数/正常に分娩した雌ラット数)×100],性比[雄生存児数/雌生存児数]および妊娠期間[妊娠0日から哺育0日(分娩終了日)までの日数]を算出した.

8) 新生児の一般状態観察,生存性,体重測定および剖検

全例について,分娩終了日から剖検日(哺育4日)まで1日1回,生存および死亡を確認し,一般状態および外表について観察した.なお,哺育日数は分娩終了日を哺育0日として起算した.また,新生児の4日の生存率[(哺育4日生存児数/出産確認時生存児数)×100]を1腹を単位として算出した.ただし,喰殺を受け死亡あるいは不明例となった新生児は死亡例として扱った.体重は哺育0,1および4日に測定し,雌雄別に1腹を単位として平均値を算出した.死亡例は,直ちに剖検した.その他の例については,哺育4日に体外表(口腔内を含む)を観察し,二酸化炭素吸入法を用いて安楽致死させ,全身の器官・組織を肉眼的に観察した.

5. 統計解析

体重,体重増加量および体重増加率,摂餌量,器官の絶対重量および相対重量,妊娠黄体数,着床痕数,着床率,総出産児数,出産確認時生存児数,分娩率,出生率,出生児の性比,出産確認時死亡児数,妊娠期間,哺育4日の生存児数および新生児の4日の生存率の成績について,Bartlettの検定法によって等分散性を解析し,等分散の場合は,一元配置分散分析法で解析し,有意差がみられた場合は,Dunnettの検定法により解析した.不等分散の場合は,Kruskal-Wallis法で解析し,有意差がみられた場合は,Mann-WhitneyのU-検定法を用いて解析した.

病理組織学検査の成績については,Kruskal-Wallisの検定法で解析し,有意差がみられた場合はMann-WhitneyのU-検定法を用いて解析した.

性周期,交尾率,受胎率,出産率および哺育率については,多試料χ2-検定を行い,有意な場合は2試料χ2-検定を行った.ただし,2試料χ2-検定あるいは多試料c2-検定に不適合の場合はFisherの直接確率検定法を用いた.

これら対照群と被験物質投与群との間の検定においては,いずれも有意水準を5 %とした.

結果

1. 反復投与毒性

1) 一般状態

雄では,いずれの投与群にも異常は認められなかった.

雌では,1000 mg/kg投与群の1例で投与7日に一過性の自発運動の減少,別の1例で妊娠9および10日に一過性の流涎が認められた.

2) 体重(Fig. 1,2)

雄では,各投与群とも有意差は認められず,体重推移に異常は認められなかったが,1000 mg/kg投与群の体重増加量および体重増加率に有意な低値が認められた.

雌でも,各投与群とも体重推移に有意差は認められなかったが,1000 mg/kg投与群の妊娠期間の体重が対照群と比較して低値で推移した.

3) 摂餌量(Fig. 3,4)

雄では,1000 mg/kg投与群で投与5日に有意な低値が認められた.

雌では,1000 mg/kg投与群で投与5日および哺育4日に有意な低値が認められた.

4) 剖検所見

雄では,1000 mg/kg投与群の2例に腎盂の拡張,1例に精巣および精巣上体の萎縮,不妊の1例の精巣上体に黄白色腫瘤がいずれも片側性に認められた.

雌では,1000 mg/kg投与群の10例に胃の前胃粘膜の一部に肥厚が認められ,1例の肝臓に尾状葉乳頭突起の暗赤色化が認められた.

5) 器官重量(Table 1)

雌雄とも,生殖器官の重量に有意差は認められなかった.

6) 病理組織学検査(Table 2)

雄では,1000 mg/kg投与群の2例で前胃に軽度な扁平上皮過形成が認められた.また,1例で精巣に精細管の軽度の萎縮,精巣上体に軽度の管内精子減少が両側性または片側性に認められ,剖検時に精巣および精巣上体に萎縮のみられた他の1例では,同変化がいずれも重度な変化として片側性に認められた.不妊の1例では,精巣上体に精子肉芽腫が片側性に認められた.なお,対照群の1例でも精巣で精細管の軽度の萎縮が片側性に認められた.

雌では,1000 mg/kg投与群で前胃の扁平上皮過形成が4例で軽度に,6例で中等度に認められた.全哺育児が死亡した対照群の1例でも軽度の扁平上皮過形成が認められたが,この扁平上皮過形成は対照群と比較して1000 mg/kg投与群に有意な発現率の増加が認められた.他に1000 mg/kg投与群で前胃の粘膜筋板までの炎症を伴う軽度の潰瘍が2例,粘膜固有層の軽度の好中球浸潤が2例,粘膜固有層の軽度の肉芽形成が6例に認められ,また剖検時に肝臓の尾状葉乳頭突起に暗赤色化がみられた1例で小葉中心性の中等度の壊死が認められた.

2. 生殖発生毒性

1) 生殖能検査(Table 3)

各投与群とも交尾成立までの日数,交尾率および受胎率に有意差は認められなかった.

性周期観察では,投与前期間と投与期間の性周期に被験物質投与との関連を示唆する変化は認められなかった.なお,発情休止期の継続が投与期間に40および1000 mg/kg投与群の各1例で認められ,40 mg/kg投与群の例は交尾不成立であった.一方,1000 mg/kg投与群の例は交尾が成立したが,剖検の結果,受胎は認められなかった.これらの例も含め,交尾不成立例は40 mg/kg投与群で1組,不妊例は40および1000 mg/kg投与群で各2組に認められた.

2) 分娩および母性行動観察(Table 4)

着床率の高値が 40 mg/kg投与群で認められた.その他,妊娠黄体数,着床痕数,総出産児数,分娩率,出産確認時生存児数,出生率,出生児の性比,出産確認時死亡児数,妊娠期間,出産率および哺育4日時哺育率については,対照群と比較して有意差は認められなかった.また,各投与群とも分娩異常例は認められなかった.分娩終了時に対照群で雄5例および雌9例,40 mg/kg投与群で雌4例および性別不明1例,1000 mg/kg投与群で雄5例および雌1例の死亡児が認められたが,これらの例に剖検で異常は認められなかった.なお,哺育異常としては,哺育1日に全哺育児死亡例が対照群の1例にみられたのみであった.

3) 新生児の一般状態,生存性,体重推移および剖検所見(Table 4)

一般状態では,死亡あるいは不明例が対照群で雌3例,40 mg/kg投与群で雄1例,200 mg/kg投与群で雄1例および雌2例,1000 mg/kg投与群で雄1例および雌3例に,尾の外傷および暗赤色化が40 mg/kg投与群で雌2例に認められたが,雌雄ともに被験物質投与との関連を示唆する症状は認められなかった.また,哺育4日の生存率では,各投与群とも対照群と比較して有意差は認められなかった.

体重推移では,1000 mg/kg投与群の雌雄で生後0,1および4日に有意な低値が認められた.

剖検所見では,死亡例に異常は認められなかったが,生後4日の剖検例では 200 mg/kg投与群で腎盂の拡張が1例,尿管の拡張が2例に認められた.他に外表所見として尾の外傷および暗赤色化が40 mg/kg投与群で2例に認められた.

考察

1. 反復投与毒性

一般状態では,1000 mg/kg投与群の雌で自発運動の減少および流涎が認められた.しかし,これらの症状は,それぞれ1例のみの,かつ一過性の発現であり,偶発的な出現と考えられた.

体重推移では1000 mg/kg投与群の雄で体重増加量および増加率の有意な低値が認められた.また,1000 mg/kg投与群の雌では,妊娠期間の体重が低値傾向で推移した.1000 mg/kg投与群の雌雄では摂餌量の低値も一過性ながら認められており,これら体重および摂餌量の低値は被験物質投与による影響と考えられた.

剖検では1000 mg/kg投与群の雌で前胃粘膜の一部肥厚が認められ,病理組織学検査では前胃に扁平上皮過形成,潰瘍,粘膜固有層の肉芽形成が認められた.1000 mg/kg投与群では雄でも病理組織学検査で前胃に扁平上皮過形成が認められており,被験物質が前胃の粘膜に対して刺激性のあることが示唆された.

他に剖検および病理組織学検査で1000 mg/kg投与群にみられた精巣および精巣上体の萎縮,精細管の萎縮,精巣上体管内の精子減少,精子肉芽腫は対照群と比較して発現に有意差は認められない,あるいは自然発生的な発現例数であり,被験物質投与による影響とは考えられなかった.また,1000 mg/kg投与群の雌1例でみられた尾状葉乳頭突起の暗赤色化ならびに小葉中心性の壊死は,肝臓の他の葉にはみられない限局した変化であり,被験物質投与による影響とは考えられなかった.

2. 生殖発生毒性

生殖能検査では,着床率の高値が40 mg/kg投与群で認められたが,被験物質投与群で黄体数が少ない傾向があるものの,有意差は認められず,着床数にも影響は認められないことから,被験物質投与による変化とは考えられなかった.生殖器の病理組織学検査においても被験物質投与による影響は認められなかった.なお,交尾不成立例および不妊例の生殖器にそれらの原因を示唆する病理組織学所見は認められなかった.1000 mg/kg投与群の雄の不妊例では精巣上体に精子肉芽腫が認められたが,片側性であり,不妊の原因となる所見とは考えられなかった.

その他,雌の性周期,雌雄の交尾,受胎および生殖器(精巣,精巣上体および卵巣)の重量に対して被験物質投与による影響は認められなかった.

母動物の分娩および哺育に対して,被験物質投与による影響は認められなかった.

新生児の観察では,1000 mg/kg投与群で新生児の雌雄に体重の低値がみられ,被験物質投与による影響と考えられた.さらに,同群では,母動物の妊娠期間体重が対照群と比較して低値であり,新生児体重の低値は哺育0日から有意に認められた.Hobermanらが実施した雌ラットへの交配前2週間から哺育21日までのシトラール投与試験3)でも,500 mg/kg投与群において出生児体重の有意な低値や妊娠20日胎児体重の軽度な低値が認められた.これらのことから,本試験では,母動物への 被験物質投与により,哺育期間だけでなく胎生期の発育にも影響を及ぼした可能性が考えられた.

また,本試験では,受胎率,着床率,分娩率,出生率および新生児の4日の生存率に被験物質投与による影響は認められず,着床や胚胎児および出生児の生存性に悪影響を及ぼすことはなかった.これはHobermanら3)の試験でも同様であった.一方,ラットの胎児の器官形成期にシトラールを投与した試験4)においては着床の阻害や胚胎児の損失が認められ,本試験およびHobermanらの試験結果とは異なった.この差異,すなわち本試験でF1世代の生存性に影響が認められなかったのは,投与期間の違いによると考えられ,Nogueiraらの論述4)のように交配前からの反復投与によりシトラールの代謝誘導あるいは耐性が生じたためではないかと思われた.

その他に出生児の一般状態および剖検において被験物質投与による影響は認められなかった.

以上のことから,シトラールの反復投与により,1000 mg/kg投与群の雌雄で体重推移,摂餌量および前胃の胃粘膜に及ぼす影響が認められ,親動物に対する無影響量(NOEL)は雌雄共に200 mg/kg/dayと考えられた.

また,1000 mg/kg投与群で新生児の体重に低値が認められたことから,親世代の生殖に対する無影響量(NOEL)は1000 mg/kg/day,次世代の発生に対する無影響量(NOEL)は200 mg/kg/dayと考えられた.

文献

1)D.L.J. Opdyke, Food and Cosmetics Toxicol., 17, 259-263(1979).
2)食品添加物公定書注解編集委員会編,"第二版食品添加物公定書注解,"金原出版,1968, pp. 378-381.
3)A.M. Hoberman et al, The Toxicologist, 9, 271(1989).
4)A.C.M.A. Nogueira et al, Toxicology, 96, 105(1995).

連絡先
試験責任者:吉村浩幸
試験担当者:茂野 均,河村公太郎,古川正敏
(株)化合物安全性研究所
〒004-0839 札幌市清田区真栄363番24
Tel 011-885-5031Fax 011-885-5313

Correspondence
Authors:Hiroyuki Yoshimura(Study director)
Hitoshi Shigeno, Koutaro Kawamura, Masatoshi Furukawa
Safety Research Institute for Chemical Compounds Co., Ltd.
363-24 Shin-ei, Kiyota-ku, Sapporo, Hokkaido, 004-0839, Japan
Tel +81-11-885-5031Fax +81-11-885-5313