ディスパーズイエロー42のラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of Disperse Yellow 42 in Rats

要約

ディスパーズイエロー42を5週齢の雌雄各5匹のラットに,2000 mg/kgの用量で単回経口投与し,投与日(観察第1日)から14日間観察を行い,観察第15日に屠殺して剖検した.

その結果,雌雄全例において観察初期に糞便および尿の黄色化が観察されたが,その他には一般状態の変化はみられなかった.また,体重の推移についても,全例とも順調な増加を示した.剖検所見でも,全例に著変は認められなかった.

以上の結果より,本試験条件下におけるディスパーズイエロー42のLD50値は,雌雄ともに2000 mg/kgを上回ると判断された.

方法

1. 被験物質

三井BASF染料(株)(大阪)より提供されたディスパーズイエロー42(ロット番号936,純度68 %,不純物,水分:32%)を用いた.被験物質は使用時まで室温で保管した.使用した被験物質は,三井BASF染料(株)に返却し,再度品質試験を実施した.その結果,固形分は80.2 %であり,乾燥後の純度は99.63%であった.固形分の値が試験開始時よりも高値を示したのは,被験物質の自然乾燥によるものと思われ,乾燥後の純度が充分に高い値を示していることから,試験期間中は安定であったと判断された.

投与検体の調製は,ディスパーズイエロー42を,0.5 %カルボキシメチルセルロースナトリウム溶液(日本薬局方カルメロースナトリウム:丸石製薬(株),ロット番号6Z09; 日本薬局方注射用水:光製薬(株),製造番号9707SA)に懸濁して20 w/v%懸濁液を調製し,翌日の投与時まで冷蔵,密封,遮光下で保存した.なお,供給物質中のディスパーズイエロー42濃度が68 %であったため,供給物質濃度を29.4 w/v%として調製し,所定含量の投与検体を得た.また,動物試験に先立ち,安定性試験を実施した結果,被験物質の2および20 w/v%懸濁液について,冷蔵,遮光条件下における調製後8日間の安定性が確認された.さらに,投与検体中の被験物質の含量および均一性を測定した結果,規定範囲内にあることを確認した.

2. 使用動物および飼育方法

4週齢のSprague-Dawley系[Crj:CD(SD)IGS, SPF]雌雄ラットを,日本チャールス・リバー(株)厚木飼育センターから購入し,飼育環境への馴化と検疫を兼ねて8日間予備飼育した.予備飼育中,動物の一般状態に異常は認められなかった.試験には,雌雄各々入荷した6匹の中から,入荷動物番号が若い5匹を用いた.投与開始時の週齢は,雌雄ともに5週齢であった.

全飼育期間を通じ,動物を金属製金網床ケージに1匹ずつ収容し,基準温度22〜25 ℃,基準湿度50〜65 %,換気回数約15回/時,照明12時間(7時〜19時点灯)に制御された飼育室で,固型飼料(CE-2,日本クレア(株))および水道水(秦野市水道局給水)を自由に摂取させて飼育した.

3. 投与量の設定および投与方法

本試験に先立ち実施した予備試験では,雌雄各3匹を用いてディスパーズイエロー42を2000 mg/kgの用量で投与し,投与後7日間観察した.その結果,観察初期に一過性の黄色調排泄物が認められたが,体重は全例とも観察期間を通じて順調に増加し,剖検においても肉眼的著変は見られず,ディスパーズイエロー42の毒性を示唆する変化は認められなかった.よって,ディスパーズイエロー42の毒性は極めて低いと考えられ,雌雄とも限度用量群のみを設定した.なお,油性媒体を使用しないため対照群は設けなかった.

投与容量は体重1 kg当たり10 mLとし,動物を投与前日より絶食させた後,投与直前に測定した体重を基に投与液量を算出し,ラット用胃管を用いて強制的に単回経口投与した.給餌は投与約3時間後に開始した.

4. 観察および検査

1) 一般状態の観察

観察第1日(投与日)から14日間にわたって死亡の有無を確認し,各動物の一般状態を観察した.観察は投与日においては投与直後から1時間まで連続して行い,その後は投与後6時間まで約1時間間隔で実施した.観察第2日から15日までは毎日1回行った.

2) 体重測定

体重は全例について,投与直前,観察第1,4,8,11および15日に測定した.

3) 病理学検査

剖検は,観察第15日に全例をペントバルビタール・ナトリウム麻酔下で放血屠殺して実施した.剖検時に,脳,下垂体,眼球,甲状腺,心臓,気管,肺,肝臓,腎臓,胸腺,脾臓,副腎,消化管,生殖器,乳腺,膀胱,下顎リンパ節,腸間膜リンパ節,大腿骨骨髄,膵臓,顎下腺,舌,食道,大動脈,ハーダー腺および皮膚の肉眼的観察を行った.これらのうち,雄1例の主要器官・組織(脳,心臓,肺,肝臓,腎臓,脾臓,消化管)を0.1 molリン酸緩衝10 %ホルマリン溶液で固定した.なお,剖検所見に特記すべき変化が認められなかったため,組織学検査は実施しなかった.

5. データ解析法

体重について,群ごとに平均値と標準偏差を求めた.

結果および考察

1. 死亡動物

雌雄ともに,死亡例はなかった.

2. 一般状態

投与日には,雌雄全例が黄色尿を排泄し,早いものでは投与後3時間の観察より認められた.また,投与後6時間の観察では,雄1例および雌3例で,黄色調の糞便がみられた.

観察第2日には,尿の色調は全例とも正常に復した.糞便の色調については,全例において正常色と黄色を呈するものとが混在していた.観察第3日以後は,全例において一般状態の変化はまったくみられなかった.

排泄物が一過性の黄色化を示した変化は,投与検体の色調によるものとみなされる.

3. 体重推移

観察期間中を通じて,いずれの個体も順調な体重増加を示した.

4. 病理学検査

観察第15日に実施した剖検では,雌雄全例の器官・組織に肉眼的異常所見は認められなかった.

以上の結果より,本試験条件下ではディスパーズイエロー42の投与に起因する明らかな毒性変化は認められず,そのLD50値は,雌雄ともに2000 mg/kgを上回ると判断された.

連絡先
試験責任者:吉村愼介
試験担当者:関  誠,田子和美,森村智美,松本浩孝,内山一豊,丸茂秀樹,堀内伸二,野口早苗,内藤由紀子,三枝克彦,加藤初美,稲田浩子,安生孝子,大八木豊彦,奥山光伸
(財)食品薬品安全センター秦野研究所
〒257-8523 神奈川県秦野市落合729-5
Tel 0463-82-4751Fax 0463-82-9627

Correspondence
Authors:Shinsuke Yoshimura (Study Director)
Makoto Seki, Kazumi Tago, Tomomi Morimura, Hirotaka Matsumoto, Kazutoyo Uchiyama, Hideki Marumo, Shinji Horiuchi, Sanae Noguchi, Yukiko Naitoh, Katsuhiko Saegusa, Hatsumi Katoh, Hiroko Inada, Takako Anjo, Toyohiko Ohyaghi, Mitsunobu Okuyama
Hatano Research Institute, Food and Drug Safety Center
729-5 Ochiai, Hadano-shi, Kanagawa, 257-8523, Japan
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