2,4-ジニトロフェノールのラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of 2,4-Dinitrophenol in Rats

要約

2,4-ジニトロフェノールを1群5匹のSD系[Crj:CD(SD)IGS]ラットに,雌雄とも0(溶媒),45,59,76,99,129および167 mg/kg用量で単回経口投与し,その急性毒性を検討した. 死亡は,雄で45 mg/kg以上,雌で59 mg/kg以上の群において投与後15分頃から6時間の間に認められた.主な中毒症状として雌雄とも自発運動の低下,腹臥姿勢,歩行時の這いずり姿勢および強直性痙攣が認められ,さらに雄では浅速呼吸,雌では全身の硬直が散見された.生存動物の症状は投与翌日までに概ね回復し,体重は順調に増加した.剖検では,死亡動物に肺の暗赤色化が認められた.LD50値は,雄で49 mg/kg,雌で51 mg/kgであった.

方法

1. 被験物質

2,4-ジニトロフェノールは,融点112 ℃,水に不溶,アルコール,エーテルに可溶な黄色の結晶性物質である.試験には三井化学(株)(東京)製造のもの(ロット番号 8835703,純度85.2 %,水13.9 %のほか不純物として2,6-ジニトロフェノール0.6 %,不明物0.3 %を含む.水を除いた乾燥品の純度は99.0 %)を入手し,冷暗所(4 ℃)で密栓して保管し,使用した.投与液は,1 %メチルセルロース水溶液を媒体とし,純度換算で所定の投与用量となる濃度の懸濁液に調製した.調製は投与直前に行った.被験物質の安定性ならびに投与液中での安定性および均一性については,分析して確認した.

2. 使用動物および飼育条件

動物は,SD系[Crj:CD(SD)IGS]ラットを日本チャールス・リバー(株)(神奈川)より搬入し,5週齢(雄119-131 g,雌100-111 g)で試験に用いた.ラットは室温21-23 ℃,湿度56-60 %,換気回数10回以上/時(オールフレッシュエアー方式),照明12時間/日(午前6時点灯,午後6時消灯)に制御した飼育室で,ステンレス製金網ケージに2〜3匹ずつ雌雄別に収容し,固型飼料[ラボMRストック,日本農産工業(株)]と水は自由に摂取させた.

3. 投与量および投与方法

投与量設定試験として,1群3匹のラットに雌雄とも14,20,30,46,69,104および155 mg/kg用量で単回経口投与した.結果,雌雄とも14 mg/kg以上の群で中毒症状が,104 mg/kg以上の群で死亡が認められた.したがって,本試験の投与量は,雌雄とも45,59,76,99,129および167 mg/kg(公比1.3)の6群を設定した.他に,溶媒のみ投与の対照群を設けた.動物数は雌雄とも各5匹とし,各用量群への振り分けは,投与直前の体重に基づく層化無作為抽出法により行った.投与方法は,投与液量を体重1 kg当たり10 mLとし,テフロン製胃ゾンデおよび注射筒を用いてラットの胃内に単回経口投与した.投与は午前中に行った.ラットは前日の午後5時より投与後3時間まで除餌し,水のみを摂取させた.

4. 観察事項

観察期間は投与後14日間とし,一般状態の観察と生死の確認を毎日行った.体重は,投与日(投与直前),投与後2,4,8および15日に測定し,測定日間の体重増加量を算出した.剖検は,死亡例は発見後直ちに,生存例は観察期間終了後にエーテル麻酔死させて行った.LD50値およびその95 %信頼限界については,0および100 %を除く死亡率が雄では1群,雌では得られなかったので,雌雄ともVan der Wearden法により算出(雌ではLD50値のみ)した.

結果

1. LD50値(Table 1)

雄では被験物質投与の全ての群で死亡が認められ,死亡率は45 mg/kg群で20 %,59 mg/kg以上の群では,いずれも100 %であった.また,雌では45 mg/kg群で死亡はみられず,59 mg/kg以上の群では全例死亡し,死亡率は100 %であった.死亡率より算出されたLD50値(95 %信頼限界)は,雄49(44-54)mg/kg,雌51 mg/kgであった.

2. 一般状態

雌雄とも,被験物質投与の全ての群に共通して,投与後約10分から自発運動の低下および腹臥姿勢が多くの例で認められた.その他に,歩行時の這いずり姿勢および強直性痙攣が雌雄に,さらに浅速呼吸が雄に,全身の硬直が雌に散見され,雌では流涎も1例に認められた.死亡動物では,これらの症状が重度化し,投与後15分頃から6時間の間に死亡した.生存動物の症状は,投与後3〜6時間から回復傾向が認められ,投与翌日までに概ね回復した.

3. 体重推移

雌雄とも,投与翌日(投与後2日)から対照群と同様の順調な増加が認められ,各測定時点間の体重増加量に変化は認められなかった.

4. 病理学検査

死亡動物の剖検において,雌雄とも肺の軽度から中等度の暗赤色化が認められた.生存動物には器官の肉眼的変化は認められなかった.

考察

2,4-ジニトロフェノールのラットにおける急性経口毒性について,腹臥姿勢,浅速呼吸,強直性痙攣,振戦および死亡前後の硬直の症状が認められ,LD50値は71 mg/kgであったと報告1)されている.

今回の試験においても,雌雄に自発運動の低下,腹臥姿勢,這いずり姿勢,強直性痙攣,さらに雄では浅速呼吸,雌では全身の硬直等の症状が認められ,上述の報告と類似した結果が得られた.

死亡動物の発現は投与後10分頃から6時間までであり,生存動物の症状の多くは投与翌日までに消失し,投与翌日以降の体重増加への影響も認められなかった.剖検においては死亡動物に肺の暗赤色化が認められた.LD50値は,雄で49 mg/kg,雌で51 mg/kgであった.

文献

1)J. A. Kaiser, Toxicol. Appl. Pharmacol., 6, 232 (1964).

連絡先
試験責任者:山本 譲
試験担当者:伊藤義彦,伊藤雅也,加藤史子
(財)畜産生物科学安全研究所
〒229-1132 神奈川県相模原市橋本台3-7-11
Tel 042-762-2775Fax 042-762-7979

Correspondence
Authors:Yuzuru Yamamoto(Study director)
Yoshihiko Ito, Masaya Ito, Satoko Kato
Research Institute for Animal Science in Biochemistry and Toxicology
3-7-11 Hashimotodai Sagamihara-shi, Kanagawa, 229-1132, Japan
Tel +81-42-762-2775Fax +81-42-762-7979