2,2,4,4,6,8,8−ヘプタメチルノナンの細菌を用いる
復帰変異試験

Reverse Mutation Test of 2,2,4,4,6,8,8-Heptamethylnonane on Bacteria

要約

2,2,4,4,6,8,8−ヘプタメチルノナンの変異原性の有無について、細菌を用いる復帰変異試を実施することにより検討した。

検定菌としてSalmonella typhimurium TA100、TA1535、TA98、TA1537およびEscherichia coli WP2 uvrAを用い、直接試験および代謝活性化試験のいずれも、用量設定試験は50〜5000 μg/プレートの用量で、本試験は312.5〜5000 μg/プレートの用量で試験を行った。

その結果、2回の本試験とも、用いた5種類の検定菌について、いずれの用量でも復帰変異コロニー数の増加が認められなかったことから、2,2,4,4,6,8,8−ヘプタメチルノナンは、用いた試験系において変異原性を有しない(陰性)と判定された。

緒言

OECD既存化学物質安全性点検に係わる毒性調査事業の一環として、日本が独自に選定した既存化学物質の1つである、2,2,4,4,6,8,8−ヘプタメチルノナンについて、細菌を用いる復帰変異試験をプレート法により実施した。

この試験は、サルモネラ(ネズミチフス菌)におけるヒスチジン要求性から非要求性への復帰変異1)、ならびに大腸菌におけるトリプトファン要求性から非要求性への復帰変異2)を指標とした変異原の検出系である。

試験は、被験物質をそのまま検定菌に作用させる直接試験と、哺乳動物のもつ薬物代謝酵素(S9混液)によって産生される被験物質の代謝物の変異原性を試験する代謝活性化試験とからなっている。

本試験は、「新規化学物質に係る試験の方法について」(昭和62年3月31日、環保業第237号、薬発第306号、62基局第303号)およびOECD化学品試験法ガイドライン:471、472に準拠し、化学物質GLP(昭和59年3月31日、環保業第39号、薬発第229号、59基局第第85号、改訂昭和63年11月18日、環企研第233号、衛生第38号、63基局第823号)に基づいて実施した。

方法

〔検定菌〕

Salmonella typhimurium TA100
Salmonella typhimurium TA1535
Escherichia coli WP2 uvrA
Salmonella typhimurium TA98
Salmonella typhimurium TA1537

Salmonella typhimurium TA100、 Salmonella typhimurium TA1535、Salmonella typhimurium TA98、Salmonella typhimurium TA1537の4菌株は1975年10月31日にアメリカ合衆国、カリフォルニア大学のB. N. Ames博士から分与を受けた。

Escherichia coli WP2uvrA株は1979年5月9日に国立遺伝学研究所の賀田恒夫博士から分与を受けた。

検定菌は、−80℃以下で凍結保存した。試験に際して、0.5%塩化ナトリウム添加ニュートリエントブロス(Difco)を入れたL字型試験管に種菌を接種し、37℃、10時間往復振とう培養したものを検定菌液とした。

〔被験物質〕

2,2,4,4,6,8,8−ヘプタメチルノナン(CAS No. 4390-04-9、2,2,4,4,6,8,8-Heptamethylnonane)は、分子量226.45、比重0.78、沸点240℃、無色透明の液体である。純度 99.9%のもの(ロット番号:AU02、東京化成工業株式会社製造)を(社)日本化学工業協会から供与された。被験物質は、使用時まで室温で遮光して保存した。

2,2,4,4,6,8,8−ヘプタメチルノナンは、アセトン(ロット番号:DSR 3251、和光純薬工業 (株))を用いて50 mg/ml になるように調製した後、同溶媒で更に公比2ないし3で希釈したものを、速やかに試験に用いた。

試験の開始に先立って、秦野研究所において2,2,4,4,6,8,8−ヘプタメチルノナンのアセトン溶液中での安定性試験を行った。安定性試験における溶媒は当研究所で実施される、培養細胞を用いる染色体異常試験と共通なことから、両試験における最高濃度(460 mg/ml)および最低濃度(3mg/ml)の2濃度について室温、遮光条件下で実施した。その結果、調製後3時間における各3サンプルの平均含量は、それぞれ初期値の平均(0時間)に対して、104%および100%であった。これらの値は、当研究所の標準操作手順書の基準(初回の測定平均値の 90%以上)を満たしていた。

また、本試験に用いた調製検体について、含量測定試験を行った結果、50 mg/ml溶液の含量は既定濃度に対し、101〜102%、3.125 mg/ml溶液については、97.8〜99.9%であった。サンプル間のばらつきは平均値の2%以下であった。これらの値も、当研究所の標準操作手順書の基準(平均含量は添加量の85%以上)を満たしていた。

以上の結果から、2,2,4,4,6,8,8−ヘプタメチルノナンはアセトン溶液中では安定であり、また調製液中の被験物質の含量は所定の値の範囲内にあることが確認された。

〔陽性対照物質〕

用いた陽性対照物質およびその溶媒は以下のとおりである。

AF-2フリルフラマイド(上野製薬(株))
SAアジ化ナトリウム(和光純薬工業(株))
9-AA9-アミノアクリジン(東京化成工業 (株))
2-AA2-アミノアントラセン(和光純薬工業(株))

AF-2、9-AA、2-AAはDMSO(和光純薬工業 (株))に、SAは蒸留水に溶解して試験に用いた。

〔培地およびS9混液の組成〕

1) トップアガー(TA菌株用)

下記の水溶液(A)および(B)を容量比10:1の割合で混合した。

(A)バクト・アガー (Difco)0.6%
塩化ナトリウム0.5%
(B)*L-ヒスチジン0.5 mM
ビオチン0.5 mM

* WP2用には、0.5 mM L-トリプトファン水溶液を用いた。

2) 合成培地

培地は、日清製粉株式会社の最少寒天培地を用いた。なお、培地 1 l あたりの組成は下記のとおりである。

硫酸マグネシウム・7水和物0.2g
クエン酸・1水和物2g
リン酸水素二カリウム10g
リン酸水素アンモニウムナトリウム・4水和物3.5g
グルコース20g
バクト・アガー (Difco)15g

径90 mmのシャーレ1枚あたり30mlを流して固めてある。

3) S9混液(1 ml中下記の成分を含む)

S9**0.1 ml
塩化マグネシウム8μmol
塩化カリウム33μmol
グルコース・6リン酸5μmol
NADH4μmol
NADPH4μmol
0.2Mリン酸緩衝液(pH 7.4)0.5 ml

**:7週齢のSprague-Dawley系雄ラットをフェノバルビタール(PB)および5, 6-ベンゾフラボン(BF)の併用投与で酵素誘導して作製したS9(キッコーマン (株))を用いた。

〔試験方法〕

プレート法により直接試験および代謝活性化試験を行った。

小試験管中にトップアガー2 ml、被験物質調製液0.1 ml、リン酸緩衝液0.5 ml(代謝活性化試験においてはS9混液0.5 ml)、検定菌液0.1 mlを混合したのち合成培地平板上に流して固めた。また、対照群として被験物質調製液の代わりにアセトン、または数種の陽性対照物質溶液を用いた。各検定菌ごとの陽性対照物質の名称および用量は表中に示した。培養は37℃で48時間行い、生じた復帰変異コロニー数を算定し、それぞれその平均値と標準偏差を求めた。

〔判定基準〕

被験物質を含有する平板上における復帰変異コロニー数が、陰性対照のそれに比べて2倍以上に増加し、かつ、その増加に再現性あるいは用量依存性が認められた場合に、当該被験物質は本試験系において変異原性を有する(陽性)と判定することとした。

結果および考察

〔用量設定試験〕

50〜5000 μg/プレートの範囲で試験を実施したところ、WP2の代謝活性化試験において1500 μg/プレート以上の用量で、弱い抗菌性が認められた。しかし、WP2の直接試験および他の菌種では抗菌性が認められなかったことから、本試験における最高用量を、すべての菌種において5000 μg/プレートとし、公比2で5用量を設定した。なお、直接試験では1500 μg/プレート、代謝活性化試験では500 μg/プレート以上の用量で寒天表面に被験物質由来の沈澱物が認められた。

〔本試験〕

結果をTables 1, 2に示した。2,2,4,4,6,8,8−ヘプタメチルノナンについて312.5〜5000 μg/プレートの範囲で試験を実施した。2回の試験を通して、用いた5種類の検定菌の直接試験代謝活性化試験のいずれにおいても、用量依存性のある変異コロニー数の増加は認められなかった。また、すべての試験において抗菌性は認められなかった。なお、代謝活性化試験において、5000 μg/プレートの用量で寒天表面に被験物質由来の沈澱物が認められた。

以上の結果に基づき、2,2,4,4,6,8,8−ヘプタメチルノナンは、用いた試験系において変異原性を有しないもの(陰性)と判定した。

文献

1)D. M. Maron and B. N. Ames, Mutation Research. 113, 173-215 (1983)
2)M. H. Green, "Handbook of Mutagenicity Test Procedures." ( B. J. Kilbey, M. Legator, W.Nichols, and C. Ramel eds.) , Elsevier Science Publisher, New York, 1984, p161.

連絡先:
試験責任者澁谷徹
(財)食品薬品安全センター秦野研究所
〒257 神奈川県秦野市落合 729-5
Tel 0463-82-4751Fax 0463-82-9627

Correspondence:
Shibuya, Tohru
Hatano Research Institute, Food and Drug Safety
Center
729-5 Ochiai, Hadano-shi, Kanagawa, 257, Japan
Tel 81-463-82-4751Fax 81-463-82-9627