O,O'-ジエチルジチオリン酸のラットを用いる
反復経口投与毒性・生殖発生毒性併合試験

Combined Repeated Dose Reproductive/Developmental Toxicity Screening Test
of O,O'-Diethyl dithiophosphate by Oral Administration in Rats

要約

 

 既存化学物質の毒性学的性質を評価するため,O,O'-ジエチルジチオリン酸の0(溶媒の1.0 vol% Tween 80を含む0.5 w/v% CMC-Na水溶液のみ投与),30,100および300 mg/kg/dayをラットの交配前14日から交配期間,妊娠期間および哺育4日まで連続強制経口投与し,反復投与毒性および生殖発生毒性に及ぼす影響を検討した.また,投与終了の翌日から対照群および300 mg/kg群の雌雄各5例について14日間観察を継続し,休薬による毒性の回復性についても検討した.

1. 反復投与毒性

 投与期間中に雌の300 mg/kg群で6例の死亡動物および2例の切迫解剖動物が認められた.これらの動物の剖検所見および組織所見より主な死因には,気道の急性炎症による窒息死と消化管障害に伴う栄養状態の悪化の二種類が考えられた.

 被験物質投与に起因する一般状態の変化として,雌雄の30 mg/kg以上の投与群で流涎,雌雄の300 mg/kg群で軟便が観察された.

 体重では,300 mg/kg群の雄では投与期間を通じて,雌では交配前投与期間に体重増加抑制が認められ,被験物質投与の影響が示唆された.

 摂餌量では,雌雄ともに被験物質投与の影響は認められなかった.

 機能観察総合検査では,詳細な症状観察で雌雄ともに100および300 mg/kg群で一般状態と同様に流涎を示す動物数の増加が認められた.また,雌の300 mg/kg群で移動量の軽度な減少を示す動物数の増加が認められ,同群の投与期間終了時および哺育4日の自発運動量が低値を示したことから,被験物質投与に起因すると考えられる自発運動の低下が認められた.運動感覚反応の観察および握力には被験物質投与との影響は認められなかった.

 血液学検査では,雄の投与期間終了時において300 mg/kg群でヘモグロビン量および赤血球数が低値を示した.回復期間終了時では,300 mg/kg群で白血球数,好中球数が高値を示した.雌の哺育5日の検査では300 mg/kg群で血小板数が低値を示した.雌の回復期間終了時では,300 mg/kg群でヘモグロビン量が高値を示したが,軽度な変化であり毒性学的意義は低いと考えられた.

 血液凝固能検査では,雌雄のいずれの時期にも被験物質投与に起因すると考えられる変化は認められなかった.

 血液生化学検査において,雄の投与期間終了時および雌の哺育5日に300 mg/kg群で総蛋白が低値傾向を示し,雌の哺育5日の検査において全ての投与群でコリンエステラーゼが低値を示した.また,300 mg/kg群でカリウムが高値を示した.雌の回復期間終了時では,300 mg/kg群でアルカリホスファターゼが高値を示した.

 尿検査では,雄の投与期間終了時に100および300 mg/kg群でケトン体陽性例が増加したが,軽度な変化であり被験物質投与との関連は明らかでなかった.

コリンエステラーゼ活性検査では,投与期間終了時に雄の300 mg/kg群および雌の100および 300 mg/kg群で脳コリンエステラーゼ活性が低値を示した.

 病理学検査では,毒性所見としては100および300 mg/kg群で精巣障害が観察された.精子形成サイクルの観察で100 mg/kg群のプレレプトテン期精母細胞およびパキテン期精母細胞のセルトリ細胞当たりの比率が低値を示した.また,300 mg/kg群の組織像から精巣障害はセルトリ細胞障害に起因した変化であることが想定された.この変化は,300 mg/kg群の回復期間終了時においてより著明であることから遅延性あるいは進行性病変と考えられる.

 器官重量では300 mg/kg群の精巣や精巣上体重量が低下し,雄の投与期間終了時に胸腺重量が100および300 mg/kg群で高値を示した.また,哺育5日の雌の300 mg/kg群で心臓および腎臓重量が高値を示した.

 病理学検査で認められた精巣毒性および臨床検査の一部で回復性は確認できなかったが,その他の変化は回復していた.

2. 生殖発生毒性

 平均性周期および交尾能に被験物質投与の影響は認められなかった.300 mg/kg群で妊娠不成立と判定された雄2例には病理組織学検査で精巣毒性が観察され,これらの変化が妊娠を成立させなかった原因であると推察された.分娩時観察では,分娩状態の異常はいずれの投与群でも認められなかった.新生児の外表検査および哺育4日の剖検では異常は認められなかった.300 mg/kg群で出生児の哺育4日の体重増加が抑制され,雌新生児の4日の生存率にも有意な低値が認められ,被験物質投与による出生児の発育阻害が示唆された.その他,妊娠期間,妊娠黄体数および着床数に被験物質投与の影響は認められず,出産児数,出産生児数,性比および出産率にも影響は認められなかった.

 以上のことから,O,O'-ジエチルジチオリン酸の本試験条件下における無影響量(NOEL)は雌雄ともに30 mg/kg/day未満と判断された.

 生殖能に及ぼす影響は100および300 mg/kg/day投与で精巣毒性が認められたことから雄の無影響量は30 mg/kg/day,雌は300 mg/kg/day投与でも影響は認められず300 mg/kg/dayと判断された.児動物の発生・発育に及ぼす影響は300 mg/kg/day投与で雌の生後4日生存率の有意な低値および哺育4日の体重増加抑制が認められ,無影響量は100 mg/kg/dayと判断された.

方法

1. 被験物質

 O,O'-ジエチルジチオリン酸(和光純薬工業製造,Lot No. ASK5069,含量98.9 wt%,分子量186.24)は暗青色の液体であり,使用時まで被験物質保管庫(冷暗所)に保存した.残余被験物質を製造元で再分析することにより,本ロットが投与期間中安定であったことを確認した.被験物質は1.0 vol% Tween 80を含む0.5 w/v%カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)水溶液(CMC-Na:和光純薬工業,注射用水:光製薬,Tween 80:ナカライテスク)に懸濁し,6,20および60 mg/mLの投与液を調製した.投与液は投与まで冷暗所に保存し,調製後7日以内に使用した.被験物質の1.0 vol% Tween 80を含む0.5 w/v% CMC-Na水溶液での安定性は,1および200 mg/mLの濃度について7日間冷蔵保存後室温放置24時間は安定であることを確認した.

 投与液の濃度/均一性分析は,初回および最終調製時に調製した全ての試験群の投与液について行った.その結果,基準範囲内(設定濃度の± 15 %以内,変動係数10 %以下)であった.

2. 使用動物および飼育条件

 試験には,日本チャールス・リバーから購入した生後8週齢のSprague-Dawley(Crj:CD(SD)IGS,SPF)系雄ラット48匹および雌ラット58匹を使用した.購入した動物は7日間検疫・馴化飼育した後,8日間の予備飼育をし,体重推移および一般状態に異常が認められなかったものを10週齢で群分けして試験に用いた.群分け時の体重は,雄で317〜385 g,雌で208〜247 gの範囲であった.

 動物は,温度24 ± 3℃,湿度55 ± 20 %,換気回数15回/時間,照度150〜300 lux,照明時間12時間(午前7時点灯,午後7時消灯)に管理されたバリアシステムの飼育室でアルミ製前面・床ステンレス網目飼育ケージに1匹ずつ収容し飼育した.妊娠18日以降の母動物は哺育4日までアルミ製前面・床ステンレス網目飼育ケージに哺育トレーおよび巣作り材料(サンフレーク,日本チャールス・リバー製造)を入れて飼育した.

 飼料は,オリエンタル酵母製造のCRF-1固型飼料(放射線滅菌飼料)を使用し,飼育期間中自由に摂取させた.飲水は,水道水を自由に摂取させた.

3. 群分け

 動物は投与開始日の体重をもとに層別化し,無作為抽出法により雄は1群当たり各12匹,雌は対照群および高用量群に各17匹,低および中用量群に各12匹を振り分けた.雌雄ともに毒性試験群として1群当たり12匹を配し,雄は投与終了後,対照群と高用量群の各5匹を選抜して回復性試験群に用いた.雌は毒性試験群の動物とは別に回復性試験群として対照群と高用量群に各5匹を配した.なお,雌は群分け前に8日間の性周期観察を行い,正常な性周期を有する動物を群分けに用いた.

4. 投与量,群構成,投与期間および投与方法

 MSDSに記載されている本被験物質のラットにおける急性経口毒性の結果(LD50:4510 mg/kg)を参考にして,0,30,100,300および1000 mg/kgの用量で2週間投与予備試験を実施した.その結果,1000 mg/kg群では雄の5/5例および雌の2/5例が死亡した(雄の切迫解剖1例含む).また,一般状態の変化として,雌雄に流涎,被毛の汚れ,耳介および四肢の蒼白,体温低下,散瞳,眼瞼下垂,眼球貧血および自発運動低下が観察された.雌雄ともに体重の増加抑制および摂餌量の低下が認められた.血液学検査では,雌の生存例で赤血球数,ヘモグロビン量,ヘマトクリット値,平均赤血球血色素量,平均赤血球血色素濃度およびリンパ球比率が低値を,血小板数および好中球比率が高値を示した.また,網赤血球率が高値傾向を示した.血液生化学検査では,雌の生存例で総コレステロール,総ビリルビン,アラニンアミノトランスフェラーゼ,g-グルタミルトランスペプチダーゼ,カルシウム,無機リンおよびカリウムが高値または高値傾向を示し,総蛋白,アルブミン,A/G,アルカリフォスファターゼおよび塩素が低値を示した.器官重量では,雌の生存例で肝臓重量の高値および胸腺重量の低値が認められた.病理学検査では,被験物質投与の影響が疑われる所見として雌の生存例に削痩,腺胃の潰瘍あるいは白色斑/区域および前胃の肥厚が観察された.300 mg/kg群では,一般状態の変化として,雌雄に流涎が観察された.雄に体重の増加抑制が認められた.血液学検査では,赤血球数,ヘモグロビン量およびヘマトクリット値が雄で低値傾向を,雌で低値を示した.また,網赤血球率が雄で高値を,雌で高値傾向を示した.血液生化学検査では,雌雄の総コレステロールが高値を示し,総蛋白が低値を示した.また,雄のアルブミンおよび尿素窒素の低値,雌の総ビリルビンが高値を示した.したがって,本試験では明らかな毒性徴候が現れることが予想され,長期の投与期間でも死亡動物が多発しないと考えられる300 mg/kg/dayを高用量とし,以下公比約3で除し,100および30 mg/kg/dayを中および低用量に設定した.

 投与液量は,体重100 g当たり0.5 mLとし,交配前および交配期間ならびに交配期間終了後の投与期間の雌雄では,個体別に測定した最新体重に基づいて算出した.また,妊娠期間および哺育期間中の雌は,妊娠0,7,14,20および哺育0日に測定した個体別体重に基づいて算出した.投与液は,胃ゾンデを用いて1日1回強制経口投与した.対照群には1.0 vol% Tween 80を含む0.5 w/v% CMC-Na水溶液のみを投与した.

 投与期間は,雄は交配前14日間と交配期間14日間および交配期間終了後14日間の連続42日間とした.雌は交配前14日間と交配期間中(最長4日間)および交尾した雌は妊娠期間を通じて分娩後の哺育4日まで(42〜46日間)とした.また,交尾後分娩しない雌は妊娠25日の解剖前日まで(40日間)とした.雌の回復性試験用動物は雄と同じ連続42日間とした.

5. 観察および検査

1) 一般状態

 雌雄とも,全例について試験期間中毎日2回以上(回復期間中および剖検日は1回)行い,異常および死亡の有無を記録した.

2) 体重

 雄は投与1(投与開始日),8,15,22,29,36,42および43日(剖検日あるいは回復1日)に測定し,投与1から42日までの体重増加量を算出した.回復試験群の雄は,投与終了後回復1,8,14および15日(剖検日)に測定し,回復1から14日までの体重増加量を算出した.

 雌は投与1(投与開始日),8および15日に測定し,投与1から15日までの体重増加量を算出した.また,交尾後の雌は,妊娠0,7,14および20日に,分娩した雌は分娩後0,4および5日(剖検日)に測定し,それぞれ妊娠0から20日および分娩後0から4日までの体重増加量を算出した.回復試験群の雌は,回復試験群の雄と同日に測定し,投与1から42日および回復1から14日までの体重増加量を算出した.

3) 摂餌量

 雄は投与1(投与開始日),8,15,22,29,36および42日(剖検前日)に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの摂餌量を求め平均1日摂餌量を算出するとともに投与1から15日および投与22から42日までの累積摂餌量を算出した.回復試験群の雄は,投与終了後回復1,8および14日(剖検前日)に測定し,測定日から次の測定日までの摂餌量を求め平均1日摂餌量を算出するとともに回復1から14日までの累積摂餌量を算出した.

 雌は投与1(投与開始日),8および15日に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの摂餌量を求め平均1日摂餌量を算出するとともに投与1から15日までの累積摂餌量を算出した.また,交尾した雌は妊娠0,7,14および20日に,分娩した雌は分娩後0および4日に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの摂餌量を求め平均1日摂餌量を算出するとともに妊娠0から20日までの累積摂餌量を算出した.回復試験群の雌は,回復試験群の雄と同日に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの摂餌量を求め平均1日摂餌量を算出するとともに投与1から42日および回復1から14日までの累積摂餌量を算出した.なお,交配期間中の同居動物は摂餌量を測定しなかった.

4) 機能観察総合検査(FOB)

 機能観察総合検査は全生存動物について行った.検査は,投与期間中は投与30分後から開始した.以下の機能観察総合検査の内,詳細な症状観察は群分け前に1回,投与開始後は週1回行った(回復期間を含む).ただし,交尾した雌は妊娠7および14日,分娩した雌は哺育4日に行った.種々の刺激に対する運動感覚反応の観察,握力測定および自発運動量測定は,雄は各群5例(対照群および高用量群は回復試験群の5例,低および中用量群は動物番号の若い順に5例)について投与42日および回復14日に行った.雌は動物番号の若い順に各群5例について分娩後4日に行った.回復試験群の雌は投与42日および回復14日に行った.群分け前の詳細な症状観察は,仮動物番号の若い順に実施した.投与期間中の検査は,群により検査の時間帯が偏らないよう配慮して行った.

a) 詳細な症状観察

 詳細な症状観察では,ケージ内の姿勢について観察し,身悶え,旋回,咬み行動,痙攣および異常発声の有無を確認し,記録した.また,ケージ外へ動物を取り出し,出し易さ,扱い易さ,異常発声,筋緊張,立毛,被毛の状態,眼瞼状態,咬傷,流涙,流涎,呼吸,眼球,可視粘膜,尿失禁およびカタレプシーについて観察し,記録した.さらにオープンフィールド装置の中央で30 cmの高さからの空中正向反射を観察し,動物が着地した時点から3分間オープンフィールド内での動物の呼吸,協調運動,痙攣,毛繕い,歩行,歩行異常,眼瞼状態,常同行動,異常行動,異常発声,覚醒度および移動量について観察し,立ち上がり回数,脱糞回数および排尿回数を数え,記録した.

b) 種々の刺激に対する運動感覚反応の観察

 瞳孔反射,接近反応,触覚反応,聴覚反応および痛覚反応を検査し,記録した.

c) 握力(前後肢)

 前後肢の握力についてはデジタルプッシュプルゲージ(アイコーエンジニアリング)を用いてそれぞれ2回測定し,平均値を記録した.

d) 自発運動量測定

 CAS(東洋産業)を用いて個別に測定した.上記a)からc)項の検査終了後(投与後約40分)に測定を開始した.データの収集間隔は1分毎とし,集計時間は10分毎の1時間とした.測定環境は,照明を点灯状態,測定室の騒音レベルはホワイトノイズ発生装置PA-1(永島医科機械)でおよそ70 dBに保ち,普通騒音計NA20(RION)を用いて測定し,記録した.

5) 交配

 交配は交配前14日間の性周期観察を行った雌と同群内の雄を1対1で最長4日毎晩同居させた.交尾の確認は,同居させた翌朝,腟栓または腟垢中の精子確認により行い,交尾が確認された雌はその日を妊娠0日とした.雌が死亡したために交配の組み合せができなかった雄については,交配させることなく,そのまま投与を続け,他の雄と同様に扱った.性周期観察は交尾確認日まで行い,発情期から次の発情期までの間の日数を性周期日数として平均性周期を算出した.また,性周期観察期間中の異常性周期(4または5日以外の性周期)発現率[(異常性周期を示す雌動物数/観察雌動物数)× 100]を算出した.交配結果から各群について交尾率[(交尾動物数/同居動物数)× 100]を算出した.なお,回復試験群の雌は,性周期観察および交配を実施しなかった.

6) 自然分娩時および新生児の観察

 妊娠動物は全て自然分娩させた.自然分娩時に分娩状態の観察を行った.分娩の確認を妊娠20から25日の午前8時30分〜10時の間に行い,この時間帯に分娩が完了していることを確認した動物および分娩を開始した動物は分娩完了まで待ち,その日を哺育0日とした.午前10時を過ぎて分娩を開始した場合は翌日を哺育0日とした.また,妊娠期間(哺育0日の年月日から妊娠0日の年月日を減じた日数),受胎率[(受胎動物数/交尾動物数)× 100],出産率[(生児出産雌数/妊娠雌数)× 100],着床率[(着床痕数/妊娠黄体数)× 100],分娩率[(総出産児数/着床痕数)× 100],出生率[(出産生児数/総出産児数)× 100]を算出した.妊娠25日の午前9時までに分娩のみられない動物は病理解剖し,着床痕の認められない場合,妊娠不成立と判定した.哺育5日に母動物は病理解剖し,黄体数および着床痕数を調べ肉眼的に異常の有無を調べた.

 新生児については哺育0日に出産児数(生存児+死亡児)を調べ,性別を判定し,性比(雄/雌)を算出するとともに,外表異常の有無を調べた.また,哺育0および4日に雌雄個体別の体重を測定し,1腹の雌雄別平均体重を算出した.哺育4日の体重測定後,エーテル麻酔下で放血安楽死させ,器官・組織の肉眼観察を行った.哺育期間中の死亡児はブアン液に固定し,器官・組織の肉眼観察を実施した.また,新生児の4日の生存率[(哺育4日生児数/出産生児数)× 100]を算出した.

7) 臨床検査

 血液学検査,血液凝固能検査および血液生化学検査は雄および自然分娩した雌の剖検時(雄:投与43日,雌:哺育5日)に各群の動物番号の若い順に5例,雌雄の回復試験群の剖検時(回復15日)に全例について実施した.採血するに当たり,動物を約16時間絶食させた.

 動物をエーテルで麻酔後開腹し,腹部大動脈から採血した.

a) 血液学検査

 抗凝固剤(EDTA-2 K)入り採血管インセパック-E(積水化学工業)に新鮮血を採取し,総合血液学検査装置ADVIA120(バイエル)を用いて白血球数(WBC:フローサイトメトリー),赤血球数(RBC:暗視野板法),ヘモグロビン量(HGB:シアンメトヘモグロビン法),ヘマトクリット値(HCT:RBC,MCVより算出),平均赤血球容積(MCV:暗視野板法),平均赤血球血色素量(MCH:HGB,RBCより算出),平均赤血球色素濃度(MCHC:HGB,HCTより算出),血小板数(PLT:暗視野板法),白血球百分率(フローサイトメトリー)および網赤血球率(Reticulocyte:RNA染色法)を測定した.

 白血球百分率は前述の機器で測定したが,別途血液塗抹標本を作製し,メイ・グリュンワルド・ギムザ染色して保存した.

b) 血液凝固能検査

 抗凝固剤(3.13 %クエン酸ナトリウム水溶液)入り採血管ベノジェクト(テルモ)に血液を採取した後,3000 r.p.m.で13分間遠心分離して得た血漿を検査に用いた.全自動血液凝固線溶測定装置STA Compact(ロシュ)を用いてプロトロンビン時間(PT:粘度変化検知方式)および活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT:粘度変化検知方式)を測定した.

c) 血液生化学検査

 採血管インセパックSQ(積水化学工業)に血液を採取した後,3000 r.p.m.で7分間遠心分離して得た血清を検査に用いた.多項目生化学自動分析装置日立7170(日立製作所)を用いて総蛋白(T. protein:Biuret法),アルブミン(Albumin:BCG法),A/G(計算値),血糖(Glucose:HK-G-6-PDH法),中性脂肪(Triglyceride: GK-GPO遊離グリセロール消去法),総コレステロール(T. cholesterol:コレステロールオキシダーゼHDAOS法),尿素窒素(BUN:ウレアーゼGLDH法),クレアチニン(Creatinine:酵素法),総ビリルビン(T. bilirubin:バナジン酸酸化法),アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST:酵素-UV法),アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT:酵素-UV法),アルカリホスファターゼ(ALP:P-ニトロフェニルリン酸基質法),コリンエステラーゼ(ChE:ヨウ化ブチリルチオコリン基質法),g-グルタミルトランスペプチダーゼ(Gamma-GTP:L-g-グルタミル-3-カルボキシ-4-NA法),カルシウム(Calcium: MXB法),無機リン(I. phosphorus: PNP-XDH法)および総胆汁酸(T. bile acid:酵素サイクリング法)を,電解質測定装置EA06R(エイアンドティー)を用いてナトリウム(Sodium:イオン選択電極法),カリウム(Potassium: イオン選択電極法)および塩素(Chloride:イオン選択電極法)を測定した.

d) 尿検査

 投与期間終了週に,各群それぞれ5例の雄動物について検査を行った.

 給餌・給水の条件下で採尿ケージを用いて3時間尿(午前10時から午後1時まで)および24時間尿(午前10時から翌日午前10時まで)を採取した.

 3時間尿を用いてpH,潜血,糖,蛋白,ケトン体,ビリルビンおよびウロビリノーゲンを検査した.検査にはN-マルティスティックスSG(バイエル メディカル)を用い,判定は尿分析装置CLINITEK500(バイエル)で行った.

 24時間尿を用いて尿量(計量)および色調(目視)を検査した後,尿を室温,1500 r.p.m.で5分間遠心し,上清および残渣に分離した.上清を用いて上述の電解質測定装置EA06Rでナトリウム,カリウムおよび塩素を測定した.さらに尿量を用いてナトリウム,カリウムおよび塩素の総排泄量を算出した.また,Auto&stat OM-6030(アークレイファクトリー)で尿浸透圧(氷点降下法)を測定した.

e) コリンエステラーゼ活性検査

 臨床検査を実施する動物全例の脳のコリンエステラーゼ(ChE)活性を測定した.解剖時に脳重量を測定した後,脳の左半分を採取して重量を測定し記録した.重量測定後,脳の左半分は約-80℃で保存し,コリンエステラーゼ活性を測定した.測定は,テクニコンAA(テクニコン)を用いてヨウ化アセチルチオコリンを基質とするDTNB法で行った.

8) 病理学検査

a) 剖検および器官重量

 解剖では動物の外観,口腔,鼻孔および頭蓋腔,骨格,脳および脊髄の外観と切断面,胸腔,腹腔および骨盤腔とその内臓,頸部の組織および器官を検査した.生殖器官については,特に注意を払い検査した.全ての肉眼的異常について,部位,大きさ,硬さなどを記録した.また,解剖した全ての動物について皮膚,乳腺,リンパ節(腸間膜,下顎),唾液腺(舌下腺,下顎腺),胸骨,大腿骨,骨髄(胸骨,大腿骨),胸腺,気管,肺(気管支を含む:左側注入固定),心臓,甲状腺,上皮小体,舌,食道,胃,十二指腸,空腸,回腸(パイエル板を含む),盲腸,結腸,直腸,肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,精嚢,前立腺,卵巣,子宮,腟,眼球(視神経を含む),ハーダー腺,脳(大脳,小脳,橋を含む:コリンエステラーゼ活性測定動物は右半分のみ固定),下垂体,脊髄(頸部,胸部,腰部),坐骨神経および肉眼で異常病変が認められた器官・組織を10 vol%中性緩衝ホルマリン液に,精巣および精巣上体をブアン液で前固定した後,10 vol%中性緩衝ホルマリン液に固定した.

 重量を測定した器官については,器官重量/体重比(相対重量)を剖検日の体重および器官重量から算出した[(器官重量/剖検日の体重)× 100].なお,コリンエステラーゼ活性検査のため,脳の重量測定を最初に実施した.

q 死亡動物(300 mg/kg群の雌6例)および瀕死動物(300 mg/kg群の雌2例)

 死亡動物は発見後解剖まで冷蔵庫に保存し,人工的変化を防止するため,凍結しないようにした.瀕死動物はエーテル麻酔下で採血後,放血安楽死させ解剖した.交尾確認後に死亡した300 mg/kg群の雌4例の内,子宮内を調べ着床が認められなかった2例については妊娠不成立と判定した.なお,妊娠1日に相当する日に死亡した1例は妊娠判定が不可能であったため,この動物の妊娠期間のデータは集計に含めなかった.

w 雄動物

 42日間投与した翌日にエーテル麻酔下で採血安楽死させた.器官・組織の肉眼観察を行った後,脳,胸腺,唾液腺,甲状腺,心臓,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,精巣および精巣上体重量を測定した.甲状腺は固定後測定した.

e 自然分娩した雌

 哺育4日まで投与した翌日にエーテル麻酔下で採血安楽死させた.器官・組織の肉眼観察を行った後,脳,胸腺,唾液腺,甲状腺,心臓,肝臓,腎臓,脾臓,副腎および卵巣重量を測定した.なお,剖検時に黄体数および着床痕数を調べた.

r 自然分娩の認められない雌(30 mg/kg群の1例)

 妊娠25日に相当する日に,エーテル麻酔下で放血安楽死させ,器官・組織の肉眼観察を行った.子宮内を調べ,着床痕が認められなかったため妊娠不成立と判定した.

t 回復試験群の雄

 回復14日の翌日にエーテル麻酔下で採血後,放血安楽死させ,器官・組織の肉眼観察を行った後,脳,胸腺,唾液腺,甲状腺,心臓,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,精巣および精巣上体重量を測定した.甲状腺は固定後測定した.

y 回復試験群の雌

 回復14日の翌日にエーテル麻酔下で採血後,放血安楽死させ,器官・組織の肉眼観察を行った後,脳,胸腺,唾液腺,甲状腺,心臓,肝臓,腎臓,脾臓,副腎および卵巣重量を測定した.甲状腺は固定後測定した.

b) 病理組織学検査

 下記に該当する動物について病理組織学検査を実施した.

 組織は常法に従ってパラフィン切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン染色した.鏡検では病変の種類,程度について記録した.

 なお,精巣についてはPAS・ヘマトキシリン染色およびヘマトキシリン・エオジン染色した後,ヘマトキシリン・エオジン染色標本で一般的病変を検査し,w,rおよびtについてはPAS・ヘマトキシリン染色標本で精子形成サイクル(擦泙燭廊)を検査した1).

q 死亡動物(300 mg/kg群の雌6例)および瀕死動物(300 mg/kg群の雌2例)

 全固定器官について実施した.

w 妊娠を成立させた雄

 対照群と高用量群の各5例の全固定器官,および全群の剖検時に認められたそれ以外の異常病変部組織について実施した.

e 自然分娩した雌

 対照群と高用量群の各5例の全固定器官,および全群の剖検時に認められたそれ以外の異常病変部組織について実施した.

r 妊娠を成立させなかった雄および妊娠不成立の雌

 雄は唾液腺,精巣,精巣上体,精嚢および前立腺,および異常病変部組織,雌は唾液腺,腟,子宮および卵巣について実施した.

t 回復試験群の雌雄

 全固定器官について実施した.

 また,wについては高用量群の胃,精巣および精巣上体に被験物質投与の影響が疑われたため,これらの器官については低および中用量群も各5例ずつ検査を実施した.eについては高用量群の胃に被験物質投与の影響が疑われたため,低および中用量群も胃を各5例ずつ検査を実施した.

6. 統計解析

 体重,体重増加量,摂餌量,累積摂餌量,平均性周期,黄体数,着床痕数,妊娠期間,出産児数,死産児数,性比,着床率,出生率,分娩率,外表異常発現率,新生児の4日の生存率,FOB検査値(握力,自発運動量,立ち上がり回数,脱糞回数,排尿回数),血液学検査値,血液凝固能検査値,血液生化学検査値,コリンエステラーゼ活性検査値,尿検査値(尿量および尿浸透圧),器官重量および相対重量については自動判別方式に従い,最初にBartlettの等分散検定2)を実施した.等分散の場合はDunnettの多重比較検定3)で対照群と各投与群間の有意差を検定した.Bartlettの等分散検定で不等分散の場合はSteelの検定4)で対照群と各投与群間の有意差を検定した.

 出産率,交尾率および受胎率についてはx^2検定を用いた.

 異常性周期発現率,立ち上がり,脱糞および排尿を除く詳細な症状観察ならびに種々の刺激に対する運動感覚反応の観察の各項目,剖検所見および病理組織所見の発生率についてはFisherの直接確率検定法5)で検定した.病理組織所見のうち程度の増強が認められた所見は−(マイナス)を「1」,+1を「2」,+2を「3」,+3を「4」に割り当ててMann-WhitneyのU検定を実施した.精子形成サイクルのセルトリ細胞当たりの各ステージの細胞比率についてもMann-WhitneyのU検定を実施した.

 一般状態の所見についての統計解析は行わなかった.

 有意水準はBartlettの等分散検定については5 %,その他の検定は5 %および1 %の両側検定で実施した.ただし,供試動物数が1群につき2例以下の場合,有意差検定は行わなかった.

 なお,哺育期間中の出生児に関する成績は1母体当たりの平均を1標本として集計した.

結果

1. 反復投与毒性

1) 死亡および一般状態

 投与期間中に雌の300 mg/kg群で6例が死亡し,2例が瀕死状態になったため切迫解剖した.これら動物の死亡は,投与5,12および20日に各1例,妊娠1および12日に各1例,哺育0日に1例認められた.また,切迫解剖動物は,妊娠13日に2例認められた.雄には死亡例は観察されなかった.

 一般状態の変化として,雄では投与後30〜60分に流涎が30,100および300 mg/kg群でそれぞれ2,10および9例に観察された.また,軟便が30および300 mg/kg群でそれぞれ1および3例に観察された.その他,外傷が対照群の1例,眼分泌物が対照群および300 mg/kg群で各1例に観察された.300 mg/kg群の回復試験群においても投与期間中に流涎および軟便が観察されたが,回復期間中には一般状態の変化は認められなかった.

 雌では投与期間を通じて投与後30〜60分に流涎が30,100および300 mg/kg群でそれぞれ2,8および7例に観察された.死亡例の内3例は死亡前に著明な一般状態の変化は観察されなかったが,他の死亡例および切迫解剖例には削痩,立毛,被毛の汚れ,蒼白,眼瞼下垂,体温低下,腹部膨満,軟便,水様便,異常呼吸音,呼吸促迫,および呼吸困難等の全身状態の悪化を示す症状が認められた.異常呼吸音は,生存例の3例(回復試験群の1例を含む)にも単発性に認められた.その他,眼分泌物が対照群で1例,軟便が30 mg/kg群で1例,流涙および歯異常が100 mg/kg群で各1例に観察された.300 mg/kg群の回復試験群においても投与期間中に流涎,異常呼吸音,体温低下および呼吸困難が観察されたが,回復期間中には一般状態の変化は認められなかった.

2) 体重(Fig. 1-4)

 雄では,対照群に比べ300 mg/kg群で投与15日以降投与期間終了時まで低値傾向が認められ,投与1から42日の体重増加量も低値傾向を示した.300 mg/kg群の回復試験群においても投与期間中の体重増加量は低値傾向を示し,回復期間でも対照群に比べ体重が低値で推移したが,体重増加量には差は認められなかった.

 雌では,対照群に比べ300 mg/kg群で投与8および15日に低値傾向が認められ,投与1から15日の体重増加量も統計学的に有意な低値を示した.妊娠期間および哺育期間では対照群と被験物質投与各群との間に統計学的に有意な差は認められなかった.300 mg/kg群の回復試験群においても投与期間中の体重増加量は低値傾向を示し,回復期間でも対照群に比べ体重が低値で推移したが,体重増加量には差は認められなかった.

3) 摂餌量(Fig. 5-8)

 雌雄ともに,投与期間および回復期間を通じて対照群と被験物質投与各群との間に統計学的な有意差は認められなかった.

4) 機能観察総合検査(FOB)

a) 詳細な症状観察および種々の刺激に対する運動感覚反応の観察

 詳細な症状観察において,被験物質投与の影響と考えられる変化として,雄では,ケージ外観察において投与期間の後半に流涎なしの動物数が100および300 mg/kg群で有意に減少し,逆に軽度の流涎を示す動物数が有意に増加した.その他,有意な発生数の増減を示した所見が認められたが,用量に関連しない,一貫した変化ではない,あるいは対照群の値が偶発的に高かったことに起因した変化であった.回復期間では,上記軽度の流涎を示す動物は認められなかった.

 雌では,ケージ外観察において妊娠7日に軽度の流涎を示す動物数が100 mg/kg群で有意に増加した.また,オープンフィールド内の観察において300 mg/kg群で投与10日に移動量の軽度な減少を示す動物数が有意に増加した.その他,有意な発生数の増減を示した所見が認められたが,用量に関連しない,あるいは毒性学的に意義のない変化であった.回復試験群では,被験物質投与群に関係すると考えられる変化は認められなかった.

 種々の刺激に対する運動感覚反応の観察では,雌雄ともに被験物質投与の影響と考えられる反応の変化は認められなかった.

b) 握力(前後肢)

 雄の投与期間終了時および回復期間終了時,雌の投与期間終了時および回復期間終了時ならびに哺育4日のいずれにおいても対照群と被験物質投与各群との間で前肢および後肢の握力に差はみられなかった.

c) 自発運動量

 雄では,回復期間終了時の300 mg/kg群で測定開始後20〜30分の自発運動量が対照群に比較して有意な高値を示したが,一過性の変化であり,投与期間終了時の同群には変化が認められなかった.

 雌では300 mg/kg群で哺育4日の測定開始後10〜20分および測定1時間の総計の自発運動量がそれぞれ有意な低値を示し,投与期間終了時の測定開始後0〜10分および10〜20分の自発運動量がそれぞれ有意な低値を示した.回復期間終了時の同群には変化は認められなかった.

5) 血液学検査(Table 1)

 雄の血液学検査では,投与期間終了時に対照群に比べ300 mg/kg群でヘモグロビン量および赤血球数が統計学的に有意な低値を示した.また,30 mg/kg群で好中球比率が有意な低値,リンパ球比率が有意な高値を示したが,用量に対応しない変化であった.回復期間終了時では,300 mg/kg群で白血球数,好中球数が有意な高値を示した.また,同群で好酸球数が有意な高値を示したが,軽微な変化であった.

 雌の血液学検査では,哺育5日に対照群に比べ300 mg/kg群で血小板数が有意な低値を示した.回復期間終了時では,300 mg/kg群でヘモグロビン量が有意な高値を示した.

 血液凝固能検査では,雌雄ともに投与期間終了時および回復期間終了時でいずれの検査項目にも対照群と被験物質投与各群との間に差は認められなかった.

6) 血液生化学検査(Table 2)

 雄では,投与期間終了時に対照群に比べ300 mg/kg群で総蛋白が低値傾向を示した.回復期間終了時では,いずれの検査項目にも対照群と300 mg/kg群との間に差は認められなかった.

 雌では,哺育5日に対照群に比べ全ての被験物質投与群でコリンエステラーゼが統計学的に有意な低値を示した.また,300 mg/kg群でカリウムが有意な高値を示し,総蛋白が雄と同様に低値傾向を示した.さらに,30および300 mg/kg群でクレアチニンが有意な低値を示したが,軽微な変化であった.回復期間終了時では,300 mg/kg群でアルカリホスファターゼが有意な高値を示した.

7) コリンエステラーゼ活性検査

 雄では,投与期間終了時および回復期間終了時において,対照群に比べ300 mg/kg群で脳コリンエステラーゼ活性が統計学的に有意な低値を示し,脳コリンエステラーゼ阻害率はそれぞれ14.6および4.6 %であった.

 雌では,哺育5日において100および300 mg/kg群で脳コリンエステラーゼ活性が有意な低値を示し,脳コリンエステラーゼ阻害率はそれぞれ13.8および30.3 %であった.回復期間終了時では対照群と300 mg/kg群との間に差は認められなかった.

8) 尿検査

 各群のケトン体陽性例の数は,対照群,30,100および300 mg/kg群でそれぞれ2,3,5および5例であり,100および300 mg/kg群でケトン体陽性例が増加した.また,30 mg/kg群の1例が潜血3+を示したが,この例のみの変化であり,100および300 mg/kg群で認められないことから偶発的な変化と考えられた.その他の検査項目に被験物質投与によると考えられる変化は認められなかった.

9) 器官重量(Table 3)

 雄の投与期間終了時では,胸腺が対照群に比べ100 mg/kg群で実重量,300 mg/kg群で実重量および相対重量が統計学的に有意な高値を示した.さらに300 mg/kg群で肝臓,脾臓および腎臓の相対重量が有意な高値を示し,唾液腺および精巣上体の実重量が有意な低値を示した.その他,100 mg/kg群で脳の実重量が有意な高値を示したが,用量に関連しない変化であった.回復期間終了時では,300 mg/kg群で精巣および精巣上体の実重量および相対重量が有意な低値を示し,心臓の相対重量が高値を示した.

 雌では,哺育5日に300 mg/kg群で腎臓の実重量および相対重量が有意な高値を示し,心臓の相対重量が有意な高値を示した.回復期間終了時では,いずれの測定器官にも対照群と300 mg/kg群との間に差は認められなかった.

10) 剖検所見

 死亡・切迫解剖した動物は300 mg/kg群の雌のみに認められた.胃から直腸の全長にわたるガスによる内腔拡張が特徴的な肉眼所見であり,被験物質投与による特異的な変化と考えられた.加えて,脾臓および胸腺の萎縮が各4例に認められた.さらに,肺の赤色化および赤色斑/区域や胃の黒色斑/区域が2例,肺気腫が1例に認められた他,胸腺の浮腫および赤色斑/区域,皮下の出血および赤色化,腹腔内出血,腎臓の赤色斑/区域,腟の黒色内容物など出血を主体とする循環障害ならびに消化管の内腔拡張に起因する壁の菲薄化も各1例に認められた.これらの所見は少数例の発生とはいえ同週齢の無処置ラットには稀な変化であることから同様に被験物質投与の直接的あるいは間接的影響と考えられた.胃の結節については,漿膜面に存在し周囲組織と色調に違いがない直径1 mm以下の軽微な病変であり被験物質投与に起因する変化とは考えなかった.また,回復試験群の投与20日で死亡した300 mg/kg群の1例においても同様に肺の赤色斑/区域,胃の黒色斑/区域および皮下の赤色化が認められ,さらに下顎リンパ節の赤色化ならびに肝臓の白色斑/区域を伴っていた.

 投与期間終了時の雄の剖検では,妊娠を成立させた300 mg/kg群の1例の精巣に両側性萎縮が認められた.同病変は同週齢の無処置ラットにはほとんど観察されない病変であり,後述する回復期間終了時の同群雄に類似病変が高率にみられていること,ならびにその組織像から被験物質投与の影響と考えられた.被験物質投与群に観察されたその他の所見はいずれも1例のみに発生した限局性の軽度な病変であり,その発生に用量との関連はなかった.

 回復期間終了時の雄では300 mg/kg群で精巣萎縮が4例に認められ,有意な発生数の増加を示した.両側性の発生であり,発生数も多いことから被験物質投与の影響と考えられた.精巣および精巣上体以外に観察されたその他の所見は同週齢の無処置ラットにしばしば認められる病変と発生数,程度ならびに形態学的特徴に差がないことから自然発生病変と考えられた.

 自然分娩した雌および回復期間終了時の雌に観察された所見は,いずれも対照群のみの発生,1例のみの発生あるいは用量との関連のない発生を示した.

 妊娠を成立させなかった雄の30 mg/kg群の1例および300 mg/kg群の2例では異常所見は認められなかった.一方,妊娠不成立の雌では子宮および腟に粘液の貯留による内腔拡張が認められた.これは雌動物に非特異的に観察される所見である. 

11) 組織所見(Table 4, 5)

 著明な体重低下とともに,腹部膨満を伴って衰弱死あるいは切迫解剖した4例では,前胃あるいは腺胃にびらんが認められ,そのうちの2例では前胃粘膜の肥厚も観察された.さらに1例では回腸にも潰瘍が認められた.また,衰弱死あるいは衰弱による切迫解剖例では,全例に膵臓外分泌腺腺房細胞のチモーゲン顆粒の減少,肝細胞の萎縮があり,胸腺の萎縮,脾臓における髄外造血の低下,リンパ濾胞の萎縮,骨髄における造血の低下,肺のうっ血・水腫も観察された.

 一方,体重減少を伴わずに急性の経過をとって死亡した3例ではいずれも気管に著明な急性の炎症が認められ気管の上皮は剥離して内腔には粘液および好中球を主体とした滲出液が貯留しており,気管内腔を狭窄していた.これに伴って全例で肺のうっ血・水腫,副腎皮質の肥大が認められた他,2例に心耳の拡張が,3例に腺胃のびらんがあり,1例では脾臓の髄外造血,骨髄の造血がむしろ増加し,これとともに脾臓のリンパ濾胞の萎縮も認められた.また,回復試験群の投与20日に死亡した300 mg/kg群の1例でも他の急死した動物と同様に肺のうっ血・水腫,気管の炎症,上皮剥離および内腔狭小化ならびに副腎皮質肥大に加え,骨髄の出血,下顎リンパ節および肝臓のうっ血ならびに肝細胞巣状壊死などが観察された.

 なお,毒性試験群で肉眼的に内腔拡張の認められた小腸および大腸の粘膜に著変はなかった.その他に偶発所見と思われる変化として,腎臓の尿細管の空胞化,腎臓および副腎の出血,腟炎,下垂体のラトケ嚢,肝臓の小葉辺縁帯肝細胞の空胞化などが観察された.

 投与期間終了時の妊娠を成立させた雄および哺育5日の雌では被験物質投与に起因した変化として,300 mg/kg群の雄2例,雌1例に腺胃のびらんが認められたほか,雄では全例の精巣でセルトリ細胞の空胞化が観察され,そのうち1例で精細管の萎縮を伴っていた.これと共に雄の全例で精巣上体管内の精子が減少しており,2例では腺管内に変性した胚上皮細胞と思われる細胞残渣の貯留が認められた.なお,これらの変化はいずれも中用量群および低用量群には観察されなかった.

 妊娠を成立させなかった30 mg/kg群の1例に組織学的異常は観察されず,妊娠不成立の原因は不明であった.一方,300 mg/kg群の2例では,精巣にセルトリ細胞の空胞化,精巣上体における管腔内の精子減少および細胞残屑の出現が観察され,1例では局所的ではあったが精細管の萎縮も伴っていたことからこれらの変化が妊娠を成立させなかった原因であった可能性が高い.妊娠不成立の雌では子宮の萎縮,腟の内腔拡張および炎症があり,これらの変化が不妊の原因と考えられた.

 その他,雌雄ともに対照群あるいは300 mg/kg群に軽微な組織学的変化が観察されたが,いずれも当施設で観察される自然発生性変化であり,発生率にも対照群と高用量群との間に差がみられないことから,被験物質投与とは関連のない変化であると判断される.なお,雄の高用量群の1例に,心耳に限局した心筋炎と膵臓に浮腫を伴った炎症性細胞浸潤がありこれに伴って膵腺房細胞のチモーゲン顆粒の減少も認められたが,その毒性学的意義は明らかにすることは出来なかった.

 回復期間終了時では,被験物質投与に起因した変化として,300 mg/kg群の雄全例の精巣にセルトリ細胞の空胞化を伴った精細管の萎縮があり,そのうち4例では間細胞(ライディッヒ細胞)の過形成も認められ,精巣の変化は投与期間終了時定期解剖例よりも増強していた.これと共に雄の全例で精巣上体腺管内の精子が減少しており,3例では腺管内に変性した胚上皮細胞と思われる細胞残渣の貯留が認められた.また,雌で肝臓の微小肉芽腫の発生が有意に減少していたが,毒性学的に意義のある変化ではなかった.その他,雌雄ともに対照群あるいは高用量群に軽微な組織学的変化が観察されたが,いずれも当施設で観察される自然発生性変化であり,発生率にも対照群と300 mg/kg群との間に差がみられないことから,被験物質投与とは関連のない変化であると判断される.

 毒性試験群の精子形成サイクルの観察では,100 mg/kg群で対照群に比べセルトリ細胞当たりのプレレプトテン期精母細胞およびパキテン期精母細胞のそれぞれの比率が有意な低値を示した.妊娠を成立させなかった30 mg/kg群の1例および300 mg/kg群の2例もそれぞれの細胞数は対照群と同程度であった.なお,肉眼的に両側性精巣萎縮のみられた300 mg/kg群雄の1例では,精巣の変性性・壊死性変化が強かったことから精子形成サイクルのステージ分類が出来なかったために評価対象から除外した.

 回復期間終了時の300 mg/kg群では肉眼的に両側性の萎縮がみられ,組織学的にも精巣障害が顕著であったために肉眼的に萎縮がなかった1例を除いて各種細胞のカウントが行えなかった.したがって,評価できなかった.

2. 生殖発生毒性

1) 交尾および受胎能(Table 6)

 対照群を含む全ての投与群で全例が交尾した.受胎は30 mg/kg群で1例および300 mg/kg群で2例が成立せず受胎率はそれぞれ91.7および77.8 %であり,他の群ではいずれも100 %であった.

 性周期観察では,異常性周期を示す動物が対照群および300 mg/kg群でそれぞれ1および2例に認められたが,300 mg/kg群の1例は偽妊娠の状態を示すものであり異常性周期発現率にも差は認められなかった.また,平均性周期にも対照群と被験物質投与各群との間に差は認められなかった.

2) 分娩および哺育(Table 7)

 対照群を含むいずれの投与群でも分娩状態に異常は観察されなかった.各群の妊娠期間,黄体数,着床痕数,出産児数および出産生児数はほぼ同様な値を示し,出産率,着床率,分娩率,出生率および性比に群間差は認められなかった.雌新生児の4日の生存率が対照群に比べ300 mg/kg群で統計学的に有意な低値を示し,同群の雄新生児および雌雄を合わせた新生児の4日の生存率も低値傾向を示した.哺育0日に死亡児が30,100および300 mg/kg群でそれぞれ4,3および9例に観察されたが,300 mg/kg群の9例の内8例は同一腹であり,この母動物は分娩直後に死亡していた.喰殺児はいずれの群にも観察されなかった.

3) 新生児の形態,体重および剖検所見

 新生児の外表検査では,異常所見は認められなかった.

 体重変化では,300 mg/kg群で哺育4日の体重が対照群と比べ雄で有意な低値,雌で低値傾向が認められた.

 哺育期間中の死亡児の剖検では,異常所見は認められなかった.

 哺育4日の剖検では,胃の赤色斑/区域が300 mg/kg群の雄で4例に観察され,対照群に比べ有意な発生数の増加が認められた.しかし,この所見は4例中3例が同一腹に認められたものであった.その他,肺の褐色斑/区域,腎盂拡張,尿管拡張,脳の褐色斑/区域あるいは皮膚の結節が雌雄の対照群を含む各群に単発性あるいは少数例に観察された.

考察

1. 反復投与毒性

 投与期間中に雌の300 mg/kg群で6例の死亡動物および2例の切迫解剖動物が認められた.これらの動物の死亡あるいは切迫解剖に至る経過として,特に著明な一般症状の変化がなく急死する例と徐々に体重の低下と腹部膨満を伴って全身状態が悪化する2つのタイプに分けられた.前者の経過をとって死亡した例では,病理所見としていずれも気道(気管)に粘膜上皮細胞の剥離を伴った著明な急性炎症があり,気道は滲出液により,著しく狭小化していた.したがって,これらの例の主な死因は気道の急性炎症による窒息死と考えられた.一方後者の経過を辿って死亡した例は,いずれも胃あるいは回腸にびらん・潰瘍が認められ,膵臓の外分泌腺腺房細胞のチモーゲン顆粒の減少と肝臓をはじめとする幾つかの器官に萎縮が認められたことから,消化管障害に伴う栄養状態の悪化が主な死因と考えられた.これらの所見から,本被験物質は,局所刺激性を有しており,そのために経口的に摂取した場合は消化管障害に,また消化管内容物の逆流などにより気道内に入った場合には気道に急性炎症を惹起し,呼吸障害に至るものと考えられた.その他,脾臓および胸腺の萎縮も伴っていたが全例ではないことから,リンパ・造血器系への直接的な影響を示すものではなく,より状態が悪い動物にみられた非特異的な変化である可能性が高い.

 一般状態の変化として,雌雄の30 mg/kg以上の投与群で流涎が観察された.流涎は用量に関連して発現例数あるいは発現日数が増加していること,また,2週間投与予備試験においても100 mg/kg以上の投与群で観察されていることから被験物質投与の影響と考えられた.被験物質は強酸性物質であり,流涎はその刺激性に起因したものとも考えられた.雌雄の300 mg/kg群で認められた軟便も例数は少ないものの後述の理由から被験物質投与の影響と考えられた.30 mg/kg群で認められた軟便は雌雄いずれも1回のみの発生であり,被験物質投与との関連は明らかではなかった.

 体重では,300 mg/kg群の雄では投与期間を通じて,雌では交配前投与期間に体重増加抑制が認められ,被験物質投与の影響が示唆された.

 摂餌量では,雌雄ともに被験物質投与の影響は認められなかった.

 機能観察総合検査では,詳細な症状観察で雌雄ともに100および300 mg/kg群で一般状態と同様に流涎を示す動物数の増加が認められた.また,雌の300 mg/kg群で投与期間中に移動量の軽度な減少を示す動物数の増加が認められ,同群の投与期間終了時および哺育4日の自発運動量が低値を示した.これら自発運動の低下は被験物質投与に起因した変化と考えられた.

 臨床検査では,雄の投与期間終了時の血液学検査において300 mg/kg群でヘモグロビン量および赤血球数が低値を示し,貧血であると考えられた.この変化は2週間投与予備試験においても認められており,被験物質投与によるものと考えられた.回復期間終了時では,300 mg/kg群で白血球数,好中球数が高値を示し,炎症性の変化であると考えられた.雌の哺育5日の検査では300 mg/kg群で血小板数が低値を示し,機序は不明であるが被験物質投与の影響と考えられた.雌の回復期間終了時では,300 mg/kg群でヘモグロビン量が高値を示したが,軽度な変化であり毒性学的意義は低いと考えられた.

 血液凝固能検査では,雌雄のいずれの時期にも被験物質投与に起因すると考えられる変化は認められなかった.

 血液生化学検査において,雄の投与期間終了時および雌の哺育5日に300 mg/kg群で総蛋白が低値傾向を示し,機序は不明であったが2週間投与予備試験においてもその変化は認められており,被験物質投与の影響と考えられた.雌の哺育5日の検査において全ての投与群でコリンエステラーゼが低値を示し,被験物質投与の影響と考えられた.しかしながら,血漿コリンエステラーゼの機能は不明であるが,コリン作動性の神経伝達にはなんの関与もしていないことが知られており6),コリン作動性効果の評価については後述する脳コリンエステラーゼ活性検査によって評価した.また,300 mg/kg群でカリウムが高値を示し,被験物質投与の影響と考えられたが機序は不明であった.雌の回復期間終了時では,300 mg/kg群でアルカリホスファターゼが高値を示したが,回復期間のみの変化であることから被験物質投与とは関連のない変化と判断した.

 尿検査では,雄の投与期間終了時に100および300 mg/kg群でケトン体陽性例が増加したが,軽度な変化であり被験物質投与との関連は明らかでなかった.

 コリンエステラーゼ活性検査では,投与期間終了時に雄の300 mg/kg群および雌の100および300 mg/kg群で脳コリンエステラーゼ活性が低値を示し,被験物質投与の影響と考えられた.これらの変化から,脳コリンエステラーゼ活性が阻害されることにより,コリン作動性の神経伝達系への影響があると考えられた.コリンエステラーゼ活性抑制を示す有機リン剤の代表的な毒性症状として流涎および下痢が上げられることから7),流涎や300 mg/kg群で認められた軟便は被験物質のコリンエステラーゼ活性抑制に関連した変化と考えられた.しかしながら,この変化は休薬により回復すると考えられた.

 病理学検査では,毒性所見としては300 mg/kg群で精巣障害が観察されたが,投与期間終了時解剖例において,明らかな精細管萎縮あるいは胚上皮細胞障害の認められない例においてもセルトリ細胞の空胞化が観察されていることから,精巣障害はセルトリ細胞障害に起因した変化であることが想定される.なお,この変化は,回復試験群においてより著明であることから,遅延性あるいは進行性病変と考えられる.精巣や精巣上体重量もこれを反映して回復期間終了時により明確な減少が認められた.また,精子形成サイクルの観察において100 mg/kg群でプレレプトテン期精母細胞およびパキテン期精母細胞のセルトリ細胞当たりの比率が低下したが,この変化も被験物質の精巣毒性を示唆するものと考えられた.なお,毒性試験群の300 mg/kg群の1例と回復試験群の300 mg/kg群の4例については精子形成サイクルのカウントができなかった.その他,雄の300 mg/kg群で肝臓,脾臓および腎臓の相対重量の高値,唾液腺の実重量の低値は体重の低値に起因する変化と考えられた.さらに回復期間終了時の心臓の相対重量の高値も体重の低値に起因する変化と考えられた.また,胸腺重量が100および300 mg/kg群で高値を示し,用量に関連した変化であることから被験物質投与の影響が示唆された.しかし,機序は不明であった.哺育5日の雌の300 mg/kg群で心臓および腎臓重量の高値も被験物質投与の影響が疑われた.

 病理学検査で認められた精巣毒性および臨床検査の一部で回復性が確認できなかったが,その他の変化は回復していた.

 以上のことから,O,O'-ジエチルジチオリン酸の30 mg/kg/day以上の投与により雌雄に流涎,雌に血漿コリンエステラーゼの低値が認められた.したがって,本試験条件下におけるO,O'-ジエチルジチオリン酸の反復投与による無影響量は雌雄ともに確認できず30 mg/kg/day未満と判断された.

2. 生殖発生毒性

 平均性周期および交尾能に被験物質投与の影響は認められなかった.300 mg/kg群で妊娠不成立と判定された雄2例について,病理組織学検査で精巣にセルトリ細胞の空胞化,精巣上体における管腔内の精子減少および細胞残屑の出現が観察され,1例では局所的ではあったが精細管の萎縮も伴っていたことからこれらの変化が妊娠を成立させなかった原因であると推察された.同群では前述のごとく明らかな精巣毒性が認められており,回復期間終了時の方がよりセルトリ細胞の空胞化が進んでいたことから投与期間の延長に伴い妊孕性が低下するものと考えられた.

 分娩時観察では,分娩状態の異常はいずれの投与群でも認められなかった.新生児の外表検査および哺育4日の剖検では異常は認められなかった.300 mg/kg群で新生児の哺育4日の体重増加が抑制され,雌新生児の4日の生存率にも有意な低値が認められ,被験物質投与による新生児の発育阻害が示唆された.

その他,妊娠期間,妊娠黄体数および着床数には被験物質投与の影響は認められず,出産児数,出産生児数,性比および出産率にも影響は認められなかった.

 以上のことから,O,O'-ジエチルジチオリン酸の生殖能に及ぼす影響は100および300 mg/kg/day投与で精巣毒性が認められたことから雄の無影響量は30 mg/kg/day,雌は300 mg/kg/day投与でも影響は認められず300 mg/kg/dayと判断された.児動物の発生・発育に及ぼす影響は300 mg/kg/day投与で雌新生児の4日の生存率の有意な低値および哺育4日の体重増加抑制が認められ,無影響量は100 mg/kg/dayと判断された.

文献

1) 高橋道人(編):「精巣毒性評価のための精細管アトラス」ソフトサイエンス社,東京(1994)pp.15-20.
2) Snedecor GW, Cochran WG:メStatistical Methodsモ, 8th ed., Iowa State University Press, Ames(1989) pp.251-252.
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5) Hollander M, Wolfe DA: Nonparametric Statistical Methods, Second edition, John Wiley & Sons, New York(1999)pp.124-129.
6) 厚生省生活衛生局食品化学課監修:「食品中の残留農薬における毒性評価の原則」社団法人日本食品衛生協会,東京(1998)pp.65-66.
7) 日本トキシコロジー学会教育委員会編集:「トキシコロジー」朝倉書店,東京(2002)pp.116-117.

連絡先
試験責任者: 田中亮太
試験担当者: 木戸亮子,増山久美子,森山知通,常木亜沙子,牧原丈千,芝田真希,志賀敦史,宮島留美子,今井 清
7食品農医薬品安全性評価センター
〒437-1213 静岡県磐田郡福田町塩新田字荒浜582-2
Tel 0538-58-1266 Fax 0538-58-1393

Correspondence
Authors: Ryota Tanaka(Study director)
Ryoko Kido, Kumiko Masuyama,
Tomomichi Moriyama,
Asako Tsuneki,
Takechi Makihara, Maki Sibata,
Atsushi Shiga, Rumiko Miyajima,
Kiyoshi Imai
Biosafety Research Center, Foods, Drugs and
Pesticides(An-Pyo Center)
582-2 Shioshinden Arahama, Fukude-cho,
Iwata-gun, Shizuoka, 437-1213, Japan
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