2,3,6-トリメチルフェノールのラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of 2,3,6-Trimethylphenol in Rats

要約

2,3,6-トリメチルフェノールの0(コーンオイル),1000,1400および2000 mg/kgを1群5匹からなる5週齢のSprague-Dawley系(Crj:CD)雌雄ラットに単回経口投与した.

その結果,雄では,1400 mg/kg投与群の1例,2000 mg/kg投与群の4例が死亡した.雌では,2000 mg/kg投与群で全例が死亡した.雌雄ともに1000 mg/kg投与群でも投与後1時間以内に側臥位あるいは腹臥位姿勢を示し,刺激に対して無反応となった.

体重推移においては,雄では用量依存的な増加抑制傾向がみられた.雌の1000および1400 mg/kg投与群では,観察第8日まで用量依存的に軽度な体重増加の抑制傾向がみられたが,その後回復した.

死亡例の剖検において,重度の循環障害を疑わせる心嚢水の増量および胸水の貯留,肺および肝臓の暗赤色化がみられた.また,腺胃粘膜の白濁や赤色化,胃の拡張等がみられた.

以上の結果より,2,3,6-トリメチルフェノールの本試験条件下におけるLD50値は,雌雄ともに1400〜2000 mg/kgの間にあると推定された.

方法

1. 被験物質および投与検体の調製法

被験物質として,本州化学工業(株)(和歌山)より提供された2,3,6-トリメチルフェノール(ロット番号:971209,純度:99.67 %,不純物:2,4,6-トリメチルフェノール0.08 %,2,5-キシレノール0.05 %,比重:0.963(80℃),融点:62℃,沸点:226℃,白色固体)を使用した.

被験物質は,常温では固体で非常に硬いため,水浴中(約60℃)で融解し,これを秤量した.また,媒体であるコーンオイルを加えて検体を調製する時も,水浴(約60℃)中で実施した.なお,2.00および200 mg/mLのコーンオイル(ロット番号:V7R2020,ナカライテスク(株))溶液中における被験物質は,室温・遮光の条件下で8日間安定であり,また,各投与検体中の平均含量は,所定濃度内であることを確認した.

2. 投与量の設定および投与方法

本試験における投与量は,予備試験の結果を基に決定した.すなわち,被験物質の500,1000および2000 mg/kgを雌雄ラット各3匹に単回経口投与した結果,投与後1週間の観察期間中に,2000 mg/kg投与群の雌雄各2例が死亡した.1000 mg/kg投与群の雌雄では死亡が認められず,観察期間中の体重増加も順調であったことから,被験物質の最小致死量は1000 mg/kgから2000 mg/kgの間にあると推測された.そこで,本試験においては,1000,1400および2000 mg/kg(公比約1.4)投与群を設定した.また,溶媒がコーンオイルであることから,溶媒を被験物質投与群と同じ容量を投与する溶媒対照群を設定した.

投与容量は,体重1 kg当たり10 mLとし,投与液量は投与前約18時間絶食させた後,投与直前に測定した体重を基に算出し,ラット用胃管を用いて強制的に単回経口投与した.給餌は投与後約3時間に再開した.

3. 動物および飼育方法

4週齢のSprague-Dawley系(Crj:CD, SPF)雌雄ラットを,日本チャールス・リバー厚木飼育センターから購入し,飼育環境への馴化と検疫を兼ねて7日間飼育した.

全飼育期間を通じ,動物を金属製金網床ケージに1匹ずつ収容し,温度23.5〜25.0℃,湿度48〜64 %,換気回数約15回/時,照明12時間(7時〜19時点灯)に制御された飼育室で,固型飼料(CE-2,日本クレア)および水道水(秦野市水道局給水)を自由に摂取させて飼育した.

4. 群構成

試験には予備飼育中の一般状態に異常が認められなかった雌雄各20匹を用い,投与前日の体重を基に雌雄とも体重別層化無作為抽出法により1群5匹からなる4群に分け,5週齢で使用した.

5. 観察および検査

一般状態の観察は,投与日においては投与直後から1時間まで連続して行い,以降は約1時間間隔で投与後6時間まで実施した.観察第2日から15日までは毎日1回行った.体重は,投与直前,観察2,4,8,11および15日に測定した.投与後の死亡例は,発見次第体重を測定した後,速やかに剖検した.また,観察第15日に生存例全例をペントバルビタールナトリウム麻酔下で放血屠殺して剖検した.

結果

1. 死亡動物(Table 1)

1000 mg/kg投与群では,雌雄ともに死亡は認められなかった.1400 mg/kg投与群では雄1例が観察第2日に,2000 mg/kg投与群では投与当日に雄4例および雌1例が,観察第2日に雌4例が死亡した.

2. 一般状態の観察

雄では,1000 mg/kg投与群で側臥位あるいは腹臥位姿勢,刺激に対して無反応,よろめき歩行,半眼,うずくまり姿勢や活動性の低下も観察されたが,投与後4時間には回復した.1400 mg/kg投与群では,側臥位あるいは腹臥位姿勢,刺激に対する無反応が観察されたが,投与後5 時間には回復した.2000 mg/kg投与群では,他の投与群と同様の症状のほか,呼吸不全や呼吸数減少,赤色尿,涙流,チアノーゼも観察され,他の投与群に比較してさらに強い毒性症状が発現し,その持続時間も長かった.

雌では,1000および1400 mg/kg投与群で側臥位あるいは腹臥位姿勢,刺激に対して無反応,うずくまり姿勢,閉眼や活動性の低下も観察されたが,その後回復し,投与後4時間に異常所見はみられなかった.2000 mg/kg投与群では,腹臥位姿勢,よろめき歩行,呼吸数減少,チアノーゼ等示す個体が多かった.生存例では,雌雄ともに観察第2日以降異常は認められなかった.

3. 体重測定

雄の1000および1400 mg/kg投与群では,観察15日まで軽度な体重増加の抑制傾向がみられた.雌の1000および1400 mg/kg投与群では,観察第8日まで軽度であるが用量依存的な体重増加の抑制傾向がみられたが,その後回復した.

4. 病理学検査

死亡した1400 mg/kg投与群の雄では,肺および肝臓の暗赤色化,胃の拡張,腺胃粘膜の赤色化が認められ,心嚢水の増量および胸水の貯留も観察された.2000 mg/kg投与群では,肺の暗赤色化が雌に,肝臓の暗赤色化が雌雄に,腺胃粘膜の白濁が雌雄にみられ,腺胃粘膜の一部剥離が雄に認められた.また,胃の拡張が雌にみられ,心嚢水の増量および胸水の貯留が雌に認められたほか,雄で膀胱内に暗色尿が観察された.

観察期間終了時解剖例では,前胃粘膜の白濁肥厚部が1000および1400 mg/kg投与群の雌雄と2000 mg/kg投与群の雄にそれぞれ観察され,1400 mg/kg投与群の雄には,胃と肝臓の癒着も認められた.

考察

2,3,6-トリメチルフェノールの1000,1400および2000 mg/kgを1群5匹からなる5週齢のSprague-Dawley系(Crj:CD)雌雄ラットに単回強制経口投与した.雄では1400 mg/kg投与群で1例,2000 mg/kg投与群で4例が死亡し,雌では2000 mg/kg投与群で5例が死亡した.毒性症状として雌雄ともに1000 mg/kgの低用量投与群でも投与1時間以内に側臥位あるいは腹臥位姿勢を示し,刺激に対して無反応となった.これらの毒性症状の強さおよびその持続は用量依存的に増強し,雄よりも雌で著明であり,雌の2000 mg/kg投与群では観察第2日までに全ての個体が死亡した.

体重推移において,雌雄とも軽度ではあるが用量依存的な増加抑制傾向がみられた.

死亡例の剖検において,心嚢水の増量および胸水の貯留が認められたほか,肺および肝臓の暗赤色化がみられ,重度の循環障害が疑われた.

これらのことより,2,3,6-トリメチルフェノールの本試験条件下におけるLD50値は,雌雄ともに1400〜2000 mg/kgの間にあると推定された.

連絡先
試験責任者:大原直樹
試験担当者:勝村英夫,高島宏昌,松本浩孝,一原佐知子,稲田浩子,永田伴子,畔上二郎,安生孝子,三枝克彦
(財)食品薬品安全センター 秦野研究所
〒257-8523 神奈川県秦野市落合729-5
Tel 0463-82-4751Fax 0463-82-9627

Correspondence
Authors:Naoki Ohara(Study director)
Hideo Katsumura, Hiromasa Takashima, Hirotaka Matsumoto, Sachiko Ichihara, Hiroko Inada, Tomoko Nagata, Jiro Azegami, Takako Anjo, Katsuhiko Saegusa
Hatano Research Institute, Food and Drug Safety Center
729-5 Ochiai, Hadano-shi, Kanagawa, 257-8523, Japan
Tel +81-463-82-4751Fax +81-463-82-9627