6-tert-ブチル-2,4-キシレノールのラットを用いる
反復経口投与毒性・生殖発生毒性併合試験

Combined Repeat Dose and Reproductive/Developmental Toxicity Screening Test of
6-tert-Butyl-2,4-xylenol by Oral Administration in Rats

要約

 6-tert-ブチル-2,4-キシレノールは化学産業の分野において合成樹脂や接着剤の原料として使用されている化合物である.本化合物の毒性については,経口投与によるマウスのLD50が530 mg/kg1) と報告されているが,ヒトや実験動物の生体に及ぼす影響についてはほとんど知られていない.一方,本化合物の類似物質である2,4-キシレノール(2,4-ジメチルフェノール)については,経口投与によるラットのLD50が3,200 mg/kg,マウスのLD50が809 mg/kgなどが報告されいる2).今回,6-tert-ブチル-2,4-キシレノールの毒性学的性質を評価するために反復経口投与毒性・生殖発生毒性併合試験を行った.すなわち,6-tert-ブチル-2,4-キシレノールの0 (溶媒対照),6 ,30および 150 mg/kg/dayをSprague-Dawley(Crj:CD(SD))ラットの雌雄に交配前 2週間および交配期間 2週間を通じて連日経口投与し,さらに雄では交配期間終了後17日間,雌では妊娠期間を通じて分娩後の哺育 3日まで連続投与し,親動物に対する反復投与毒性および生殖能ならびに児動物の発生・発育に及ぼす影響について検討した.

1. 反復投与毒性

 一般状態には被験物質投与の影響は認められなかったが,雌の 150 mg/kg群で妊娠末期に 2例の死亡( 1例は分娩中に死亡)が観察された.雌の 150 mg/kg群で妊娠期間中に体重増加抑制が認められたが,雄の体重および雌雄の摂餌量に被験物質投与の影響は認められなかった.雄の血液学検査では,150 mg/kg 群でヘマトクリット値,ヘモグロビン量および赤血球数が低値,網赤血球比率が高値を示し,軽度ながら貧血傾向が認められた.血液生化学検査では,30および 150 mg/kg 群で GOTの低値およびγ-GTPの高値が認められた.器官重量は雄の 30 mg/kg 以上の投与群および雌の 150 mg/kg 群で肝臓および腎臓重量が増加または増加傾向を示し,剖検所見では雄の 30 および 150 mg/kg群で肝臓の肥大が,雌の 150 mg/kg群で肝臓および腎臓の肥大が認められた.病理組織学所見では,被験物質投与の影響と考えられる所見として,雄の 150 mg/kg群で肝臓の小葉中心性肝細胞腫脹が,雌の 150 mg/kg群で哺育 4日剖検動物に肝臓の小葉中心性肝細胞腫脹,肝細胞変性,小葉中心性細胞壊死および単細胞壊死が,死亡例および全児死亡の認められた動物に舌および食道の錯角化症,肝臓の小葉中心部の肝細胞腫脹や壊死をはじめ種々の変性や単細胞壊死と細胞分裂の増加が認められた.また,雌の同群では,腎臓の近位尿細管の変性や蛋白円柱および腎乳頭部の PAS陽性顆粒の沈着などが観察された.

2. 生殖発生毒性

 交尾能,受胎能および性周期観察では,被験物質投与の影響は認められなかった.

 分娩時観察では,150 mg/kg 群で 1例が分娩中に死亡した.また,同群で哺育期間中に全児死亡の認められた動物が 3例観察され,新生児の哺育 4日生存率が低値傾向を示し,分娩あるいは哺育機能の障害を惹起する可能性が示唆された.なお,妊娠期間および分娩時間に被験物質投与の影響は認められなかった.新生児の外表検査では,外表異常は観察されず,新生児の体重も哺育 4日まで順調に増加した.死産児,死亡児および哺育 4日の剖検でも被験物質投与によると考えられる異常所見は認められなかった.

 以上の結果から,6-tert-ブチル-2,4-キシレノールの反復投与毒性は,雄では 30 mg/kg/day 以上,雌では 150 mg/kg/dayの投与で認められ,無影響量は雄で 6 mg/kg/day,雌で 30 mg/kg/day と推察される.また,雄の生殖に及ぼす影響は 150 mg/kg/day投与によっても認められず,無影響量は150 mg/kg/dayと推察される.雌の生殖能および児動物の発生・発育に及ぼす影響は 150 mg/kg/day投与で認められ,無影響量は 30 mg/kg/day と推察される.

方法

1. 被験物質

 6-tert-ブチル-2,4-キシレノール( CAS No.1879-09-0, 東京化成工業(株),Lot.No. FGC01, 純度 98.5%, 分子量178.30, 凝固点21.5℃)はごく薄い黄色を呈した透明の液体であり,使用時まで室温条件下で密封遮光保管した.

 被験物質は,コーンオイル(ナカライテスク(株))に溶解し 1.2, 6 および 30 mg/mlの濃度になるよう各群の投与液を調製した.調整後は,使用時まで冷暗条件下で密閉保管した.1.2 mg/mlの場合,冷暗条件下で少なくとも 8日間安定であることが確認されている.

 投与液の濃度分析は調製開始時に調製した各群のバッチから無作為にサンプルを抽出し実施した.その結果,設定濃度の99.3〜104%の範囲で調製されておりほぼ所定量の6-tert-ブチル-2,4-キシレノールが含有されていたことを確認した.

2. 使用動物および飼育条件

 試験には,日本チャールス・リバー(株)から購入した 8週齢のSprague-Dawley(Crj:CD(SD),SPF)系雌雄ラットを使用した.購入した動物は, 7日間検疫・馴化飼育した後,一般状態に異常が認められなかった動物を 8日間の予備飼育後,10週齢で群分けして試験に用いた.群分け終了時の体重は,雄で 339〜400 g ,雌で 226〜265 g であった.

 動物は,温度22〜26℃,湿度45〜65%,換気回数15回/時間,照度 150〜300 lux ,照明時間12時間(午前 7時点灯,午後 7時消灯)に設定されたバリアシステムの飼育室で飼育した.アルミ製前面・床ステンレス網目飼育ケージに動物を1匹ずつ収容し飼育した.妊娠18日以降の母動物は哺育 4日までアルミ製前面・床ステンレス網目飼育ケージに哺育トレーおよび巣作り材料(アルファードライ)を入れて飼育した.

 飼料は, オリエンタル酵母工業(株)製造の NMF固型飼料(放射線滅菌飼料)を使用し,飼育期間中自由に摂取させた.飲水は,水道水を自由に摂取させた.供給した飼料,水および巣作り材料には試験に支障を来す可能性の考えられる夾雑物の混在はなかった.

3. 群分け

 雌雄とも投与開始日の体重をもとに層別化し,無作為抽出法により 1群当たり12匹を振り分けた.

4. 投与量,群構成,投与期間および投与方法

 本試験の用量は,先に実施した予備試験の結果を参考にして決定した.すなわち,0, 75, 150, 300 および600 mg/kg を雄および雌に14日間連続投与した結果,600 mg/kg 群の雌雄で全例が死亡した.また,300 mg/kg 以上の投与群の雄および 600 mg/kg群の雌で体重増加抑制がみられ,150 mg/kg 以上の投与群の雄および 300 mg/kg以上の投与群の雌で摂餌量の低値がみられた.剖検時の器官重量は,75 mg/kg以上の投与群の雄および 150 mg/kg以上の投与群の雌で肝臓の実重量および相対重量がともに高値を示した.剖検では,150 および 300 mg/kg群の雄ならびに 300 mg/kg群の雌で肝臓の肥大がみられた.以上の結果を基に,本試験の投与期間が長期間になることを考慮し,高用量として 150 mg/kg/day を設定し,以下公比 5にて除し中用量を 30 mg/kg/dayおよび低用量を 6 mg/kg/dayにそれぞれ設定した.

 投与経路は,OECDガイドラインに準じて強制経口投与とした.投与容量は,体重100 g当たり0.5 mlとし,個体別に測定した最新体重に基づいて算出を行い,胃ゾンデを用いて毎日 1回強制経口投与した.対照群にはコーンオイルのみを同様に投与した.雄の投与期間は,交配前14日間と交配期間の14日間を含めて交配期間終了後17日間の連続45日間とした.雌の投与期間は,交配前14日間と交配期間中(交尾成立まで最長14日間)および交尾成立後の妊娠期間を通じて分娩後の哺育3日まで(41〜48日間)とした.なお,妊娠不成立の雌は妊娠25日の解剖前日までの44日間とした.

5. 観察および検査

1) 一般状態

 雌雄とも,全例について試験期間中毎日観察した。

2) 体重

 雄では,投与 1(投与開始日), 8 , 15, 22, 29, 36, 43および46日(剖検日)に測定し, 投与 1から43日までの体重増加量を算出した.雌では,投与 1(投与開始日),8 ,15および22日に測定し,投与 1から15日までの体重増加量を算出した.交尾の成立しなかった雌はそれ以後の投与29,36,43および46日に測定した.また,交尾が成立した雌は,妊娠 0,7 ,14および21日に,分娩した雌は哺育 0および 4日に測定し,それぞれ妊娠 0から21日および哺育 0から 4日までの体重増加量を算出した.

3) 摂餌量

 雄では,投与 1(投与開始日),8 , 15, 22, 29, 36, 43および45日(剖検前日)に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの間の摂餌量を求め平均 1日摂餌量を算出するとともに投与 1から15日および投与22から45日までの累積摂餌量を算出した.雌では,投与 1(投与開始日),8 および15日に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの摂餌量を求め平均 1日摂餌量を算出するとともに投与 1から15日までの累積摂餌量を算出した.また,交尾成立の雌は妊娠 0, 7, 14および21日に,分娩した雌は哺育 0および 4日に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの間の摂餌量を求め平均 1日摂餌量を算出するとともにそれぞれ妊娠 0から21日および哺育 0から 4日までの累積摂餌量を算出した.なお,交配期間中の摂餌量は測定しなかった.

4) 交配

 交配前14日間の性周期観察を行った雌を同群内の雄のケージに入れ 1対 1で最長 2週間毎晩同居させた.翌朝,腟垢中の精子確認をもって交尾成立とし,その日を妊娠 0日とした.交配結果から,各群について交尾率[(交尾成立動物数/同居動物数)× 100]および受胎率[(受胎動物数/交尾成立動物数)× 100)]を求めた.性周期の観察は交尾成立日まで行い,発情期から次の発情期までの間の日数を性周期日数とし平均性周期を算出した.

5) 自然分娩時および新生児の観察

 交尾成立動物は全例を自然分娩させた.分娩の確認は妊娠20日から25日の午前 9時〜10時に行い,この時間帯に分娩が完了していることを確認した個体についてその日を哺育 0日とした.午前10時以降に分娩したものは,翌日を哺育 0日とした.分娩を確認した全例について妊娠期間(哺育 0日の年月日から妊娠 0日の年月日を減じた日数)および出産率[(生児出産雌数/受胎雌数)×100 ]を求めた.

 新生児は哺育 0日に出産児数(生存児+死亡児)を調べ,分娩率[(総出産児数/着床数)×100]および出生率[(出産生児数/総出産児数)×100] を求めた.生存児については性別を判定するとともに外表異常の有無を調べた.また,哺育 0および 4日に雌雄別の同腹児重量を測定し,雌雄別 1 匹当たりの平均重量を算出した.哺育 4日の新生児の同腹児重量を測定後に新生児全例をエ−テル麻酔により屠殺し,主要器官の肉眼観察を行った.なお,哺育期間中の死亡児についても同様に主要器官の肉眼観察を行った.また,新生児の 4日生存率[(哺育 4日生児数/出産生児数)× 100]を求めた.

6) 臨床検査

 各群の雄全例について剖検時に実施した.動物を最終投与日(投与期間:45日間)の夕方から翌朝まで約16時間絶食させた後,エーテル麻酔下で開腹し,腹部大動脈から採血した.

a) 血液学検査

 検査はEDTA3-Kを添加した初血について,THMS H 6000 (テクニコン社)を用いて白血球数( WBC:暗視野板法),赤血球数(RBC: 暗視野板法),ヘマトクリット値(HCT: 全赤血球の容積より補正),ヘモグロビン量(HGB: シアンメトヘモグロビン法),平均赤血球容積(MCV:RBC, HCT より算出),平均赤血球血色素量(MCH:HGB, RBC より算出),平均赤血球血色素濃度(MCHC:HGB, HCT より算出),血小板数(PLT: 暗視野板法)および白血球百分率(フローサイトケミストリー法)を測定した.網赤血球(RC)比率の算定については網赤血球染色用ガラス毛細管キャピロット(テルモ(株))で染色後,血液塗抹標本を作製し鏡検した.

b)血液生化学検査

 検査はクリーンシール((株)ヤトロン)に血液を採取し,30 分間放置後 3,000 r.p.m. 7 分間遠心分離して得た血清について,多項目生化学自動分析装置CentrifiChem ENCORE II(ベーカー社)および EKTACHEM 700N(コダック社)を用いて総蛋白(ビューレット法),アルブミン(B.C.G.法),A/G (計算値),血糖(グルコースオキシダーゼ法),尿素窒素(ウレアーゼ改良法),クレアチニン(Jaff法),総ビリルビン(ジアゾ色素法),グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(Karmen改良法),グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(Karmen改良法),γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(Szasz 改法),カリウム(電極法),塩素(電極法),カルシウム(アルセナゾIII色素法)および無機リン(モリブデン酸アンモニウム法)を測定した.

6. 病理学検査

1) 剖検および器官重量

a) 死亡例

 発見後直ちに剖検した.皮膚,乳腺,リンパ節,唾液腺,胸骨,大腿骨(骨髄を含む),胸腺,気管,肺および気管支,心臓,甲状腺および上皮小体,舌,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸,肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,卵巣,子宮,腟,眼球,ハーダー腺,脳,下垂体および脊髄を10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.

b) 雄動物

 45日間投与した日の夕方から餌を除き,約16時間の絶食させた翌日にエ−テル麻酔下で安楽死させた.剖検では主要器官の肉眼的観察を行い,胸腺,肝臓,腎臓,精巣および精巣上体重量を測定し器官重量・体重比(相対重量)を求めた.また,全動物の重量測定器官に加えて脳,心臓,脾臓,副腎,精嚢,前立腺,下垂体および肉眼所見として変化が認められた器官・組織として肺および腹腔内の塊を10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.なお,精巣および精巣上体はブアン氏液で固定した.

c) 自然分娩した雌

 哺育 4日にエーテル麻酔下で放血安楽死させた.剖検では主要器官の肉眼的観察を行った後,胸腺,肝臓,腎臓および卵巣重量を測定し器官重量・体重比(相対重量)を求めた.また,全動物の重量測定器官に加えて脳,心臓,脾臓,副腎,下垂体および肉眼所見として変化が認められた器官・組織として腹腔内の塊を10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.剖検時に黄体数および着床数を調べ,着床率[(着床数/妊娠黄体数)× 100]求めた.

d) 自然分娩の認められない雌

 妊娠25日に,エーテル麻酔下で放血安楽死させた.剖検では主要器官の肉眼的観察を行った後,皮膚,乳腺,リンパ節,唾液腺,胸骨,大腿骨(骨髄を含む),胸腺,気管,肺および気管支,心臓,甲状腺および上皮小体,舌,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸,肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,卵巣,子宮,腟,眼球,ハーダー腺,脳,下垂体および脊髄を10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.着床痕が認められない動物は妊娠不成立と判定した.

e) 全児死亡の認められた雌

 生存児すべての死亡または喰殺が確認された日またはその翌日にエーテル麻酔下で放血安楽死させた.剖検では主要器官の肉眼的観察を行った後,皮膚,乳腺,リンパ節,唾液腺,胸骨,大腿骨(骨髄を含む),胸腺,気管,肺および気管支,心臓,甲状腺および上皮小体,舌,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸,肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,卵巣,子宮,腟,眼球,ハーダー腺,脳,下垂体および脊髄を10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.剖検時に黄体数および着床数を調べ,着床率[(着床数/妊娠黄体数)× 100]求めた.

2) 病理組織学検査

a) 死亡例

 皮膚,乳腺,リンパ節,唾液腺,胸骨,大腿骨(骨髄を含む),胸腺,気管,肺および気管支,心臓,甲状腺および上皮小体,舌,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸,肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,卵巣,子宮,腟,眼球,ハーダー腺,脳,下垂体および脊髄について実施した.

a) 妊娠を成立させた雄

 対照群と高用量群の全例の脳,胸腺,心臓,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,精巣およびすべての群の異常病変部組織.6 および 30 mg/kg群の全例の胸腺,肝臓,腎臓および副腎についても組織学検査を実施した.

b) 自然分娩した雌

 対照群と高用量群の全例の脳,胸腺,心臓,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,卵巣およびすべての群の異常病変部組織.6 および 30 mg/kg群の全例の胸腺,肝臓,腎臓および副腎についても組織学検査を実施した.

c) 妊娠を成立させなかった雄および妊娠不成立の雌

 全例の脳,胸腺,心臓,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,腟,子宮,卵巣,精巣,精巣上体,精嚢,前立腺および下垂体について実施した.

d) 全児死亡の認められた雌

 皮膚,乳腺,リンパ節,唾液腺,胸骨,大腿骨(骨髄を含む),胸腺,気管,肺および気管支,心臓,甲状腺および上皮小体,舌,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸,肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,卵巣,子宮,腟,眼球,ハーダー腺,脳,下垂体および脊髄について実施した.

7. 統計解析

 体重,摂餌量,黄体数,着床痕数,出産児数,性比,平均性周期,妊娠期間,着床率,分娩率,出生率,外形異常発現率,新生児の 4日生存率,器官重量,器官重量・体重比(相対重量),血液学および血液生化学検査値についてはまずBartlettの等分散検定4)を実施した.等分散の場合は一元配置分散分析を行った.分散が有意で各群の標本数が同数の場合は Dunnettの多重比較検定,各群の標本数が異なる場合は Scheffの多重比較検定で対照群と各投与群間の有意差を検定した.Bartlettの等分散検定で不等分散の場合は Kruskal-Wallis の順位検定を実施した.有意で各群の標本数が同数の場合は Dunnettの順位検定,各群の標本数が異なる場合は Scheffの順位検定で対照群と各投与群間の有意差を検定した.出産率,交尾率および受胎率についてはχ^2検定5, 6) を用いた.病理学検査の異常所見頻度についてはFisherの直接確率検定法 6)を用いた.なお,哺育期間中の新生児に関する成績は 1母体当りの平均を 1標本とした.有意水準は* :P< 0.05 および**:P< 0.01の 2段階とした.

結果

1. 反復投与毒性

1) 死亡および一般状態

 死亡が雌の150 mg/kg 群で妊娠23日に 2例観察された.このうち 1例は前日(妊娠22日)に自発運動低下が観察され,翌日死亡していた.他の 1例は分娩中に死亡した.その他の投与群および雄では投与期間を通じ死亡例は観察されなかった.雄の一般状態の観察では,脱毛(前肢)が 6 mg/kg群で 1例,眼分泌物が 30 mg/kg 群で 2例,泌尿生殖器出血が 150 mg/kg群で 1例,歯異常(上顎切歯折れ)が対照群,30および 150 mg/kg 群でそれぞれ 1, 2 および 1例に観察された.雌では,眼分泌物が 30 mg/kg 群で1例, 脱毛(前肢,後肢,頸部)が対照群および 6 mg/kg群で 1および 2例に観察された.

2) 体重(Fig.1,2)

 雄では,投与期間を通じ対照群と被験物質投与群との間に差は認められなかった.雌の150 mg/kg群で対照群に比べ妊娠0 から21日の間の体重増加量が低値を示した.6 および30 mg/kg群では対照群との間に差は認められなかった.

3) 摂餌量(Fig.3,4)

 雄では,対照群に比べ 150 mg/kg群で投与29から36日の平均1日摂餌量が高値を示したが,累積摂餌量には群間差は認められなかった.6 および 30 mg/kg 群では対照群との間に差は認められなかった.雌では,投与期間を通じ対照群と被験物質投与群との間に差は認められなかった.

4) 血液学検査(Table 1)

 対照群に比べ 150 mg/kg群でヘマトクリット値,ヘモグロビン量および赤血球数が低値,網赤血球比率が高値を,6 mg/kg群で網赤血球比率が高値を示した.また,150 mg/kg 群でリンパ球比率が低値,好中球比率が高値を示したが,軽微な変化であった.その他,6 mg/kg 群で赤血球数が,30 mg/kg群で白血球数がいずれも高値を示したが用量に関連した変化ではなかった.

5) 血液化学検査(Table 2)

 すべての被験物質投与群で対照群に比べ塩素が高値,カルシウムが低値を示した.また,30および 150 mg/kg群で対照群に比べ総蛋白,アルブミンおよびγ-GTP活性が高値,GOT が低値を示し,さらに 150 mg/kg群でカリウムが低値を示した.その他,30 mg/kg群で無機リンが高値を示したが用量に関連した変化ではなかった.

6) 器官重量(Table 3,4)

 雄では,対照群に比べ 30 mg/kg 群で肝臓の相対重量が高値を示し,150 mg/kg 群で肝臓,腎臓の実重量および相対重量がともに高値を示した.6 mg/kg 群では対照群との間に差は認められなかった.雌では,150 mg/kg 群で対照群に比べ肝臓および腎臓の相対重量が高値を示し,実重量も高値傾向を示した.6 および 30 mg/kg 群では,対照群との間に差は認められなかった.

7) 剖検所見

 死亡例は,雌の 150 mg/kg群で 2例認められた. 肝臓の肥大が 2例,肺の赤色化,小腸の黄色化,肝臓の白色斑/区域,腎臓および副腎の肥大が各1例に観察された.妊娠を成立させた雄では,被験物質投与群に多く観察された所見として,肝臓の肥大が 30 および 150 mg/kg群で 1および 9例に観察された.その他自然発生性と考えられる所見として,肺の有色斑/区域(褐色),肝臓の変形(分葉異常),腹腔内の塊(脂肪壊死),腎臓の嚢胞および瘢痕,精巣および精巣上体の萎縮が 30 または 150 mg/kg群で単発性に認められ,肝臓の黄色化が対照群で 2例に認められた.哺育 4日の雌では,被験物質投与群に多く観察された所見として,胸腺の萎縮が 6,30および 150 mg/kg群でそれぞれ 1, 2および 1例,肝臓の白色斑/区域および副腎の肥大が 150 mg/kg群で各 2例,腎臓の淡明化が 6および 150 mg/kg群で各 1例観察された.その他単発性に発生した所見として,胸腺の赤色斑/区域、小腸の有色斑/区域(黄色),肝臓の奇形結節(過形成),淡明化および赤色化,腎臓の腎盂拡大および肥大,被毛の菲薄化が被験物質投与群で単発性に認められた.妊娠を成立させなかった雄および妊娠が成立しなかった雌では,異常所見は観察されなかった.全児死亡の認められた雌では,哺育 4日までに全児死亡が認められた雌は 30 および 150 mg/kg群でそれぞれ 1および 3例であった.肝臓の肥大および赤色斑/区域が 150 mg/kg群でそれぞれ 3例(全例)および 2例観察された.その他観察された心臓の瘢痕,胸腺の有色斑/区域(褐色),肺の黒色斑/区域および結節,胃の白色斑/区域,小腸の白色化,肝臓の白色化,腎臓の黒色化,肥大および淡明化,副腎の肥大が単発性に認められた.

8) 病理組織学検査(Table 5,6)

 死亡例は 150 mg/kg群で 2例認められた.脾臓の色素沈着,肺の血管中膜肥厚,舌および食道の錯角化症,肝臓の硝子滴変性,小葉中心性壊死,単細胞壊死,小葉中心性肝細胞腫脹,腎臓の硝子滴変性,顆粒状蛋白円柱,乳腺の増生が 2例ともに観察された.妊娠を成立させた雄では,対照群に比較して 150 mg/kg群で明らかに多い発生を示した所見として,小葉中心性肝細胞腫脹が12例中 9例に観察された. また, 被験物質投与群でやや増加傾向のみられた所見として,副腎の空胞化が認められた.その他認められた所見は,対照群と被験物質投与群との間で発現数に差はなかった.6 および 30 mg/kg 群について胸腺,肝臓,腎臓および副腎を鏡検した結果,肝臓および腎臓には異常所見はなかった.哺育 4日の雌では,対照群に比較して 150 mg/kg群で明らかに多い発生を示した所見として,小葉中心性肝細胞腫脹が観察された.また,被験物質投与群でやや増加傾向のみられた所見として,胸腺の萎縮が観察された.対照群に認められず 150 mg/kg群のみに複数例の発生を示した所見として,肝臓の小葉中心性細胞壊死,肉芽巣,腎臓の乳頭部 PAS 陽性顆粒沈着,顆粒状蛋白円柱および近位尿細管の壊死が観察された.その他認められた所見は,対照群と被験物質投与群との間で発現数に差はなかった.6 および 30 mg/kg 群について胸腺,肝臓,腎臓および副腎を鏡検した結果,肝臓および腎臓の異常所見はなく,胸腺の萎縮が 150 mg/kg群と同程度の発生を示した.妊娠を成立させなかった雄は対照群で 1例認められ,脾臓の色素沈着,肝臓の脂肪化,腎臓の好塩基性化および副腎の空胞化が観察された.妊娠が成立しなかった雌は対照群で1例認められ,心臓の細胞浸潤、脾臓の色素沈着および肝臓の肉芽巣が観察された。全児死亡の認められた雌では,30および 150 mg/kg群でそれぞれ 1および 3例認められた.全動物において胸腺の萎縮,脾臓の色素沈着,舌の錯角化症および肝臓の脂肪化が観察され,さらに 150 mg/kg群で肺の出血,食道の錯角化症,肝臓の細胞分裂,小葉中心性肝臓細胞壊死,単細胞壊死,肝細胞腫脹,腎臓の蛋白円柱,尿細管好塩基化,細胞分裂,尿細管拡張,近位尿細管の壊死および空胞化がそれぞれ 3例中 2ないし 3例に観察された.

2. 生殖発生毒性

1) 交尾および受胎能(Table 7)

 交尾は,すべての群で全例成立した.

 受胎は,対照群で 1組が不成立であり,その他の被験物質投与群では全例が成立した.性周期観察では,偽妊娠(連続した発情休止期像)も観察されず,いずれの群もほぼ 4〜 5日の性周期を示し,平均性周期に群間差は認められなかった.

2) 分娩および哺育(Table 8)

 妊娠期間は各群で平均22.5〜22.9日の範囲であり,分娩時間の延長も認められなかった.150 mg/kg 群で 9匹の新生児を娩出し分娩中に死亡した動物が 1例観察され,剖検時の子宮内検査において子宮内残留胎児が 6匹確認された.また,同群で対照群に比べ着床痕数が減少した.哺育期間中に全児死亡の認められた動物が 4例観察された.その他,150 mg/kg 群で対照群に比べ哺育 4日の生存率が雌雄とも低値傾向を示したが,統計学的有意差は認められなかった.対照群,6 および 30 mg/kg群では,分娩状態の異常は観察されず,黄体数,着床痕数,性比,出産率,着床率,分娩率,出生率および新生児の哺育 4日生存率に群間差は認められなかった.

3) 新生児の形態,体重および剖検所見

 いずれの群にも外表異常は観察されなかった.哺育 4日までの体重は雌雄ともに群間差は認められなかった.哺育 4日までの死亡児の剖検では,胸腺の頸部残留が被験物質投与群で散見されたのみであった.哺育 4日の生存児の剖検では,胸腺の頸部残留,肝臓の白色斑/区域,淡明化および腎盂拡大が対照群,6 および 30 mg/kg 群で単発性に認められた.

考察

1. 反復投与毒性

 死亡例は雌の 150 mg/kg群で妊娠23日に 2例( 1例は分娩中に死亡)観察された.剖検で肝臓の肥大が,病理組織学検査で肝臓を中心とする異常所見が認められたことから、死因に肝障害が大きく関与したと考えられた.一般状態の観察で認められた異常所見はいずれも単発性または少数例の発生であり,被験物質投与によるものとは考えられなかった.

 雌の 150 mg/kg群で妊娠期間中に体重増加抑制が認められたが,雄については投与期間を通じ被験物質投与の影響は認められなかった.摂餌量において,雄の 150 mg/kg群で投与29から36日の平均 1日摂餌量が増加したが,軽度で,かつ体重に一致しない変化であり,背景値と比べて差はないことから,被験物質投与による影響ではないと判断された.

 雄の血液学検査では,150 mg/kg 群でヘマトクリット値,ヘモグロビン量および赤血球数が低値,網赤血球比率が高値を示し,軽微ながら貧血傾向が認められた.なお,6 mg/kg 群で網赤血球比率が高値を示したが,ヘマトクリット値や赤血球数に低値がみられず貧血傾向のないことから,被験物質投与の影響とは考えられなかった.血液生化学検査では,30および150 mg/kg群で GOTの低値およびγ-GTPの高値が認められ,このうちγ-GTPの高値は肝臓の機能低下を含む被験物質投与の影響が示唆された.GOT の低値についてはその機序は明らかでなかった.なお,すべての被験物質投与群で塩素の高値およびカルシウムの低値が,さらに 150 mg/kg群でカリウムが低値を示したが,当施設の背景値と比べ差はなく被験物質投与の影響ではないと判断された.30および 150 mg/kg群で総蛋白およびアルブミンが高値を示したが,その機序は明らかでなかった.

 器官重量では,雄の 30 mg/kg 以上の投与群および雌の 150 mg/kg群で肝臓,腎臓の実重量および相対重量が増加または増加傾向を示し,剖検所見においても雄の 30 および 150 mg/kg 群で肝臓の肥大が,雌の150 mg/kg 群で肝臓および腎臓の肥大が認められた.

 病理組織学検査の結果,被験物質投与の影響の示唆される病変として,雌雄の 150 mg/kg群で肝臓に小葉中心部の肝細胞腫脹が観察され,さらに雌では肝細胞の壊死性変化,細胞分裂,腎臓の近位尿細管の壊死,顆粒状の蛋白円柱,細胞分裂および腎乳頭部の PAS陽性顆粒の沈着などが観察された.また,全児死亡の認められた動物および死亡動物に共通する所見として舌および食道の錯角化症が認められた.肝臓に観察された肝細胞の腫脹,変性および壊死はすべて小葉中心性に発生する特徴を示した.腎臓に認められた種々の変化についても同様に被験物質の影響と考えられるが,顆粒状の蛋白円柱の由来については,壊死した尿細管で好酸性顆粒状を呈し崩壊していく像が多数観察され,その存在部位が近位尿細管から下位であることなどから,壊死,崩壊した尿細管上皮であると考えられる.雄で明らかに被験物質投与の影響が認められた器官は肝臓のみであり,発生率も程度も雌に比べて軽度であった.また,雌において胸腺の萎縮が対照群に比べ被験物質投与群で増加傾向を示した.このうち 150 mg/kg群で観察された胸腺の萎縮は腎臓および肝臓の病変の程度と相関性が認められ,被験物質投与の影響が示唆された.しかし,6 および 30 mg/kg で観察された萎縮は,他の器官の病変と相関性が見られないことや,対照群においても中等度の例があることから自然発生性のものと考えられた.なお,雄の被験物質投与群で発生率増加がみられた副腎皮質の空胞化は自然発生的に観察される所見であり,対照群で観察された空胞化と形態的な差異も認めなかったことから,被験物質投与の影響とは考えられない.また,雄の腎臓において器官重量の増加傾向がみられたが,それを裏付けるような明確な形態学的変化は観察されなかった.その他の器官に観察された諸所見については用量に関連して増加する傾向も認められず,自然発生性の病変と考えられる.

 以上のことから,6-tert-ブチル-2,4-キシレノールの反復投与により,30および 150 mg/kg 群の雄で GOTの低値およびγ-GTPの高値が,150 mg/kg 群の雌で死亡,体重増加抑制,肝臓,腎臓の重量増加および肥大,雄で貧血傾向,肝臓および腎臓重量の増加,肝臓の肥大が認められた.また,病理組織学検査では,150 mg/kg 群の雌雄で肝臓,さらに雌で腎臓を中心とした異常所見が認められ,本剤における標的器官は肝臓および腎臓と考えられた.従って,無影響量は雄で 6 mg/kg/day,雌で 30 mg/kg/day と推察される.

2.生殖発生毒性

 交尾能および受胎能に被験物質投与の影響は認められず,性周期観察についてもすべての投与群でほぼ 4〜 5日の周期を示し,被験物質投与の影響は認められなかった.妊娠を成立させなかった雄および妊娠が成立しなかった雌は対照群で各 1例観察されたが,不成立の原因に関連すると考えられる異常所見は認められなかった.

 分娩時観察では,150 mg/kg 群で一部の新生児を娩出した後に死亡した動物が1例観察された.哺育期間中に全児死亡の認められた動物が 30 mg/kg群で 1例,150 mg/kg群で 3例観察され,さらに 150 mg/kg群で新生児の生後 4日生存率の低値傾向が認められたことから,6-tert-ブチル-2,4-キシレノールの 150 mg/kgの投与により分娩あるいは哺育機能の障害を惹起する可能性が示唆された.また,150 mg/kg 群で着床数が減少したが,当施設の背景値14.0〜15.3と比べて差はないことから被験物質投与の影響ではないと判断された.なお,妊娠期間および分娩時間では被験物質投与の影響は認められなかった.

 新生児の外表検査では外表異常は観察されず,新生児の体重も哺育 4日まで順調に増加した.また,死産児,死亡児および哺育 4日の剖検でも被験物質投与による影響は認められなかった.

 以上のことから、6-tert-ブチル-2,4-キシレノールによる雄の生殖に及ぼす影響は,150 mg/kg/day 投与によっても認められず,無影響量は 150 mg/kg/dayと推察される.雌の生殖に及ぼす影響および児動物の発生・発育に及ぼす影響は,150 mg/kg 群で哺育期間中の全児死亡の母動物数の増加が認められたことから無影響量は 30 mg/kg/day と推察される.

文献

1)EPA TSCA Test Submission (TSCARTS) Data Base, January, 1994
2)"環境化学物質要覧," 丸善, 東京, 1992.
3)OECD Guidelines for Testing of Chemicals:Extended Steering Group Document Vol. 3, 1990.
4)C.G. Shayne, S.W. Carrol, "Statistics and Experimental Design For Toxicologists," Telford Press, 1986.
5)佐久間昭, "薬効評価機欸弉茲伐鮴蓮, " 東京大学出版会, 東京, 1977.
6)石居 進, "生物統計学入門," 培風館, 東京, 1975.

連絡先
試験責任者:萩田孝一
試験担当者:田中亮太,渡 修明,
庄子明徳,山川誠己,
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Correspondence
Authors:Koichi Hagita(Study director),
Ryota Tanaka, Nobuaki Watari,
Akinori Shoji,Seiki Yamakawa,
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Pesticides(An-pyo Center),Japan
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Shizuoka,437-12,Japan
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