微生物を用いた
4−エトキシベンゼナミンの変異原性試験

Mutagenicity test of 4-Ethoxybenzenamine with
the Salmonella/microsome Assay (Ames Test)

要約

4−エトキシベンゼナミンについてSalmonella typhimuri-um TA100、TA98、TA97、TA102を用いて遺伝子突然変異試験を行った。代謝活性化にはphenobarbitalおよび5, 6-benzoflavone処理したSprague-Dawleyラットの肝由来のS9を用いた。最高濃度5 mg/plateまで試験した結果、代謝活性化した場合のみに、TA100およびTA102に対し変異コロニー数の増加傾向が認められた。しかし、その数は自然復帰コロニー数の2倍に達しなかったため、陰性と判定した。

緒言

S.typhimurium TA株を用いる変異原性試験は最も汎用されている変異原性試験の一つでであり、求電子的にDNAに作用する発癌物質の多くが、この試験で陽性結果を示すことが報告されている。既存化学物質毒性試験の一環として、4−エトキシベンゼナミンについて微生物を用いる遺伝子突然変異試験を行い、変異原性の有無を調べる。

方法

微生物を用いる遺伝子突然変異試験は、S.typhimurium TA100(塩基置換型変異原検出用)、TA98、TA97(フレ−ムシフト型変異原検出用)、およびTA102(架橋型,酸化型変異原検出用)の4菌株を用い、37℃、20分間のプレインキュベーションを含むエームス法で行っ た1, 2)。Phenobarbital(PB)とbenzoflavone(BF)処理したSprague-Dawleyラット肝由来のS9はオリエンタル酵母(株)より購入した。S9mix(0.5ml)中には、S9(50μl)、G6P(2.5μmol)、NADPH(2μmol)、NADH(2μmol)、MgCl2(4μmol)、KCl(16.5 μmol)、リン酸ナトリウム(pH7.4, 40 μmol)が含まれている。被験物質はdimethyl sulfoxide(DMSO)に溶解し、最高濃度5 mg/plate、8段階濃度をとって試験を行った。濃度に依存して誘発復帰変異コロニ−数が上昇し、しかもその数が自然復帰コロニ−数の2倍を越えた場合を陽性とした。陽性対照としては、−S9 mixの条件下ではTA100、TA98にはAF-2、TA102にmitomycin C(MMC)、TA97にICR-191を、+S9 mixの条件下では、いずれの株に対しても2-aminoanthracene(2AA)を用いた。

結果

微生物による突然変異試験の結果をTable1に示す。今回供試された被験物質4−エトキシベンゼナミンは、TA100、TA102に対しS9 mix存在下で弱いながら変異コロニー数の増加傾向が認められた。しかし自然復帰変異コロニー数の2倍には達しなかったため、陰性と判定した。

考察

4−エトキシベンゼナミンの変異原性について、Nohmiら3)はPCB誘導ハムスター肝S9で代謝活性化した場合に、TA100に対し変異原性が認められると報告している。今回の実験では、TA100、TA102に対して変異コロニー数の増加傾向が認められたが、自然復帰変異コロニー数の2倍には達しなかった。これは使用したS9(今回はPBとBFの誘導によるラット肝より調製)の違いによるものと考えられる。4−エトキシベンゼナミンがTA98で変異原性を示さないこと、さらに2-aminofluoreneなどの変異原性を増強するquercetineの添加によっても変異原性は認められていないことが報告されている4)。Zeigerら5)は4−エトキシベンゼナミンが前述のようにハムスターS9の存在下で変異原性を示すことを報告しているが、さらにAroclor 1254で誘導したラットS9(30%)によっても陽性となることを指摘している。一方、ラット肝初代培養細胞を用いた不定期DNA合成(UDS)試験では、4−エトキシベンゼナミンが陰性結果を示したことが報告されている6)。

文献

1)B. N. Ames, J. McCann and E. Yamasaki , Mutat. Res., 31, 347 (1975)
2)D. M. Maron, and B. N. Ames, Mutat.Res., 113, 173 (1983)
3)T. Nohmi, M. Ishidate, Jr., Hiratsuka, A. and T. Watabe, Chem. Pharm. Bull., 33(7), 2877-2885 (1985)
4)S. Ogawa, T. Hirayama, Y. Fujioka, S. Ozasa, M.Tokuda, K. Hirai and S. Fukui, Mutat. Res., 192, 37-46 (1987)
5)E. Zeiger, B. Anderson, S. Haworth, T. Lawlor and K. Mortelmans, Environ. Mol. Mutagen., 11 (Suppl. 12),
1-158 (1988)
6)N. Yoshima, S. Sugie, H. Iwata, K. Niwa, H. Mori, C. Hashida and H. Simizu, Mutat. Res., 206, 183-191 (1988)

連絡先:
試験責任者祖父尼俊雄
国立衛生試験所安全性生物試験研究センタ−
変異遺伝部
〒158東京都世田谷区上用賀1-18-1
Tel 03-3700-1141Fax 03-3700-2348

Correspondence:
Sofuni, Toshio
Division of Genetics & Mutagenesis,
Biological Safety Research Center,
National Institute of Health Sciences, Japan
1-18-1 Kamiyoga, Setagaya-ku, Tokyo, 158, Japan
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