トリリン酸アルミニウム塩のラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of Triphosphoric acid aluminium salt in Rats

要約

トリリン酸アルミニウム塩の0および2000 mg/kgを1群につき雌雄各5匹のCrj:CD(SD)IGSラットに単回経口投与してその毒性を検討し,以下の成績を得た.

2000 mg/kg投与群で死亡例はなく,一般状態,体重推移および剖検所見いずれにおいても変化は認められず,トリリン酸アルミニウム塩の本試験条件下でのLD50値は雌雄とも2000 mg/kgを超える量と推定された.

方法

1. 被験物質および対照物質の調製

被験物質は,トリリン酸アルミニウム塩[ロット番号:10101,純度:94.7 %(P2O5として63.4 %の換算値),提供者:テイカ(株)(大阪)]で,融点約1200 ℃,比重2.3,水に難溶の白色粉末である.トリリン酸アルミニウム塩は安定で反応しないが,気密容器に入れ,冷所に保存した.試験期間中の被験物質の安定性を,残余被験物質を用いた純度の分析成績により確認した.

投与の前日にトリリン酸アルミニウム塩を精秤し,乳鉢で細砕後,所定の濃度となるように0.5 %カルメロースナトリウム水溶液を用いて懸濁した.調製液は調製後速やかに遮光気密容器に入れ冷暗所に保存し,室温に戻してから投与に用いた.

投与に先立って200 mg/mL調製液中のトリリン酸アルミニウム塩の均一性および室温保存24時間の安定性について紫外可視分光光度計で吸光度(波長405 nm)を測定して分析し,安定であることが確認された.投与に用いる200 mg/mLの調製液についてトリリン酸アルミニウム塩の濃度を分析した結果,含有率は所定の濃度の101.7 %であり,適合と判断した.

2. 試験動物および飼育条件

試験には,日本チャールス・リバー(株)厚木飼育センター生産のSPF Crj:CD(SD)IGSラットを用いた.雌雄各13匹を4週齢で購入し,個々の動物について7日間馴化飼育を行い,雌雄各10匹を選抜して,5週齢で試験に供した.投与前日の体重に基づいて層化無作為抽出法により群分けを行った.動物は,油性フェルトペンで尾部に印を付け,個体識別を行った.

動物は温度22〜27 ℃,湿度50〜64 %,換気回数10〜15回/時間,照明時間8時〜20時,ブラケット式金属製金網床ケージに,群分け前は1あるいは3匹,群分け後は1匹収容した.飼料はg線照射固型飼料CRF-1(オリエンタル酵母工業(株))を金属製給餌器により,飲料水は札幌市水道水を自動給水装置により,それぞれ自由摂取させた.

3. 投与量および投与方法

致死量の概要を検索するために,雌雄各1群3匹のCrj:CD(SD)IGSラットにトリリン酸アルミニウム塩の2000 mg/kgを単回経口投与した予備試験の結果,2000 mg/kg投与群において死亡は認められず,50 %致死量は2000 mg/kgを超える量と考えられた.このことから,本試験では限界試験を行うこととし,2000 mg/kg投与群と対照として0.5 %カルメロースナトリウム水溶液を投与する群の計2群を設定した.

一晩(18〜19時間)の絶食後,11〜12時の間に胃ゾンデを用いて強制的に胃内に10 mL/kgの投与容量で経口投与し,投与後約4時間を経過した時点で給餌を再開した.

4. 検査項目

1) 一般状態観察

全例について動物の生死,外観,行動等を,投与日(0日)の投与直後から投与後1時間までは連続して観察し,以降は投与後2,4および6時間に観察した.投与後1日から投与後14日の剖検日までは,1日1回観察した.

2) 体重測定

全例について動物の体重を,0(投与日の投与前),投与後1,3,5,7,10および14日(剖検日)に,電子式上皿天秤を用いて測定した.0日から投与後14日までの体重増加量および体重増加率を算出した.

3) 剖検

全例について投与後14日に体外表を観察後,エーテル麻酔下で腹部大動脈からの放血により安楽死させ,いずれも全身の器官・組織を肉眼的に観察した.

5. 統計解析

体重,体重増加量および体重増加率について,Bartlettの検定法によって等分散性を解析し,等分散の場合は一元配置分散分析法,不等分散の場合はKruskal-Wallisの検定法で解析した.一元配置分散分析の結果,有意差がみられた場合は,Dunnettの検定法を用いて,Kruskal-Wallis法の解析の結果,有意差がみられた場合は,Mann-WhitneyのU-検定法を用いてそれぞれ対照群との比較を行った.対照群との比較検定については,危険率5 %未満を統計学的に有意とした.

結果

1. 死亡状況

2000 mg/kg投与群の雌雄ともに死亡例は認められなかった.

2. 一般状態

2000 mg/kg投与群および対照群の雌雄ともに変化は認められなかった.

3. 体重

2000 mg/kg投与群の雌雄ともに対照群と比較して有意差はなく,投与後14日間の体重増加量および体重増加率にも有意差は認められなかった.

4. 剖検

2000 mg/kg投与群の雄1例の肝臓に多巣性の黄白色斑が認められた以外には,対照群も含め雌雄ともに変化は認められなかった.

考察

トリリン酸アルミニウム塩を1群雌雄各5匹のCrj:CD(SD)IGSラットにそれぞれ0および2000 mg/kgの投与量で単回経口投与して,その毒性を検討した.

2000 mg/kg投与群に死亡例はなく,一般状態および体重推移に変化は認められなかった.剖検で2000 mg/kg投与群の雄1例の肝臓に多巣性の黄白色斑がみられたが,予備試験ではみられていないことから,被験物質投与との関連性はないと考えられた.

トリリン酸アルミニウム塩の本試験条件下でのLD50値は雌雄とも2000 mg/kgを超える量と推定された.

連絡先
試験責任者:須永昌男
試験担当者:木口雅夫,咲間正志,笠原みゆき,平田真理子,古川正敏
(株)化合物安全性研究所
〒004-0839 札幌市清田区真栄363-24
Tel 011-885-5031Fax 011-885-5313

Correspondence
Authors:Masao Sunaga(Study director)
Masao Kiguchi, Masashi Sakuma, Miyuki Kasahara, Mariko Hirata, Masatoshi Furukawa
Safety Research Institute for Chemical Compounds Co., Ltd.
363-24 Shin-ei, Kiyota-ku, Sapporo-shi, Hokkaido, 004-0839, Japan
Tel +81-11-885-5031Fax +81-11-885-5313