ドデカン酸メチルエステルのラットを用いる
反復経口投与毒性・生殖発生毒性併合試験

Combined Repeat Dose and Reproductive/Developmental Toxicity
Screening Test of Methyl dodecanoate by Oral Administration in Rats

要約

ドデカン酸メチルエステルは,化学産業の分野において油剤や展着剤として使用されている化合物である.本化合物の毒性については,経口投与によるラットの LD50が12 g/kgと報告されているが,ヒトや実験動物の生体に及ぼす毒性についてはほとんど知られていない.今回,OECDによる既存化学物質の安全性点検に係わる毒性調査事業の一環として,ドデカン酸メチルエステルの反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験を行った.すなわち,ドデカン酸メチルエステルの0(溶媒対照群),250,500および1000 mg/kg/dayをSprague-Dawley(Crj:CD(SD))ラットの交配前2週間および交配期間の2週間を通じて経口投与し,さらに雄では交配期間終了後17日間,雌では妊娠期間を通じて分娩後の哺育3日まで連続投与し,親動物の反復投与毒性および生殖能ならびに児動物の発生・発育に及ぼす影響について検討した.

1. 反復投与毒性

一般状態には被験物質投与の影響は認められず,死亡例も観察されなかった.体重,摂餌量,雄の血液学検査および血液生化学検査結果に被験物質投与の影響は認められなかった.器官重量には被験物質投与によると考えられる明らかな変化は認められなかった.剖検所見および組織所見ともに対照群と比べ被験物質投与群に多く観察される所見は認められず,被験物質投与の影響は示唆されなかった.

2. 生殖発生毒性

交尾能,受胎能および性周期観察には,被験物質投与の影響は認められなかった.分娩時観察では,妊娠動物の全例が正常に分娩し哺育期間を通じ被験物質投与の影響は認められなかった.また,新生児の外表検査でも被験物質投与によると考えられる異常は認められず,体重も哺育 4日まで順調に増加した.死産児,哺育4日までの死亡児および哺育4日の剖検では被験物質投与によると考えられる異常所見は認められなかった.

以上の結果から,ドデカン酸メチルエステルの反復投与毒性は, 1000 mg/kg/day投与によっても認められず,無影響量は雌雄ともに1000 mg/kg/dayと判断された.また,雌雄の生殖に及ぼす影響および児動物の発生・発育に及ぼす影響についても1000 mg/kg/day投与で認められず,無影響量はともに1000 mg/kg/dayと判断された.

材料および方法

1. 被験物質

ドデカン酸メチルエステル [別名ラウリン酸メチル,CAS No.111-82-0,東京化成工業(株)製造,Lot.No.GD01,含有量99.2%,分子量214.35,融点5℃,沸点141℃,比重0.8706(20℃)]は,無色透明な液体であり,使用時まで室温で密閉保管した.本ロットは,試験期間中安定であることを確認した.

被験物質は,コーンオイル (ナカライテスク(株)製)に溶解し,5,10および20(w/v)%の濃度になるよう各群の投与液を調製した.調製後は,使用時まで冷暗条件下で密閉保管し,調製後7日以内に使用した.調製液中の被験物質は,5(w/v)%溶液の場合冷暗条件下で少なくとも8日間安定であることを確認した.

投与液の濃度分析は,調製開始時に調製した各群のバッチから無作為にサンプルを抽出し実施した.その結果, 98.6〜104%の範囲で調製されており,ほぼ所定量のドデカン酸メチルエステルが含有されていたことを確認した.

2. 使用動物および飼育条件

試験には,日本チャールス・リバー (株)から購入した生後8週齢のSprague-Dawley(Crj:CD(SD), SPF)系雌雄ラットを使用した.購入した動物は7日間検疫・馴化飼育した後,一般状態に異常が認められなかった動物を8日間の予備飼育後,10週齢で群分けして試験に用いた.群分け時の体重は,雄で354〜386 g,雌で216〜241 gの範囲であった.

動物は,温度 24±2℃,湿度55±10%,換気回数15回/時間,照度150〜300 lux,照明時間12時間(午前7時点灯,午後7時消灯)に設定されたバリアシステムの飼育室で飼育した.アルミ製前面・床ステンレス網目飼育ケージに動物を1匹ずつ収容し飼育した.妊娠18日以降の母動物は哺育4日までアルミ製前面・床ステンレス網目飼育ケージに哺育トレーおよび巣作り材料(アルファードライ)を入れて飼育した.

飼料は,オリエンタル酵母工業 (株)製造のNMF固型飼料(放射線滅菌飼料)を使用し,飼育期間中自由に摂取させた.飲水は,水道水を自由に摂取させた.

3. 群分け

動物は投与開始日の体重をもとに層別化し,無作為抽出法により 1群当たり12匹を振り分けた.

4. 投与量,群構成,投与期間および投与期間

本試験の用量は先に実施した予備試験の結果を参考にして決定した.すなわち, 0,250,500,750および1000 mg/kgを雄および雌に14日間連続経口投与した結果,一般状態には被験物質投与の影響は認められず,死亡例も観察されなかった.体重,摂餌量,剖検所見,器官重量,血液学検査値および血液生化学検査値に被験物質の影響と考えられる変化は認められなかった.以上の結果をもとに本試験の高用量を予備試験と同じ1000 mg/kgに設定し,以下公比2で除し,中用量を500 mg/kg,低用量を250 mg/kgにそれぞれ設定した.

投与容量は,体重 100 g当り0.5 mlとし,個体別に測定した最新体重に基づいて算出を行った.胃ゾンデを用いて毎日1回(7日/週)強制経口投与した.対照群にはコーンオイルのみを投与した.

雄の投与期間は,交配前 14日間と交配期間14日間および交配期間終了後17日間の連続45日間とした.雌の投与期間は,交配前14日間と交配期間中(交尾成立まで最長14日間)ならびに交尾成立後の妊娠期間を通じて分娩後の哺育3日まで(41日〜55日間)とした.なお,妊娠が成立しなかった雌は妊娠25日の解剖前日まで43日間とした.

5. 観察および検査

1) 一般状態

雌雄とも,全例について試験期間中毎日観察した.

2) 体重

雄では,投与 1(投与開始日),8,15,22,29,36,43および46日(剖検日)に測定し,投与1から43日までの体重増加量を算出した.雌では,投与1(投与開始日),8,15日に測定し,投与1から15日までの体重増加量を算出した.交尾が成立した雌は,妊娠0,7,14および21日に,分娩した雌は哺育0および4日に測定し,それぞれ妊娠0から21日および哺育0から4日までの体重増加量を算出した.

3) 摂餌量

雄では,投与 1(投与開始日),8,15,22,29,36,43および45日(剖検前日)に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの間の摂餌量を求め平均1日摂餌量を算出するとともに投与1から15日および投与22から45日までの累積摂餌量を算出した.雌では,投与1(投与開始日),8および15日に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの摂餌量を求め平均1日摂餌量を算出するとともに投与1から15日までの累積摂餌量を算出した.また,交尾成立の雌は妊娠0,7,14および21日に,分娩した雌は哺育0および4日に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの間の摂餌量を求め平均1日摂餌量を算出するとともに妊娠0から21日までの累積摂餌量を算出した.なお,交配期間中の摂餌量は測定しなかった.

4) 交配

交配前 14日間の性周期観察を行った雌を同群内の雄のケージに入れ1対1で最長2週間毎晩同居させた.翌朝,腟垢中の精子確認をもって交尾成立とし,その日を妊娠0日とした.交配結果から,各群について交尾率[(交尾動物数/同居動物数)×100]および受胎率[(受胎動物数/交尾動物数)×100]を求めた.性周期の観察は交尾成立日まで行い,発情期から次の発情期までの間の日数を性周期日数とし平均性周期を算出した.

5) 自然分娩時および新生児の観察

交尾成立動物は全例を自然分娩させた.分娩の確認は妊娠 20日から25日の午前9〜10時の間に行い,この時間帯に分娩が完了していることを確認した個体についてその日を哺育0日とした.午前10時を過ぎて分娩した場合は翌日を哺育0日とした.分娩を確認した全例について妊娠期間(哺育0日の年月日から妊娠0日の年月日を減じた日数)および出産率[(生児出産雌数/受胎雌数)×100]を求めた.

新生児は哺育 0日に出産児数(生存児+死亡児)を調べ,分娩率[(総出産児数/着床数)×100]および出生率[(出産生児数/総出産児数)×100]を求めた.生存児については性別を判定し,性比(雄/雌)を算出した.また,外表異常の有無を調べた.哺育0および4日に雌雄個体別の重量を測定し,1腹の雌雄別平均体重を算出した.哺育4日の新生児の雌雄個体別重量を測定後に新生児全例をエ−テル麻酔により屠殺し,主要器官の肉眼観察を行った.なお,哺育期間中の死亡児についても同様に主要器官の肉眼観察を行った.また,新生児の4日の生存率[(哺育4日生児数/出産生児数)×100]を求めた.

6) 臨床検査

各群の雄全例について剖検時に実施した.動物を最終投与日 (投与期間:45日間)の夕方から翌朝まで約16時間絶食させた後,エーテル麻酔下で開腹し,腹部大動脈から採血した.

a. 血液学検査

検査は EDTA-3Kを添加した初血について,THMS H・1E(マイルス社)を用いて白血球数(WBC:暗視野板法),赤血球数(RBC:暗視野板法),ヘマトクリット値(HCT:RBC,MCVより算出),ヘモグロビン量(HGB:シアンメトヘモグロビン法),平均赤血球容積(MCV:暗視野板法),平均赤血球血色素量(MCH:HGB,RBCより算出),平均赤血球血色素濃度(MCHC:HGB,HCTより算出),血小板数(PLT:暗視野板法)および白血球百分率(フローサイトケミストリー法)を測定した.白血球百分率は前述の機器で測定したが,別途血液塗末標本を作製し,メイ・グリュンワルド・ギムザ染色して保管した.網赤血球(RC)比率の算定については,EDTA-3K添加血液をニューメチレンブルーで染色後,血液塗抹標本を作製した.各群とも貧血傾向が認められなかったため,標本の観察は行わなかった.

b. 血液生化学検査

検査はクリーンシール ((株)ヤトロン)に血液を採取し,30分間静置後3000 r.p.m. 7分間遠心分離して得た血清について,多項目生化学自動分析装置CentrifiChem ENCORE(ベーカー社)およびEKTACHEM 700N(コダック社)を用いて総蛋白(ビューレット法),アルブミン(B.C.G.法),A/G(計算値),血糖(グルコースオキシダーゼ法),総コレステロール(コレステロールオキシダーゼ法),尿素窒素(ウレアーゼアンモニウム指示薬法),クレアチニン(Jaff法),総ビリルビン(ジアゾ法),グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(IFCC法),グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(IFCC法),γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(Orlwski法),カリウム(電極法),塩素(電極法),カルシウム(アルセナゾIII法)および無機リン(モリブデン酸青法)を測定した.

7) 病理学検査

a. 剖検および器官重量

(1) 雄動物

45日間投与した日の夕方から,約16時間の絶食させた後エーテル麻酔下で放血し安楽死させた.剖検では主要器官の肉眼的観察を行い,胸腺,肺,肝臓,腎臓,精巣および精巣上体重量を測定し器官重量・体重比(相対重量)を算出した.また,全動物の重量測定器官に加えて脳,心臓,脾臓,副腎,精嚢,前立腺,下垂体および肉眼所見として変化が認められた器官・組織として皮膚を10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.なお,精巣および精巣上体はブアン氏液で固定した.

(2) 自然分娩した雌

哺育 4日にエーテル麻酔下で放血安楽死させた.剖検では主要器官の肉眼的観察を行った後,胸腺,肺,肝臓,腎臓および卵巣重量を測定し器官重量・体重比(相対重量)を算出した.また,全動物の重量測定器官に加えて脳,心臓,脾臓,副腎,下垂体および肉眼所見として変化が認められた器官・組織として大腸を10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.剖検時に黄体数および着床痕数を調べ,着床率[(着床数/妊娠黄体数)×100]を求めた.

(3) 自然分娩の認められない雌

妊娠 25日に,エーテル麻酔下で放血安楽死させた.剖検では主要器官の肉眼的観察を行った後,皮膚,乳腺,リンパ節,唾液腺,胸骨,大腿骨(骨髄を含む),胸腺,気管,肺および気管支,心臓,甲状腺および上皮小体,舌,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸,肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,卵巣,子宮,腟,眼球,ハーダー腺,脳,下垂体および脊髄を10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.着床痕が認められない動物は妊娠不成立と判定した.

(4)  全児死亡の認められた雌

生存児すべての死亡または喰殺が確認された日にエーテル麻酔下で放血後安楽死させた.剖検では主要器官の肉眼的観察を行った後,皮膚,乳腺,リンパ節,唾液腺,胸骨,大腿骨 (骨髄を含む),胸腺,気管,肺および気管支,心臓,甲状腺および上皮小体,舌,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸,肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,卵巣,子宮,腟,眼球,ハーダー腺,脳,下垂体および脊髄を10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.剖検時に黄体数および着床痕数を調べ,着床率[(着床数/妊娠黄体数)×100]を求めた.

b. 病理組織学検査

(1) 妊娠を成立させた雄

対照群と高用量群全例の脳,胸腺,心臓,肺,肝臓,腎臓,脾臓,副腎および精巣について実施した.

(2) 自然分娩した雌

対照群と高用量群全例の脳,胸腺,心臓,肺,肝臓,腎臓,脾臓,副腎および卵巣について実施した.

(3) 妊娠を成立させなかった雄および妊娠不成立の雌

全例の脳,胸腺,心臓,肺,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,腟,子宮,卵巣,精巣,精巣上体,精嚢,前立腺および下垂体について実施した.

(4) 全児死亡の認められた雌

全例の皮膚,乳腺,リンパ節,唾液腺,胸骨,大腿骨 (骨髄を含む),胸腺,気管,肺および気管支,心臓,甲状腺および上皮小体,舌,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸,肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,卵巣,子宮,腟,眼球,ハーダー腺,脳,下垂体および脊髄について実施した.

6. 統計解析

体重,摂餌量,黄体数,着床痕数,出産児数,死産児数,性比,平均性周期,妊娠期間,着床率,分娩率,出生率,外形異常発現率,新生児の 4日生存率,器官重量,器官重量・体重比(相対重量),血液学および血液生化学検査値については多重比較検定1)を実施した.出産率,交尾率および受胎率についてはχ^2検定2, 3)を用いた.病理学検査の異常所見頻度についてはFisherの直接確率検定法4)を用いた.なお,哺育期間中の新生児に関する成績は1母体当りの平均を1標本とした.有意水準は*:P<0.05および**:P<0.01の2段階とした.

結果

1. 反復投与毒性

1) 死亡および一般状態

死亡例は,投与期間を通じ雌雄いずれの群にも観察されなかった.一般状態の観察では,雄の対照群で歯の異常 (切歯の破折)が投与5から7日に1例に観察され,250 mg/kg群で頸部の脱毛が投与10から19日に,痂皮形成が投与20から21日に同一個体の1例に観察され,また,同群で他の同一個体の1例に頸部の脱毛が投与2から46日に,外傷が投与4から13日に,痂皮形成が投与14から46日に観察された.雌については,投与期間を通じていずれの群にも異常は認められなかった.

2) 体重(Figure 1, 2)

雌雄ともに投与期間を通じて対照群と各被験物質投与群との間に差は認められなかった.

3) 摂餌量(Figure 3, 4)

雄では, 250および500 mg/kg群で対照群に比べて投与43から45日の平均1日摂餌量が高値を示した.雌では,投与期間を通じて対照群と各被験物質投与群との間に差は認められなかった.

4) 血液学検査(Table 1)

すべての検査項目について対照群と被験物質投与群との間に差は認められなかった.

5) 血液生化学検査(Table 2)

すべての検査項目について対照群と被験物質投与群との間に差は認められなかった.

6) 器官重量(Table 3, 4)

雄では, 1000 mg/kg群で対照群に比べて胸腺の実重量が増加した.雌では,対照群と被験物質投与群との間に差のある器官はなかった.

7) 剖検所見

妊娠を成立させた雄および自然分娩した雌において,対照群に比べ被験物質投与群に多く観察される所見は認められなかった.なお,妊娠を成立させた雄では,肺の有色斑 /区域(灰色)および白色斑/区域が対照群の各1例,肺の赤色斑/区域が対照群を含めた各群の少数例に観察された他,胸腺の赤色斑/区域が500 mg/kg群の2例に,皮膚の有色斑/区域(灰色)が250 mg/kg群の1例にそれぞれ観察された.また,自然分娩した雌では,胸腺の萎縮,肺の有色斑/区域(褐色),大腸の萎縮および黒色化,肝臓の白色斑/区域,腎臓の瘢痕および卵巣の嚢胞が対照群を含む各投与群に単発的に観察された.なお,妊娠を成立させなかった雄および妊娠不成立の雌が250 mg/kg群の雌雄各2例に認められたが異常所見は観察されなかった.哺育4日までに全児死亡した母動物が対照群の2例に認められたが,内1例に眼球網膜の赤色化が観察された.

8) 病理組織学検査(Table 5, 6)

妊娠を成立させた雄および自然分娩した雌において観察された所見は,いずれも対照群と 1000 mg/kg群との間で発生数に差はなかった.妊娠を成立させた雄では肝臓の肉芽巣,腎臓の尿細管上皮の好塩基性化,腎臓の好酸性小体出現および副腎の空砲化が両群の比較的多数例に観察された.その他の所見は少数例あるいは単発性の発生であった.なお,器官重量において1000 mg/kg群で実重量の増加が認められた胸腺については異常は認められなかった.また,自然分娩した雌では脾臓の色素沈着,肺のマクロファージ集簇,肝臓の肉芽巣,腎臓の尿細管上皮の好塩基性化および空砲化などの変化が両群の少数例に観察された.その他の所見も少数例あるいは単発性の発生であった.

哺育 4日までに全児死亡が認められた対照群の母動物2例では,子宮の動脈炎・マクロファージ集簇・局所的出血・血管拡張などの変化や乳腺の増生などが観察された.また,内1例には眼球網膜の局所的出血が認められた.

妊娠を成立させなかった雄および妊娠不成立の雌は, 250 mg/kg群の雌雄各2例であり,これらのうち雄の1例で精巣上体の精子肉芽腫が観察された.その他に妊娠不成立の原因を示唆するような所見は観察されなかった.

2. 生殖発生毒性

1) 交尾および受胎能(Table 7)

交尾は,対照群を含むすべての群で全例成立した.受胎は, 0,500および1000 mg/kg群の交尾が成立した雌の全例で成立し,250 mg/kg群では12例中10例(83.3%)で成立した.

性周期観察では,いずれの群もほぼ 4〜5日の性周期を示し平均性周期に群間差は認められなかったが,1000 mg/kg群の1例に偽妊娠と考えられる性周期の停止(連続した発情休止期像)が交配直後から認められた.この例は性周期の停止が13日間続いた後交尾が成立した.

2) 分娩および哺育(Table 8)

対照群および 1000 mg/kg群で出産生児の雌雄の数に偏りが生じたため,両群の性比に差が認められた.さらに対照群の雌の出産生児が哺育4日までに他の群と比べ多数死亡したため,雌の4日の生存児数に対照群と1000 mg/kg群との間に差が認められた.その他,分娩状態には異常が観察されず,各群の妊娠期間,黄体数,着床痕数,出産生児数および死産児数はほぼ同様な値を示し,出産率,着床率,分娩率,出生率および4日の生存率に群間差は認められなかった.

3) 新生児の形態,体重および剖検所見

新生児の外表検査では,皮下出血が対照群の 2例,鎖肛および痕跡尾が対照群の同一個体の1例,矮小児が250 mg/kg群の1例,短尾が500 mg/kg群の1例に観察された.哺育期間中の体重では,雌雄ともに群間差は認められなかった.死亡児の剖検では,胸腺頸部残留が対照群および250 mg/kg群の各1例,横隔膜ヘルニアが500 mg/kg群の2例に観察された.哺育4日の剖検では,雌雄に胸腺の頸部残留が散見された.

考察

1. 反復投与毒性

死亡例は,投与期間を通じ雌雄いずれの群にも認められなかった.一般状態の観察では,雌に異常は認められず,雄で認められた異常所見はいずれも単発性または少数例の発生であり,被験物質投与の影響によるものとは考えられなかった.

体重については,雌雄ともに被験物質投与の影響は認められなかった.雄の 250および500 mg/kg群で投与43から45日に摂餌量が高値を示したが累積摂餌量に反映されない軽微な変化であり,投与期間前半期の摂餌量に比べるとむしろ低い値を示していることから,対照群の値が偶発的に低かったことに起因する変化と考えられた.雌の摂餌量に変化は認められなかった.

雄の血液学検査および血液生化学検査では被験物質投与の影響は認められなかった.

器官重量は,雄の 1000 mg/kg群で胸腺の実重量が高値を示したが,相対重量には統計学的に有意な変化は認められなかった.また,病理組織学検査で同器官に異常はみられず,血液学検査で同器官の機能に関連すると考えられるリンパ球比率に変化が認められないことから,胸腺の重量変化と被験物質投与との関連は明らかではなかった.なお,2週間反復投与による予備試験で雌の1000 mg/kg群で肺重量が高値を示したが,本試験の同一用量群に同様の変化は認められなかった.

病理学検査の結果,剖検所見・組織所見ともに妊娠を成立させた雄および自然分娩した雌において,対照群に比べ被験物質投与群に多く観察される所見は認められず,いずれの所見も自然発生的な病変と考えられた.全児死亡の母動物に共通する所見として,子宮の動脈炎・マクロファージ集簇・局所的出血・血管拡張などの変化や乳腺の増生などが観察された.また,妊娠を成立させなかった雄の 1例で精巣上体の精子肉芽腫が観察された.しかし,妊娠不成立の雌を含めいずれの動物においても被験物質投与の影響を示唆するような所見は認められなかった.

以上のことから,ドデカン酸メチルエステルの反復投与毒性は 1000 mg/kg/day投与によっても認められず,無影響量は雌雄ともに1000 mg/kg/dayと判断された.

2. 生殖発生毒性

交尾能および受胎能に被験物質投与の影響は認められず,性周期についても被験物質投与の影響は認められなかった.妊娠を成立させなかった雄および妊娠が成立しなかった雌は 250 mg/kg群で各2例観察され,病理組織学検査の結果,雄の1例に精巣上体の精子肉芽腫が認められた.本所見は不妊の原因に関する所見と考えられるが,この所見は500および1000 mg/kg群では認められず,被験物質投与との関連は明らかではなかった.分娩時観察では妊娠動物の全例が正常に分娩し,妊娠期間にも被験物質投与の影響は認められなかった.出産生児の性比が対照群の1.58に対し1000mg/kg群で0.79と低値を示し統計学的有意差が認められたが,背景値(0.84〜1.08)との比較ではむしろ対照群の値が偶発的に高かったと考えられ,毒性学的に意義のある変化とは考えられなかった.また,1000 mg/kg群で認められた雌の4日の生存児数の高値も性比の偏りに起因する変化と考えられ,被験物質投与の影響とは考えられなかった.

新生児の外表検査で,被験物質投与群に認められた所見はいずれも単発性であり,自然発生性の所見と考えられた.また,新生児の体重も哺育 4日までに順調に増加し,死産児,死亡児および哺育4日の剖検でも被験物質投与による影響は認められなかった.

以上のことから,ドデカン酸メチルエステルによる雌雄の生殖に及ぼす影響および児動物の発生・発育に及ぼす影響は, 1000 mg/kg/day投与によっても認められず,無影響量はともに1000 mg/kg/dayと判断された.

文献

1)OECD Guideline for Testing of Chemicals: Extended Steering Group Document Vol. 3, 1990
2) C. G. Shayne, S. W. Carrol,“Statics and Experimental Design For Toxicologists,”Telford Press, 1986.
3)佐久間昭,“薬効評価機欸弉茲伐鮴蓮檗ぁ錨豕大学出版会, 東京, 1977.
4)石居 進,“生物統計学入門,”培風館, 東京, 1975.

連絡先
試験責任者:田中亮太
試験担当者:山本行仁,渡 修明,庄子明徳,
岩田 聖,小林和雄
(財)食品農医薬品安全性評価センター
〒437-12 静岡県磐田郡福田町塩新田字荒浜582-2
Tel 0538-58-1266 Fax 0538-58-1393

Correspondence
Authors:Ryota Tanaka(Study director),
Yukihito Yamamoto, Nobuaki Watari,
Akinori Shoji, Hijiri Iwata,
Kazuo Kobayashi
Biosafety Research Center/Foods,Drugs and Pesticides(An-pyo Center)
582-2 Shioshinden Arahama, Fukude-cho, Iwata-gun, Shizuoka, 437-12, Japan
Tel +81-538-58-1266Fax +81-538-58-1393