3,5-ジメチルアニリンのラットを用いる
28日間反復経口投与毒性試験

Twenty-eight-day Repeat Dose Oral
Toxicity Test of 3,5-Dimethylaniline in Rats

要約

OECD既存化学物質安全性点検に係る毒性試験の一環として,3,5-ジメチルアニリンの0(対照),10,60および360 mg/kgを1群雌雄各6匹のCrj:CD(SD系)ラットに28日間反復経口投与する毒性試験を実施し,以下の結果を得た.なお,対照群および360 mg/kg群にはそれぞれ雌雄各6匹の14日間回復群も設けた.

一般状態の観察では,360 mg/kg群において,雌雄の多数例でチアノーゼ,皮膚蒼白および流涎が認められ,雄または雌の少数ないし半数例で眼球突出あるいはよろめき歩行が認められた.これらの症状のうちチアノーゼおよび皮膚蒼白は継続的にみられた変化であったが,流涎は投与直後に一過性にみられた変化であり,眼球突出およびよろめき歩行も投与後6時間までには消失する変化であった.

体重では,360 mg/kg群の雌雄で増加抑制が認められ,同群では摂餌量が雄では投与期間を通して減少し,雌では投与1週目に減少した.

尿検査では,360 mg/kg群の雌雄で尿量の増加,ナトリウム,カリウムおよびクロール排泄量の増加ならびに浸透圧および比重の減少が認められた.

血液学検査では,60および360 mg/kg群の雌雄でメトヘモグロビンの増加,赤血球数,ヘモグロビン量およびヘマトクリット値の減少ならびに網状赤血球率の増加が認められた.さらに,360 mg/kg群では,雌雄で白血球数の増加,雄で好中球比の増加,雌で活性化部分トロンボプラスチン時間の短縮が認められた.

血液生化学検査では,360 mg/kg群の雌雄で総ビリルビン,GOT,GPT,リン脂質および無機リンの増加が認められ,さらに同群の雄ではカリウムおよびクロールの減少,雌では総コレステロールおよびカルシウムの増加が認められた.

器官重量では,60および360 mg/kg群の雌雄で脾臓の絶対および相対重量の増加が認められた.さらに,360 mg/kg群では,雌雄で甲状腺,肝臓および腎臓の絶対および相対重量の増加が認められたほか,精巣の絶対および相対重量にも増加が認められた.

病理組織学検査では,60および360 mg/kg群の雌雄で肝臓および脾臓のヘモジデリン沈着および脾臓の髄外造血が認められ,さらに,360 mg/kg群の雌雄で腎臓のヘモジデリン沈着および肝臓の髄外造血が認められた.また,肝臓の肝細胞の肥大および甲状腺の濾胞上皮の肥大が60 mg/kg群の雄および360 mg/kg群の雌雄に認められ,腎臓では乳頭間質の壊死が360 mg/kg群の雌雄に,近位尿細管上皮の硝子滴が360 mg/kg群の雄に認められた.

回復試験では,投与期間中にみられた変化のうち,腎臓での乳頭間質の壊死ならびに肝臓,脾臓および腎臓でのヘモジデリン沈着が認められたが,そのほかの変化については消失するか回復する傾向が認められた.

以上の結果から,本試験条件下における無影響量は雌雄とも10 mg/kg/dayと考えられた.

方法

1.被験物質および投与液の調製

3,5-ジメチルアニリン(純度99.9%,Lot No. 07351/1,関東化学(株)提供)は水に難溶,石油エーテルに可溶な黄褐色液体である.入手後の被験物質は室温,遮光下で保管し,投与期間終了後に供給源にて分析を行って試験期間中安定であったことを確認した.媒体にはコーンオイル(ナカライテスク(株),Lot No. V5P5523,V5P5831)を使用し,これに被験物質を0.2,1.2および7.2 w/v%濃度になるように溶解して投与液を調製した.調製は週1回以上の頻度で行い,調製した投与液は褐色容器に入れて冷蔵保管した.なお,初回調製時に投与液の濃度を測定し,設定値の±5%以内にあることを確認した.また,投与開始前に,本調製法による0.1〜20 w/v%溶液が褐色容器中で冷蔵保存下8日間,さらに室温で6時間安定であることを確認した.

2.使用動物および飼育条件

4週齢のSprague-Dawley系ラット(Crj:CD,日本チャールス・リバー(株))を雌雄各45匹購入し,16日間の検疫馴化を行ったのち,雌雄各36匹を選んで6週齢で試験に使用した.投与開始時の体重は,雄が228.1〜270.7 g,雌が149.1〜178.3 gであった.動物は,温度24±2℃,湿度55±10%,照明時間7時〜19時および換気回数13回/時に設定したバリアーシステム飼育室でステンレススチール製ハンガーケージに,検疫馴化期間中は1ケージ当たり3匹ずつ,群分け後は個別に収容して,高圧蒸気滅菌処理した固型飼料(MF,オリエンタル酵母工業(株))および次亜塩素酸ナトリウムを添加(約2 ppm)した水を自由に摂取させた.

3.投与量,投与方法,試験群構成および群分け

投与量は,2週間反復投与毒性予備試験(投与量:0,25,100および400 mg/kg)の結果から設定した.すなわち,当該試験において,雄の400 mg/kg群および雌の100 mg/kg以上の群で体重の増加抑制および摂餌量の減少が認められ,雌雄の100 mg/kg以上の群では貧血および脾臓重量の増加が認められた.さらに,400 mg/kg群では雌雄で血清GOT,GPT,総ビリルビンおよび脂質の増加と電解質の変動ならびに肝臓および腎臓重量の増加,雄で精巣重量の増加が認められた.したがって,本試験では毒性徴候が発現すると考えられる360 mg/kgを高用量とし,以下公比6で除した60および10 mg/kgをそれぞれ中用量および低用量に設定した.

投与経路は経口とし,胃管を用いた強制投与を1日1回,28日間反復して行った.投与容量は5 ml/kgとし,個体ごとに最新の体重を基に算出した.

試験群は,上記3用量に,コーンオイルを投与する対照を加え計4群とした.1群当たりの動物数は,投与期間終了時の剖検例として各群とも雌雄各6匹,さらに,対照群および360 mg/kg群には14日間の回復期間終了時の剖検例として雌雄各6匹を設けた.群分けは,投与開始前日の体重を基に層別連続無作為化法で行った.

4.検査項目

1) 一般状態の観察,体重および摂餌量の測定

投与期間中は毎日投与前,投与直後および投与後約4時間30分〜6時間の計3回,回復期間中は毎日午前および午後の計2回,一般状態および死亡の有無を観察した.また,体重および摂餌量を投与期間および回復期間を通して週2回の割合で測定した.

2) 尿検査

投与4週目および回復2週目に,代謝ケージにて絶食,給水下で8時から12時までの間に採取した新鮮尿を用いて,比色試験紙(プレテスト8a,和光純薬工業(株))によりpH,蛋白質,ブドウ糖,ケトン体,ビリルビン,潜血およびウロビリノーゲンを検査した.さらに,新鮮尿を1500回転/分で5分間遠心分離し,得られた尿沈渣について鏡検した.また,新鮮尿採取後に給餌,給水下で採取した24時間蓄積尿を用いて,尿量,色調,浸透圧(氷点降下法;OSMOMETER OM801,VOGEL社)および比重(屈折率法;尿屈折計,(株)アタゴ)を測定するとともに,電解質分析装置(PVA-α掘(株)アナリティカル・インスツルメンツ)によりナトリウム(電極法),カリウム(電極法)およびクロール(電量滴定法)を測定した.なお,ナトリウム,カリウムおよびクロールについては濃度に尿量を乗じて24時間総排泄量を算出した.

3) 血液学検査

投与期間終了後および回復期間終了後に,動物を18時間以上絶食させたのち,ペントバルビタール・ナトリウムの腹腔内投与による麻酔下に開腹し,後大静脈から採血を行った.採取した血液の一部はEDTA-2Kで処理し,視算法により白血球数を,多項目自動血球計数装置(Sysmex CC-780,東亜医用電子(株))により赤血球数(電気抵抗検出方式),ヘモグロビン量(オキシヘモグロビン法),ヘマトクリット値(血球パルス波高値検出方式)および血小板数(電気抵抗検出方式)を測定し,これらを基に平均赤血球容積(MCV),平均赤血球血色素量(MCH)および平均赤血球血色素濃度(MCHC)を算出した.また,血液の一部は塗抹標本とし,May-Grnwald-Giemsa染色を施して白血球百分比を,ニューメチレンブルー超生体染色を施して網状赤血球率を視算した.また,ヘパリン処理血液を用いて,メトヘモグロビン(シアンメトヘモグロビン法)をダブルビーム分光光度計(U-2000,(株)日立製作所)により測定した.さらに,3.8%クエン酸ナトリウム加血液を3000回転/分で15分間遠心分離し,得られた血漿を用いて全自動血液凝固測定装置(Sysmex CA-5000,東亜医用電子(株))により,プロトロンビン時間(散乱光検出方式)および活性化部分トロンボプラスチン時間(散乱光検出方式)を測定した.

4) 血液生化学検査

血液学検査に引き続き採取した血液を室温で約60分間放置後,3000回転/分で10分間遠心分離し,得られた血清を用いて自動分析装置(736-10,(株)日立製作所)により,総蛋白質(ビウレット法),アルブミン(BCG法),A/G比(総蛋白質およびアルブミンより算出),総ビリルビン(アルカリアゾビリルビン法),GOT(Karmen法),GPT(Wrlewski-La Due法),γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(L-γ-グルタミル-DBHA基質法),アルカリ性フォスファターゼ(p-ニトロフェニルリン酸基質法),総コレステロール(COD-DAOS法),トリグリセライド(GPO-DAOS法・グリセリン消去法),リン脂質(酵素法・DAOS発色法),グルコース(グルコキナーゼ・G-6-PDH法),尿素窒素(ウレアーゼ-GlDH法),クレアチニン(Jaff法),無機リン(モリブデン酸直接法)およびカルシウム(OCPC法)を測定した.また,電解質分析装置(PVA-α掘(株)アナリティカル・インスツルメンツ)によりナトリウム(電極法),カリウム(電極法)およびクロール(電量滴定法)を測定した.

5) 器官重量の測定,剖検および病理組織学検査

採血後に,外側腸骨動脈を切断して放血死させ,剖検した.剖検時に脳,顎下腺(舌下腺を含む),甲状腺(上皮小体を含む),心臓,肺(気管支を含む),胸腺,肝臓,脾臓,腎臓,副腎,精巣および卵巣を摘出して器官重量(絶対重量)を測定するとともに,剖検日の体重を基に体重比器官重量(相対重量)を算出した.これらの器官に加え,下垂体,脊髄,眼球,視神経,ハーダー腺,耳下腺,膵臓,胃,膀胱,骨髄(胸骨および大腿骨)ならびに肉眼的異常部位を採取して10%中性緩衝ホルマリン溶液(眼球,視神経およびハーダー腺はグルタールアルデヒド溶液,精巣はブアン液で前固定)で固定した.

投与期間終了時の対照群および高用量群の脳,眼球,唾液腺(顎下腺,舌下腺および耳下腺),甲状腺(上皮小体を含む),心臓,肺(気管支を含む),胸腺,肝臓,脾臓,腎臓,副腎,精巣,卵巣および骨髄(胸骨および大腿骨)については,常法に従ってパラフィン切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を施して光学顕微鏡下で観察した.さらに,甲状腺,肝臓,脾臓,腎臓および骨髄では,被験物質投与に関連したと考えられる変化が高用量群で認められたため,投与期間終了時には順次低い用量群まで,また,回復期間終了時には対照群および高用量群について同様に観察した.また,肉眼的異常部位についても病理組織学検査を実施した.なお,肝臓,脾臓および腎臓では褐色色素沈着が認められたため,ヘモジデリンの証明にベルリン青染色を行い,さらに腎臓についてはシュモール反応およびPAS染色も行った.

5.統計解析

体重,摂餌量,尿検査(定性反応は除く),血液学検査,血液生化学検査,器官重量および体重比器官重量について,各群ごとに平均値と標準偏差を求め,Bartlett法により分散の均一性を検定した.分散が均一な場合はDunnettの多重比較検定を用いて,分散が不均一な場合はSteelの多重比較検定を用いて対照群との比較を行った.また,病理組織学検査においてみられた所見については,Mann-WhitneyのU検定を実施した.なお,いずれの場合も有意水準は5%とした.

結果

1.一般状態

すべての試験群で死亡例はなく,対照群ならびに10および60 mg/kg群では観察期間を通して一般状態の変化も認められなかった.

360 mg/kg群では,チアノーゼ,皮膚蒼白,流涎,眼球突出,よろめき歩行および軟便とこれに伴う下腹部汚染が認められた.チアノーゼは雌雄で投与3日からみられ始め,投与2週からはチアノーゼを示していた例に皮膚蒼白もみられるようになり,チアノーゼまたは皮膚蒼白は雌雄の多数例で投与期間中に継続して観察された.流涎は投与6日から投与期間終了時まで雌雄の多数例でみられ,投与直後から発現し,投与後10分までには消失する一過性の変化であった.眼球突出は,雌では6例で投与2週目から投与期間終了時までみられたが,雄では1例で投与3週目に1回みられたにすぎなかった.本症状は投与後5ないし10分から発現し,投与後6時間以内にはほとんどの例で消失した.よろめき歩行は,眼球突出が認められた例のうち雌1例で,投与2週目に1回,投与後10分からみられたが,投与後4時間30分までには消失した.また,軟便は雄2例で投与1週目に1回みられ,これに伴い下腹部汚染もみられた.回復期間では,投与期間中にみられたチアノーゼおよび皮膚蒼白が回復期間の初期には認められたが,これらの症状は回復期間中に消失し,そのほかに変化は認められなかった.

2.体重(Fig.1)

360 mg/kg群の雌雄で投与1週目から体重の増加抑制傾向がみられ,投与4週目には対照群と比べて体重の有意な低値が認められた.しかし,同群の体重は回復期間中に雌雄とも回復した.そのほか,10 mg/kg群の雌の体重も対照群よりやや低値を示したが,60 mg/kg群では同様な傾向は認められなかった.

3.摂餌量

360 mg/kg群の雄で投与期間を通して摂餌量の減少ないし減少傾向が認められ,雌でも投与1週目に減少が認められた.同群の回復期間中の摂餌量は,雌雄ともに増加ないし増加傾向を示した.

4.尿検査(Table 1)

投与4週目の検査では,360 mg/kg群の雌雄で尿量,ナトリウム排泄量およびクロール排泄量の増加ならびに浸透圧および比重の減少が認められた.さらに,同群ではカリウム排泄量の増加が雌で認められ,雄でも同様の傾向がみられた.

回復2週目の検査では,360 mg/kg群の雌雄で明らかな変化は認められなかった.

5.血液学検査(Table 2)

投与期間終了時の検査では,60および360 mg/kg群の雌雄で赤血球数,ヘモグロビン量およびヘマトクリット値の減少ないし減少傾向ならびにメトヘモグロビンおよび網状赤血球率の増加ないし増加傾向が認められた.また,360 mg/kg群の雌雄でMCVおよびMCHの増加ならびにMCHCの減少が,60 mg/kg群の雌でMCVの増加およびMCHCの減少が認められた.さらに,360 mg/kg群の雌雄で白血球数の増加ないし増加傾向,同群の雄で分葉核好中球比の増加,雌で活性化部分トロンボプラスチン時間の短縮が認められた.そのほか,10 mg/kg群の雌ではプロトロンビン時間の延長および単球比の増加がみられたが,これらには投与量と変化の程度に一定の傾向は認められなかった.

回復期間終了時の検査では,投与期間終了時と同様な変化として360 mg/kg群の雌雄で赤血球数の減少ならびにMCVおよびMCHの増加とMCHCの減少がみられたが,その程度は投与期間終了時より軽減しており,回復傾向が認められた.また,360 mg/kg群では,雌雄でヘモグロビン量およびヘマトクリット値の増加,雄でメトヘモグロビンの減少がみられたが,これらについては投与期間終了時とは逆の変動を示しており,回復性の変化とみなされた.そのほか,投与期間終了時にはみられなかった変化として,360 mg/kg群の雌雄で血小板数の減少が認められた.また,360 mg/kg群の雌では,好酸球比および分葉核好中球比の減少ならびにリンパ球比の増加がみられたが,投与期間終了時には対照群と差はなく,その値と回復期間終了時を比べても明らかな差はなかった.

6.血液生化学検査(Table 3)

投与期間終了時の検査では,360 mg/kg群の雌雄で総ビリルビン,GOT,GPT,リン脂質および無機リンの増加が認められた.さらに,360 mg/kg群の雄でカリウムおよびクロールの減少が,雌で総コレステロールおよびカルシウムの増加が認められた.そのほか,360 mg/kg群の雄でグルコースの減少,60 mg/kg群の雌でGPTの増加がみられたが,生理値内の変動であった.また,10 mg/kg群の雌で尿素窒素およびクロールの増加がみられたが,軽度な変化であり,投与量との変化の程度に一定の傾向は認められなかった.

回復期間終了時の検査では,360 mg/kg群の雌雄でカリウムの減少がみられたが,雄の値は投与期間終了時より軽減しており,回復傾向が認められた.そのほか,360 mg/kg群の雄でGOT,グルコースおよびクレアチニンの減少がみられたが,いずれも軽度な変化で毒性学的に意義のない変化であった.

7.剖検

投与期間終了時の検査では,脾臓の肥大および腎臓の黒褐色化が360 mg/kg群の雌雄全例に認められた.そのほか,肝臓の黄白色点が360 mg/kg群の雌1例に,肺の暗赤色斑が対照群の雄1例に認められた.

回復期間終了時の検査では,脾臓の肥大が360 mg/kg群の雄3例と雌1例に認められた.そのほか,精巣上体(左側)の黄白色点が360 mg/kg群の1例に認められた.

8.器官重量(Table 4)

投与期間終了時の検査では,60および360 mg/kg群の雌雄で脾臓の絶対および相対重量の増加ないし増加傾向が認められた.さらに,360 mg/kg群では,甲状腺,肝臓および腎臓の絶対および相対重量の増加ないし増加傾向が雌雄に認められ,精巣でも絶対および相対重量に増加が認められた.そのほか,60 mg/kg群の雄では肺の相対重量の減少が認められたが,投与量と変化の程度に一定の傾向は認められなかった.また,360 mg/kg群の雄では脳および心臓の相対重量の増加が認められたが,絶対重量に変化はないことから体重が低値であったことに起因する変化と考えられた.

回復期間終了時の検査では,投与期間終了時と同様に360 mg/kg群の雌雄で脾臓の絶対および相対重量の増加,同群の雌で肝臓の絶対および相対重量の増加が認められたが,いずれも変化の程度は投与期間終了時と比べて軽減しており,回復傾向が認められた.そのほか,360 mg/kg群の雄では脳の絶対重量の減少が認められた.

9.病理組織学検査(Table 5)

投与期間終了時の剖検例において,肝臓では小葉中心性の肝細胞肥大が60 mg/kg群の雄3例および360 mg/kg群の雌雄全例に,類洞内細胞のヘモジデリン沈着が60 mg/kg群の雄5例と雌全例および360 mg/kg群の雌雄全例に認められ,これらの変化の程度は360 mg/kg群で強かった.また,小葉辺縁の肝細胞のヘモジデリン沈着が360 mg/kg群の雌2例に,赤芽球系を主体とする髄外造血が360 mg/kg群の雌雄全例に認められた.脾臓では,赤芽球系を主体とする髄外造血が60 mg/kg群の雄全例と雌4例および360 mg/kg群の雌雄全例に,赤脾髄でヘモジデリン沈着が60および360 mg/kg群の雌雄全例に認められ,これらの変化の程度は360 mg/kg群で強かった.胸骨および大腿骨の骨髄では,60 mg/kg群の雄全例および360 mg/kg群の雌雄全例で赤芽球系の造血亢進が認められ,変化の程度は360 mg/kg群で強かった.腎臓では,近位尿細管上皮のヘモジデリン沈着が360 mg/kg群の雌雄全例に,近位尿細管上皮の硝子滴が360 mg/kg群の雄全例に,乳頭間質の壊死が360 mg/kg群の雄3例と雌全例に認められた.甲状腺では,濾胞上皮細胞の肥大が60 mg/kg群の雄1例および360 mg/kg群の雌雄全例に認められた.そのほか,360 mg/kg群の雌1例では肉眼的に肝臓の黄白色点がみられた部位で広範性壊死が認められ,対照群の雄1例では肉眼的に肺の暗赤色斑がみられた部位で出血,水腫,好中球の浸潤および泡沫細胞の集簇が認められた.このほかに検査を行った脳,眼球,唾液腺,上皮小体,心臓,胸腺,副腎および精巣では変化は認められなかった.

回復期間終了時の剖検例において,投与期間終了時と同様な変化として,肝臓では小葉中心性の肝細胞肥大が360 mg/kg群の雄3例に,類洞内細胞のヘモジデリン沈着が雌雄全例に認められた.脾臓では,赤脾髄でヘモジデリン沈着が360 mg/kg群の雌雄全例に認められた.腎臓では,近位尿細管上皮のヘモジデリン沈着が360 mg/kg群の雌雄全例に,近位尿細管上皮の硝子滴が360 mg/kg群の雄3例に,乳頭間質の壊死が360 mg/kg群の雄4例と雌全例に認められた.これらの変化のうち,肝臓の肝細胞肥大および腎臓の近位尿細管上皮の硝子滴については,発生例数は投与期間終了時より減少した.さらに,投与期間終了時に変化がみられた骨髄およ甲状腺では変化は認められなかった.そのほか,360 mg/kg群の雄1例では肝臓で肝細胞の単細胞壊死と肝細胞の分裂像の増加が認められ,同群の別の雄1例では肉眼的に精巣上体の黄白色点がみられた部位で精子肉芽腫が認められた.

考察

3,5-ジメチルアニリンの異性体である2,6-ジメチルアニリン及び3,4-ジメチルアニリンでは,ラットにおける反復投与毒性試験で肝臓,腎臓および造血系での毒性学的変化が報告1, 2)され,さらに2,6-ジメチルアニリンでは,がん原性試験で鼻腔上皮での発がん性が報告1)されているが,3,5-ジメチルアニリンの反復投与時の毒性についての報告はみあたらない.今回,3,5-ジメチルアニリンの0,10,60および360 mg/kgを雌雄ラットに28日間反復経口投与し,その毒性及び回復性について検討した.

3,5-ジメチルアニリン投与による死亡はいずれの群にもなかった.一般状態の観察では,360 mg/kg群の雌雄の多数例でチアノーゼ,皮膚蒼白および流涎が,雌雄の少数ないし半数例で眼球突出およびよろめき歩行が認められた.アニリン系化合物では,共通した毒性としてメトヘモグロビン血症と貧血が生じる3)ことが知られており,本試験でもメトヘモグロビンの増加および貧血が認められたことから,チアノーゼおよび皮膚蒼白はこれらに起因したものと考えられた.流涎については,異性体である3,4-ジメチルアニリン2)の投与でも生じており,被験物質投与に関連した変化であると考えられたが,投与直後に一過性にみられた変化であり,唾液腺に器質的な変化は認められなかった.眼球突出については,その発現機序は明らかでなかったが,投与後5ないし10分から発現し,投与後6時間までに消失する急性症状で,病理組織学的検査では眼球に対する影響は認められなかった.よろめき歩行は,雌1例で単発的にみられた変化ではあったが,眼球突出と同時に発現したものであり,被験物質投与に関連した変化と考えられた.そのほか,360 mg/kg群の雄の少数例では軟便とこれに伴う下腹部汚染がみられた.しかし,軟便は単発的な変化であり,被験物質投与による消化管等への影響は認められていないことから,媒体に用いたコーン油に起因した変化と思われた.

体重では,360 mg/kg群の雌雄で増加抑制が認められ,同群では摂餌量の減少が雄では投与期間を通して,雌では投与1週目に認められた.

尿検査では,360 mg/kg群の雌雄で尿量の増加,比重および浸透圧の減少,ならびにナトリウム,カリウムおよびクロール排泄量の増加がみられた.さらに,同群では腎臓の重量増加と乳頭間質の壊死が雌雄に,血清カリウムおよびクロールの減少ならびに蛋白質の再吸収像と考えられる尿細管上皮の硝子滴が雄に認められたことから,被験物質が腎臓に影響を及ぼしたことが示唆された.

血液学検査では,60および360 mg/kg群の雌雄でメトヘモグロビンが増加した.また,同群の雌雄では赤血球数,ヘモグロビン量およびヘマトクリット値が減少し,貧血が認められた.赤血球恒数では,MCVおよびMCHは増加を,MCHCは減少を示していることから大球性貧血であり,360 mg/kg群では血清ビリルビンも増加したことから,貧血はメトヘモグロビン形成に起因する溶血によるものと考えられた.溶血に関連する変化として,肝臓および脾臓のヘモジデリン沈着が60および360 mg/kg群の雌雄に,腎臓のヘモジデリン沈着が360 mg/kg群の雌雄に認められた.360 mg/kg群の雌雄でみられた血清GOTおよびGPTの増加についても,肝臓でこれらの逸脱酸素が増加するような病変がみられていないことから,溶血に関連した変化と考えられた.また,貧血に対する代償性の変化として,60および360 mg/kg群の雌雄では末梢血の網状赤血球率が増加し,赤芽球系を主体とする脾臓での髄外造血が60および360 mg/kg群の雌雄に,肝臓での髄外造血が360 mg/kg群の雌雄に認められ,骨髄でも造血亢進が60 mg/kg群の雄および360 mg/kg群の雌雄に認められた.また,60および360 mg/kg群の雌雄でみられた脾臓重量の増加および360 mg/kg群の雌雄でみられた肝臓重量の増加も髄外造血に伴った変化と考えられたが,肝臓については後述する肝細胞の肥大も重量の増加に影響を与えたものと思われた.このほか,血液学検査では,360 mg/kg群の雌雄で白血球数の増加が,同群の雄で好中球比の増加が認められたほか, 360 mg/kg群の雌で活性化部分トロンボプラスチン時間の短縮が認められた.白血球の増加について,その機序は明らかではないが,同群では炎症性病変はみられていないことから,赤芽球系の造血亢進に伴って,顆粒球系の造血も亢進したのではないかと思われた.一方,活性化部分トロンボプラスチン時間については,延長した場合は肝障害等の指標となるが,短縮した場合の臨床的意義は明らかではない.

上述のほか,血液生化学検査では,リン脂質の増加および無機リンの増加が360 mg/kg群の雌雄に,総コレステロールおよびカルシウムの増加が360 mg/kg群の雌に認められた.また,リン脂質および総コレステロールの変動と関連が深い肝臓では小葉中心性の肝細胞肥大が,無機リンおよびカルシウムの変動と関連が深い甲状腺では濾胞細胞の肥大と重量増加がいずれも60 mg/kg群の雄および360 mg/kg群の雌雄に認められたことから,被験物質投与が肝臓および甲状腺に影響を及ぼしたことが示唆された.なお,甲状腺の濾胞細胞の肥大については,甲状腺に被験物質が直接的に影響を及ぼした可能性があるほかに,本試験では小葉中心性の肝細胞肥大が認められていることから,その原因の1つとして,薬物代謝酵素の誘導4)が考えられ,薬物代謝酵素が誘導されたことに伴い,甲状腺ホルモンの肝臓での分解が促進し,甲状腺機能が亢進してその結果として濾胞細胞が肥大5)したようにも考えられた.

そのほか,本試験では精巣重量の増加が360 mg/kg群で認められたが,病理組織学検査では変化が認められなかったことから,毒性学的意義は低いものと考えられた.また,360 mg/kg群の雌1例では,病理学検査で,肉眼的に肝臓の黄白色点がみられた部位に広範性壊死が認められたが,他に関連する変化がないことに加え,発生例数も少なく,同様な変化は同系統のラットでは時折みられることから偶発所見と考えられた.

回復試験では,360 mg/kg群の雌雄で腎臓での乳頭間質の壊死ならびに肝臓,脾臓および腎臓でのヘモジデリン沈着が認められたが,そのほかに投与期間中にみられた変化については消失するか,軽減する傾向がみられた.ヘモジデリンの沈着については,溶血に関連する他の変化は回復していることから,回復に時間は要するものの,徐々に消失して行く変化であろうと推測される.また,腎臓での乳頭間質の壊死については,投与期間終了時と比較して回復期間終了後に変化の程度が増強するものではなかった.なお,回復試験において投与期間終了時には変化がみられなかった項目で統計学的に有意な差が認められたり,病理組織学検査で発生頻度の低い変化がみられたりしたが,いずれも他に関連する変化はないことから,被験物質投与との関連性はないものと考えられた.

以上のように,本試験では主たる変化として,雌雄とも60 mg/kg以上でメトヘモグロビンの増加とこれに伴う貧血が認められたことから,無影響量は雌雄とも10 mg/kg/dayと考えられた.

文献

1)M. Kornreich and C.A. Montgomery, Jr., "Toxicology and carcinogenesis studies of 2,6-xylidine(2,6-dimethylaniline)in Charles River CD rats," National Toxicology Program, Technical Report Series No.287(1990).
2)井上博之,化学物質毒性試験報告,3,143(1996).
3)竹内康浩,“毒性試験講座18,産業化学物質,環境化学物質”和田 攻編,地人書館,東京,1991,pp. 129-151.
4)J.R. Glaister, "Principles of toxicological pathology," Taylar & Francis, London and Philadelphia, 1986, pp.83-85.
5)C. Gopinath, D.E. Prentice and D.J. Lewis, "Atlas of experimental toxicological pathology," MTP Press Limited, Lancaster, 1987, pp.112-113.
連絡先
試験責任者:末武和己
試験担当者:緒方英博,古川浩美,幸 邦憲,永井憲児,
神谷光一,一鬼 勉,鍬先恵美子
パナファーム・ラボラトリーズ 安全性研究所
〒869-04 熊本県宇土市栗崎町1285
Tel 0964-23-5111Fax 0964-23-2282

Correspondence
Authors:Kazumi Suetake(Study director)
Hidehiro Ogata,Hiromi Furukawa,
Kuninori Yuki,Kenji Nagai,
Kouichi Kamiya,Tsutomu Ichiki,
Emiko Kuwasaki
Safety Assessment Laboratory, Panapharm Laboratories Co., Ltd.
1285 Kurisaki-machi, Uto-shi, Kumamoto, 869-04, Japan
Tel +81-964-23-5111Fax +81-964-23-2282