m-トルイジンのラットを用いる
反復経口投与毒性・生殖発生毒性併合試験

Combined Repeat Dose and Reproductive/Developmental Toxicity
Screening Test of m-Toluidine in Rats

要約

m-toluidineは,benzeneの単環メチル化合物であるtolueneのm-位に置換基として-NH2基を一つ付加した芳香族アミノ化合物である.本化合物は,写真薬,染料等の原料および中間体に広く使用されているが,その毒性については,経口投与によるラット,マウスおよびウサギのLD50値が,それぞれ450,740および750mg/kgであること,ウサギの皮膚および角膜に対して軽度〜中等度の刺激性があること,微生物による変異原性試験では変異原性がみられないことなどが報告1-5)されているにすぎず,ヒトをはじめ哺乳類の生体に及ぼす毒性についてはほとんど知られていない.一方,m-toluidineの位置異性体であり,m-toluidineと同様に,合成染料,薬品,農薬等の原料および中間体として広汎に使用されているo-toluidineについては,生体に及ぼす毒性に関して比較的多くの毒性情報が存在し,ラットでは,経口投与によりmethemoglobinemiaおよびreticulocytosisが惹起されること,膀胱粘膜上皮にkeratosisおよびmetaplasiaが生じること,腎および脾臓に色素沈着がみられること,長期間の曝露によりsarcomaが複数の器官に誘起されるほか,膀胱にtransitional-cellcarcinomaが誘起されることなどが報告6)されている.このことからm-toluidineについてもo-toluidineと類似の毒性が推定された.

本試験では,OECDによる既存化学物質の安全性点検に係わる毒性調査事業の一環としてm-toluidineの0(溶媒対照),30,100および300mg/kgをSprague-Dawley系ラット(Crj:CD)の雌雄(各13匹/群)に交配前2週間および交配期間2週間を通して経口投与し,さらに雄では交配期間終了後2週間,雌では妊娠期間を通して分娩後哺育3日まで投与を継続して親動物に対する反復投与毒性およびその生殖能力ならびに次世代児の発生・発育に及ぼす影響について検討した.

その結果,m-toluidineの100mg/kg以上の量は,雌雄ラットに対し,ほぼ6週間にわたる反復投与によって溶血性と推定される貧血を惹起し,これに随伴して髄外造血の亢進および色素沈着を肝,脾あるいは腎臓に来す毒性発現量であり,腎臓では,さらに機能的・器質的障害を惹起する可能性が示唆された.また,300mg/kgを投与されたラットでは,このほかに摂餌量,体重増加の抑制および活動性の低下が投与初期にみられ,貧血に起因すると考えられる軽度な全身毒性の発現が推定されたほか,雄では血液生化学的検査において肝機能の変動を意味すると推定される所見が得られた.また,膀胱については粘膜上皮の増生が,少数ながら雄の一部に認められた.30mg/kgを投与したラットでは雌の2例で腎臓の尿細管に病変がみられた.一方,生殖発生毒性に関しては,300mg/kgまでのm-toluidineに雌雄の交尾および受胎能力ならびに胚の着床に対する影響はみられなかったものの100mg/kg以上の投与で全着床胚の早期死亡・吸収を示す例が生じ,300mg/kgの投与では,初期胚の子宮内生存性が完全に損なわれた.また,30および100mg/kgを投与したラットでは,哺育状態の異常を呈する例も散見され,感受性の高い母動物ではこれらの量の投与により哺育機能が障害される可能性も示唆された.さらにm-toluidine投与群では,児の体重が低値となる傾向がみられた.しかし催奇形作用は,100mg/kg以下のm-toluidineにはないものと考えられた.

これらのことから本試験条件下では,m-toluidineの反復投与毒性および生殖発生毒性に関する無影響量は,雌雄ともにいずれも30mg/kg/dayを下回る量と推定される.

方法

1.被験物質

m-toluidine〔ロット番号 102011(日本化薬(株));純度 99.0%〕は,不純物として2-ethyl-anilineを含み,水に微溶でアルコール,アセトンに溶解するアミン臭のある液体である.本被験物質は,使用時まで冷暗所に密封保管し,コーンオイル〔ロット番号,V3B8379(ナカライテスク)〕に溶解して,いずれの用量においても1回の投与液量が5ml/kgになるように含量を調整し,投与検体とした.調製した投与検体は,冷暗条件下で密封保管し,調製後7日以内に投与した.調製液中の被験物質は,冷暗条件下で少なくとも7日間安定であり,また,使用した投与検体にはほぼ所定量のm-toluidineが含有されていたことを確認した.

2. 使用動物および飼育条件

試験には,雌雄とも7週齢にて購入したSprague-Dawley系ラット(Crj:CD, SPF)を使用した.動物は,入荷後1週間,馴化と検疫を兼ねて予備飼育し,一般状態に異常が認められなかったものを試験に供した〔群分け時体重範囲,雌 200.1〜247.2g;雄 267.2〜361.7g〕.各動物は,温度24±1℃,相対湿度55±5%,換気回数約15回/時間,照明12時間(午前7時〜午後7時)に調節されたバリアーシステムの飼育室で,金属製金網床ケージ(日本ケージ)に個別に収容して飼育し,固型飼料(CA-1,日本クレア)および水道水を自由に摂取させた.妊娠18日以後の母動物には,飼育ケージの床に金属製床板を敷き,床敷として木製チップ(ホワイトフレーク(R),日本チャールス・リバー)を適宜供給した.供給した飼料,水,および床敷には試験に支障を来す可能性の考えられる夾雑物の混在はなかった.

3.群分け法

雌雄とも初回投与日の体重をもとに体重別層化無作為抽出法に準じて群分けし,1群につき雌雄各13匹を用意した.

4. 投与量,群構成,投与期間および投与方法

m-toluidineの投与量は,次項に示す予備試験の結果を参考に30,100および300mg/kgとした.投与液量は,各用量とも5ml/kgとし,対照群のラットには,m-toluidineの媒体としたコーンオイルをm-toluidine投与群と同一条件にて投与した.各用量の投与検体は,雄に対しては交配前14日間と交配期間14日間および交配期間終了後14日間の連続42日間,また,雌に対しては交配前14日間と交配期間中(交尾成立まで;最長14日間)ならびに交尾成立雌では妊娠期間を通して分娩後の哺育3日まで毎日1回,ラット用胃管を用いて強制的に経口投与した.毎日の投与は,原則として一定時刻の間(通常13時〜16時)に行い,各動物の投与液量は,雄ならびに交配前および交配期間中の雌については週1回の測定体重をもとに,また,交尾成立後の雌については妊娠0日の体重をもとにそれぞれ算出した.

5. 予備試験(投与量の設定)

m-toluidineの0(溶媒対照),100,200および400mg/kgをSprague-Dawley系(Crj:CD)ラットの雌雄各5匹に1日1回,14日間,反復して経口投与し,雌雄ラットに及ぼす反復投与毒性について検討した.m-toluidineの最高用量は,最大耐量についての情報を得るべく,ラットのLD50値(450mg/kg)を僅かにしたまわる量とした.投与期間中は,生死,一般状態を毎日観察し,体重を投与1(投与開始日),7および14日に,摂餌量を投与1〜2,7〜8および13〜14日に測定したほか,o-toluidineの毒性情報から尿の組成に変化が生じる可能性が推定されたため,投与4および11日に雄の全例について尿検査(検査項目:尿量,比重,色調,混濁度,pH,潜血,総蛋白,糖,ケトン体,ウロビリノーゲン,ビリルビン,沈渣)を実施した.また,雌雄全例を投与終了日の翌日に剖検し,体重,胸腺,肝臓,腎臓,副腎,卵巣および精巣の重量を測定したほか,全例について血液学的検査(検査項目:赤血球数,白血球数,血色素濃度,ヘマトクリット値,平均赤血球容積,平均赤血球血色素量,平均赤血球血色素濃度,血小板数)を行った.重量を測定した器官は,10%ホルマリンに固定して保存し,肝臓,腎臓および脾臓についての病理組織学的検査を雌雄全例について行った.試験材料および方法は,併合試験法に準じた.予備試験の結果は,次のように要約される.

1) 死亡例

400mg/kg投与群の雄1例が,5回投与の翌日に死亡した.この例では,同群の他の雄と同様に,一般状態の変化として褐色尿の排泄,活動性の低下,耳介および四肢末端体表の一過性の暗色化が死の前日までにみられていたが,死亡前には約5分間にかけてふらつき歩行がみられ,暗褐色調の鼻漏とともに強直性痙攣を呈したのち死亡が確認された.このほかには,雌雄ともに死亡例はなかった.

2) 一般状態

褐色尿の排泄が,初回投与の翌朝(投与2日)から各m-toluidine投与群の雌雄全例にみられた.この変化は,400および200mg/kg投与群の雌雄では投与期間中ほぼ継続して観察されたが,100mg/kg投与群の雌雄では投与6日以降にみられなくなった.このほか400mg/kg投与群の雌雄では,投与2日に耳介と四肢末端の体表が一過性に暗色調を呈する変化が全例にみられ,活動性の低下が投与7日まで継続したほか,貧血(後述)によるとみられる耳介の退色が投与期間中継続的に,また四肢末端体表の退色が投与末期にそれぞれ観察された.200mg/kg投与群の雌雄では,全例で四肢末端体表の退色が投与末期にみられたほか,雄では活動性の低下が投与4日まで継続した.100mg/kg投与群では,雄の2〜3例で四肢末端体表の退色が投与末期に認められた.

3) 体重

400mg/kg投与群の雌雄および200mg/kg投与群の雌において投与1〜7日の体重増加が有意に抑制され,400mg/kg投与群の雄では,投与7および14日の体重が有意な低値を示した.

4) 摂餌量

400mg/kg投与群の雌雄において摂餌量の減少傾向がみられ,雄では投与7〜8日の摂餌量が有意な低値を示したが,このほかには雌雄ともにいずれのm-toluidine投与群においても対照群との間に有意差は認められなかった.

5) 尿検査所見

(1) 投与第4日検査所見

各m-toluidine投与群において尿の色調が,用量依存的に黄色から褐色調に偏る傾向が認められた.また,400mg/kg投与群では,尿が酸性に偏り,蛋白,ビリルビンおよびウロビリノーゲンの増加傾向がみられたほか,高度の潜血反応が2例に認められ,尿沈渣中に上皮細胞を認める例が増加した.さらに,強度に混濁した尿を排泄した1例(死亡例)では,尿中に糖の存在も確認された.200mg/kg以下の投与群では,色調のほかに変化は認められなかった.

(2) 投与11日検査所見

尿量の有意な増加が,400mg/kg投与群において認められた.100mg/kg投与群では,尿が酸性に偏る傾向がみられ,3例に高度の蛋白尿を認めた.また,各m-toluidine投与群では,尿の色調が黄色に偏り,ビリルビンおよびウロビリノーゲンが軽度に増加する傾向がみられた.その他の検査項目については対照群と各m-toluidine投与群間で著差は認められなかった.

6) 血液学的検査所見

各m-toluidine投与群では,雌雄ともに赤血球数が用量依存的かつ有意に減少し,さらには血色素濃度,ヘマトクリット値の有意な減少および平均赤血球容積,平均赤血球血色素量の有意な増加が認められた.また,平均赤血球血色素濃度が,雄では400mg/kg投与群,雌では全てのm-toluidine投与群において有意に減少した.白血球数は100mg/kg投与群の雄で有意に増加したが,同群の雌では対照群と比較してむしろ低値であり,有意差も認められなかった.血小板数については,200mg/kg以下の投与群において有意性のある変化は認められなかった.なお,200mg/kg以上の投与群では,200mg/kg投与群の雄1例を除いて雌雄ともに白血球数を自動測定することが困難であった.また,400mg/kg投与群の雌雄では血小板数についても同様であった.自動測定器(Coulter Counter Model S-PLUS 検砲,これらを算定できなかった技術的理由は不明であるが,用量と相関性のある現象であり,m-toluidine投与に起因したなんらかの血液学的変化を反映した所見と推定された.

7) 器官重量

腎臓の比体重値が,雄では400mg/kg投与群,雌では全てのm-toluidine投与群において有意な高値を示した.また,400mg/kg投与群の雌では腎臓の実重量も有意に高値であった.脾臓については,実重量および比体重値がともに200mg/kg以上の投与群の雄および全てのm-toluidine投与群の雌において有意な高値を示した.その他の器官については実重量,比体重値ともに対照群と各m-toluidine投与群間で有意差は認められなかった.

8) 剖検所見

−投与期間終了時剖検例−

各m-toluidine投与群では,雌雄ともに脾臓が暗色調を呈して腫大し,濾胞が不明瞭な例が認められた.また,肝臓について400mg/kg投与群の雄3例,雌全例および200mg/kg投与群の雌2例に暗色化が認められたほか,腎臓では,皮質領域の暗色化が,400mg/kg投与群の雌雄全例,200mg/kg投与群の雄1例,雌3例および100mg/kg投与群の雌1例にみられ,400mg/kg投与群の雌1例および200mg/kg投与群の雌2例では皮髄境界の白濁が観察された.胸腺については,ごく軽度の退縮が,400mg/kg投与群の雌雄各1例,200mg/kg投与群の雌1例,100mg/kg投与群の雄1例,雌2例にみられたが,このほかにはm-toluidine投与に起因したと推定される変化は認められなかった.

−死亡例−

鼻孔周囲の皮膚,外陰部周囲の被毛は褐色物で汚染され,肺は暗赤色調で開胸時の退縮が不十分であり,割面からは褐色の泡沫液が漏出した.肝臓,脾臓,腎臓は腫大し,骨髄はやや淡色であった.膀胱に少量の褐色尿を認めた.

10) 病理組織学的検査所見

−投与期間終了時剖検例−

(肝臓)

Kupffer細胞内の色素沈着および髄外造血が,200mg/kg以上の投与群の雌雄全例および100mg/kg投与群の雄2〜4例,雌全例にみられた.400mg/kg投与群におけるこれらの変化は,他の群と比較してやや高度であった.このほかには,肝細胞の腫脹が,400mg/kg投与群の雌雄全例,200mg/kg投与群の雄4例,雌2例および100mg/kg投与群の雄1例にみられた.また,400mg/kg投与群の雌1例に肝細胞の有糸分裂像が多く認められた.なお,小葉周辺部の脂肪変性は,対照群,100mg/kg投与群の雌雄および200mg/kg投与群の雌で比較的多くの例にみられたが,200mg/kg投与群の雄および400mg/kg投与群の雌雄には認められなかった.また,400mg/kg投与群の雄では,小肉芽腫も見られなかった.

(腎臓)

尿細管上皮内の微細な顆粒状を呈する色素沈着が,200mg/kg以上の投与群の雌雄にみられ,400mg/kg投与群では頻度,程度ともに著しかった.また,雄では200mg/kg以上の投与群の全例で近位尿細管上皮細胞に好酸性の滴状物が認められた.このほかには再生または萎縮尿細管,一部の尿細管の嚢胞状拡張あるいはごく軽度のリンパ球浸潤が少数例に認められた.

(脾臓)

色素沈着および髄外造血が対照群を含む各群にみられたが,m-toluidine投与群では頻度,程度ともに増強し,400mg/kg投与群の雌雄では髄外造血が特に顕著であった.また各m-toluidine投与群ではうっ血も認められたが,400mg/kg投与群の雌雄では程度がむしろ軽減しており,著しい髄外造血によるものと考えられた.

−死亡例−

(肝臓)

主に小葉中心性の広範な壊死巣が認められ,他にKupffer細胞内の色素沈着,髄外造血および肝細胞の腫脹がみられた.

(腎臓)

近位尿細管上皮細胞内に多数の好酸性滴状物が認められたほか,尿細管上皮細胞内に色素沈着がみられた.

(脾臓)

色素沈着および髄外造血が著しく,ごく軽度のうっ血が認められた.

11) 併合試験における投与量

以上からm-toluidineの100mg/kg以上の量は,14日間の反復経口投与によって雌雄ラットに大球性貧血を来し,肝,腎あるいは脾臓に色素沈着を主とする病変をもたらすほか,腎機能にも影響を及ぼす毒性発現量であり,400mg/kgは,雄ラットのm-toluidineに対する最大耐量を若干凌駕した投与量であることが示唆された.このことから,併合試験では高度の毒性発現が見込まれるが,親動物の死亡は生じないと推定された300mg/kg/dayを最高用量に選び,以下を公比約3で除して中間用量を100mg/kg/day,最低用量を30mg/kg/dayに設定した.

6. 観察方法

1) 親動物

A.一般状態

雌雄とも,全例について試験期間中毎日観察した.

B.体重

雌雄とも,全例について体重を試験期間中週1回〔雄:投与0,7,14,21,28,35,42日,雌:投与0,7,14日〕および解剖日に測定した.また,交尾成立雌では,妊娠0,7,14,20日,分娩した雌では,分娩後0および4日(哺育0および4日)の体重を測定した.

C.摂餌量

雌雄とも,全例について体重測定日と同日に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの間の摂餌量を算定した.交配期間中の摂餌量は測定しなかった.交尾成立雌では,妊娠0-7,7-14,14-20日および分娩した雌では,哺育0-4日の摂餌量を測定した.

D.交配

交配は,投与14日(15回投与日)の夕方から最長2週間,同一群内の雌雄を1対1で同居させて行った.交尾成立の確認は,毎朝,腟内の腟栓および腟垢中の精子の存在を調べることにより行い,交尾が確認された雌は,その日を妊娠0日と起算して雄から分離し,個別に飼育した.交配結果から,各群について交尾率[(交尾動物数/同居動物数)×100],受胎率[(妊娠動物数/交尾動物数)×100]および同居開始日から交尾確認日までの日数を求めた.

E.分娩状態

各群とも交尾成立雌は,全例を自然分娩させた.分娩状態の直接観察は,可能なものについて行った.ただし,直接観察できなかった個体についても,分娩後の徴候から分娩困難や分娩遅延などの分娩障害の有無を判断し,個別に記録した.

F.分娩日の算定

分娩の確認は,午前9時〜11時に限定し,この時間帯に分娩が完了していることを確認した個体について,その日を哺育0日,その前日を分娩日と規定した.午前11時を過ぎて分娩した個体については,翌日を哺育0日とした.

分娩を確認した全例について妊娠期間(妊娠0日〜分娩日の日数)を算定し,出産率[(生児出産雌数/妊娠雌数)×100]を各群について求めた.

G.病理学的検査

a) 雄動物

イ. 剖検,器官重量および病理組織学的検査

最終投与日の翌日〔投与42日相当日(投与開始日=投与0日)〕にペントバルビタール深麻酔下で放血・致死させて剖検した.その際,全例について胸腺,肝臓,腎臓,精巣および精巣上体の重量を測定した.また,これらの器官および脳,心臓,脾臓,副腎および剖検において異常を認めた器官は10%ホルマリンに,精巣および精巣上体はブアン液に固定して保存し,300mg/kg投与群および対照群の全例について病理組織学的検査を行った.

なお,肝,脾,腎臓および膀胱については病変がみられたため100および30mg/kg投与群についても病理組織学的検査を実施した(結果の項参照).

ロ.血液学的検査

全例について,剖検に先立ち,ペントバルビタール麻酔下で腹部後大静脈よりEDTAを抗凝固剤として採血し,赤血球数(RBC),白血球数(WBC),血色素濃度(Hb),平均赤血球容積(MCV),ヘマトクリット値(Ht),平均赤血球血色素量(MCH),平均赤血球血色素濃度(MCHC),血小板数を多項目血液自動測定機(Coulter Counter Model S-PLUS IV)により測定した.また,白血球分類は,血液塗沫標本(Wright-Giemsa 染色)を光学顕微鏡により観察して行った.

ハ.血液生化学的検査

全例について,血液学的検査のための採血に引き続き,ヘパリンを抗凝固剤として用いて採血し,それぞれ血漿を分離して遠心方式生化学自動分析装置(COBAS-FARA)およびNa-K-Clアナライザ−IT-3型を用い,総蛋白濃度(ビウレット法),アルブミン濃度(BCG法),総コレステロール濃度(COD・DAOS法),ブドウ糖濃度(グルコキナーゼ・G6PDH法),尿素窒素濃度(ウレアーゼ・Gl.DH法),クレアチニン濃度(Jaffe法),アルカリフォスファターゼ活性(p-ニトロフェニルリン酸基質法),GOT活性(SSCC法),GPT(SSCC法),総ビリルビン濃度(ビリルビン「ロシュ」キットSシリーズ),カルシウム濃度(OPCP法),無機リン濃度(モリブデン酸直接法),γ-GTP活性(γ-グルタミル-pニトロアニリド基質法), ナトリウム濃度(イオン電極法),カリウム濃度(イオン電極法),塩素濃度(電量滴定法),A/G比(計算)について分析した.

b) 雌動物

イ.剖検,器官重量および病理組織学的検査

分娩した雌は哺育4日に,また,交尾したが分娩しない雌は妊娠25日相当日にそれぞれエーテル深麻酔下で放血・致死させ,剖検した.妊・不妊のいずれの例においても卵巣および子宮を摘出し,子宮についてはSalewski法を応用して着床痕を染色して着床数を確認した.卵巣はブアン液に固定して保存し,実体顕微鏡下で黄体数を数えた.不妊例および未交尾例の卵巣については,病理組織学的検査を行った.また,胸腺,肝臓および腎臓の重量を全例について測定した.これらの器官および脳,心臓,脾臓,副腎,子宮および剖検において異常を認めた器官は10%ホルマリンに固定して保存し,300mg/kg投与群および対照群の全例について病理組織学的検査を行った.なお,肝,脾および腎臓については病変がみられたため,100および30mg/kg投与群についても病理組織学的検査を実施した(結果の項参照).

2) 出生児

A.産児数の算定

哺育0日に産児数(生存児+死亡児)を調べ,児の分娩率[(産児数/着床痕数)×100]および出生率[(出産生児数/着床痕数)×100]を求めた.産児の性別を調べ,外表異常の有無を観察した.

B.死亡児数の算定

死亡児数を毎日調べ,哺育0日の生存率[(生児数/産児数)×100]および哺育4日の生存率[(哺育4日の生児数/哺育1日の生児数)×100]を求めた.死亡児は剖検し,胸腔および腹腔内の器官を除去した後,エタノールに固定して保存した.

C.体重測定

哺育0日および4日に一腹単位で雌雄別に体重(litter重量)を測定し,[litter重量/測定児数]を各腹について求めた.

D.剖検

哺育4日に全例をエーテル深麻酔下で致死させ,剖検した.胸腔および腹腔内の器官は,一括して摘出し,各腹ごとに10%ホルマリンに固定して保存した.カーカスは,各腹ごとにエタノールに固定して保存した.

7.統計処理

交尾率および受胎率についてはχ^2検定を行った.その他のすべてのデータは,個体ごとに得られた値あるいはlitterごとの平均値を1標本として,先ず,Bartlett法により各群の分散の一様性について検定した.その結果,分散が一様とされた場合には,一元配置型の分散分析を行い,群間に有意性が認められた場合にはDunnett法あるいはScheff法により対照群と各被験物質投与群との間で平均値の差の検定を行った.分散が一様でなかった場合は,Kruskal-Wallisの順位検定を行い,群間に有意性が認められた場合に対照群と各被験物質投与群との差についてDunnett型あるいはScheff型の検定を行った.有意水準は,5%および1%とした.

結果

I.反復投与毒性(親動物所見)

1) 一般状態(Table 1)

300mg/kg投与群の雌雄では,褐色尿,流涎,四肢末端体表の退色が,投与期間中高率に発現し,投与初期には活動性の低下を示す例も多く観察された.100mg/kg投与群の雌雄では褐色尿,流涎が高率に認められた.

2) 体重および摂餌量(Table 2, 3, 4, 5)

300mg/kg投与群の雌雄および100mg/kg投与群の雌では,投与開始後1週間の体重増加が有意に抑制された.また,300mg/kg投与群の妊娠成立雌では,全着床胚が死亡・吸収されたこと(後述)に関連して妊娠14〜20日の体重増加量が著しく低値を示した.摂餌量については,300mg/kg投与群の雌雄において,投与第1週の摂餌量が有意な低値を示したほかに,対照群と各被験物質投与群との間で有意差は認められなかった.

3) 解剖時検査所見

A. 雄〔解剖日:投与期間 (42回投与) 終了翌日〕

a) 血液学的検査所見(Table 6)

100mg/kg以上の投与群において用量依存的な赤血球数,血色素濃度,ヘマトクリット値の減少ならびに平均赤血球容積の増加がみられた.300mg/kg投与群ではさらに平均赤血球血色素量の有意な増加も認められたが,平均赤血球血色素濃度は逆に有意に減少した.血小板数は,300mg/kg投与群において有意に減少した.白血球分類では,300mg/kg投与群において分葉核好中球比率の有意な増加およびリンパ球比率の有意な低下がみられた.

b) 血液生化学的検査所見(Table 7)

100mg/kg以上の投与群においてA/G比,総ビリルビン,ナトリウムおよび塩素濃度が用量依存的に有意に上昇した.また,300mg/kg投与群ではさらにブドウ糖,総コレステロール濃度の有意な減少,アルブミン,無機リン濃度およびGOT活性の有意な上昇がみられた.

c) 器官(胸腺,肝臓,腎臓,精巣,精巣上体)重量(Table 8)

300mg/kg投与群において,腎臓の比体重値が有意な高値を示したほかに被験物質の投与に起因したと推定される変化は認められなかった.

d) 剖検所見

100mg/kg以上の投与群において肝および腎臓が暗色を呈する例が多くみられた.また両群では,全例の脾臓が暗色調でかつ腫脹し,さらに300mg/kg投与群では濾胞が不明瞭な例もみられた.

e) 病理組織学的検査所見(Table 9)

100mg/kg以上の投与群では,全例の肝臓でKupffer細胞に鉄反応陽性の色素沈着があり,さらに類洞内の髄外造血および小葉中心部肝細胞の軽度の腫脹が認められた.脾臓については,色素沈着および髄外造血が対照群を含む各群にみられ,その程度が,被験物質投与群において用量依存的に増強したほか,うっ血が,100mg/kg以上の投与群の全例および30mg/kg投与群の1例にみられた.腎臓については,300mg/kg投与群の全例で近位尿細管上皮細胞内に色素沈着がみられ,100mg/kg以上の投与群において近位尿細管上皮細胞内の好酸性滴状物が,頻度,程度ともに増強する傾向が認められた.また,腎乳頭間質の軽度の変性が,300mg/kg投与群の1例にみられた.膀胱では,300mg/kg投与群の2例で粘膜上皮の限局性の増生がみられた.他の器官・組織については,被験物質との関連が疑われる特徴的な異常所見は認められなかった.

B.雌〔解剖日:哺育4日,全児死亡日,妊娠25日相当日(全胚吸収および不妊例)〕

a)器官(胸腺,肝臓,腎臓)重量(Table 8)

100mg/kg以下の投与群に被験物質の投与に起因したと推定される器官重量の変化は認められなかった.300mg/kg投与群では,妊娠雌11例全例で早期全胚吸収が生じ,他の雌2例は不妊であったが,これらの雌では腎臓の比体重値が,高値となる傾向がみられた.

b) 剖検所見

100mg/kg以上の投与群では,全例の脾臓が暗色調でかつ腫脹しており,肝および腎臓が暗色を呈する例が多くみられた.肝臓が暗色を呈する例は30mg/kg投与群においても少数認められたが,これらの雌の肝臓に被験物質との関連を示唆する病理組織学的な異常は認められなかった.

c) 病理組織学的検査所見(Table 10)

100mg/kg以上の投与群では,全例の肝臓でKupffer細胞に色素沈着があり,ほぼ全例で類洞内に髄外造血が認められたほか,300mg/kg投与群では小葉中心部肝細胞に軽度の腫脹が認められた.脾臓については,色素沈着と髄外造血が,頻度および程度ともに被験物質投与群において用量依存的に増強したほか,うっ血が,100mg/kg以上の投与群に認められた.腎臓については,300mg/kg投与群の全例で近位尿細管上皮細胞内に色素沈着がみられ,さらに同群では皮質および髄質に再生尿細管がみられる例も多く,これに尿細管腔の拡張を伴う例も認められた.皮質あるいは髄質の再生尿細管は,100mg/kg投与群の3例にもみられ,また30mg/kg投与群においても1例で皮質の近位尿細管上皮に空胞変性があり,上皮細胞の壊死および再生がみられたほか,他の1例では髄質に再生尿細管が認められた.このほか各被験物質投与群では主として腎盂腔内の石灰沈着が少数例にみられた.他の器官・組織については,被験物質との関連が推定される特徴的な異常所見は認められなかった.

II. 生殖発生毒性

1. 生殖学的検査所見

1) 交配成績(Table 11)

交尾率および同居開始から交尾成立までに要した日数に対照群と各被験物質投与群との間で有意差は認められなかった.また,着床痕が認められた(すなわち妊娠が成立した)雌の数に群間で著しい差はみられず,したがって受胎率にも対照群と各被験物質投与群との間で有意差は認められなかった.

2) 分娩および哺育状態

100mg/kg投与群では10例中2例,300mg/kg投与群では11例全例の妊娠雌で早期全胚吸収がみられた.他の妊娠雌では,全例で生児の出産がみられ,分娩状態の異常は認められなかった.哺育状態については,分娩後に哺育活動をおこなわず,観察期間中に全出生児が死亡した例あるいは半数以上の出生児が死亡した例が,30mg/kg投与群に2例,100mg/kg投与群に3例認められた.

3) 黄体数,着床数および着床率(Table 12)

妊娠雌の黄体数,着床数および着床率に対照群と各被験物質投与群との間で有意差は認められなかった.

4) 出産率および妊娠期間(Table 12)

出産率および妊娠期間に対照群と100mg/kg以下の被験物質投与群との間で有意差は認められなかった.300mg/kg投与群の出産率は,0%であった.

2. 新生児所見

1) 生存性(Table 12)

100mg/kg投与群では,児の産出率[(産児数/着床痕数)×100],出生率[(出産生児数/着床痕数)×100],哺育0日および4日の生存率が,ともに低値を示したが,対照群との間に有意差は認められなかった.300mg/kg投与群では,産児は得られず,したがって児の産出率は,0%であった.30mg/kg投与群の新生児の生存性に異常は認められなかった.

2) 体重(Table 13)

30および100mg/kg投与群の児の体重は,いずれの測定時期においても対照群と比較して低値の傾向を示したが,有意差は認められなかった.

3) 形態

哺育0日の外表観察,死亡児および哺育4日における全新生児の剖検において,100mg/kg以下の投与群では,被験物質の投与に起因したと推定される外表および内臓の異常は認められなかった.

考察

以上の試験成績から,m-toluidineの100mg/kg以上の量は,ほぼ6週間にわたる反復投与により,雌雄ラットに大球性貧血を惹起する毒性発現量であることが示唆された.このほかに,100mg/kg以上の投与群では,雌雄ともに褐色尿の排泄,髄外造血の亢進,肝,脾あるいは腎臓における鉄反応陽性の色素沈着がみられており,雄ではさらに血漿総ビリルビン濃度の顕著な増加がみられたことからこの貧血は,溶血性貧血と考えられる.また腎臓についてはさらに,雄で近位尿細管上皮細胞に好酸性滴状物の顕著な増加がみられ,雌では再生尿細管の増加がみられたほか,雄の血液生化学的検査では血漿無機質の変動がみられており,このことからm-toluidineの100mg/kg以上は,ラットの腎臓に機能的・器質的障害も惹起する可能性があると考えられた.予備試験における尿検査の成績もこのことを支持するものと推察される.一方,300mg/kgを投与されたラットでは摂餌量,体重増加の抑制および活動性の低下が投与初期にみられ,貧血に起因すると考えられる軽度な全身毒性の発現が示唆されたほか,血液生化学的検査では,A/G比,GOT活性の上昇,ブドウ糖,総コレステロール濃度の減少など肝機能の変動を意味すると考えられる所見が得られた.また,膀胱については粘膜上皮の増生が,少数ながら雄の一部に認められた.なお,肝臓では,雌雄ともに小葉中心部の肝細胞に軽度の腫脹がみられたが,このほかには血液生化学的検査所見との関連が特に疑われる異常所見は認められなかった.肝臓の病変を除くこれら上記の変化は,本被験物質の位置異性体であるo-toluidineについて報告されている毒性変化6)とほぼ一致しており,m-toluidineとo-toluidineの毒性には本質的な差異はないものと考えられる.なお,m-toluidineの30mg/kgを投与したラットでは,脾臓の色素沈着,髄外造血の程度が僅かに対照群のラットより強度であり,雌の2例で腎臓の尿細管に病変がみられたが,このほかには,特にm-toluidineの反復投与毒性を示唆する異常は認められなかった.

生殖発生毒性に関しては,300mg/kgまでのm-toluidineに雌雄の交尾および受胎能力ならびに胚の着床に対する影響はみられなかったものの,100mg/kg以上の投与で全着床胚の早期死亡・吸収を示す例が生じ,300mg/kgの投与では,初期胚の子宮内生存性が完全に損なわれた.また,30および100mg/kg投与群では,哺育状態の異常を呈する例も散見され,感受性の高い母動物ではこれらの量の投与により哺育機能が障害される可能性も示唆された.m-toluidine投与群では,児の体重が低値となる傾向がみられ,このこととの関連も推定される.しかし,100mg/kg以下のm-toluidineには,次世代児に対する催奇形作用はないものと考えられた.

これらのことから本試験条件下では,m-toluidineの反復投与毒性および生殖発生毒性に関する無影響量は,雌雄ともにいずれも30mg/kg/dayを下回る量と推定される.

文献

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3)Vsesoyuznyi Inst Nauchonoi i Teknich Infor (VINITI),
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6)IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic
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連絡先
試験責任者:橋本 豊
試験担当者:加藤博康,清水ゆり
(財)食品薬品安全センター秦野研究所
〒257 神奈川県秦野市落合 729-5
Tel 0463-82-4751Fax 0463-82-9627

Correspondence
Authors:Yutaka Hashimoto (Study director)
Hiroyasu Kato,Yuri Shimizu
Hatano Research Institute, Food and Drug Safety Center
729-5 Ochiai, Hadano-shi, Kanagawa, 257, Japan
Tel 81-463-82-4751Fax 81-463-82-9627