メタクリル酸2,3-エポキシプロピルエステルの
ラットを用いる反復経口投与毒性・生殖発生毒性併合試験

Combined Repeat Dose and Reproductive/Developmental Toxicity Screening Test
of 2,3-Epoxypropyl methacrylate by Oral Administration in Rats

要約

メタクリル酸2,3-エポキシプロピルエステルの10,30および100 mg/kg/dayをSD系(Crj:CD)のラットの交配前2週間および交配期間の2週間を通じて経口投与し,さらには雄では交配期間終了後17日間,雌では妊娠期間を通じて分娩後の哺育3日まで連続投与し,親動物の反復投与毒性および生殖能ならびに児動物の発生・発育に及ぼす影響について検討した.

1. 反復投与毒性

一般状態の観察で被験物質投与後に流涎が雄の30 mg/kg群で5例に散発的に認められた.また,同一所見が100 mg/kg群で12例(全例)に投与19日頃からほぼ投与期間を通じて認められた.体重,摂餌量,雄の血液学検査および血液生化学検査には被験物質投与の明らかな影響は認められなかった.器官重量では,雌雄の100 mg/kg群で腎臓の実重量および相対重量がともに高値または高値傾向を示した.

病理学検査の結果,剖検では被験物質投与の影響が示唆される病変は観察されなかった.組織学検査では雄の30および100 mg/kg群で前胃の扁平上皮増生が,また,30 mg/kg群で前胃粘膜下組織の水腫がそれぞれ発生数の増加を示し,被験物質投与の影響が示唆された.100 mg/kg群で不妊動物が多数認められたが,これらの動物の精巣および卵巣ならびに精巣上体,精嚢,前立腺,子宮および下垂体には剖検所見および組織所見ともに不妊の原因と考えられる形態学的な異常所見は観察されなかった.さらに,対照群および100 mg/kg群の精巣についてステージ軸精細管の精上皮細胞数を測定した結果,被験物質投与の影響は認められなかった.

2. 生殖発生毒性

性周期および交尾能に被験物質投与の影響は認められなかったが,100 mg/kg群で受胎率が明らかに低下し,被験物質投与の影響と考えられた.被験物質100 mg/kg投与による受胎能の追加実験を行った結果,受胎率の低下は主として雄側の精子活力の低下が原因と考えられた.また,雌の受胎能にも若干の被験物質投与の影響を示唆する変化が認められた.分娩時観察では妊娠動物の全例が正常に分娩し,妊娠期間にも被験物質投与の影響は認められなかった.100 mg/kg群で妊娠黄体数,着床痕数,出産児数,出産生児数,着床率および分娩率が低値傾向を示したが,例数も少なく本試験の結果からは被験物質投与との関連は明らかではなかった.出産率,出生率および新生児の4日の生存率に群間差は認められず,新生児の外表に異常は認められなかった.また,新生児の体重も哺育4日までに順調に増加し,死亡児および哺育4日の剖検でも被験物質投与による影響は認められなかった.

以上の結果から,本試験条件下におけるメタクリル酸2,3-エポキシプロピルエステルの反復投与毒性に関する無影響量(NOEL)は雄で10 mg/kg/day,雌で30 mg/kg/dayと考えられた.また,雄の生殖に及ぼす影響は100 mg/kg/day投与により精子活力の低下に起因すると考えられる授胎能の低下が認められ,無影響量(NOEL)は30 mg/kg/dayと考えられた.雌の生殖に及ぼす影響は追加実験の結果から100 mg/kg/day投与により受胎能に若干の影響が認められ,無影響量(NOEL)は30 mg/kg/dayと判断された.児動物の発生・発育に及ぼす影響は,100 mg/kg/day投与によっても認められず,無影響量(NOEL)は100 mg/kg/dayと考えられた.

方法

1. 被験物質

メタクリル酸2,3-エポキシプロピルエステル〔CAS No. 106-91-2,日本油脂(株)製造,Lot. No. 50905Y,純度99.93%,分子量142.17,融点-50℃,沸点189℃,比重1.073(25℃)〕は,無色透明な液体であり,使用時まで冷暗所で密閉保管した.本ロットは,投与期間中安定であったことを確認した.

被験物質は,コーンオイル(ナカライテスク(株)製)に溶解し,0.2,0.6および2(w/v)%の濃度になるよう各群の投与液を調製した.調製後は,使用時まで冷暗条件下で密閉保管した.調製液中の被験物質は,0.2(w/v)%溶液の場合冷暗条件下で少なくとも8日間安定であることを確認した.

投与液の濃度および均一性の分析は,調製開始時に調製した各群のバッチから無作為にサンプルを抽出し実施した.その結果,濃度は設定濃度の94.0〜104%の範囲で調製されており,変動係数は1.9%以下であった.したがって,投与液にはほぼ所定量のメタクリル酸2,3-エポキシプロピルエステルが含有されており,適切に混合されていたことを確認した.

2. 使用動物および飼育条件

試験には,日本チャールス・リバー(株)から購入した生後8週齢の Sprague-Dawley (Crj:CD(SD),SPF)系雌雄ラットを使用した.購入した動物は7日間検疫・馴化飼育した後,一般状態に異常が認められなかったものを10週齢で群分けして試験に用いた.群分け時の体重は,雄で382〜414 g,雌で245〜282 gの範囲であった.

動物は,温度24±2℃,湿度55±10%,換気回数15回/時間,照度150〜300 lux,照明時間12時間(午前7時点灯,午後7時消灯)に設定されたバリアシステムの飼育室でアルミ製前面・床ステンレス網目飼育ケージに1匹ずつ収容し飼育した.妊娠18日以降の母動物は哺育4日までアルミ製前面・床ステンレス網目飼育ケージに哺育トレーおよび巣作り材料(アルファードライ)を入れて飼育した.

飼料は,オリエンタル酵母工業(株)製造の NMF固型飼料(放射線滅菌飼料)を使用し,飼育期間中自由に摂取させた.飲水は,水道水を自由に摂取させた.

3. 群分け

動物は投与開始日の体重をもとに層別化し,無作為抽出法により1群当たり12匹を振り分けた.

4. 投与量,群構成,投与期間および投与方法

本試験の用量は先に実施した予備試験「メタクリル酸2,3-エポキシプロピルエステルのラットを用いる反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験-2週間毒性試験」の結果を参考にして決定した.すなわち,0,10,30,100および300 mg/kgを雄および雌に14日間連続経口投与した結果,300 mg/kg群で切迫屠殺例を含み雄で6例中5例,雌で6例中2例死亡した.一般状態の変化として300 mg/kg群の雌雄全例に流涎が観察され,また,同群の雌雄に体重増加抑制および摂餌量の低値がみられた.剖検では,300 mg/kg群の雌雄全例に胃粘膜の肥厚が観察された.剖検時の器官重量では,雄の100および300 mg/kg群で副腎の実重量および相対重量が高値または高値傾向を示し,雌の100および300 mg/kg群で腎臓の実重量および相対重量が高値または高値傾向を示した.さらに,雌の300 mg/kg群で胸腺重量が低値を,肝臓および副腎重量が高値を示した.以上の結果から,本試験の最高用量を明らかな毒性兆候が現れることが予想される100 mg/kgに設定し,以下公比3で除し,30および10 mg/kgを設定した.

投与容量は,体重100 g当り0.5 mlとし,交配前および交配期間中の雌雄では,個体別に測定した最新体重に基づいて算出を行った.また,妊娠期間および哺育期間中の雌は,妊娠0,7,14,21および哺育0日に測定した個体別体重に基づいて算出を行った.胃ゾンデを用いて毎日1回(7日/週)強制経口投与した1).対照群にはコーンオイルのみを同様に投与した.

雄の投与期間は,交配前14日間と交配期間14日間および交配期間終了後17日間の連続45日間とした.雌の投与期間は,交配前14日間と交配期間中(最長10日間)ならびに交尾成立雌の妊娠期間を通じて分娩後の哺育3日まで(41〜45日間)とした.なお,妊娠が成立しなかった雌は妊娠25日の解剖前日までの40〜47日間とした.

5. 観察及び検査

1) 一般状態

雌雄とも,全例について試験期間中毎日観察した.

2) 体重

雄では,投与1(投与開始日),8,15,22,29,36,43および46日(剖検日)に測定し,投与1から43日までの体重増加量を算出した.雌では,投与1(投与開始日),8および15日に測定し,投与1から15日までの体重増加量を算出した.交尾成立後の雌は,妊娠0,7,14および21日に,分娩した雌は哺育0および4日に測定し,それぞれ妊娠0から21日および哺育0から4日までの体重増加量を算出した.

3) 摂餌量

雄では,投与1(投与開始日),8,15,22,29,36,43および45日(剖検前日)に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの間の摂餌量を求め平均1日摂餌量を算出するとともに投与1から15日および投与22から45日までの累積摂餌量を算出した.雌では,投与1(投与開始日),8および15日に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの摂餌量を求め平均1日摂餌量を算出するとともに投与1から15日までの累積摂餌量を算出した.また,交尾成立の雌は妊娠0,7,14および21日に,分娩した雌は哺育0および4日に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの間の摂餌量を求め平均1日摂餌量を算出するとともにそれぞれ妊娠0から21日および哺育0から4日までの累積摂餌量を算出した.なお,交配期間中の摂餌量は測定しなかった.

4) 交配

交配前14日間の性周期観察を行った雌を同群内の雄のケージに入れ1対1で最長10日間毎晩同居させた.翌朝,腟垢中の精子確認をもって交尾が成立したとし,その日を妊娠0日とした.性周期観察は交尾成立日まで行い,発情期から次の発情期までの間の日数を性周期日数として平均性周期を算出した.交配結果から,各群について交尾率[(交尾動物数/同居動物数)× 100]を算出した.

なお,対照群の1例に交配10日の交尾の確認時に妊娠徴候が認められたため,交配を中止し,交尾率および受胎率の集計からは除外した.

5) 自然分娩時および新生児の観察

妊娠動物は全例を自然分娩させた.分娩の確認は午前9〜10時に行い,この時間帯に分娩が完了していることを確認した個体についてその日を哺育0日とした.午前10時を過ぎて分娩が完了した個体については,翌日を哺育0日とした.分娩を確認した全例について妊娠期間(哺育0日の年月日から妊娠0日の年月日を減じた日数),受胎率[(受胎動物数/交尾動物数)× 100)],出産率[(生児出産雌数/妊娠雌数)× 100〕,着床率[(着床痕数/妊娠黄体数)× 100)〕,分娩率[(総出産児数/着床痕数)× 100〕,出生率[(出産生児数/総出産児数)× 100)〕を算出した.妊娠25日の午前9時までに分娩のみられない動物は病理解剖した.母動物は哺育4日に病理解剖した.

新生児は哺育0日に出産児数(生存児+死亡児)を調べ,性別を判定するとともに外表異常の有無を調べた.また,哺育0および4日に雌雄個体別の重量を測定し,1腹の雌雄別平均体重を算出した.

哺育4日の新生児の同腹児重量を測定後に新生児全例をエーテル麻酔により安楽死させ,主要器官の肉眼観察を行った.なお,哺育期間中の死亡児についても同様に主要器官の肉眼観察を行った.また,新生児の4日の生存率[(哺育4日生児数/出産生児数)× 100〕を求めた.

6) 臨床検査

各群の雄全例について剖検時に実施した.動物を最終投与日(投与期間:45日間)の夕方から翌朝まで約16時間絶食させた後,エーテル麻酔下で開腹し,腹部大動脈から採血した.

a) 血液学検査

検査はEDTA-3Kを添加した初血について,THMS H・1E(米国マイルス社)を用いて白血球数(WBC:暗視野板法),赤血球数(RBC:暗視野板法),ヘマトクリット値(HCT:全赤血球の容積により補正),ヘモグロビン量(HGB:シアンメトヘモグロビン法),平均赤血球容積(MCV:暗視野板法),平均赤血球血色素量(MCH:HGB,RBCより算出),平均赤血球血色素濃度(MCHC:HGB,HCTより算出),血小板数(PLT:暗視野板法)および白血球百分率(フローサイトケミストリー法)を測定した.白血球百分率は前述の機器で測定したが,別途血液塗末標本を作製し,メイ・グリュンワルド・ギムザ染色して保管した.網赤血球(RC)比率の算定については,EDTA-3K添加血液をニューメチレンブルーで染色後,血液塗末標本を作製した.各群とも貧血傾向が認められなかったため,標本の観察は行わなかった.

b) 血液凝固能検査

検査にはクエン酸ソーダ添加血液を3000 r.p.m.,13分間遠心分離して得た血漿について,血液凝固測定装置 KC-40(独国アメルング社)を用いてプロトロンビン時間(PT:Quick 1段法),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT:クロット法)およびフィブリノーゲン量(Fibrinogen:トロンビン時間法)を測定した.

c) 血液生化学検査

検査はクリーンシール((株)ヤトロン)に血液を採取し,30分間静置後3000 r.p.m. 7分間遠心分離して得た血清について,多項目生化学自動分析装置CentrifiChem ENCORE(米国ベーカー社)およびEKTACHEM 700N(米国コダック社)を用いて総蛋白(ビューレット法),アルブミン(B.C.G.法),A/G(計算値),血糖(グルコースオキシダーゼ法),中性脂肪(酵素色素法),総コレステロール(コレステロールオキシダーゼ法),尿素窒素(ウレアーゼアンモニウム指示薬法),クレアチニン(Jaff法),総ビリルビン(ジアゾ法),グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(IFCC法),グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(IFCC法),γ -グルタミルトランスペプチダーゼ(Orlwski法),ナトリウム(電極法),カリウム(電極法),塩素(電極法),カルシウム(アルセナゾ桂)および無機リン(モリブデン酸青法)を測定した.

7) 病理学検査

a) 剖検および器官重量

〇猖監以

剖検では主要器官の肉眼的観察を行い,皮膚,乳腺,リンパ節,唾液腺,胸骨,大腿骨(骨髄を含む),胸腺,気管,肺および気管支,心臓,甲状腺および上皮小体,舌,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸,肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,精嚢,前立腺,眼球,ハーダー腺,脳,下垂体および脊髄を10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.精巣および精巣上体はブアン氏液に固定した.

⇒再以

45日間投与した日の夕方から,約16時間絶食をさせた後エーテル麻酔下で採血し安楽死させた.主要器官の肉眼的観察を行った後,脳,胸腺,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,精巣および精巣上体重量を測定し器官重量・体重比(相対重量)を算出した.また,全動物の重量測定器官に加えて心臓,胃,精嚢,前立腺,下垂体および肉眼所見として変化が認められた器官・組織としてリンパ節,肺,腹腔の塊および皮下の塊を10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.なお,精巣および精巣上体はブアン氏液で固定した.

自然分娩した雌

哺育4日にエーテル麻酔下で放血安楽死させた.主要器官の肉眼的観察を行った後,脳,胸腺,肝臓,腎臓,脾臓,副腎および卵巣重量を測定し器官重量・体重比(相対重量)を算出した.また,全動物の重量測定器官に加えて心臓,胃および下垂体を10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.また,剖検時に黄体数および着床痕数を調べた.

ぜ然分娩の認められない雌

妊娠25日に,エーテル麻酔下で放血安楽死させた.剖検では主要器官の肉眼的観察を行った後,皮膚,乳腺,リンパ節,唾液腺,胸骨,大腿骨(骨髄を含む),胸腺,気管,肺および気管支,心臓,甲状腺および上皮小体,舌,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸,肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,卵巣,子宮,腟,眼球,ハーダー腺,脳,下垂体および脊髄を10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.着床痕が認められない動物は妊娠不成立と判定した.

b) 病理組織学検査

〇猖監以

雄の10 mg/kg群1例および100 mg/kg群1例の皮膚,乳腺,リンパ節,唾液腺,胸骨,大腿骨(骨髄を含む),胸腺,気管,肺および気管支,心臓,甲状腺および上皮小体,舌,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸,肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,精嚢,前立腺,精巣,精巣上体,眼球,ハーダー腺,脳,下垂体および脊髄について実施した.

妊娠を成立させた雄

対照群と高用量群では,脳,胸腺,心臓,胃,肝臓,腎臓,脾臓,副腎および精巣について実施し,低および中用量群では胃について実施した.

自然分娩した雌

対照群と高用量群では,脳,胸腺,心臓,胃,肝臓,腎臓,脾臓,副腎および卵巣について実施し,低および中用量群では胃および脾臓について実施した.

でタ韻鮴立させなかった雄および妊娠不成立の雌

脳,胸腺,心臓,肺,胃,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,腟,子宮,卵巣,精巣,精巣上体,精嚢,前立腺,下垂体および腹腔の塊について実施した.

ダ査抓匹寮詐緘藝挧Δ隆兒

100 mg/kg群で受胎率の低下が認められたため,通常の病理組織学検査に加え精細管の精上皮細胞の観察を実施した.死亡例を除く対照群および100 mg/kg群全例の精巣からHEおよびPAS染色標本を作製しRussellら2)および高橋ら3)の鑑別法に従いステージ爾寮査抓匹寮詐緘藝挧数を測定した.動物毎に各5本のほぼ円形に横断された精細管について,精祖細胞(type A),プレレプトテン期精母細胞,パキテン期精母細胞,ステップ疾沙匣挧Δよびセルトリ細胞数を数え,それぞれの総数からセルトリ細胞1個当たりの細胞数を算出した.

6. 統計解析

体重,摂餌量,黄体数,着床痕数,出産児数,死産児数,性比,平均性周期,妊娠期間,着床率,分娩率,出生率,外表異常発現率,新生児の4日の生存率,器官重量,器官重量・体重比(相対重量),血液学的および血液生化学検査値については多重比較検定4-6)を行った.出産率,交尾率および受胎率についてはχ^2検定7, 8)を用いた.病理学検査の所見については,Fisherの直接確率検定法8)を用いた.なお,哺育期間中の新生児に関する成績は1母体当りの平均を1標本とした.有意水準は *:P<0.05および**:P<0.01の2段階とした.

結果

1. 反復投与毒性

1) 死亡および一般状態

雄の10 mg/kg群で投与21日に1例,100 mg/kg群で投与26日に1例が死亡した.一般状態の観察では,口吻周囲が濡れる程度の流涎が雄の30および100 mg/kg群でそれぞれ5および12例(全例)に観察された.この症状は,30 mg/kg群では投与25から40日の間に散見され,投与直後から発現し,10分後には消失した.また,100 mg/kg群では流涎が投与19日頃から観察され始め,投与期間終了までほぼ継続して観察された.症状の発現は投与直後から認められ,ほとんどの例で投与後30分以内に消失したが,個体によっては投与後2時間まで持続するものもあった.その他,雄では30 mg/kg群で自発運動低下および皮下部の腫瘤が同一個体の1例に,100 mg/kg群で被毛の汚れが死亡した個体にそれぞれ観察された.雌では妊娠期間中に対照群で歯異常(上顎切歯折れ)が1例,哺育期間中に10 mg/kg群で脱毛(前肢)が1例に観察された.これらの所見はいずれも単発性の発生であり,被験物質投与の影響によるものとは考えられなかった.

2) 体重(Fig.1,2)

雌雄ともに投与期間を通じて対照群と各被験物質投与群との間に差は認められなかった.

3) 摂餌量(Fig.3,4)

雌雄ともに投与期間を通じて対照群と各被験物質投与群との間に差は認められなかった.

4) 雄の血液学検査(Table 1)

血液学的検査では,100 mg/kg群で対照群に比べMCHCが低値を示したが軽微な変化であり,HGBおよびHCTに変化が認められないことから被験物質投与の影響ではないと判断された.その他の検査項目では対照群と被験物質投与群との間に差は認められなかった.

血液凝固能検査では,すべての検査項目について対照群と被験物質投与群との間に差は認められなかった.

5) 雄の血液生化学検査(Table 2)

100 mg/kg群で対照群に比べ総蛋白およびアルブミンが高値を示した.また,同群でGPTが低値を示した.その他の検査項目では対照群と被験物質投与群との間に差は認められなかった.

6) 器官重量(Table 3,4)

雄では,対照群に比べ10 mg/kg群で副腎の実重量が高値を示し,100 mg/kg群で腎臓,副腎の実重量および相対重量がともに高値を示した.

雌では,対照群に比べ100 mg/kg群で腎臓の実重量および相対重量が高値傾向を示した.

7) 剖検所見

死亡した10 mg/kg群の雄の1例には肺の赤色化および胸水の貯留が,100 mg/kg群の雄の1例には肺の赤色化がそれぞれ認められた.

妊娠を成立させた雄は,対照群,10,30および100 mg/kg群でそれぞれ10,11,11および2例であり,対照群で脾臓の肥大および肝臓の黄色斑/区域が,30 mg/kg群でリンパ節の肥大,胸腺の赤色化および皮下の塊がそれぞれ単発性に認められた.

自然分娩した雌は,対照群,10,30および100 mg/kg群でそれぞれ10,12,11および2例であり,10 mg/kg群で胸腺の赤色化および卵巣の嚢胞が単発性に認められた.

妊娠を成立させなかった雄は,対照群,30および100 mg/kg群でそれぞれ2,1および9例であり,対照群で腹腔の塊が,100 mg/kg群で肺および腎臓の黒色斑/区域がそれぞれ単発性に認められた.

妊娠不成立の雌は,対照群,30および100 mg/kg群でそれぞれ2,1および10例であり,100 mg/kg群で腎臓の瘢痕が1例に認められた.

8) 病理組織学検査(Table 5)

死亡した10 mg/kg群の雄の1例には肺の鬱血,細胞浸潤および肝臓の鬱血が,100 mg/kg群の雄の1例には肺の鬱血および前胃の角化亢進がそれぞれ認められたが,死因については不明であった.

雄では,前胃の限界縁付近の扁平上皮の増生が30および100 mg/kg群で,前胃粘膜下組織の水腫が30 mg/kg群でそれぞれ対照群に比べ統計学的に有意な発生数の増加を示した.また,腺胃粘膜下組織の水腫が100 mg/kg群で,腺胃の細胞浸潤が30 mg/kg群でそれぞれ対照群に比べ有意な減少を示した.その他,心臓の細胞浸潤,脾臓の色素沈着,腺胃の細胞浸潤,肝臓の小肉芽腫,腎臓の尿細管好塩基化,前胃の水腫・細胞浸潤,肝臓および腎臓のリンパ球浸潤等が各群に複数例に観察されたが,その発生数に対照群と被験物質投与群の間に明らかな差はなかった.

雌では,前胃の細胞浸潤が100 mg/kg群で有意な発生数の増加を示したが,胃のその他の変化には対照群と100 mg/kg群の間に発生数の差はみられなかった.また,脾臓の色素沈着が100 mg/kg群で有意な発生数の増加を示し,脾臓および肝臓における髄外造血が同群で減少した.その他,対照群および100 mg/kg群において肝臓の小肉芽腫が複数例に観察された.

妊娠を成立させなかった雄では,100 mg/kg群の前胃の扁平上皮増生が妊娠を成立させた雄に比べ,病変の程度が強く(9例中6例が中等度)発現した他,100 mg/kg群で前胃の水腫・細胞浸潤・扁平上皮増生,腺胃の再生上皮,リンパ球浸潤などが観察された.その他 100 mg/kg群では,心臓の細胞浸潤ならびに脾臓の色素沈着がやや多い発生数を示した.なお,これらの動物の精巣,精巣上体,精嚢,前立腺および下垂体に不妊の原因と考えられる異常所見は認められなかった.

妊娠不成立の雌では,前胃と腺胃の細胞浸潤が100 mg/kg群で複数例に認められた.また,脾臓の色素沈着が各群の全例に,心臓の細胞浸潤,肝臓の小肉芽腫および前胃の扁平上皮増生が100 mg/kg群で複数例に観察された.なお,子宮水腫が100 mg/kg群で複数例に観察されたがその発生数に対照群との間に明らかな差異は認められず,これら動物の卵巣には異常所見は認められなかった.

9) 精細管の精上皮細胞の観察(Table 6)

対照群および100mg/kg群全例の精巣についてステージ爾寮査抓匹寮詐緘藝挧数を測定した.精祖細胞(type A),プレレプトテン期精母細胞,パキテン期精母細胞,ステップ疾沙匣挧Δよびセルトリ細胞数は対照群と比較して差は認められなかった.

2. 生殖発生毒性

1) 交尾および受胎能(Table 7)

交尾は,対照群を含むすべての群で成立した.受胎率は,対照群,10,30および100 mg/kg群でそれぞれ 81.8,100.0,91.7および16.7%であり,対照群に比べ100 mg/kg群で低値を示した.

性周期観察では,いずれの群もほぼ4〜5日の性周期を示し,平均性周期に群間差は認められなかった.

2) 分娩および哺育(Table 8)

100mg/kg群で対照群に比べ妊娠黄体数,着床痕数,出産児数,出産生児数,着床率および分娩率が低値傾向を示した.

その他,分娩状態には異常は観察されず,各群の妊娠期間,死産児数はほぼ同様な値を示し,出産率,出生率および新生児の4日の生存率に群間差は認められなかった.

3) 新生児の形態,体重および剖検所見

新生児の外表検査では,いずれの群にも外表異常は観察されなかった.哺育期間中の体重では,雌雄ともに群間差は認められなかった.死亡児の剖検では,異常所見は観察されなかった.哺育4日の剖検では雌雄に胸腺の頸部残留が100 mg/kg群を除く各群に散見された他,腎盂拡大が10 mg/kg群の雌雄各1例,肝臓の白色斑/区域が対照群の雌2例にそれぞれ観察された.

考察

1. 反復投与毒性

雄の10および100 mg/kg群で認められた死亡例の死因は,病理組織学検査の結果からも明らかではなかった.しかし,10 mg/kg群ではいずれの検査項目にも毒性影響は認められなかったことから同群で認められた死亡は被験物質投与とは関連のないものと考えられた.一般状態の観察では,流涎が雄の30 mg/kg群で5例に散発的に認められ,100 mg/kg群で12例(全例)に投与19日頃からほぼ投与期間を通じて認められた.この症状は用量に関連して発現頻度の増加および持続時間の延長が認められたことから,被験物質投与の影響と考えられた.

体重および摂餌量については,雌雄ともに被験物質投与の影響は認められなかった.

雄の血液学検査および血液凝固能検査では被験物質投与の影響は認められなかった.血液生化学検査では,100 mg/kg群で対照群に比べ総蛋白およびアルブミンが高値を示し,

GPTが低値を示したが,その機序は明らかではなかった.

器官重量では,雌雄の100 mg/kg群で腎臓の実重量および相対重量がともに高値または高値傾向を示した.この変化は,2週間反復投与による予備試験においても同様な変化が認められており被験物質投与によるものと考えられた.雄の10および100 mg/kg群で副腎重量が高値を示したが,30 mg/kg群の値は対照群とほぼ同等であり,病理組織学検査で同器官に異常は認められないことから副腎の重量変化と被験物質投与との関連は明らかではなかった.

病理学検査の結果,剖検所見で観察された所見はいずれも単発性の発生であり被験物質投与の影響が示唆される病変は観察されなかった.組織所見では,前胃の限界縁付近の扁平上皮の増生が雄の30および100 mg/kg群で,前胃粘膜下組織の水腫が雄の30 mg/kg群でそれぞれ対照群に比べ統計学的に有意な発生増加を示した.これらの変化はいずれも本被験物質の持つ刺激性や腐食性から考え,被験物質の胃への直接的な作用と考えられた.また,腺胃粘膜下組織の水腫が100 mg/kg群で,腺胃の細胞浸潤が30 mg/kg群でそれぞれ対照群に比べ有意な減少を示したが,この理由については不明であった.

一方,雌では,前胃の細胞浸潤が100 mg/kg群で多く発生した以外は雄でみられた胃の種々の変化には対照群と100 mg/kg群の間に発生数の差はみられなかった.しかし,脾臓の色素沈着が100 mg/kg群で発生数の増加を示し,脾臓および肝臓における髄外造血が同群で減少した.脾臓および肝臓における髄外造血は通常未妊娠動物には認められないことから,発生数の減少は今回100 mg/kg群で不妊動物が多数認められたことによるものであり,被験物質投与とは関連のない変化と考えられた.脾臓の色素沈着の増加についてもこの所見が不妊動物に全例認められたことから同様の変化と考えた.その他の臓器・器官に観察された諸所見については対照群と被験物質投与群の間で発現数に差は認められず,全て自然発生性病変に属するものと考えられた.

妊娠を成立させなかった雄の精巣および妊娠不成立の雌の卵巣には剖検所見および組織所見ともに形態学的な異常所見は観察されず,精巣上体,精嚢,前立腺,子宮および下垂体に不妊の原因と考えられる所見は認められなかった.さらに,精細管の精上皮細胞の観察でも,100 mg/kg群の精祖細胞(type A),プレレプトテン期精母細胞,パキテン期精母細胞,ステップ疾沙匣挧Δよびセルトリ細胞数は対照群に比べ差は認められなかった.

以上のことから,メタクリル酸2,3-エポキシプロピルエステルの反復投与により雄の30および100 mg/kg群で流涎が,さらに雌雄の100 mg/kg群で腎臓重量の高値が認められた.病理組織学検査では雄の30および100 mg/kg群で前胃の扁平上皮増生および水腫の発生数の増加が認められた.したがって,無影響量は雄で10 mg/kg/day,雌で30 mg/kg/dayと判断された.

2. 生殖発生毒性

性周期および交尾能に被験物質投与の影響は認められなかったが,100 mg/kg群で受胎率が明らかに低下し,被験物質投与の影響と考えられた.妊娠を成立させなかった雄および妊娠が成立しなかった雌の剖検では不妊の原因と考えられる異常所見は認められず,精巣,精巣上体および卵巣重量に変化は認められなかった.したがって,本試験からは受胎率の低下の原因は推定できなかったため追加実験を行った.その結果,受胎率の低下には再現性が認められ,その原因は主として雄側の精子活力の低下によるものと考えられた.

分娩時観察では妊娠動物の全例が正常に分娩し,妊娠期間にも被験物質投与の影響は認められなかった.100 mg/kg群で妊娠黄体数,着床痕数,出産児数,出産生児数,着床率および分娩率が低値傾向を示したが,例数も少なく本試験の結果からは被験物質投与との関連は明らかではなかった.追加実験において雄に対する影響よりも強くはないが雌の受胎率が低下傾向を示し,被験物質投与の影響を示唆する結果が得られた.しかし,これらの雌の帝王切開成績では,妊娠黄体数,着床痕数および生存胎児数等に被験物質投与の影響は認められなかった.

出産率,出生率および新生児の4日の生存率に群間差は認められず,新生児の外表に異常は認められなかった.また,新生児の体重も哺育4日までに順調に増加し,死亡児および哺育4日の剖検でも被験物質投与による影響は認められなかった.

以上のことから,メタクリル酸2,3-エポキシプロピルエステルの雄の生殖に及ぼす影響は100 mg/kg/day投与により精子活力の低下に起因すると考えられる受胎能の低下が認められ,無影響量は30 mg/kg/dayと判断された.雌の生殖に及ぼす影響は本試験の結果からは100 mg/kg/day投与によっても明らかな影響は認められなかったが,追加実験の結果から100 mg/kg/day投与により受胎能に対する影響が示唆され,無影響量は30 mg/kg/dayと判断された.児動物の発生・発育に及ぼす影響は,100 mg/kg/day投与によっても認められず,無影響量は100 mg/kg/dayと判断された.

文献

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2) L. D. Russell, R. A. Ettlin, A. P. S. Hikim and E. D. Clegg, "Histological and histopathological evaluation of the testis," Cache River Press, Florida, 1990, pp.1-118.
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8) 石居 進,"生物統計学入門," 培風館,東京,1975.

連絡先
試験責任者:田中亮太
試験担当者:伊藤圭一,大庭耕輔,庄子明徳,
山本慎二,榎本 眞
(財)食品農医薬品安全性評価センター
〒437-12 静岡県磐田郡福田町塩新田字荒浜582-2
Tel 0538-58-1266Fax 0538-58-1393

Correspondence
Authors:Ryota Tanaka(Study director),
Keiichi Ito,Kousuke Oba,
Akinori Shoji,Sinji Yamamoto,
Makoto Enomoto
Biosafety Research Center,Foods,Drugs and Pesticides(An-pyo Center)582-2 Shioshinden
Arahama ,Fukude-cho,Iwata-gun,Shizuoka, 437-12,Japan
Tel +81-538-58-1266 Fax +81-538-58-1393