4-クロロフェノ−ルのラットを用いる単回投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of 4-Chlorophenol in Rats

要約

OECD既存化学物質安全性点検に係わる毒性調査の一環として,4-クロロフェノ−ルを1群5匹のCrj:CD(SD)IGSラットに,0(対照),690,980,1400および2000 mg/kgの用量で単回経口投与し,その急性期の毒性兆候および概略の致死量について検討した.

死亡は,2000 mg/kg群の雄および1400 mg/kg以上の群で投与後30分から投与翌日に認められた.概略の致死量は,雄で2000 mg/kg,雌で1400 mg/kgと推定された.一般状態では,すべての被験物質投与群の雌雄で,投与日に呼吸促迫,自発運動の低下,振戦,腹臥位および緩徐呼吸が認められ,980 mg/kg群の雌雄では流涎,1400 mg/kg群の雌では横臥位が認められた.更に,死亡例では間代性痙攣またはチアノ−ゼが認められた.生存例では,呼吸促迫は投与後15分,流涎は投与後1時間,腹臥位および横臥位ならびに振戦は投与後3時間,自発運動の低下および緩徐呼吸は投与翌日までに消失した.体重では,1400 mg/kg以上の群の雄で投与翌日に増加抑制が認められたが,投与後3日からは順調な増加が認められた.病理学検査において,死亡例では,肺で肉眼的に暗赤色斑,組織学的に水腫が認められ,胸腺で肉眼的に暗赤色点,組織学的に出血が認められた.生存例では肉眼的変化は認められなかった.

方法

1. 被験物質および投与液の調製

4-クロロフェノ−ル(純度99.29 %,Lot No. PJF-3,イヌイ(株)提供,大阪)は,白色〜淡褐色の結晶である.入手後の被験物質は,室温遮光下で保管し,投与終了後に提供元にて分析を行い試験期間中安定であったことを確認した.媒体にはコ−ンオイル(Lot No. V8M6177,ナカライテスク(株))を使用し,これに被験物質を6.9,9.8,14.0および20.0 w/v%の濃度になるように各投与液を投与日に調製した.なお,調製した各投与液の濃度を測定し,設定値の± 5 %以内にあることを確認した.また,本調製法による0.2および40 w/v%のコーンオイル溶液は,室温散光下で8日間安定であることを確認した.

2. 使用動物および飼育条件

5週齢のCrj:CD(SD)IGSラット(日本チャールス・リバー(株))を雌雄各31匹購入し,7日間の検疫馴化を行ったのち,雌雄各25匹を選んで6週齢で試験に使用した.投与開始時の体重は,雄が169.1〜189.1 g,雌が125.0〜147.5 gであった.動物は,温度24 ± 2 ℃,湿度55 ± 10 %,照明12時間(午前7時〜午後7時)および換気回数13〜15回/時に設定したバリアーシステム飼育室で床敷(ホワイトフレーク,日本チャールス・リバー(株))を入れたポリカーボネイト製ケージに1ケージ当たり2〜3匹ずつ収容し,飼育した.飼料は,高圧蒸気滅菌処理した固型飼料(MF,オリエンタル酵母工業(株))を,飲水は次亜塩素酸ナトリウムを添加(約2 ppm)した水をそれぞれ自由に摂取させた.

3. 投与量,投与方法,試験群構成および群分け

投与量は,予備試験の結果から設定した.すなわち,本被験物質の250,500,1000および2000 mg/kgをラットに単回投与した結果,死亡が2000 mg/kg群の雌雄各1/3例にみられた.したがって,本試験では死亡の発現が予想される2000 mg/kgを高用量とし,以下公比約1.43で除した1400,980及び690 mg/kgの計4用量をそれぞれ中間量2,中間量1および低用量とした.試験群は,上記4用量に媒体のみを投与する対照を加え計5群とした.1群当たりの動物数は雌雄各5匹とし,群分けは,投与前日の体重を基に層別連続無作為化法で行った.

投与経路は経口とし,18〜20時間絶食させた動物に胃管を用いて1回強制投与した.投与容量は10 mL/kgとし,各動物の投与液量は投与日の体重を基に算出した.

4. 観察項目

1) 一般状態観察

観察期間は投与後14日間とし,この間に一般状態および死亡の有無を投与日(0日)は投与後6時間まで経時的に,投与後1日から13日は毎日午前および午後の1日2回,投与後14日は午前中に1回観察した.

2) 体重測定

0日目の投与前,ならびに投与後1,3,5,7,10および14日目に測定した.

3) 病理学検査

観察期間中に死亡した動物は発見後速やかに,また,観察期間終了後の生存動物はエーテル麻酔下に放血致死させたのち剖検した.肉眼的に異常が認められた器官は摘出して10 %中性緩衝ホルマリン溶液に固定保存するとともに,代表例について病理組織学検査を行った.

5. 統計解析

体重は,各群ごとに平均値と標準偏差を求めた.なお,有意差検定は行わなかった.

結果

1. 死亡の発生状況および概略の致死量

死亡の発生状況および概略の致死量をTable 1に示した. 1400 mg/kg群の雌1例,2000 mg/kg群の雄4例および雌5例が投与後30分から投与翌日に死亡した.概略の致死量は,雄で2000 mg/kg,雌で1400 mg/kgと推定された.

2. 一般状態

すべての被験物質投与群の雌雄で,投与後5分から呼吸促迫,自発運動の低下,振戦および腹臥位,投与後15分から緩徐呼吸が認められた.また,980 mg/kg群の雌雄では投与後30から45分に流涎が散見され,1400 mg/kg群の雌では投与後15分から2時間に横臥位が認められた.なお,死亡例では上述の所見に加えて,死亡直前に間代性痙攣またはチアノ−ゼが認められた.生存例では,呼吸促迫は投与後15分,流涎は投与後1時間,腹臥位および横臥位ならびに振戦は投与後3時間,自発運動の低下および緩徐呼吸は投与翌日までに消失した.

3. 体重

1400 mg/kg以上の群の雄で投与翌日に増加抑制が認められたが,3日からは順調な増加が認められた.そのほかの被験物質投与群の雌雄では,異常は認められなかった.

4. 剖検

死亡例では,肺の暗赤色斑が2000 mg/kg群の雌雄各1例に認められ,同群の別の雄1例に胸腺の暗赤色点が認められた.生存例では,変化は認められなかった.

5. 病理組織学検査

肉眼的な肺の暗赤色斑および胸腺の暗赤色点に対応して,組織学的に肺で水腫,胸腺で出血が認められた.

考察

OECD既存化学物質安全性点検に係る毒性調査の一環として,Crj:CD(SD)IGSラットを用い,4-クロロフェノ−ルの経口投与による単回投与毒性試験を実施した.投与量は0(対照),690,980,1400および2000 mg/kgとした.

死亡は,投与後30分から投与翌日までに2000 mg/kg群の雄および1400 mg/kg以上の群の雌で認められ,本試験条件下における概略の致死量は,雄で2000 mg/kg,雌で1400 mg/kgと推定された.

死亡例では,症状として呼吸促迫,自発運動の低下,振戦,緩徐呼吸,間代性痙攣またはチアノ−ゼなどが認められた.また,一部の例では,病理学検査において肉眼的に肺の暗赤色斑,組織学的に肺の水腫が認められており,死因は呼吸不全と推察された.なお,2000 mg/kg群の雄1例では,胸腺で肉眼的に暗赤色点,組織学的に出血が認められたが,同様の変化は死亡例ではしばしば認められることから,死戦期に生じたものと考えられた.

生存例では,すべての被験物質投与群で投与後5分から呼吸促迫,自発運動の低下,振戦または緩徐呼吸などの症状が認められ,これらの症状は早いもので投与後30分,遅くとも投与翌日に回復した.また,体重では1400 mg/kg以上の群の雄で投与翌日に増加抑制が認められたが,3日以降は順調に増加しており,早い回復性を示した.

連絡先
試験責任者:緒方英博
試験担当者:木村栄介,浜村政夫,杉本健二,和泉宏幸,鍬先恵美子
(株)パナファ−ム・ラボラトリ−ズ安全性研究所
〒869-0425 熊本県宇土市栗崎町1285
Tel 0964-23-5111Fax 0964-23-2282

Correspondence
Authors:Hidehiro Ogata(Study Director)
Eisuke Kimura, Masao Hamamura, Kenji Sugimoto, Hiroyuki Izumi, Emiko Kuwasaki
Safety Assessment Laboratory, Panapharm Laboratories Co., Ltd.
1285 Kurisaki-machi, Uto-shi, Kumamoto, 869-0425, Japan
Tel +81-964-23-5111Fax +81-964-23-2282