1,4-ジエチルベンゼンのラットを用いる反復経口投与毒性・
生殖発生毒性併合試験

Combined Repeat Dose and Reproductive/Developemental Toxicity Screening Test of
1,4-Diethylbenzene by Oral Administration in Rats

要約

1,4-ジエチルベンゼンはパラキシレンの脱着剤として使用されている化合物であるが,本化合物のヒトや実験動物の生体に及ぼす影響についてはほとんど知られていない.今回,1,4-ジエチルベンゼンの毒性学的性質を評価するために反復経口投与毒性・生殖発生毒性併合試験を行った.すなわち,1,4-ジエチルベンゼンの0(溶媒対照群),30,150および750mg/kg/dayをSprague-Dawley系(Slc:SD)ラットの交配前2週間および交配期間2週間を通じて経口投与し,さらに雄では交配期間終了後16日間,雌では妊娠期間を通じて分娩後の哺育3日まで連続投与し,親動物に対する反復投与毒性および生殖能ならびに児動物の発生・発育に及ぼす影響について検討した.

1.反復投与毒性

一般状態には被験物質投与の影響は認められず,死亡例も観察されなかった.体重が雌雄の750mg/kg群で減少傾向を示し,軽微ながら被験物質投与の影響が認められた.また,摂餌量が雄の750mg/kg群で投与8日まで減少し,投与29日以降は逆に増加した.雄の血液生化学的検査では,150および750mg/kg群で尿素窒素およびGPT活性の増加,750mg/kg群で総蛋白,アルブミン,クレアチニンおよび総ビリルビンの増加ならびに血糖の減少が認められた.器官重量は雄の150および750mg/kg群で腎臓重量が増加し,また雌雄の750mg/kg群で肝臓重量が増加した.病理学検査では,雄の750mg/kg群で肉眼所見として肝臓の褐色化あるいは肥大が認められ,組織学的には小葉中心性肝細胞腫脹が認められた.

2.生殖発生毒性

交尾能,受胎能および性周期観察では,被験物質投与の影響は認められなかった.分娩時観察では,妊娠動物の全例が正常に分娩し哺育期間を通じ被験物質投与の影響は認められなかった.また,新生児の外表検査でも被験物質投与によると考えられる異常はなく,体重も哺育4日まで順調に増加した.死産児,哺育4日までの死亡児および哺育4日の剖検では被験物質投与によると考えられる異常所見は認められなかった.

以上の結果から,本試験条件下における1,4-ジエチルベンゼンの反復投与毒性に関する無影響量は雄で30mg/kg/day,雌で150mg/kg/dayと判断される.また,雌雄の生殖に及ぼす影響および児動物の発生・発育に及ぼす影響は750mg/kg/day投与によっても認められず,無影響量は750mg/kg/dayと判断される.

方法

1.被験物質

1,4-ジエチルベンゼン(1,4-diethylbenzene,別名 Para-diethylbenzene,CAS No.105-05-5,東レ(株)製造,Lot.No. 40803,純度97.2%,分子量134.22,融点 -42.9℃,沸点 183.8℃)は,無色透明な液体であり,使用時まで冷暗条件下で密閉保管した.

被験物質は,コーンオイル(ナカライテスク製)に溶解し,0.6,3および15(w/v)%の濃度になるよう各群の投与液を調製した.調製後は,使用時まで冷暗条件下で密閉保管した.調製液中の被験物質は,2(w/v)%溶液の場合,冷暗条件下で少なくとも7日間安定であることが確認されているため,調製は1週間に1回以上の頻度で行い,調製後7日以内に使用した.

投与液の濃度分析は,調製開始時に調製した各群のバッチから無作為にサンプルを抽出し実施した.その結果,90.0〜94.0%の範囲で調製されおり,ほぼ所定量の1,4-ジエチルベンゼンが含有されていたことを確認した.

2.使用動物および飼育条件

試験には,日本エスエルシー(株)から購入した7週齢のSprague-Dawley(Slc:SD, SPF)系雌雄ラットを使用した.購入した動物は8日間検疫・馴化飼育した後,一般状態に異常が認められなかったものを8週齢で群分けして試験に用いた.群分け終了時の体重は,雄で258〜285g,雌で163〜192gの範囲であった.

動物は,温度22〜26℃,湿度45〜65%,換気回数15回/時間,照度150〜300lux,照明時間12時間(午前7時点灯,午後7時消灯)に設定されたバリアシステムの飼育室(W 5.7×D 10.0×H 2.5m,142.5m)で飼育した.株式会社 東京技研サービスの自動水洗式飼育機(W 691.0×D 79.0×H 195.0cm)を使用し,アルミ製前面・床ステンレス網目飼育ケージ(W15.8×D23.8×H16.0cm,飼育ケージ・スペース6,017cm^3)に動物を1匹ずつ収容し飼育した.但し,交配期間中は,雌雄の動物をアルミ製前面・床ステンレス網目飼育ケージ(W 36.8×D 25.0×H 16.0cm,飼育ケージ・スペース14,720cm^3)に収容し飼育した.妊娠18日以降の母動物は哺育4日までアルミ製前面・床ステンレス網目飼育ケージ(W 36.8×D 25.0×H 16.0cm)に哺育トレーおよび巣作り材料(アルファードライ)を入れて飼育した.

飼料は,オリエンタル酵母工業株式会社製造のNMF固型飼料(放射線滅菌飼料)を使用し,飼育期間中自由に摂取させた.飲水は,水道水を自由に摂取させた.供給した飼料,水および巣作り材料には試験に支障を来す可能性の考えられる夾雑物の混在はなかった.

3.群分け

雌雄とも投与開始日の体重をもとに層別化し,無作為抽出法により1群当たり12匹を振り分けた.群分け後の動物の識別は個体別に耳パンチをするとともにケージごとに動物標識番号(Animal ID-No.)をつけた.

4.投与量,群構成,投与期間および投与方法

本試験の用量は,先に実施したラットを用いた予備試験の結果を参考にして決定した.すなわち,0,500,750および1000mg/kgを雄および雌に2週間連続経口投与した結果,雌雄の750mg/kg以上の投与群で肝臓の肥大が認められた.器官重量では,雌雄の500mg/kg以上の投与群で肝臓重量が増加し,さらに雄の750mg/kg以上の投与群で腎臓重量が増加した.以上の結果を基に本試験の高用量を750mg/kgに設定し,以下公比5にて除し,中用量を150mg/kg,低用量を30mg/kgにそれぞれ設定した.

投与経路は,OECDガイドライン「反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験」で指示されている投与経路に準じて強制経口投与とした.投与容量は,体重100g当り0.5mlとし,個体別に測定した最新体重に基づいて算出を行い,胃ゾンデを用いて毎日1回(7日/週)強制経口投与した.対照群にはコーンオイルのみを投与した.

雄の投与期間は,交配前14日間と交配期間14日間および交配期間終了後16日間の連続44日間とした.雌の投与期間は,交配前14日間と交配期間中(交尾成立まで最長14日間)ならびに交尾成立雌の妊娠期間を通じて分娩後の哺育3日まで(40〜51日間)とした.なお,交尾の成立しなかった雌は交配期間終了後の解剖前日まで44日間とし,交尾は成立したが妊娠が成立しなかった雌は妊娠25日の解剖前日までの40日間とした.

5.観察および検査

1)一般状態

雌雄とも,全例について試験期間中毎日観察した.

2)体重

雄では,投与1(投与開始日),8,15,22,29,36,43および45日(剖検日)に測定し,投与1から43日までの体重増加量を算出した.雌では,投与1(投与開始日),8,15および22日に測定し,投与1から15日までの体重増加量を算出した.交尾の成立しなかった雌はそれ以後の投与29,36,43および45日に測定した.また,交尾が成立した雌は,妊娠0,7,14および21日に,分娩した雌は哺育0および4日に測定し,それぞれ妊娠0から21日および哺育0から4日までの体重増加量を算出した.

3)摂餌量

雄では,投与1(投与開始日),8,15,29,36,43および44日(剖検前日)に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの間の摂餌量を求め平均1日摂餌量を算出するとともに投与1から15日および投与29から44日までの累積摂餌量を算出した.雌では,投与1(投与開始日),8および15日に,交尾の成立しなかった雌はそれ以降の投与29,36および43日に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの摂餌量を求め平均1日摂餌量を算出するとともに投与1から15日までの累積摂餌量を算出した.また,交尾成立の雌は妊娠0,7,14および21日に,分娩した雌は哺育0および4日に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの間の摂餌量を求め平均1日摂餌量を算出するとともにそれぞれ妊娠0から21日および哺育0から4日までの累積摂餌量を算出した.なお,交配期間中の摂餌量は測定しなかった.

4)交配

交配前7日間(交配開始日を含めて8日間)の性周期観察を行った雌を同群内の雄のケージに入れ1対1で最長2週間毎晩同居させた.翌朝,腟垢中の精子確認をもって交尾成立とし,その日を妊娠0日とした.交配結果から,各群について交尾率[(交尾成立動物数/同居動物数)×100]および受胎率[(受胎動物数/交尾成立動物数)×100)]を求めた.性周期の観察は交尾成立日まで行い,発情期から次の発情期までの間の日数を性周期日数とし平均性周期を算出した.

5)自然分娩時および新生児の観察

交尾成立動物は全例を自然分娩させた.分娩の確認は午前中(午前9〜12時)に行い,この時間帯に分娩が完了していることを確認した個体についてその日を哺育0日とした.午前12時以降に分娩したものは,翌日を哺育0日とした.分娩を確認した全例について妊娠期間(哺育0日の年月日から妊娠0日の年月日を減じた日数)および出産率[(生児出産雌数/受胎雌数)×100]を求めた.

新生児は哺育0日に出産児数(生存児+死亡児)を調べ,分娩率[(総出産児数/着床数)×100]および出生率[(出産生児数/総出産児数)×100]を求めた.生存児については性別を判定するとともに外形異常の有無を調べた.また,哺育0および4日に雌雄別の同腹児重量を測定し,雌雄別1匹当たりの平均重量を算出した.哺育4日の新生児の同腹児重量を測定後に新生児全例をエ−テル麻酔により屠殺し,主要器官の肉眼観察を行った.なお,哺育期間中の死亡児についても同様に主要器官の肉眼観察を行った.また,新生児の4日生存率[(哺育4日生児数/出産生児数)×100]を求めた.

6)臨床検査

各群の雄全例について剖検時に実施した.動物を約16時間絶食させた後,エーテル麻酔下で開腹し,腹部大動脈から採血した.

a)血液学的検査

検査はEDTA-3Kを添加した初血について,THMS H 6000 (テクニコン社)を用いて白血球数(WBC:暗視野板法),赤血球数(RBC:暗視野板法),ヘマトクリット値(HCT:全赤血球の容積より補正),ヘモグロビン量(HGB:シアンメトヘモグロビン法),平均赤血球容積(MCV:RBC, HCTより算出),平均赤血球血色素量(MCH:HGB, RBCより算出),平均赤血球血色素濃度(MCHC:HGB, HCTより算出),血小板数(PLT:暗視野板法)および白血球百分率(フローサイトケミストリー法)を測定した.

b)血液生化学的検査

検査はクリーンシール(株)ヤトロン)に血液を採取し,30分間放置後3,000 r.p.m. 7分間遠心分離して得た血清について,多項目生化学自動分析装置CentrifiChem ENCORE 供淵戞璽ー社)およびEKTACHEM 700N(コダック社)を用いて総蛋白(ビューレット法),アルブミン(B.C.G.法),A/G(計算値),血糖(グルコースオキシダーゼ法),尿素窒素(ウレアーゼ改良法),クレアチニン(Jaffe法),総ビリルビン(ジアゾ色素法),グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(Karmen改良法),グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(Karmen改良法),γーグルタミルトランスペプチダーゼ(Szasz改法),カリウム(電極法),塩素(電極法),カルシウム(アルセナゾ型Я破 砲よび無機リン(モリブデン酸アンモニウム法)を測定した.

6.病理学検査

1)剖検および器官重量

a)雄動物

44日間投与した日の夕方から餌を除き,約16時間の絶食させた翌日にエ−テル麻酔下で安楽死させた.剖検では主要器官の肉眼的観察を行い,胸腺,肝臓,腎臓,精巣および精巣上体重量を測定し器官重量・体重比(相対重量)を求めた.また,全動物の重量測定器官に加えて脳,心臓,脾臓,副腎,精嚢,前立腺,下垂体および肉眼所見として変化が認められた器官・組織として肺を10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.なお,精巣および精巣上体はブアン氏液で固定した.

b)自然分娩した雌

哺育4日にエーテル麻酔下で放血安楽死させた.剖検では主要器官の肉眼的観察を行った後,胸腺,肝臓,腎臓および卵巣重量を測定し器官重量・体重比(相対重量)を求めた.また,全動物の重量測定器官に加えて脳,心臓,脾臓,副腎,下垂体および肉眼所見として変化が認められた器官・組織として腹腔内の塊を10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.剖検時に黄体数および着床数を調べ,着床率[(着床数/妊娠黄体数)×100]求めた.

c)交尾不成立の雌

44日間投与した翌日にエーテル麻酔下で放血安楽死させた.剖検では主要器官の肉眼的観察を行い,皮膚,乳腺,リンパ節,唾液腺,胸骨,大腿骨(骨髄を含む),胸腺,気管,肺および気管支,心臓,甲状腺および上皮小体,舌,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸,肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,卵巣,子宮,腟,眼球,ハーダー腺,脳,下垂体および脊髄を10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.

d)自然分娩の認められない雌

妊娠25日に,エーテル麻酔下で放血安楽死させた.剖検では主要器官の肉眼的観察を行った後,皮膚,乳腺,リンパ節,唾液腺,胸骨,大腿骨(骨髄を含む),胸腺,気管,肺および気管支,心臓,甲状腺および上皮小体,舌,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸,肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,卵巣,子宮,腟,眼球,ハーダー腺,脳,下垂体および脊髄を10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.着床痕が認められない動物は妊娠不成立と判定した.

e)全児死亡の認められた雌

生存児すべての死亡または喰殺が確認された日にエーテル麻酔下で放血安楽死させた.剖検では主要器官の肉眼的観察を行った後,皮膚,乳腺,リンパ節,唾液腺,胸骨,大腿骨(骨髄を含む),胸腺,気管,肺および気管支,心臓,甲状腺および上皮小体,舌,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸,肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,卵巣,子宮,腟,眼球,ハーダー腺,脳,下垂体および脊髄を10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.

2)病理組織学検査

a)妊娠を成立させた雄

対照群と高用量群全例の脳,胸腺,心臓,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,精巣および病変部組織として肺について実施した.なお,150mg/kg以上の投与群で腎臓重量が,750mg/kg群で肝臓重量がそれぞれ増加したため,30および150mg/kg群の全例の肝臓および腎臓についても組織学検査を実施した.

b)自然分娩した雌

対照群と高用量群全例の脳,胸腺,心臓,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,卵巣および病変部組織として腹腔内の塊について実施した.なお,750mg/kg群で肝臓重量が増加し,雄で腎臓重量の増加が認められたため,30および150mg/kg群の全例の肝臓および腎臓についても組織学検査を実施した.

c)交尾の成立しなかった雌雄

全例の脳,胸腺,心臓,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,腟,子宮,卵巣,精巣,精巣上体,精嚢,前立腺および下垂体について実施した.

d)妊娠を成立させなかった雄および妊娠不成立の雌

全例の脳,胸腺,心臓,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,腟,子宮,卵巣,精巣,精巣上体,精嚢,前立腺および下垂体について実施した.

e)全児死亡の認められた雌

皮膚,乳腺,リンパ節,唾液腺,胸骨,大腿骨(骨髄を含む),胸腺,気管,肺および気管支,心臓,甲状腺および上皮小体,舌,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸,肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,卵巣,子宮,腟,眼球,ハーダー腺,脳,下垂体および脊髄について実施した.

7.統計解析

体重,摂餌量,黄体数,着床痕数,出産児数,性比,平均性周期,妊娠期間,着床率,分娩率,出生率,外形異常発現率,新生児の4日生存率,器官重量,器官重量・体重比(相対重量),血液学的および血液生化学的検査値についてはまずBartlettの等分散検定2)を実施した.等分散の場合は一元配置分散分析を行った.分散が有意で各群の標本数が同数の場合はDunnettの多重比較検定,各群の標本数が異なる場合はScheffの多重比較検定で対照群と各投与群間の有意差を検定した.Bartlettの等分散検定で不等分散の場合はKruskal-Wallisの順位検定を実施した.有意で各群の標本数が同数の場合はDunnettの順位検定,各群の標本数が異なる場合はScheff型の順位検定で対照群と各投与群間の有意差を検定した.出産率,交尾率および受胎率についてはχ^2検定3)4)を用いた.病理学検査の異常所見頻度についてはFisherの直接確率検定法4)を用いた.但し,病理組織学検査の肝細胞小葉中心性腫大については累積カイ自乗検定4)を実施した.なお,哺育期間中の新生児に関する成績は1母体当りの平均を1標本とした.有意水準は*:P< 0.05 および**:P< 0.01の2段階とした.

結果

1.反復投与毒性

1)死亡および一般状態

死亡例は,投与期間を通じ雌雄いずれの群にも観察されなかった.一般状態の観察では,雌の30mg/kg群で背部の外傷が投与3週目に1例,被毛の汚れおよび眼分泌物が哺育1日目の同一個体の1例に観察され,また,150mg/kg群で頭部の外傷が妊娠0から9日に,痂皮形成が妊娠10から14日に同一個体の1例に観察された.雄については,投与期間を通じいずれの投与群にも異常は観察されなかった.

2)体重(Fig. 1, 2)

雄では,750mg/kg群で対照群に比べて投与期間を通じ体重が減少傾向を示し,投与1から43日の体重増加量も減少傾向を示した.雌では,30および750mg/kg群で対照群に比べて妊娠期間を通じ体重が減少傾向を示し,750mg/kg群の妊娠0から21日の体重増加量も減少傾向を示した.交配前および分娩後の投与期間では,対照群と各被験物質投与群との間に差は認められなかった.

3)摂餌量(Fig. 3, 4)

雄では,750mg/kg群で対照群に比べて投与8日まで摂餌量が減少し,その後投与29から43日までは逆に増加を示した.同群の投与29日から44日の累積摂餌量も対照群に比べて増加した.雌では,30mg/kg群で対照群に比べて妊娠14から21日で摂餌量が減少したが,150および750mg/kg群では対照群と比べて差はなかった.

4)雄の血液学的検査

白血球数は対照群と被験物質投与群との間に差はなかった.30および150mg/kg群で対照群に比べ好中球比率および好酸球比率の増加,リンパ球比率の減少が認められたが用量に関連した変化ではなかった.赤血球数は対照群と被験物質投与群との間に差は認められなかった.すべての投与群で対照群に比べヘモグロビン量,平均赤血球血色素量,平均赤血球血色素容積が僅かに減少したが,ほぼ対照群の変動の範囲内(対照群の2標準偏差の範囲)であった.なお,各投与群とも貧血傾向が認められなかったことから,網赤血球率の算定は行わなかった.

5)雄の血液生化学的検査(Table 1)

150および750mg/kg群で,対照群に比べ尿素窒素およびGPT活性の増加,γ-GTP活性の減少が認められ,さらに,750mg/kg群でクレアチニン,総ビリルビン,総蛋白,アルブミン,A/Gおよびカリウムの増加,血糖の減少が認められた.その他,30mg/kg群で対照群に比べ増加あるいは減少を示す項目もあったが,用量に関連した変化ではなかった.

6)器官重量(Table 2, 3)

雄では,150および750mg/kg群で対照群に比べて腎臓の実重量または相対重量が増加し,さらに,750mg/kg群で,肝臓の実重量および相対重量がともに増加した.

その他,750mg/kg群で対照群に比べて精巣上体の実重量が減少した.雌では,750mg/kg群で対照群に比べて肝臓の実重量および相対重量がともに増加した.

7)剖検所見

雄では,肝臓の褐色化が750mg/kg群で対照群に比べて発現頻度の有意な増加が認められた.また,同群の2例に肝臓の肥大が観察された.その他,被験物質投与群で心臓の白色斑/区域,胸腺の赤色斑/区域,肺の有色斑/区域(褐色)が単発的に認められた.

哺育4日の母動物では,対照群または750mg/kg群で胸腺の赤色化,肺の有色斑/区域(褐色),腹腔内の塊(脂肪壊死)が単発的に認められた.妊娠が成立しなかった30mg/kg群の雌2例に子宮の内腔拡大が観察された.

8)病理組織学検査(Table 4, 5)

妊娠を成立させた雄では,小葉中心性肝細胞腫脹が750mg/kg群の10例全例に認められた.その他の所見は,対照群と差がないかあるいは少数例の発生であった.

自然分娩した動物では,観察された所見は対照群と差がないかあるいは少数例の発生であった.30および150mg/kg群で実施した肝臓および腎臓の組織学所見では,被験物質投与の影響が示唆される異常所見は認められなかった.

交尾の成立しなかった750mg/kg群の雌雄各1例の動物のうち,雄に前述した小葉中心性肝細胞腫脹が認められた.また,雌に子宮水腫が認められた.その他,脾臓の色素沈着や肝臓の小肉芽巣などの変化が観察された.

妊娠を成立させなかった雄および妊娠不成立の雌は,30mg/kg群で雌雄2例,750mg/kg群で雌雄1例であり,これらのうち,雄の750mg/kg群の1例に前述した小葉中心性肝細胞腫大が認められた.また,雌の30mg/kg群の2例に子宮水腫が認められた.その他,脾臓の色素沈着や腎臓の尿細管好塩基性化・好酸性小体,副腎の空胞化などの変化が観察された.哺育期間中の全児死亡の母動物1例では,子宮の出血・壊死・毛細血管増殖をともなった肉芽巣・細胞浸潤,乳腺の増生,肺のマクロファージ集簇,胸腺萎縮などの変化が観察された.

2.生殖発生毒性

1)交尾および受胎能

交尾は,750mg/kg群を除き対照群を含むすべての群で全例成立した.750mg/kg群では1組が交尾不成立で,交尾率は91.7%であった.受胎は,対照群および150mg/kg群の交尾成立した雌の全例で成立し,30mg/kg群では12例中10例(83.3%),750mg/kg群では11例中10例(90.9%)で成立した.性周期観察では,いずれの群もほぼ4〜5日の性周期を示し,平均性周期に群間差は認められなかった.

2)分娩および哺育(Table 6)

分娩状態には異常は観察されず,出産率,分娩率および出生率にも対照群と比べて群間差は認められなかった.妊娠期間では,対照群の21.3日に比べて750mg/kg群では22.0日と僅かに長く,統計学的有意差が認められた.生後4日生存率は,対照群に比べて750mg/kg群の雄で減少した.30mg/kg群では対照群に比べて雌雄ともに減少傾向を示したが,生後2日までに全児死亡した1腹による数値の片寄りと考えられ,この1腹を除けば対照群と差はなかった.

3)新生児の形態,体重および剖検所見

新生児の外表検査では,外傷(頚部)および皮下出血(背部)が750mg/kg群の各1例に観察されたのみで,その他の異常は観察されなかった.哺育期間中の体重は,雌雄ともに群間差は認められなかった.死亡児の剖検では,胸腺の頸部残留が対照群および750mg/kg群の各1例に観察されたのみであった.哺育4日の剖検では,胸腺の頸部残留および肝臓の奇形結節(過形成)が散見された.

考察

1.反復投与毒性

死亡例は,投与期間を通じ雌雄いずれの群にも認められなかった.一般状態にも被験物質投与の影響は認められなかった.

体重については,750mg/kg群の雄の投与期間および雌の妊娠期間で増加抑制傾向が認められ,軽微ながら被験物質投与の影響と考えられた.30mg/kg群の雌の妊娠期間で認められた体重の増加抑制傾向は体重増加量に差が出ない程度の軽微な変化であった.摂餌量については,雄の750mg/kg群で投与1〜8日に減少し,その後は逆に増加を示した.雌の30mg/kg群において妊娠15から21日で減少したが,用量に関連して認められた変化ではなく被験物質投与の影響を示唆する変化とは考えられなかった.

血液学的検査では,被験物質投与の影響は認められなかった.血液生化学的検査では150および750mg/kg群で尿素窒素およびGPT活性の増加が,さらに750mg/kg群で総蛋白,アルブミン,クレアチニンおよび総ビリルビンの増加,血糖の減少が認められ,腎臓および肝臓に対する被験物質投与の影響が示唆された.その他,150および750mg/kg群でγ-GTPの減少,750mg/kg群でA/Gおよびカリウムの増加が認められたが,これらは相互に関連した変化ではなく,特定臓器における障害を示唆するものとは考えられなかった.

器官重量は,雄の150および750mg/kg群で腎臓の実重量または相対重量が増加し,さらに750mg/kg群で肝臓の実重量および相対重量が増加した.雌では,750mg/kg群で肝臓の実重量および相対重量が増加した.これらの重量変化は被験物質投与に起因した変化と考えられた.その他,雄の750mg/kg群で精巣上体の実重量が減少したが,体重増加抑制傾向に起因する変化と考えられた.

病理学検査の結果では,雄の750mg/kg群で肝臓重量の増加が認められ,関連する肉眼所見として,肝臓の褐色化あるいは肥大が観察され,組織学的には,小葉中心性肝細胞腫脹が認められた.肝細胞の腫脹は薬物亢進によりみられることが知られており5),今回認められた所見の程度は軽度であり,なおかつ壊死や線維化などの強い肝障害が認められないことから,薬物代謝亢進に適応した変化と考えられた.なお,雄の150および750mg/kg群の腎臓重量の増加に関連する剖検所見および組織学的変化は認められなかった.交尾および妊娠不成立の雌4例中3例に組織学所見で妊娠不成立の原因と考えられる子宮水腫が認められたが,用量に関連して認められた変化ではないことから,被験物質投与との関連はないものと考えられた.その他認められた組織学的変化は,いずれも被験物質投与に関連しない自然発生的な病変と考えられた.

以上のことから,1,4-ジエチルベンゼンの反復投与による標的器官は肝臓および腎臓と考えられ,雄では,150mg/kg/day以上の投与で尿素窒素およびGPT活性の増加,腎臓重量の増加が,さらに,750mg/kg/day投与で体重増加抑制,摂餌量の減少または増加,総蛋白,アルブミン,クレアチニンおよび総ビリルビンの増加,血糖の減少,肝臓重量の増加,肝臓の褐色化あるいは肥大,小葉中心性肝細胞腫脹が認められた.雌では,750mg/kg/day投与で体重増加抑制および肝臓重量の増加が認められた.したがって,無影響量は雄では30mg/kg/day,雌では150mg/kg/dayと判断される.

2.生殖発生毒性

交尾能および受胎能に被験物質投与の影響は認められず,性周期観察でも,いずれの群もほぼ4〜5日の性周期を示し,被験物質投与の影響は認められなかった.分娩時観察では妊娠動物の全例が正常に分娩した.新生児の外表検査で認められた異常はいずれも単発性であり自然発生性の所見と考えられた.妊娠期間では,750mg/kg群で対照群の21.3日に比べて22.0日と僅かに延長したが,当センタ−背景値(過去3年間:平均21.1〜22.4日)と比較して差はなかった.750mg/kg群で雄の4日生存率が減少したが,雌では対照群と比べて差はなく,毒性学的意義は小さいものと考える.また,新生児の体重も哺育4日まで順調に増加し,死産児,死亡児および哺育4日の剖検でも被験物質投与による影響は認められなかった.

以上のことから,1,4-ジエチルベンゼンによる雌雄の生殖に及ぼす影響および児動物の発生・発育に及ぼす影響は,750mg/kg/day投与によっても認められず,無影響量はともに750mg/kg/dayと判断される.

文献

1)Govt. Reports Announcements & Index, NTIS/PB 89-215776 (1982).
2)C.G.Shayneand and S.W.Carrol,"Statistics and Experimental Design For Toxicologists," Telford Press, 1986.
3)佐久間昭"薬効評価機欸弉茲伐鮴蓮," 東京大学出版会, 1977.
4)石居 進"生物統計学入門," 培風館, 1975.
5)P.Grasso and R.H.Hinton, Mutation research, 248, 271-290 (1991).

連絡先
試験責任者:萩田孝一
試験担当者:田中亮太,渡 修明,庄子明徳,
岩田 聖,小林和雄
(財)食品農医薬品安全性評価センター
〒437-12静岡県磐田郡福田町塩新田字荒浜582-2
Tel 0538-58-1266Fax 81-538-58-1393

Correspondence
Authors:Koichi Hagita(Study director),
Ryota Tanaka, Nobuaki Watari, Akinori Shoji,
Hijiri Iwata, Kazuo Kobayashi
Biosafety Research Center, Foods, Drugs and Pesticides (An-Pyo Center)
582-2 Shioshinden Arahama, Fukude-cho, Iwata-gun, Shizuoka, 437-12, Japan
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