N,N-ジメチルベンジルアミンの
ラットを用いる28日間の反復投与毒性試験

Twenty-eight-day Repeat Dose Oral Toxicity Test of
N,N-Dimethylbenzylamine in Rats

要約

N,N-ジメチルベンジルアミンは,有機合成反応の触媒として使用されている化合物である.本化合物の毒性については,ほとんど報告がないため,今回,既存化学物質の安全点検に関わる毒性調査事業の一環として,N,N-ジメチルベンジルアミンについて,50,100,200および400 mg/kg/dayの用量でSD系ラットを用い,28日間反復投与毒性試験を実施した.対照群,200および400 mg/kg群にはそれぞれ雌雄各5匹の14日間回復群を設けた.

雌雄とも,400 mg/kg群で投与2週から死亡例が認められた.雄および雌の死亡例はそれぞれ投与2週で1および2例,3週で5および7例,4週で2および1例であり,死亡率は雄で80%,雌で100%であった.病理学検査の結果には死因に結びつく変化は認められなかった.

一般状態の観察では,雌雄の100 mg/kg群で縮瞳,200および400 mg/kg群で縮瞳および流涎が認められた.さらに400 mg/kg群で雌雄に被毛の汚れが,雌に振戦が認められ死に至った.雌雄で観察された症状は回復試験では観察されず,回復を示した.

体重は雄の400 mg/kg群で増加が抑制され,投与3週以降有意であった.摂餌量には,雌雄とも群間で明確な差は認められなかった.回復期間中は,雌雄とも対照群と被験物質投与群とで有意な差は認められなかった.

血液学検査の結果,雄の400 mg/kg群で投与終了時まで生存した1例でリンパ球数低値に伴う白血球数の低値が認められたが,これを除き回復期間終了時の結果を含め被験物質の投与と関連づけられる変化は認められなかった.

血液凝固能検査の結果,雄の400 mg/kg群で投与終了時まで生存した1例でフィブリノーゲン量の低値が認められたが,これを除き雌雄とも毒性学的に意義のある変化は認められなかった.

血液生化学検査の結果,雄の200 mg/kg群で総コレステロールが高値傾向を示した.回復期間終了時には,雄の200 mg/kg群でA/G比が僅かながら低値を示した.

尿検査の結果,雄の100 mg/kg群以上および雌の200 mg/kg群以上の群で尿量の増加傾向が認められた.

器官重量測定の結果,雄の200 mg/kg群で脾臓の実重量が高値,雌の200 mg/kg群で肝臓の実重量および相対重量が高値を示し,さらに,雄の400 mg/kgで脾臓の実重量ならびに胸腺の実重量および相対重量が低値傾向を示した.また,回復期間終了時,雄の200 mg/kg群で副腎の実重量および相対重量が高値を示し,さらに雄の400 mg/kgで副腎の実重量が高値傾向および精巣の実重量が低値傾向を示した.

病理学検査の結果,投与終了時に計画解剖した動物の組織所見には,被験物質投与の影響を示唆する変化は観察されなかった.死亡動物の組織所見では,肝臓の細胞質内封入体が雌雄に,副腎の皮質の空胞変性が雌に観察されたが,いずれの病変も投与終了時の計画解剖例には観察されなかった.

以上の結果,本試験条件下におけるN,N-ジメチルベンジルアミンの無影響量(NOEL)は,雌雄とも50 mg/kg/dayと考えられた.

方法

1.被験物質

N,N-ジメチルベンジルアミン(CAS No.103-83-3,広栄化学工業(株)提供)は無色又は淡黄色の液体で,水に微溶,分子式C9H13N,分子量135.23の化合物である.本試験に用いたロット番号:50502の純度は99.93 wt%であり,試験期間中安定であることを確認した.

2.供試動物

供試したラット〔Crj:CD(SD)系,SPF〕は日本チャールス・リバー(株)から4週齢で購入した.動物を検収後,試験環境に8日間馴化させた後,6週齢で投与を開始した.動物はあらかじめ体重によって層別化し,無作為抽出法により各試験群を構成するように群分けした.投与開始時の体重は雄で117〜133 g,雌で108〜117 gであった.

3.飼育条件

動物はバリアシステムの飼育室で飼育し,環境調節の目標値は温度23±2℃,相対湿度55±10%,換気回数20回/時,照明150〜300 lux,12時間(午前7時点灯,午後7時消灯)とした.(株)東京技研サービスの水洗式飼育機を使用し,金属製前面・床網目飼育ケージに動物を1匹ずつ収容し,オリエンタル酵母工業(株)製造の放射線滅菌改良NIH公開ラット・マウス飼料および水道水を自由に摂取させた.飼育ケージは隔週1回,給餌器は週1回取り換えた.

4.試験群の構成

試験群は0,50,100,200および400 mg/kgの5群とし,1群雌雄各5匹を用い,0,200および400 mg/kg群に雌雄各5匹の回復群を設け,計80匹を使用した.

〔用量設定理由〕

本試験に先立って実施したラットを用いた急性経口投与毒性予備試験(投与量:200,400,600,800 mg/kg)の結果,800 mg/kg群では雌雄すべての動物が死亡し,600 mg/kg群では雌雄ともに3例中2例が死亡した.さらに,600 mg/kg群では雌雄すべての動物に流涎および間代性痙攣等が認められた.一方,2週間投与試験(投与量:0,20,60,180 mg/kg)の結果,180 mg/kg群の雌雄で縮瞳が,さらに雄で血液生化学検査の総コレステロールが高値を示したのみで,被験物質投与の影響は軽微であった.

従って,28日間反復投与毒性試験では雌雄とも確実な影響がでることが推察される400 mg/kgを最高用量に設定し,以下公比2で除し高用量を200 mg/kg,中用量を100 mg/kg,低用量を50 mg/kgとした.なお,400 mg/kg群では死亡例も出ることが予想されることから,高用量の200 mg/kg群にも回復群を設けることとした.

5.投与方法

被験物質の投与経路は経口とした.被験物質はコーン油に溶解し,胃ゾンデを用いて経口投与した.投与容量は体重100 g当たり0.5 mlとした.対照群には媒体のみ投与した.

6.投与液の調製,分析

被験物質は,各用量(50,100,200および400 mg/kg)ごとに所定量を精秤し,コーン油(ナカライテスク(株))に溶解した.投与液は調製後,冷蔵庫保存で1週間安定であることが確認されているので,本試験においては毎週1回調製を行い,1日分毎に小分けをし使用時まで冷蔵庫に保管した.投与液の濃度分析をすべての群に関し投与1および4週の調製液について実施した結果,設定濃度の90.5〜101%の範囲であり,適切に調製されていた.

7.投与期間

投与期間は28日間とし,投与終了後0,200および400 mg/kg群について14日間の回復試験を実施した.

8.観察,測定および検査

1) 一般状態の観察

全動物を毎日投与前,投与後1および5時間の3回観察し,中毒症状の有無,行動異常,死期の迫った動物および死亡動物の有無等を記録した.

2) 体重

投与開始から回復試験終了時まで,毎週1回測定した.

3) 摂餌量

毎週1週給餌した残量を測定し,飼料摂取量(g/week)を算出した.

4) 臨床検査

投与終了時および回復期間終了時の計2回実施した.採血するに当り,動物は約16時間絶食させた.動物をエーテルで麻酔後開腹し,腹部大動脈から採血した.

a.血液学検査

EDTA-3Kを添加した初血を用い,白血球数(WBC:暗視野板法),赤血球数(RBC:暗視野板法),ヘモグロビン量(HGB:シアンメトヘモグロビン法),ヘマトクリット値(HCT:RBC,MCVより算出),平均赤血球容積(MCV:暗視野板法),平均赤血球血色素量(MCH:HGB,RBCより算出),平均赤血球血色素濃度(MCHC:HGB,HCTより算出),血小板数(PLT:暗視野板法)および白血球百分率(フローサイトメトリー法)を血液自動分析装置THMS H・1E(米国マイルス社)を用いて測定した.

網赤血球(RC)率算定のため抗凝固剤添加(EDTA-3K)血液をニューメチレンブルーで染色後,塗抹標本を作製し鏡検した.

また,クエン酸ソーダ添加血液の血漿について,プロトロンビン時間(Quick1段法),活性化部分トロンボプラスチン時間(クロット法)およびフィブリノーゲン量(トロンビン時間法)を血液凝固自動測定装置KC-40(独国Amelung社)を用いて測定した.

b.血液生化学検査

血清を用いて,総蛋白(ビューレット法),アルブミン(B.C.G.法),A/G比(計算値),血糖(グルコースオキシダーゼ法),中性脂肪(酵素比色法),総コレステロール(コレステロールオキシダーゼ法),尿素窒素(BUN:ウレアーゼアンモニア指示薬法),総ビリルビン(ジアゾ法),カルシウム(アルセナゾ桂),無機リン(モリブデン酸青法),ナトリウム(電極法),カリウム(電極法)および塩素(電極法)をEKTACHEM 700N(米国コダック社)で,クレアチニン(Jaff法),グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT:IFCC法),グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT:IFCC法),γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP:Orlwski法)およびアルカリホスファターゼ(ALP:Bessey-Lowry改良法)をCentrifiChem ENCORE(米国ベーカー社)で測定した.

c.尿検査

血液学検査に先立ち,採尿器を用いて24時間(午前10時から翌日午前10時まで)尿を採取し,尿量,色調および濁度を検査後,尿比重計UR-S((株)アタゴ)を用いて尿比重を測定した.また,尿を遠心分離後Sternheimer変法により沈渣を染色し,鏡検した.pH,潜血,ケトン体,糖,蛋白,ビリルビンおよびウロビリノーゲンの検査は,排泄3時間以内の新鮮尿について,N-マルティスティックスSG試験紙(マイルス・三共(株))およびCLINITEK200(米国マイルス社)を用いて行った.

5) 病理学検査

病理解剖は投与終了時および回復期間終了時に動物をエーテル麻酔し,放血致死させ実施した.死亡動物は発見後,直ちに解剖した.また,脳,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,精巣,卵巣および胸腺について重量を測定し,器官重量・体重比を算出した.上記重量測定器官,下垂体,眼球,唾液腺,甲状腺(上皮小体を含む),心臓,肺,胃,膀胱,骨髄(大腿骨)および肉眼所見で変化が認められた器官・組織は10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.

病理組織学検査は固定した器官・組織のうち,投与終了時および回復試験終了時に解剖した対照群と高用量群の心臓,胸腺,肝臓,脾臓,腎臓,副腎および骨髄(大腿骨)について検索した.また,雌雄の肝臓,雄の胸腺および雌の副腎について他の用量群および回復群についても実施した.なお,雌雄ともに400 mg/kg群で投与期間中に死亡例が多発したため,雌雄の200 mg/kg群を組織学検査に供した.常法に従って薄切標本を作製し,ヘマトキシリン・エオジン染色した.

6) 統計解析

各試験群の体重,摂餌量,血液学検査値,血液生化学検査値,尿検査値(尿量および尿比重のみ),器官重量および器官重量・体重比については,多重比較検定1)2)を行った.また,病理学検査結果についてはFisherの確率計算法を実施した.

有意水準は5および1%の両側検定で実施した.

結果

1.死亡率

雌雄とも,400 mg/kg群で投与2週から死亡例が認められた.雄および雌の死亡例はそれぞれ2週で1および2例,3週で5および7例,4週で2および1例であり,投与終了時における生存数は雄および雌でそれぞれ2および0例であった.その他の投与群では,雌雄とも死亡例は認められなかった.従って,0,50,100,200および400 mg/kg群の死亡率は,それぞれ雄で0,0,0,0および80%,雌で0,0,0,0および100%であった.

回復期間中には,雌雄とも対照群,200 mg/kg群および400 mg/kg群(雄)で死亡例は認められなかった.

2.一般状態の観察

雄では,100,200および400 mg/kg群で投与2日から軽度(+)の縮瞳が認められ,100 mg/kg群では5例中3例,200 mg/kg群では10例中3例,400 mg/kg群では10例中5例に観察された.また,口吻周囲が濡れる程度(+)の流涎が200 mg/kg群では投与14日から,400 mg/kg群では投与10日から認められ,それぞれ10例中3例および10例全例に観察されたが,いずれの動物の症状も投与直後から発現し,3時間程度継続した.なお,上記の所見はいずれも回復期間では認められなかった.その他の変化として,尿による下腹部を濡らす程度(+)の被毛の汚れが400 mg/kg群で投与15日から10例中1例,軽度(+)の外傷が50および200 mg/kg群で投与14日から各1例に認められた.顎下部に認められた外傷は,50 mg/kg群の1例では投与終了時の計画解剖動物であったため回復性は明らかではないが,200 mg/kg群の1例では回復期間終了時まで継続した.

雌では,100,200および400 mg/kg群で投与2日から軽度の縮瞳が認められ,100 mg/kg群では5例中2例,200 mg/kg群では10例中6例,400 mg/kg群では10例中7例に観察された.また,口吻周囲が濡れる程度の流涎が200 mg/kg群では投与14日から,400 mg/kg群では投与8日から認められ,それぞれ10例中7例および全例に観察された.さらに,振戦が400 mg/kg群で投与14日から10例中7例に認められた.これらの症状はいずれも回復期間では認められなかった.その他の変化として,尿による下腹部を濡らす程度の被毛の汚れが400 mg/kg群で投与14日から8例中5例,軽度の外傷が100 mg/kg群で投与15日から1例に観察された.顎下部に認められた外傷は,投与終了時の計画解剖動物であったため回復性は明らかではなかった.なお,流涎の程度や発現時間は雄とほぼ同じであった.

3.体重(Figure1)

雄では,400 mg/kg群で投与1週から増加抑制傾向が認められ,投与3および4週にはそれぞれ対照群に比較して14.6および16.2%減少した.同群の投与開始から投与終了時までの4週間の体重増加量は対照群に比較して低値であった.回復期間においては,順調な体重増加が認められた.

雌では,投与4週までに400 mg/kg群のすべての動物が死亡した.その他の群では,投与期間および回復期間を通じて,対照群と被験物質投与群とで有意な差は認められなかった.

4.摂餌量

雌雄とも,投与期間中および回復期間中を通じて,対照群と被験物質投与群とで明確な差は認められなかった.

5.血液学的検査(Table1)

〔投与終了時の検査結果〕

雄では,400 mg/kg群の生存した1例で白血球数の低値が認められたが,その他の検査項目では,いずれも対照群と被験物質投与群とで明確な差は認められなかった.

雌では,50 mg/kg群でヘマトクリットの低値が認められたが,用量に対応した変化ではなかった.その他の検査項目では,いずれも対照群と被験物質投与群とで差は認められなかった.

〔回復期間終了時の検査結果〕

雄では,いずれの検査項目も対照群と被験物質投与群とで差は認められなかった.

雌では,対照群に比較して200 mg/kg群で血小板数の低値が認められたが,背景値の範囲内の変化であった(背景値1103±124×10^3/mm3,n=50).その他,いずれの検査項目も対照群と被験物質投与群とで差は認められなかった.

6.血液凝固能検査(Table1)

〔投与終了時の検査結果〕

雄の200 mg/kg群および雌の50および200 mg/kg群でAPTTが対照群に比較して短縮を示した.また,雄の400 mg/kg群の生存した1例でフィブリノーゲン量が低値を示した.

〔回復期間終了時の検査結果〕

雄の400 mg/kg群の1例でフィブリノーゲンが低値を示したが,雌雄の200 mg/kg群は対照群と検査を行った3項目に差は認められなかった.

7.血液生化学検査(Table2)

〔投与終了時の検査結果〕

雄では,200 mg/kg群で総コレステロールが高値傾向,200および400 mg/kg群で中性脂肪が低値傾向を示した.

雌では,対照群に比較して200 mg/kg群でグルコースの高値,カルシウムが低値を示した.

〔回復期間終了時の検査結果〕

雄では,対照群に比較して200 mg/kg群でA/G比が低値,400 mg/kg群の生存した1例で総コレステロールが低値を示した.

雌では,対照群に比較して200 mg/kg群でBUNが高値を示したが,背景値の範囲内の変化であった(背景値 16.2±4.3 mg/dl,n=69).

8.尿検査(Table3)

〔投与終了時の検査結果〕

雄の100 mg/kg群以上および雌の200 mg/kg群以上の群で尿量の増加傾向が認められた.

〔回復期間終了時の検査結果〕

雌雄ともに対照群と被験物質投与群とでいずれの検査項目においても明確な差は認められなかった.

9.器官重量(Table4)

〔投与終了時の検査結果〕

雄では,対照群に比較して200 mg/kg群で脾臓重量が高値を示し,400 mg/kg群で脾臓および胸腺重量が低値傾向を示した.

雌では,対照群に比較して200 mg/kg群で肝臓重量が高値を示した.

〔回復期間終了時の検査結果〕

雄では,対照群に比較して200 mg/kg群で副腎重量が高値を示し,400 mg/kg群で副腎重量が高値傾向および精巣重量が低値傾向を示した.

雌では,重量測定を実施したすべての器官について,対照群と被験物質投与群とで差は認められなかった.

10.器官重量・体重比(相対重量)(Table4)

〔投与終了時の検査結果〕

雄では,400 mg/kg群で胸腺相対重量が低値傾向を示した.

雌では,対照群に比較して200 mg/kg群で肝臓相対重量が高値を示した.

〔回復期間終了時の検査結果〕

雄の200 mg/kg群で副腎相対重量が,また雌の200 mg/kg群で脾臓相対重量がそれぞれ対照群に比較して高値を示した.

11.病理学検査

1)剖検所見(Table5)

〔投与終了時解剖動物〕

投与終了時に計画解剖した動物は対照群,50,100,200および400 mg/kg群のそれぞれ雄で5,5,5,5および1例,雌で5,5,5,5および0例であり,対照群に比較して被験物質投与群に多く観察された病変はなかった.観察された病変は肺の有色斑点/区域,子宮の内腔拡大が少数例に認められたのみで,その他はいずれも単発性の発生であった.

〔回復期間終了時解剖動物〕

回復期間終了時に計画解剖した動物は,対照群,200 mg/kg群の雌雄でそれぞれ5例,400 mg/kg群の雄で1例であり,対照群に比較して被験物質投与群に多く観察された病変はなかった.観察された病変は肺の黒色斑点/区域などでいずれも単発性の発生であった.

〔死亡動物〕

死亡動物は400 mg/kg群の雄で8例,雌で10例であり,観察された所見は,脾臓の淡色化が雄で6例,雌で8例,肺の赤色化が雄で3例,雌で6例,肝臓の肥大が雄で4例,雌で1例に観察された.その他,肝臓の白色斑点/区域および精嚢の萎縮などが単発性に観察された.

2) 組織所見(Table6)

〔投与終了時解剖動物〕

対照群に比べ被験物質投与群に多く発生した所見は認められなかった.観察された所見は,肝臓の脂肪化,小肉芽腫,腎臓の尿細管の好塩基性化,鉱質沈着,副腎の皮質の空胞変性などであった.

〔回復期間終了時解剖動物〕

対照群に比べ被験物質投与群に多く発生した所見は認められなかった.観察された所見は,胸腺の出血および腎臓の好酸性小体のほか,投与終了時に認められた肝臓の脂肪化,小肉芽腫および腎臓では尿細管の好塩基性化,鉱質沈着,副腎の皮質の空胞変性であった.

〔死亡動物〕

胸腺の出血が雄で5例,雌で1例,肝臓の脂肪化が雌で6例,細胞質内封入体が雌雄全例,小肉芽腫が雌雄共に3例,腎臓の尿細管の好塩基化が雄で2例,雌で5例および副腎の皮質の空胞変性が雄で8例,雌で7例に観察された.その他の病変は単発性あるいは少数例の発生であった.

考察

雌雄とも400 mg/kg群で投与2週から死亡が認められ,投与4週までに雄で10例中8例,雌で10例全例が死亡した.これらの動物では,縮瞳,流涎および被毛の汚れが投与2〜4日以降から単発あるいは併発観察された.病理学検査の結果,胸腺の出血,肝臓の脂肪化等が認められたが,死因に結びつけられる変化ではなかった.

一般状態の観察では,雌雄の100 mg/kg群で縮瞳が,200および400 mg/kg群で縮瞳および流涎が,さらに400 mg/kgで雌雄に被毛の汚れが,雌に振戦が認められた.雌雄で観察された症状は回復期間に消失が認められ,いずれも被験物質投与による変化と考えられた.

体重は雄の400 mg/kg群で増加が抑制され,投与3週以降有意であった.摂餌量は,雌雄ともすべての投与群で明確な差は認められなかった.回復期間中は,雌雄とも対照群と被験物質投与群とで有意な差は認められなかった.

血液学検査の結果,雄の400 mg/kg群の生存した1例で白血球数の低値が認められたが,リンパ球数が低値を示したことによるものであった.これを除き回復期間終了時の結果を含め被験物質の投与と関連づけられる変化は認められなかった.

血液凝固能検査の結果,雄の200 mg/kg群,雌の50および200 mg/kg群でAPTTの短縮が認められたが,僅かな変化で毒性学的に意義のある変化とは考えられなかった.また,雄の400 mg/kg群の生存例で認められたフィブリノーゲン量の低値は,同例の体重増加抑制の程度から推察し,肝臓におけるフィブリノーゲン生成の低下によるものと考えられる.

血液生化学検査の結果,雄の200 mg/kg群で総コレステロールが高値傾向を示した.さらに本試験に先立って実施した2週間投与試験(投与量:0,20,60,180 mg/kg)の結果,180 mg/kg群の雄で総コレステロールが高値を示した.このことから,総コレステロールの高値傾向は,被験物質投与による変化と考えられた.その他,200 mg/kg群の雌で認められたグルコースの高値(背景値109±13 mg/dl,n=69)およびカルシウムの低値(背景値9.71±0.28 mg/dl,n=69)はいずれも用量に対応した変化を示さず,また,背景値の範囲内の変化であり,被験物質の投与と関連づけられるものではないと考えられた.回復期間終了時には,雄の200 mg/kg群でA/G比が低値を示したが軽微な変化であった.

尿検査の結果,雄の100 mg/kg群以上および雌の200 mg/kg群以上の群で尿量の増加傾向が認められた.

器官重量測定の結果,雄の200 mg/kg群で脾臓の実重量が高値,雌の200 mg/kg群で肝臓の実重量および相対重量が高値を示した.さらに,雄の400 mg/kgで脾臓の実重量ならびに胸腺の実重量および相対重量が低値傾向を示した.また,回復期間終了時,雄の200 mg/kg群で副腎の実重量および相対重量が高値を示し,さらに雄の400 mg/kgで副腎の実重量が高値傾向および精巣の実重量が低値傾向を示した.回復期間終了時の雌の200 mg/kg群で認められた脾臓相対重量の高値は,投与終了時には認められなかった変化であり,対脳相対重量を算出した結果変化が認められないことから,体重による影響と考えられた.

病理学検査の結果,投与終了時に計画解剖した動物の組織所見からは,被験物質投与の影響を示唆する変化は観察されなかった.回復期間終了時の解剖動物の組織所見として,胸腺の出血が200 mg/kg群の雄で2例,雌で1例観察された.雌雄の死亡動物の組織所見にも胸腺に同様の変化が観察されたが,いずれも軽度な変化であった.その他,死亡動物では雌雄とも肝臓に細胞質内封入体が,また,雌で副腎の皮質の空胞変性が観察された.いずれの病変も被験物質に起因したものとも考えられたが,投与終了時の計画解剖例には観察されなかった.解剖所見で脾臓の淡色化が死亡動物の雌雄に多く観察されたが組織所見では淡色化に関連性づけられる変化は観察されなかった.

以上の結果,100 mg/kg群以上の雌雄で認められた一般状態の変化および尿量の変化が被験物質投与と関連づけられるものと考えられた.

従って,本試験条件下におけるN,N-ジメチルベンジルアミンの無影響量(NOEL)は,雌雄とも50 mg/kg/dayと考えられた.

文献

1)佐野正樹,岡山佳弘,医薬安全性研究会会報,32,21(1990).
2)M. Yoshida, J.J. Soc. comp. Stat., 1, 111(1988).

連絡先
試験責任者:庄子明徳
試験担当者:各務 進,渡 修明,廣内康彦
(財)食品農医薬品安全性評価センター
〒437-12 静岡県磐田郡福田町塩新田字荒浜582-2
Tel 0538-58-1266Fax 0538-58-1393

Correspondence
Authors:Akinori Shoji(Study director)
Susumu Kakamu,Nobuaki Watari
Yasuhiko Hirouchi
Biosafety Research Center,Foods,Drugs and Pesticides(An-pyo Center)
582-2 Shioshinden Aza Arahama,Fukude-cho,Iwata-gun,Shizuoka, 437-12,Japan
Tel +81-538-58-1266Fax +81-538-58-1393