4-エチルモルホリンのラットを用いる経口投与簡易生殖毒性試験

Preliminary Reproduction Toxicity Screening Test of 4-Ethylmorpholine
by Oral Administration in Rats

要約

4-エチルモルホリンについては,毒性に関する報告がほとんどない.そこで,今回,既存化学物質の安全点検に係わる毒性調査の一環として,ラットを用いる簡易生殖発生毒性試験を実施した.Sprague-Dawley系ラットを用いて,4-エチルモルホリンの0,50,150および500 mg/kgを,雄では交配前2週間から交配を経て,連続42日間,雌では交配前2週間から交配を経て,妊娠期間を通して哺育3日まで,経口投与して,雌雄動物に対する生殖毒性について検討した.

その結果,雌では500 mg/kg投与群の1例が哺育2日に死亡したが,雄ではいずれの投与群においても死亡例は認められなかった.一般状態の観察では,死亡した雌1例に振戦が観察された他,150 mg/kg以上の投与群の雌雄で,投与直後に一過性の流涎が観察された.その他,雄では500 mg/kg投与群,雌では150 mg/kg以上の投与群において,体重増加抑制および摂餌量の低下が認められた.剖検および生殖器の病理組織学検査では,被験物質投与の影響を示唆する異常は認められなかった.

生殖毒性に関しては,500 mg/kg投与群の着床数および着床率が対照群よりやや低下したが,性周期,交尾率,受胎率,妊娠期間,出産率および黄体数には,被験物質投与の影響は認められなかった.さらに,500 mg/kg投与群では,着床率の低下に起因した産児数および出産生児数の低下がみられたが,出生児の形態ならびに体重には,被験物質投与の影響は認められなかった.

以上の結果から,本試験条件下における4-エチルモルホリンの親動物に対する無作用量は,体重増加抑制が認められたことから雄では 150 mg/kg/day,雌では50 mg/kg/day,親動物の生殖能力に対する無作用量は,着床数の低下から150 mg/kg/day,出生児に対する無作用量は500 mg/kg/dayと判断される.

方法

1.被験物質および投与検体の調製法

試験には,日本乳化剤(神奈川)より提供された純度99 %以上の4-エチルモルホリン(ロット番号:2901P0,不純物として水分を0.05 %含む)を用いた.被験物質は,入手後,窒素を充填してから密閉し,冷暗所(冷蔵庫内)に保管した.被験物質の安定性は,試験開始前および試験終了後に提供元において実施された品質試験により確認した.

検体調製では,被験物質を日局注射用水(製造番号: A106AA,光製薬)に溶解して高用量群の投与検体を調製してから,段階希釈して他の投与群の投与検体を調製した.投与検体は,8日間の安定性が確認されているため1週間に1回の頻度で調製し,使用時まで冷蔵庫にて保管した.また,含量測定の結果から,各濃度の投与検体中には所定濃度の被験物質が含有されていることを確認した.

2.動物および飼育方法

試験には,7週齢のSprague-Dawley系(Crj:CD(SD)IGS,SPF)雌雄ラットを日本チャールス・リバー厚木飼育センターから購入して使用した.購入した動物は,入荷日を含む7日間,検疫と馴化を兼ねて飼育した.検疫終了後は,群分け日までの14日間,性周期を観察した.群分けは,群分け日(投与開始前日)の体重に基づく体重別層化無作為抽出法により行い,各群とも雌雄各13匹を配した.なお,性周期が規則的に4日で回帰しなかった雌は,群分けの対象から除外した.投与開始時の週齢は,雌雄ともに10週齢であった.

動物は,許容温度21.0〜25.0℃,許容湿度40.0〜75.0 %,換気回数約15回/時間,照明12時間(7時〜19時点灯)に制御された飼育室で,金属製金網床ケージに1匹ずつ収容し,固型飼料(CE-2,日本クレア)および水道水(秦野市水道局給水)を自由に摂取させて飼育した.雌については,妊娠18日(交尾確認日=妊娠0日)以降,ラット用プラスチック製繁殖ケージに収容し,床敷として紙パルプ製チップ(ペパークリーン,日本エスエルシー)を供給した.

3.投与量の設定および投与方法

投与量は,予備試験の結果に基づいて決定した.すなわち,被験物質の100,500,800および1000 mg/kgの用量で,雌雄各群3匹のラットに7ないし5日間反復投与した結果,1000 mg/kgの用量で雌雄各1例が死亡した.800 mg/kg以上の用量を投与した群で,振戦,活動性の低下,うずくまりおよび閉眼などが散見され,投与初期に体重減少ないし増加抑制が認められた.また,100 mg/kg投与群の雌1例および500 mg/kg以上を投与した群の雌雄全例で,咀嚼様動作やケージ内を舐める動作が観察された.以上の結果と本試験での投与期間を考慮し,死亡を発現せず,明らかな毒性徴候を示すと判断された 500 mg/kg を高用量とし,以下公比約3で減じて,中用量には150 mg/kgを,低用量には50 mg/kgを設定した.なお,対照群には日局注射用水を被験物質投与群と同一条件で投与した.

投与期間は,雄に対しては交配前2週間から交配を経て,剖検日前日までの連続42日間,雌に対しては交配前2週間から交配および妊娠期間を通して哺育3日(分娩日=哺育0日)まで,交尾が確認されなかった雌は剖検前日までの連続52日間,分娩しなかった雌は妊娠25日相当日までとし,毎日1回,ラット用胃管を用いて強制経口投与した.なお,毎日の投与は9時〜13時の間に行い,各動物に投与する液量(体重 1 kg 当たり 5 mL)は,最近時の体重を基に算出した.

4.観察および検査

1) 親動物

A.一般状態

全例について,毎日1回以上,投与期間中は投与前後の毎日2回観察した.特に,被験物質に起因すると考えられた症状が発現した場合は,症状の発現している間,継続的に観察した.

B.体重測定

全例について,投与期間中週1回ならびに解剖日に測定した.交尾が確認された雌では妊娠0,7,14および20日に,分娩した雌では哺育0および4日に測定したほか,死亡例については死亡発見時に測定した.

C.摂餌量測定

全例について,交配期間を除く投与期間中週1回,給餌量および残餌量を測定し,その差から1日の摂餌量を算出した.交尾が確認された雌では妊娠0〜1,7〜8,14〜15および20〜21日,分娩した雌では哺育3〜4日の摂餌量を測定した.

D.性周期

群分け日までの性周期観察に引き続き,腟スメアを毎日採取し,同居後,交尾が確認されるまで性周期を観察した.性周期の型は,投与前2週間および投与開始後2週間の各観察期間内に少なくとも2回以上の発情期像を示した雌のうち,規則的に4日間隔で発情を回帰した動物を4日周期,4日と5日の間隔が混在して発情を回帰した動物を4/5日周期とし,各型の性周期を示す動物の割合を求めた.また,各動物の発情期から発情期までの日数の平均から,群ごとの平均発情回帰日数を求めた.

E.交配

交配は,投与15日(雌雄とも12週齢)の夕方から最長2週間,同群内の雌雄を1対1で連日同居させて行った.交尾の確認は,腟スメア中の精子の存在,あるいは腟栓の有無の確認により行い,交尾が確認された雌は,その日を妊娠0日として起算するとともに,同居を中止し,個別飼育に戻した.交尾の有無および受胎の成否により(子宮に着床痕が確認された動物を受胎例とした),各投与群における交尾率 [(交尾動物数/同居動物数)×100],受胎率 [(受胎動物数/交尾動物数)×100],さらには同居開始日から交尾確認日までの日数,およびその間に回帰した発情期の回数を求めた.

F.分娩および哺育状態の観察

交尾が確認された雌は,全例を自然分娩させた.分娩状態の直接観察は観察可能な動物について断続的に行い,分娩状態が直接観察できなかった動物についても,分娩前後の一般状態および産児の状態から分娩異常の有無を判断して記録した.分娩が午前11時までに完了した動物については,その日を分娩日(哺育0日)とし,妊娠期間(妊娠0日から分娩日までの日数)および出産率 [(生児出産雌数/妊娠動物数)×100] を算出した.分娩日の翌日からは,哺育状態を毎日観察した.

G.剖検・器官重量・病理学検査

雄動物は,投与42日の翌日に,ペントバルビタールナトリウム麻酔下で,放血・致死させ,剖検した.その際,精巣および精巣上体の重量を測定し,前立腺腹葉,凝固腺を含む精嚢および病変部は,0.1Mリン酸緩衝10 vol%ホルマリン溶液に固定した.精巣および精巣上体はブアン液に固定し,全例について標本を作製し,対照群および500 mg/kg投与群について病理組織学検査を実施した.その他,剖検時に観察された病変部についても病理組織学検査を実施した.

雌動物のうち,分娩した例は哺育4日に,分娩しなかった例は妊娠26日相当日に,また交尾が確認されなかった例は投与52日の翌日に,それぞれペントバルビタールナトリウム麻酔下で,放血・致死させ,剖検した.死亡例は,発見後すみやかに剖検した.その際,卵巣および子宮を摘出して,卵巣については実体顕微鏡下で妊娠黄体数を,子宮については着床数を数え,着床率 [(着床数/妊娠黄体数)×100] を算出した.卵巣,子宮,腟,病変部および死亡例の胸腹部主要器官は,0.1Mリン酸緩衝10 vol%ホルマリン溶液に固定した.卵巣については,全例について標本を作製し,対照群および500 mg/kg投与群について病理組織学検査を実施した.その他,剖検時に観察された病変部および死亡例の心臓,肺,肝臓,腎臓および脾臓についても病理組織学検査を実施した.

2) 出生児

A.産児数および死亡児

哺育0日に産児の性別および外表奇形の有無を観察した後,生存児数および死亡児数を雌雄別に数え,分娩率 [(産児数/着床痕数)×100],生児出産率 [(出産生児数/着床痕数)×100],出生率 [(出産生児数/産児数)×100] および性比 [(雄生児数/雌生児数)×100]および出産率 [(生児出産雌数/妊娠動物数)×100] を求めた.

哺育1〜4日に生児数と死亡児数を雌雄別に毎日調べ,哺育4日の新生児生存率 [(哺育4日の生児数/哺育0日の生児数)×100]および性比 [(雄生児数/雌生児数)×100]を求めた.死亡児は,発見後速やかに剖検し,0.1Mリン酸緩衝10 vol%ホルマリン液に固定して保存した.

B.体重測定

哺育0日および4日に個別に体重を測定し,各腹ごとに雌雄別の平均値を算出した.

C.剖検

哺育4日に全例をエーテル吸入により致死させ剖検し,外表および内部器官の異常の有無を観察した.

5.統計解析

性周期の変化した動物の頻度,交尾率ならびに受胎率についてはFisherの直接確率検定を行った.病理組織学検査所見のうち,グレード分けしたデータはMann-WhitneyのU検定により,陽性グレードの合計値はFisherの直接確率の片側検定により対照群との間で有意差検定を行った.その他のデータは,個体ごとに得られた値あるいはlitterごとの平均値を1標本として,先ずBartlettの方法により各群の分散の一様性について検定を行い,分散が一様であった場合には,一元配置型の分散分析を実施し,群間に有意性が認められた場合は,Dunnett法により多重比較を行った.一方,いずれかの群で分散が0となった場合および分散が一様でなかった場合には,Kruskal-Wallisの順位検定を行い,群間に有意性が認められた場合には,Dunnett型の検定法により多重比較を行った.有意水準は,いずれも5 %とした.

結果

1.親動物

1) 一般状態

500 mg/kg投与群の雌1例が哺育2日に死亡した.死亡例では,死亡の前日に振戦が観察された.生存例では,投与14日から投与後一過性の流涎が150 mg/kg以上の投与群で,雌雄とも4〜7例に観察された他,左下腹部の腫瘤が50 mg/kg投与群の雌1例に観察された.

2) 体重(Table 1, 2)

雄では,500 mg/kg投与群において体重増加抑制がみられ,体重実測値が投与42日および43日(解剖時体重),体重増加量が投与1〜7,21〜28および35〜42日に,対照群と比較して有意な低値を示した.150 mg/kg以下の投与群では,対照群との間に有意差は認められなかった.

雌では,150 mg/kg以上の投与群において体重増加抑制がみられ,体重実測値が500 mg/kg投与群の妊娠20日,体重増加量が150 mg/kg投与群の投与1〜7日,妊娠0〜7日および哺育0〜4日,500 mg/kg投与群の投与1〜7日,妊娠7〜14,14〜20日および哺育0〜4日に,対照群と比較して有意な低値を示した.50 mg/kg投与群では,対照群との間に有意差は認められなかった.

3) 摂餌量(Table 3, 4)

雄では,500 mg/kg投与群において摂餌量の低下がみられ,投与1〜2,7〜8,14〜15,29〜30および41〜42日の値が,対照群と比較して有意な低値を示した.150 mg/kg以下の投与群では,対照群との間に有意差は認められなかった.

雌では,150 mg/kg以上の投与群において摂餌量の低下がみられ,150 mg/kg投与群の投与1〜2日,妊娠7〜8日,500 mg/kg投与群の投与1〜2日,妊娠0〜1,7〜8,14〜15日の値が,対照群と比較して有意な低値を示した.50 mg/kg投与群では,対照群との間に有意差は認められなかった.

4) 剖検所見

雄では,両側精巣の小型化が対照群,50および500 mg/kg投与群の各1例に観察され,50および500 mg/kg投与群では両側精巣上体の小型化も認められた.このほか両側精巣上体尾部の大型化が対照群の1例にみられた.

雌では,哺育期間中に死亡した500 mg/kg投与群の1例に,肺および腎臓の暗赤色化がみられた.その他,乳腺腫瘤(一般状態の項では左下腹部の腫瘤と記載)が50 mg/kg投与群の1例に観察された.

5) 器官重量(Table 5)

雄の解剖時体重が500 mg/kg投与群で有意に低下したが,精巣および精巣上体の重量には,実測値,相対重量ともに対照群と比較して有意差は認められなかった.

6) 病理組織学検査(Table 6)

雄では,剖検時に小型化がみられた対照群,50および500 mg/kg投与群の各1例の精巣に,精細管の萎縮と水腫が観察され,精巣上体には細胞残屑がみられた.萎縮の程度が強い50および500 mg/kg投与群の各1例ではライディッヒ細胞の過形成も認められた.その他,精子肉芽腫が対照群の1例では両側に,500 mg/kg投与群の1例では片側の精巣上体尾部にみられた.

雌では,卵巣に異常は認められなかった.哺育期間中に死亡した500 mg/kg投与群の1例に中等度の肺水腫,心臓には軽度なリンパ球浸潤が観察された.その他,50 mg/kg投与群の1例に観察された乳腺腫瘤は,組織学的には腺腫であった.

2.生殖能力

1) 性周期および交配成績(Table 7)

性周期の観察では,投与開始後に4日周期から4/5日周期に変化した動物が150 および500 mg/kg投与群で各1例みられたが,その頻度および平均発情回帰日数には対照群と比較して有意差はなかった.交配成績では,交尾率および受胎率,さらには交尾までの日数およびその間の発情回数に,対照群と被験物質各投与群との間に有意差は認められなかった.

2) 出産率および妊娠期間(Table 8)

500 mg/kg投与群では,1例が妊娠24日に死亡児2匹のみを出産したため,出産率は90.9 %となったが,その他の投与群の出産率はいずれも100 %であった.妊娠期間については,対照群と被験物質各投与群との間に有意差は認められなかった.

3) 黄体数,着床数および着床率(Table 8)

500 mg/kg投与群の着床数および着床率は,対照群より低下したが,有意差は認められなかった.黄体数については,対照群と被験物質各投与群との間に差はなかった.

4) 分娩および哺育状態

分娩状態の直接観察は,対照群の12例中4例,50 mg/kg投与群の12例中3例,150 mg/kg投与群の12例中3例,および500 mg/kg投与群の11例中4例について実施されたが,異常分娩を示した例は観察されなかった.また,分娩状態を直接観察できなかった動物についても,500 mg/kg投与群で妊娠24日に死亡児2匹を分娩した1例の他には,分娩異常と判断された例はなかった.哺育状態の観察では,哺育2日に死亡した500 mg/kg投与群の1例において,死亡の前日に母動物の乳頭突出不良および全児のミルクスポット(腹側から透かして見える胃内の乳汁)の消失が認められたが,その他の動物に哺育状態の異常は観察されなかった.

3.出生児

1) 生存(Table 8)

500 mg/kg投与群の産児数,出産生児数,生児出産率および出生率が対照群と比較して低下したが,有意差は認められなかった.500 mg/kg投与群の性比および新生児生存率,さらには150 mg/kg以下の投与群の各指標については,対照群と比較して差はなかった.

2) 体重(Table 8)

哺育0および4日における出生児の体重には,対照群と被験物質各投与群との間に有意差は認められなかった.

3) 形態

哺育0日における産児の外表観察では,形態異常を呈した児は認められなかった.また,死亡児の剖検でも異常は認められなかったが,哺育2日に母動物が死亡した500 mg/kg投与群の哺育児のうち,雄の生存児1例に両側の腎盂拡張が観察された.哺育4日に剖検した児については,外表および内部器官の異常は観察されなかった.

考察

500 mg/kg投与群の死亡動物では,死亡日の前日に振戦が観察された.類似の神経症状は,本被験物質の単回経口投与毒性試験1)においても観察されていることから,死亡は被験物質投与の影響と考えられ,病理所見から死因は肺水腫と推定された.その他,生存例では,流涎が150 mg/kg以上の投与群で観察された.流涎は,投与後一過性であったことから被験物質の苦味によって惹起されたものと推察されるが,一部の動物でしかみられておらず,発症までに約2週間を要していることなどから,その作用はごく軽度なものと考えられる.なお,50 mg/kg投与群の雌1例に観察された左下腹部の腫瘤は,組織検査の結果,腺腫であることが判明したが,発現状況から被験物質の投与に起因した変化ではないと判断した.

雄では500 mg/kg投与群,雌では150 mg/kg以上の投与群において体重増加抑制と摂餌量の低下がみられた.同様の変化は,本被験物質の28日間反復経口投与毒性試験2)においても認められていることから,被験物質投与の影響と考えられる.

剖検時には,両側精巣の小型化が50および500 mg/kg投与群に観察され,組織学検査では精細管の萎縮と水腫が確認されたが,各群とも1例のみの所見であり,対照群でも同様な所見がみられていることから,被験物質投与の影響ではないと判断した.なお,精巣および精巣上体の重量にも,対照群との間に有意差は認められなかった.

500 mg/kg投与群では,着床数および着床率が対照群より低下し,死亡児2匹を妊娠24日に出産した母動物が1例みられた.500 mg/kg投与群の性周期,交尾率,受胎率および黄体数には被験物質の影響は認められなかったことから,本被験物質は交尾までの生殖能力に影響を及ぼさないが,着床に対しては影響を及ぼす可能性が示唆された.妊娠期間および分娩に関しては,上記1例以外は,全て正常であった.哺育状態の観察では,500 mg/kg投与群の死亡した1例に乳頭突出不良および全児のミルクスポットの消失がみられたが,母動物の一般状態の悪化に伴った変化と推察される.

500 mg/kg投与群の産児数および出産生児数が対照群と比較して低下したが,出生児の体重,哺育4日の新生児生存率には対照群との間に差はみられなかったことから,着床数の低下に連動した変化と考えられる.なお,同群でみられた生児出産率および出生率の低下は,死亡児2匹を出産した例の数値が反映した結果であり,着床後の胚死亡の増加を示唆するものではないと判断した.

哺育2日に母動物が死亡した500 mg/kg投与群の哺育児のうち,雄の生存児1例に両側の腎盂拡張が観察されたが,哺育4日に剖検した児については,外表および内部器官の異常は観察されなかったことから,被験物質の投与に起因した変化ではないと判断した.

以上の結果から,本試験条件下における4-エチルモルホリンの親動物に対する無作用量は,体重増加抑制が認められたことから雄では150 mg/kg/day,雌では50 mg/kg/day,親動物の生殖能力に対する無作用量は,500 mg/kg投与群における着床数の低下から150 mg/kg/day,出生児に対する無作用量は500 mg/kg/dayと判断された.

文献

1)太田 亮ら:4-エチルモルホリンのラットを用いる単回経口投与毒性試験.化学物質毒性試験報告,11:247-250(2004).
2)森村智美ら:4-エチルモルホリンのラットを用いる28日間反復経口投与毒性試験.化学物質毒性試験報告,11:251-266(2004).

連絡先
試験責任者:太田 亮
試験担当者:渡辺千朗,野口早苗,堀内伸二,
稲田浩子,永田伴子,三枝克彦,
安生孝子
(財)食品薬品安全センター秦野研究所
〒257-8523 神奈川県秦野市落合729-5
Tel 0463-82-4751Fax 0463-82-9627

Correspondence
Authors:Ryo Ohta(Study director)
Chiaki Watanabe, Sanae Noguchi,
Shinji Horiuchi, Hiroko Inada,
Tomoko Nagata, Katsuhiko Saegusa,
Takako Anjo
Hatano Research Institute, Food and Drug Safety Center
729-5 Ochiai, Hadano-shi, Kanagawa 257-8523, Japan
Tel +81-463-82-4751Fax +81-463-82-9627