3-シアノピリジンのラットを用いる
28日間反復経口投与毒性試験

Twenty-eight-day Repeat Dose Oral Toxicity Test of 3-Cyanopyridine in Rats

要約

OECD既存化学物質安全性点検に係る毒性試験の一環として,3-シアノピリジンの0(対照),5,30および180 mg/kgを1群雌雄各6匹のCrj:CD(SD系)ラットに28日間反復経口投与する毒性試験を実施し,以下の結果を得た.なお,対照群および180 mg/kg群にはそれぞれ雌雄各6匹の14日間回復群も設けた.

一般状態の観察では,投与期間中期から180 mg/kg群の雌雄で投与直後に流涎がみられ,単発的に180 mg/kg群の雌1例で投与後6時間に流涙もみられた.体重では,投与期間を通して180 mg/kg群の雄で増加抑制がみられた.摂餌量では,投与初期に180 mg/kg群の雌雄に減少または減少傾向がみられた.

尿検査では,180 mg/kg群の雌雄で尿量の増加,浸透圧および比重の減少,尿色調の淡明化ならびにpHの低下傾向がみられた.

血液学検査では,180 mg/kg群の雌雄で白血球数の増加または増加傾向,赤血球数の減少および網状赤血球率の増加ならびにMCVおよびMCHの増加がみられ,同群の雄で分葉核好中球比の増加およびリンパ球比の減少がみられた.

血液生化学検査では,180 mg/kg群の雌雄で総蛋白質,アルブミン,A/G比,GPT,総コレステロールおよびリン脂質の増加または増加傾向がみられ,同群の雄でトリグリセライドの減少,同群の雌でコリンエステラーゼおよびアセチルコリンエステラーゼの減少がみられた.

病理学的検査では,30 mg/kg群の雌で肝臓および腎臓の重量増加および180 mg/kg群の雌雄で肝臓,腎臓および副腎の重量の増加がみられ,組織学的に肝臓では小葉中心性の肝細胞肥大が30 mg/kg以上の群の雌雄に,腎臓では近位尿細管上皮の硝子滴の出現が30 mg/kg以上の群の雄に,副腎では束状帯の肥大が180 mg/kg群の雌雄に,脾臓では髄外造血および赤脾髄のヘモジデリン沈着が180 mg/kg群の雌雄に,精巣では精母細胞および精子細胞(round)の壊死,精子細胞(elongate)の減少ならびにセルトリ細胞の空胞化が180 mg/kg群にみられた.また,膀胱炎および腎盂の好中球細胞浸潤が180 mg/kg群の雌1例にみられた.

上記の変化は,14日間の回復試験により回復するかあるいはその傾向を示した.

以上の結果より,本試験条件下における無影響量は5 mg/kg/dayと考えられた.

方法

1.被験物質および投与液の調製

3-シアノピリジン(純度99.9%,Lot No. 709S4067,関東化学(株)提供)は,常温では白色個体であり,融点が50℃で,水に対する溶解度は20℃で12.3%である.入手後の被験物質は室温,遮光下で保管し,投与期間終了後に供給源にて分析を行い,試験期間中安定であったことを確認した.媒体には注射用水((株)大塚製薬工場,Lot No.5E87)を使用し,約50℃に加温した注射用水に被験物質を0.1,0.6および3.6 w/v%になるように溶解して投与液を調製した.調製は週1回の頻度で行い,調製した投与液は室温,遮光下で保管した.なお,初回調製時に投与液の濃度を測定し,設定値の±5%以内にあることを確認した.また,本調製法による0.1および10 w/v%水溶液が室温,遮光下で調製後8日間安定であることを確認した.

2.使用動物および飼育条件

4週齢のSprague-Dawley系ラット(Crj:CD,日本チャールス・リバー(株))を雌雄各45匹購入し,15日間の検疫馴化を行ったのち,雌雄各36匹を選んで6週齢で試験に使用した.投与開始時の体重は,雄が213.1〜245.8 g,雌が158.8〜180.5 gであった.動物は,温度24±2℃,湿度55±10%,照明時間7時〜19時および換気回数13回/時に設定したバリアーシステム飼育室でステンレススチール製ハンガーケージに,検疫馴化期間中は1ケージ当たり3匹ずつ,群分け後は個別に収容して,高圧蒸気滅菌処理した固型飼料(MF,オリエンタル酵母工業(株))および次亜塩素酸ナトリウムを添加(約2 ppm)した水を自由に摂取させた.

3.試験群構成,投与量設定の根拠および群分け

投与量は,2週間反復投与毒性予備試験(投与量:0,60,200および600 mg/kg)の結果から設定した.すなわち,当該試験において,600 mg/kgの投与で死亡がみられ,200 mg/kg以上で体重の増加抑制,60 mg/kg以上で摂餌量の減少がみられた.また,血液生化学検査において60 mg/kg以上でリン脂質の増加がみられ,肝臓重量の増加および心臓重量の減少もみられた.したがって,本試験では180 mg/kgを高用量とし,以下公比6で除した30および5 mg/kgを中および低用量に設定した.

投与経路は経口とし,胃管を用いた強制投与を1日1回,28日間反復して行った.投与容量は5 ml/kgとし,個体ごとに最新の体重を基に算出した.

試験群は,上記3用量に,注射用水を投与する対照を加え,計4群とした.1群当たりの動物数は,投与期間終了時の剖検例として各群とも雌雄各6匹,さらに,対照群および180 mg/kg群には14日間の回復期間終了時の剖検例として雌雄各6匹を設けた.群分けは,投与開始前日の体重を基に層別連続無作為化法で行った.

4.検査項目

1) 一般状態の観察,体重および摂餌量の測定

投与期間中は毎日投与前および投与後の計2回,回復期間中は毎日午前および午後の計2回一般状態および死亡の有無を観察した.また,体重および摂餌量を投与期間および回復期間を通して週2回の割合で測定した.

2) 尿検査

投与4週目および回復2週目に,代謝ケージにて,絶食給水下で8時から12時までの間に採取した新鮮尿を用いて,比色試験紙(プレテスト8a,和光純薬工業(株))により,pH,蛋白質,ブドウ糖,ケトン体,ビリルビン,潜血およびウロビリノーゲンを検査した.さらに,新鮮尿を1500回転/分で5分間遠心分離し,得られた尿沈渣について鏡検した.また,新鮮尿採取後に給餌,給水下で採取した24時間蓄積尿を用いて,尿量,色調,浸透圧(氷点降下法;OSMOMETER OM801,VOGEL社)および比重(屈折率法;尿屈折計,(株)アタゴ)を測定した.なお,ナトリウム,カリウムおよびクロールについては濃度に尿量を乗じて24時間総排泄量を算出した.

3) 血液学検査

投与期間終了後および回復期間終了後に,動物を18時間以上絶食させたのち,ペントバルビタール・ナトリウムの腹腔内投与による麻酔下に開腹し,後大静脈から 採血を行った.採取した血液の一部はEDTA-2Kで処理し,多項目自動血球計数装置(Sysmex CC-780,東亜医用電子(株))により白血球数(電気抵抗検出方式),赤血球数(電気抵抗検出方式),ヘモグロビン量(オキシヘモグロビン法),ヘマトクリット値(血球パルス波高値検出方式)および血小板数(電気抵抗検出方式)を測定し,これらを基に平均赤血球容積(MCV),平均赤血球血色素量(MCH)および平均赤血球血色素濃度(MCHC)を算出した.また,血液の一部は塗抹標本とし,May-Grnwald-Giemsa染色を施して白血球百分比を算出するとともに,ニューメチレンブルー超生体染色を施して網状赤血球率を算出した.さらに,3.8%クエン酸ナトリウム加血液を3000回転/分で15分間遠心分離し,得られた血漿を用いて全自動血液凝固測定装置(Sysmex CA-5000,東亜医用電子(株))により,プロトロンビン時間(散乱光検出方式)および活性化部分トロンボプラスチン時間(散乱光検出方式)を測定した.

4) 血液生化学検査

血液学検査に引き続き採取した血液を室温で約60分間放置後,3000回転/分で10分間遠心分離し,得られた血清を用いて自動分析装置(736-10,(株)日立製作所)により,総蛋白質(ビウレット法),アルブミン(BCG法),A/G比(総蛋白質およびアルブミンより算出),総ビリルビン(アルカリアゾビリルビン法),GOT(Karmen法),GPT(Wrblewski-La Due法),γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(L-γ-グルタミル-DBHA基質法),アルカリ性フォスファターゼ(p-ニトロフェニルリン酸基質法),コリンエステラーゼ(ヨウ化ブチリルチオコリン基質法),アセチルコリンエステラーゼ(アセチルコリン基質法),総コレステロール(COD-DAOS法),トリグリセライド(GPO- DAOS法・グリセリン消去法),リン脂質(酵素法・DAOS発色法),グルコース(グルコキナーゼ・G-6-PDH法),尿素窒素(BUN,ウレアーゼ-GlDH法),クレアチニン(Jaff法),無機リン(モリブデン酸直接法)およびカルシウム(OCPC法)を測定した.また,電解質分析装置(PVA-α掘(株)アナリティカル・インスツルメンツ)によりナトリウム(電極法),カリウム(電極法)およびクロール(電量滴定法)を測定した.

5) 器官重量の測定,剖検および病理組織学検査

採血後に,外側腸骨動脈を切断して放血死させ,剖検した.剖検時に,脳,心臓,肺(気管支を含む),胸腺,顎下腺(舌下腺を含む),肝臓,脾臓,腎臓,副腎,精巣および卵巣を摘出して器官重量(絶対重量)を測定するとともに,剖検日の体重を基に体重比器官重量(相対重量)を算出した.これらの器官に加え,下垂体,脊髄,眼球,耳下腺,甲状腺(上皮小体を含む),膵臓,胃,膀胱,大腿骨(骨髄を含む)および肉眼的異常部位を採取して10%中性緩衝ホルマリン溶液(眼球はグルタールアルデヒド溶液,精巣はブアン液で前固定)で固定した.

投与期間終了時の対照群および高用量群の唾液腺,心臓,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,精巣,卵巣および膀胱ならびに肉眼的異常組織については,常法に従ってパラフィン切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を施して光学顕微鏡で観察した.さらに,肝臓,脾臓,腎臓,膀胱,精巣および副腎に変化がみられたため,投与期間終了時の中間用量群についても検査し,肝臓および腎臓は低用量群まで検査した.また,これらの器官は回復期間終了時の対照群および高用量群についても同様に検査した.なお,一部の器官については,特殊染色を施して観察した.

5.統計解析

体重,摂餌量,尿検査(定性反応は除く),血液学検査,血液生化学検査,器官重量および体重比器官重量について,各群ごとに平均値と標準偏差を求め,Bartlett法により分散の均一性を検定した.分散が均一な場合はDunnettの多重比較検定を用いて,異なる場合はSteelの多重比較検定を用いて対照群との比較を行った.また,病理組織学検査についてはMann-WhitneyのU検定を行った.なお,いずれの場合も有意水準は5%とした.

結果

1.一般状態

すべての試験群で死亡例はなく,対照群ならびに5および30 mg/kg群では観察期間を通して一般状態の変化も認められなかった.

180 mg/kg群では,流涎,流涙,脱毛ならびに後肢の腫脹および跛行がみられた.流涎は投与11日から雌雄の1ないし8例でみられた.流涎は投与直後からみられ,ほとんどの例では投与後5ないし10分に消失したが,一部の例では継続時間は投与期間とともに延長する傾向を示し,投与20日には投与後7時間までみられた.また,雄2例では投与20および22日の投与直前にも流涎がみられた.流涙は,投与22日に雌1例で投与後6時間にみられたが,投与後8時間には消失した.局所的な脱毛は,投与5日から雌雄各1例で,さらに投与12日および19日からは雄1例で,投与22日からは雌1例でみられたが,投与期間終了時までにほとんどの例で回復傾向がみられた.また,右または左後肢の腫脹および跛行は投与期間の後期から雄2例でみられた.回復期間では,投与期間にみられた脱毛が雄1例で再発し,180 mg/kg群の雄2例で後肢の腫脹および跛行が投与期間から継続してみられたが,1例では休薬12日に回復した.

2.体重(Fig.1)

180 mg/kg群の雄で増加抑制がみられた.180 mg/kg群の雌では,投与5日に一過性の減少がみられたものの,その後は対照群とほぼ同様の推移を示した.回復期間では,180 mg/kg群の雄で対照群に対して有意な低値を示して推移したが,増加量は回復期間を通して対照群とほぼ同様の値を示した.

3.摂餌量

180 mg/kg群の雌雄で投与2日から投与8日にかけて減少または減少傾向を示したが,その後は対照群とほぼ同様の推移を示した.回復期間では,180 mg/kg群は対照群と同様の推移を示した.

4.尿検査(Table 1)

投与4週目では,180 mg/kg群の雌雄で尿量の増加,浸透圧および比重の減少,尿色調の淡色化ならびにpHの低下傾向がみられた.

回復2週目では,180 mg/kg群の雌雄で尿量の減少または減少傾向ならびに尿浸透圧および比重の増加または増加傾向がみられたが,いずれも生理的変動値内の変化で毒性学的に意義のない変化であった.

5.血液学検査(Table 2)

投与期間終了時の検査では,180 mg/kg群の雌雄で白血球数の増加または増加傾向,赤血球数の軽度の減少および網状赤血球率の増加ならびにMCVおよびMCHの増加がみられ,同群の雄で分葉核好中球比の増加およびリンパ球比の減少がみられた.また,5および 180 mg/kg群の雄でAPTTの短縮ならびに180 mg/kg群の雌でプロトンビン時間の延長がみられたが,いずれも生理的変動値内の変化であり,毒性学的に意義のない変化であった.

回復期間終了時の検査では,180 mg/kg群の雄雌でMCVおよびMCHの軽度の増加がみられ,同群の雄で赤血球の軽度の減少がみられた.また,180 mg/kg群の雌でプロトロンビン時間の延長がみられたが,生理的変動値内の軽微な変化であり,毒性学的に意義のない変化であった.

6.血液生化学検査(Table 3)

投与期間終了時には,180 mg/kg群の雌雄で総蛋白質,アルブミン,A/G比,GPT,総コレステロールおよびリン脂質の増加または増加傾向がみられ,同群の雄でトリグリセライドの減少,同群の雌でコリンエステラーゼおよびアセチルコリンエステラーゼの減少がみられた.また,180 mg/kg群の雄でγ -GTPの増加およびナトリウムの減少ならびに30 mg/kg群の雌でクレアチニンの減少がみられたが,γ -GTPおよびナトリウムの変動については生理的変動値内の極めて軽微な変化であり,クレアチニンの変動については180 mg/kg群では同様な変化はみられていないことから,毒性学的に意義のない変化であった.

回復期間終了時には,180 mg/kg群の雄雌でクレアチニンの減少がみられ,同群の雄では総ビリルビンおよびアルカリ性フォスファターゼの減少ならびに無機リンの増加,同群の雌では総蛋白質の減少がみられたが,いずれも軽微な変化であり投与期間終了時の検査では同様の変化はみられなかったことから,これらの変化については,本被験物質投与との関連はないと考えられた.

7.器官重量(Table 4)

投与期間終了時には,180 mg/kg群の雌雄で肝臓,腎臓および副腎の絶対および相対重量の増加または増加傾向がみられた.また,30 mg/kg群の雌で肝臓の絶対および相対重量の増加および腎臓の相対重量の増加がみられた.これらのほか,顎下腺の絶対重量の増加が30 mg/kg群の雄にみられたが,同群の雌および180 mg/kg群の雌雄では同様の変化はみられなかったことから,本被験物質投与との関連はないと考えられた.

回復期間終了時には,180 mg/kg群の雄で腎臓および副腎の相対重量の増加がみられた.また,180 mg/kg群の雄で心臓の相対重量の増加ならびに顎下腺および脾臓の絶対重量の減少がみられ,同群の雌で肺の絶対および相対重量の増加がみられたが,投与期間終了時の検査では同群の当該器官に重量変化はみられていないことから,本被験物質投与との関連はないものと考えられた.

8.剖検

投与期間終了時には,180 mg/kg群の雄1例および雌2例で局所的な脱毛がみられた.また,5 mg/kg群の雌1例で副腎に白色点がみられたが,5 mg/kg群の雄および30 mg/kg以上の群の雌雄では同様の変化はみられなかったことから,自然発生的変化と考えられた.

回復期間終了時には,180 mg/kg群の雄1例で局所的な脱毛または後肢の腫脹がみられた.

9.病理組織学検査(Table 5)

投与期間終了時の剖検例において,肝臓では小葉中心性の肝細胞肥大が30 mg/kg群の雌雄各3例および180 mg/kg群の雄雌各6例にみられた.脾臓では髄外造血が180 mg/kg群の雌雄各5例にみられ,赤脾髄のヘモジデリン沈着が対照群ならびに30および180 mg/kg群の雌雄各6例にみられた.腎臓では近位尿細管上皮の硝子滴の出現が30 mg/kg群の雄2例および180 mg/kg群の雄6例でみられた.肝臓,脾臓および腎臓でみられた上記の変化の程度はいずれも180 mg/kg群で有意に強かった.また,膀胱では膀胱炎が180 mg/kg群の雌1例でみられ,本例では腎盂に好中球主体の細胞浸潤もみられた.副腎では束状帯の軽度の肥大が180 mg/kg群の雄5例および雌1例でみられた.精巣では精母細胞および精子細胞(round)の壊死ならびに精子細胞(elongate)の減少が180 mg/kg群の2例にみられ,そのうちの1例ではセルトリ細胞の空胞化がみられた.そのほか,5 mg/kg群の雌1例に副腎球状帯の軽度の巣状空胞化がみられたが,1例のみにみられた変化であることから,本被験物質投与によるものではないと判断した.以上のほか,対照群および180 mg/kg群では唾液腺,心臓および卵巣について,180 mg/kg群の雄1例および雌2例では肉眼的に異常がみられた脱毛部位についてそれぞれ検査したが,組織学的変化はみられなかった.

回復期間終了時の剖検例においては,肝臓の小葉中心性の肝細胞肥大が180 mg/kg群の雄3例および雌4例にみられたが,発生例数および変化の程度は投与期間終了時に比べ軽減していた.精巣では精子細胞(elongate)の減少および精子細胞の残渣の貯留が180 mg/kg群の3例にみられ,そのうちの2例でセルトリ細胞の空胞化がみられたが,投与期間終了時にみられていた精母細胞および精子細胞(round)の壊死はみられなかった.さらに,投与期間終了時に変化がみられた腎臓,副腎および膀胱では変化はみられず,脾臓でも赤脾髄のヘモジデリン沈着が対照群および180 mg/kg群の雌雄各6例にみられたものの,変化の程度には対照群との間に差はみられなかった.そのほか,180 mg/kg群の雄1例で肉眼的にみられた右後肢の腫脹部位では,皮下にリンパ球による細胞浸潤がみられたのみであった.さらに,同群の雌1例で肝臓に肝細胞の巣状壊死がみられたが,投与期間終了時にはいずれの動物にもみられていないことから自然発生病変と考えられた.なお,180 mg/kg群の雄1例にみられた脱毛部位では組織学的変化はみられなかった.

考察

死亡はいずれの投与群にも認められなかった.一般状態では,180 mg/kg群で投与11日から流涎がみられた.流涎は投与直後からみられ,ほとんどの例で投与後5ないし10分に消失したが,一部の例では継続時間は投与期間とともに延長する傾向を示し,投与20日には投与後7時間までみられた.また,投与20および22日には雄2例で投与直前にも流涎がみられた.さらに,投与22日には180 mg/kg群の雌1例で投与後6時間から流涙がみられたが,投与後8時間に消失した.先に当研究所で実施した本被験物質の単回投与毒性試験1)および2週間反復投与毒性予備試験2)でも流涎および流涙はみられており,これらの症状は本被験物質投与による影響と考えられた.180 mg/kg群の雌雄の一部の例で局所的な軽度の脱毛ならびに右または左後肢の腫脹および跛行がみられた.脱毛については,病理組織学検査では変化はみられておらず,後肢については組織学的に軽度の炎症がみられたものの,片側性の変化であること,投与期間に症状の進行はみられなかったことから,原因は不明であるが,これらの変化は毒性学的に意義のない変化と判断した.体重では,180 mg/kg群の雄で本被験物質投与により増加抑制がみられたが,投与期間終了後は対照群とほぼ同様な増加量を示し回復性がみられた.摂餌量では,180 mg/kg群の雌雄で投与期間の前期に減少または減少傾向がみられたが,その後は投与期間および回復期間を通して対照群とほぼ同様の推移を示し回復性がみられた.

尿検査では,投与4週目の検査で180 mg/kg群の雌雄で尿量の増加,浸透圧および比重の減少,尿色調の淡色化ならびにpHの低下傾向がみられた.いずれの変化とも,水分による尿の希釈に伴う変化とも思われたが,原因は明らかではなかった.回復2週目の検査では,これらの変化はいずれも回復した.

血液学検査では,投与期間終了時の検査で180 mg/kg群の雌雄に白血球数の増加または増加傾向および赤血球数の減少がみられ,赤血球数の減少に伴うMCV,MCHおよび網状赤血球率の増加がみられた.組織学的には,赤血球の破壊像として赤脾髄のヘモジデリン沈着が,赤血球数の減少に対応する変化として脾臓の髄外造血がそれぞれ180 mg/kg群の雌雄にみられた.これらのことから,赤血球数の減少は赤血球の破壊亢進によるものと考えられた.また,白血球数の増加については,先に実施した本被験物質の2週間反復投与毒性予備試験2)でも200 mg/kg以上の群の雄または雌でみられており,本被験物質投与によるものと考えられた.なお,白血球数の増加は,180 mg/kg群の雄では分葉核好中球の増加によるものであり,炎症性変化の存在を示唆すると考えられたが,本試験では明らかな炎症像は確認されておらず,発生機序は明らかではなかった.回復期間終了時の検査では,180 mg/kg群の雌雄でMCVおよびMCHの増加,同群の雄で赤血球数の減少がみられたが,投与終了時に比べるとその程度は軽度であり,回復の傾向があると考えられた.

血液生化学検査では,投与期間終了時の検査で180 mg/kg群の雌雄に総蛋白質,アルブミン,A/G比,GPT,総コレステロールおよびリン脂質の増加または増加傾向がみられ,同群の雄でトリグリセライドの減少が,同群の雌でコリンエステラーゼおよびアセチルコリンエステラーゼの減少がみられた.総蛋白質,A/G比,GPT,総コレステロール,リン脂質およびトリグリセライドの変化は,体重の増加抑制傾向に伴う全身的な影響に関連した変化であると考えられた.また,コリンエステラーゼおよびアセチルコリンエステラーゼは主に肝臓で合成されており,これらの減少の原因としては通常,肝臓での蛋白質合成機能の低下が考えられる.しかしながら,本試験では血清中の総蛋白質は増加しており,肝臓重量の増加がみられるものの組織学的には機能障害を示す変化はみられていない.一般に有機リン系の化合物は抗コリンエステラーゼ活性を有することが知られており,本被験物質は有機リン系の化合物ではないものの,投与により継続的な流涎がみられたことを考え併せると,コリンエステラーゼおよびアセチルコリンエステラーゼの減少の原因は,本被験物質投与に関連した酵素活性阻害による可能性が示唆された.

病理学的検査では,上述したように,赤血球数の減少に関連して脾臓に本被験物質による影響がみられた.それらに加えて,30 mg/kg群の雌で肝臓および腎臓の重量の増加および180 mg/kg群の雌雄で肝臓,腎臓および副腎の重量の増加がみられ,組織学的に肝臓では小葉中心性の肝細胞肥大が30 mg/kg以上の群の雌雄に,腎臓では近位尿細管上皮に硝子滴の出現が30 mg/kg以上の群の雄に,副腎では束状帯の肥大が180 mg/kg群の雌雄に,精巣では精母細胞および精子細胞(round)の壊死,精子細胞(elongate)の減少ならびにセルトリ細胞の空胞化が180 mg/kg群にみられた.肝臓での組織学的な変化は,薬物代謝酵素が誘導されている可能性を示唆しており,本被験物質の肝臓に対する影響が考えられた.腎臓での組織学的な変化は,SD系雄性ラットでは自然発生的にみられる変化ではあるものの,30および180 mg/kg群の雄での変化は,本被験物質投与により近位尿細管での蛋白質の再吸収が亢進したものと考えられた.また,180 mg/kg群の雌1例で膀胱に膀胱炎がみられ,本例では膀胱炎に伴い腎盂に好中球細胞浸潤がみられた.先に当研究所で実施した本被験物質の単回投与毒性試験1)において,1700 mg/kg群の雄1例で膀胱内に淡赤色尿がみられ,組織学的にも糜爛がみられた.SD系ラットでは膀胱炎の自然発生する例数は比較的少ないことを考えると,本試験での膀胱および腎盂の変化は1例についての変化ではあるものの,本被験物質投与による影響の可能性が示唆された.副腎では組織学的に束状帯の肥大がみられ,それを反映して重量の変化がみられた.精巣での一連の変化は,先に当研究所で実施した本被験物質の単回投与毒性試験1)および2週間反復投与毒性予備試験2)でも同様にみられており,本被験物質の精巣に対する影響が示唆された.回復期間終了時の検査では,180 mg/kg群の雄で腎臓および副腎の相対重量の増加がみられたが,組織学的には変化はみられなかった.また,投与期間終了時に変化がみられた肝臓,脾臓および膀胱では,変化は消失するかもしくは軽減していた.精巣でも精母細胞および精子細胞の壊死はみられず,回復性が認められた.

上記のように本試験における毒性は,14日間の休薬により消失または軽減しており,可逆的な変化であった.以上の結果から,30 mg/kg以上の群の雌雄で本被験物質による影響がみられたことから,本試験条件下での無影響量は雌雄ともに5 mg/kg/dayであると考えられた.

文献

1)可徳小四郎ほか,3-シアノピリジンのラットにおける単回投与毒性試験,(株)パナファーム・ラボラトリーズ(1996).
2)浜村政夫ほか,3-シアノピリジンのラットにおける単回投与毒性試験および28日間反復投与毒性試験のための予備試験,(株)パナファーム・ラボラトリーズ(1996).

連絡先
試験責任者:一鬼 勉
試験担当者:緒方英博,古川浩美,幸 邦憲,
斉藤琢也,神谷光一,浜村政夫,
(株)パナファーム・ラボラトリーズ 安全性研究所
〒869-04 熊本県宇土市栗崎町1285
Tel 0964-23-5111Fax 0964-23-2282

Correspondence
Authors:Tsutomu Ichiki(Study director)
Hidehiro Ogata, Hiromi Furukawa,
Kuninori Yuki, Takuya Saito,
Kouichi Kamiya,Masao Hamamura
Safety Assessment Laboratory,Panapharm Laboratories Co.,Ltd.
1285 Kurisaki-machi, Uto-shi, Kumamoto, 869-04, Japan
Tel +81-964-23-5111Fax +81-964-23-2282