3-シアノピリジンのラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of 3-Cyanopyridine in Rats

要約

OECD既存化学物質安全性点検に係る毒性試験の一環として,3-シアノピリジンの0(対照),1297,1388,1485,1589および1700 mg/kgを1群雌雄各5匹のCrj:CD(SD系)ラットに単回経口投与する毒性試験を実施し,以下の結果を得た.

死亡は雄で1297 mg/kg以上,雌で1388 mg/kg以上の群で投与後3日から6日にかけて認められた.

一般状態の観察では,雌雄とも投与日に活動性低下,緩徐呼吸,流涎,流涙,喘鳴がみられ,投与翌日以降に歩行失調,振戦,斜頸および眼球突出がみられた.さらに死亡例では,腹臥位,横臥位,体温低下,腹式呼吸,散瞳および間代性痙攣が認められた.

体重は,投与翌日にすべての被験物質投与群で体重の減少を示したが,投与後6日目より順調な体重増加が認められた.

剖検では,死亡例および生存例で前胃粘膜部の白色点がみられ,さらに死亡例では前胃および腺胃部粘膜の黒赤色点,肺の暗赤色斑,肝臓の灰白色斑,膀胱の淡赤色尿の貯留も認められた.また,生存例では精巣の小型化が認められた.病理組織学検査では,死亡例および生存例で前胃の扁平上皮の過形成がみられ,さらに死亡例では前胃の潰瘍,腺胃のびらん,肺のうっ血および水腫,肝臓の広範性壊死,膀胱のびらんも認められ,生存例では,精巣の巨細胞形成,精上皮細胞の減少およびセルトリ細胞の空胞化が認められた.

LD50値は,雄で1475 mg/kg(95%信頼限界;1382〜1574 mg/kg),雌で1455 mg/kg(95%信頼限界1375〜1539 mg/kg)であった.

方法

1.被験物質および投与液の調製

3-シアノピリジン(純度99.9%,Lot No. 709S4067,関東化学(株)提供)は,常温では白色固体であり,融点が50℃で,水に対する溶解度は20℃で12.3%である.入手後の被験物質は,室温,遮光下で保管し,投与終了後に供給源にて分析を行い,試験期間中安定であったことを確認した.媒体には注射用水((株)大塚製薬工場,Lot No. 5E87)を使用し,これに被験物質を12.97,13.88,14.85,15.89および17 w/v%濃度になるように懸濁して投与液を調製した.調製は投与の2日前に行い,調製した投与液は室温,遮光下に保管した.なお,調製した各投与液の濃度を測定し,設定値の±10%以内にあることを確認した.また,調製前に,本調製法による0.1および10 w/v%溶液ならびに20%懸濁液が室温,遮光下で調製後8日間安定であり,均一性についても問題ないことを確認した.

2.使用動物および飼育条件

5週齢のSprague-Dawley系ラット(Crj:CD,日本チャールス・リバー(株))を雌雄各40匹購入し,9日間の検疫馴化を行ったのち,雌雄各30匹を選んで6週齢で試験に使用した.投与日の体重は,雄が194.4〜211.8 g,雌が131.4〜150.7 gであった.動物は,温度24±2℃,湿度55±10%,照明7時〜19時および換気回数13回/時に設定したバリアーシステム飼育室で床敷(ホワイトフレーク,日本チャールス・リバー(株))を入れたポリカーボネイト製ケージに,1ケージ当たり2〜3匹ずつ収容して,高圧蒸気滅菌処理した固型飼料(MF,オリエンタル酵母工業(株))および次亜塩素酸ナトリウムを添加(約2 ppm)した水を自由に摂取させた.ただし,投与前日の17時から投与後約2時間まで絶食し,水のみを与えた.

3.投与量,投与方法,試験群構成および群分け

単回投与毒性予備試験()(投与量:750,1000,1250,1500および2000 mg/kg)の結果,活動性の低下が750 mg/kg以上の雌および1000 mg/kg以上の雄に認められ,1250 mg/kg以上の雌および1500 mg/kg以上の雄に死亡がみられた.また,予備試験()(投与量:0,595,774,1006,1308および1700 mg/kg)では,1700 mg/kg群の雌雄全例が死亡し,1308 mg/kg以下の用量では死亡がみられなかった.以上より,本試験での投与量は,高用量を1700 mg/kgとし,以下公比1.07で除した1589,1485,1388および1297 mg/kgの計5用量を設定した.

投与経路は経口とし,約16時間絶食させた動物に胃管を用いて,投与液を1回強制投与した.投与容量は10 ml/kgとし,個別ごとに測定した体重に基づいて算出した.給餌は投与後約2時間に行った.

試験群は,上記5用量に,注射用水を投与する対照を加え計6群とした.1群当たりの動物数は,各群とも雌雄各5匹とした.

群分けは,投与前日の体重を基に層別連続無作為化法で行った.

4.観察項目

1) 一般状態の観察および体重の測定

観察期間は投与後14日間とし,この間に一般状態の観察および死亡の有無を投与日(1日目)は投与後6時間まで経時的に,その後は少なくとも1日1回行った.体重は投与直前,ならびに2,4,6,8,11および15日目に測定した.

2) 病理学検査

死亡動物は発見後速やかに,また,観察期間終了後の生存動物はエーテル麻酔下に放血致死させたのち剖検した.肉眼的に異常がみられた器官は摘出して10%中性緩衝ホルマリン溶液(精巣はブアン液で前固定)で固定した.また,変化のみられた代表例について,常法に従ってパラフィン切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン染色を施して光学顕微鏡下で観察した.

5.統計処理

LD50値は投与後14日間の累積死亡動物数からVan der Waerden法により算出した.

結果

1.死亡率,LD50値(Table 1)

投与3日目から投与6日目までに1297 mg/kg群の雄1例,1388 mg/kg群の雄2例および雌3例,1485 mg/kg群の雄4例および雌3例,1589 mg/kg群の雄2例および雌3例ならびに1700 mg/kg群の雄4例および雌全例が死亡した.死亡動物数から算出したLD50値は,雄で1475 mg/kg(95%信頼限界;1382〜1574 mg/kg),雌で1455 mg/kg(95%信頼限界;1375〜1539 mg/kg)であった.

2.一般状態

投与後15分ないし12時間からすべての被験物質投与群の雌雄で活動性低下がみられ始めた.活動性低下がみられた例の多くが緩徐呼吸を伴っており,また,流涎,流涙および喘鳴もみられた.投与翌日には1297 mg/kg以上の群の雌雄で活動性低下および緩徐呼吸,1297 mg/kg以上の群の雄および1388 mg/kg以上の群の雌で流涙が投与日から継続して認められ,1297 mg/kg以上の群の雌および1388 mg/kg以上の群の雄で歩行失調が認められた.また,3ないし5日目から1589 mg/kg以上の群の雄および1388 mg/kg以上の群の雌では振戦,斜頸又は眼球突出がみられる例もあった.以上のほか,死亡例では,腹臥位,横臥位,体温低下,腹式呼吸および散瞳が認められた.生存例では,5ないし11日目までにすべての症状が消失した.

3.体重

すべての投与群で投与翌日に体重減少がみられたが,全例が死亡した雌の1700 mg/kg群を除き,投与後6日目より順調な体重増加が認められた.

4.剖検

死亡例では多数例に腺胃部粘膜の黒赤色点および胸腺の黒赤色点がみられ,腺胃部粘膜の黒赤色点がみられた例では,前胃部粘膜の黒赤色点および白色点を伴う例もあった.また,1485 mg/kg以上の群の雄各1例に肺の暗赤色斑,1485 mg/kg群の雄1例に肝臓の灰白色斑,1700 mg/kg群の雄1例に膀胱の淡赤色尿の貯留がみられたほか,1700 mg/kg群の雌1例に回腸の重積がみられた.生存例では,1388および1485 mg/kg群の雌各1例ならびに1589 mg/kg群の雄1例に前胃部粘膜の白色点がみられ,1485 mg/kg以上の群で精巣の小型化がみられた.

5.病理組織学検査

死亡例では,前胃の潰瘍および扁平上皮の過形成,腺胃のびらん,胸腺の出血および皮質の萎縮がみられた.また,肝臓の広範性壊死,肺のうっ血および水腫,膀胱のびらん,回腸のうっ血がみられた.生存例では,前胃の扁平上皮の過形成,精巣の精上皮細胞の減少,巨細胞形成およびセルトリ細胞の空胞化が認められた.

考察

死亡は3日目から6日目までに1297 mg/kg群の雄1例,1388 mg/kg群の雄2例および雌3例,1485 mg/kg群の雄4例および雌3例,1589 mg/kg群の雄2例および雌3例,1700 mg/kg群の雌雄ほぼ全例に認められた.

一般状態の観察では,雌雄とも活動性低下が投与日からみられ,緩徐呼吸,流涎,流涙や喘鳴がみられた.さらに,投与翌日からは歩行失調,振戦,斜頸,眼球突出がみられた.死亡例では,これらの症状のほかに腹臥位,横臥位,体温低下,腹式呼吸,散瞳および間代性痙攣が認められた.

体重は,すべての被験物質投与群で投与翌日に減少を示したが,投与後6日目より順調な体重増加が認められた.

剖検では,死亡例および生存例に前胃部粘膜の白色点がみられ,さらに死亡例では前胃および腺胃部粘膜の黒赤色点,肺の暗赤色斑も認められた.組織学的には,前胃の潰瘍および扁平上皮の過形成,腺胃のびらん,肺のうっ血および水腫が認められた.胃の変化については被験物質の直接的な刺激性に基づくものと思われ,肺の変化については呼吸器系症状に関連した所見と考えられた.また,死亡例では肝臓の広範性壊死および膀胱のびらんもみられ,被験物質投与との関連性が疑われた.生存例では1485 mg/kg以上の群で精巣の小型化がみられ,組織学的には巨細胞形成,精上皮細胞の減少およびセルトリ細胞の空胞化が認められることから,被験物質が精巣毒性を有するものと考えられた.

上述した死亡動物数から算出したLD50値は雄で1475 mg/kg,雌で1455 mg/kgであった.

連絡先
試験責任者:可徳小四郎
試験担当者:一村憲児,村田英治,斉藤琢也,
和田 肇,幸 邦憲,一鬼 勉
(株)パナファーム・ラボラトリーズ 安全性研究所
〒869-04 熊本県宇土市栗崎町1285
Tel 0964-23-5111Fax 0964-23-2282

Correspondence
Authors:Koshiro Katoku(Study director)
Kenji Ichimura,Eiji Murata,
Takuya Saitoh, Hajime Wada,
Kuninori Yuki,Tsutomu Ichiki
Safety Assessment Laboratory, Panapharm Laboratories Co., Ltd.
1285 Kurisaki-machi, Uto-shi, Kumamoto, 869-04, Japan
Tel +81-964-23-5111Fax +81-964-23-2282